やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 『PT・OT基礎から学ぶノート』シリーズも,“解剖学ノート““生理学ノート”に次いで,ついに“運動学ノート”を出版することになりました.このノートシリーズは,理学療法士・作業療法士,またその他のパラメディカルスタッフを目指す学生諸氏のための自主学習ノートとして作成したものです.
 “解剖学“も“生理学”も「医学の基礎の土台となる学問」といわれており,医学の道を目指すあらゆる分野の学生諸氏にとっては必ず修得しなければならない学問です.“解剖学“は「基礎医学の王」であり,人体という生物を細胞の分野まで分解してその人体組織の構造を専門的に学ぶ学問です.また“生理学”は「基礎医学の女王」ともいわれ,解剖学により分解された人体組織がどのように働いて人間が生きているのかを専門的に学ぶ学問です.
 では“運動学“はというと「医学と物理学の架け橋」といわれている学問で,医学の中の独立した学問体系ではなく,人間の運動をみる一つの立場としての応用の学問といえるものです.人間の運動は,人間が地球上に存在するかぎり常に重力という力学的現象の影響を受けています.ですから単に解剖学的要素や生理学的要素だけで人間の運動を分析することは困難です.人間は人間として特徴的な運動をしている動物であり,その人間は人間としての運動に障害をきたすと,一人で自立した生活が困難になってしまいます.そういう意味において医学の分野で“運動学”は,やはり「基礎医学分野の学問」としてとらえられているのです.ですから「基礎医学」を学ぶ学生の中でも,特に運動障害を対象とする医療従事者の医師や理学療法士や作業療法士をめざす学生には“運動学“は特に必須の学問になるのです.先ほども述べたように“運動学”は「基礎医学」ではありますが,“物理学“の応用の上に成り立っている「基礎医学」です.ですから“運動学”を学ぼうとしている学生が“運動学“を最も難解な「基礎医学」と思っている理由の一つには,この“物理学”に原因があるのだと思います.かく言う私も実は学生時代に“運動学”を苦手としていた一人ですので学生の気持ちがたいへんよくわかります.
 特に近年では社会的要請に応えて,理学療法士・作業療法士の養成校は年々増加傾向にありますが,そこで学んでいる学生が養成校を受験する際の入学試験で“物理学“を受験せずに入学したり,また高等学校のカリキュラムで“物理学”を選択していなかったりという現状が,“運動学=苦手“意識に拍車をかけているようなのです.でも先ほど述べたように“運動学”は,理学療法士・作業療法士にとっては必ず制覇しなければならない大変重要な「基礎医学」ですから,苦手意識を克服し,積極的に得意科目にしていかなければなりません.
 そこで今回,この“運動学ノート“の内容を以下のことに重点をおいて編集を行いました.物理学(特に力学)の基礎知識に関する章を第1章に設けて運動学を学ぶうえで必要な“物理学”を理解できるようにする.できるだけ多くの絵や図などを用いてイメージ化を図る.付録として筋の作用と神経支配の表を作成する.重要点は自分で書き込めるように空欄を設ける.各章毎の演習問題に実際に出題された過去の国家試験問題を使用する.基礎問題や演習問題の解答・解説をできるだけ詳しく図説化して理解しやすいようにする,等々です.また,特に人間の特徴としてあげられる“歩行運動“に関する章で,臨床運動学的内容としての“異常歩行”を取り上げました.これに関しては基礎医学の範囲を逸脱していますので,1年生のレベルでは非常に難易度が高いと思われます.しかし,国家試験を見据えた運動学としては知っておくべき内容だと思いますので,高学年や臨床実習,国家試験対策の時期に学習していただければ幸です.
 “解剖学ノート““生理学ノート”と同様にこの“運動学ノート”も,学校での講義の予習や復習に,定期試験前の知識の整理に,そして国家試験前の準備対策としての学習に活用していただければと願っています.そうして「私の得意科目は運動学です」と言える理学療法士・作業療法士になっていただきたいと願っております.
 また,本書を作成するにあたり,国内外の著名な解剖学書や運動学書,また基礎物理学書を参考にいたしました.それらの書名を巻末に引用文献,参考文献として掲げさせていただきました.学生諸氏には是非これらの文献にも一度目を通していただくことをお勧めいたします.また,参考にさせていただいた本の著者の先生方にはこの書面を借りて心より御礼申し上げます.
 最後に本書の出版にあたり並々ならぬご助力・ご協力をいただいた医歯薬出版株式会社編集担当者の方々に心より感謝申し上げます.
 2002年6月
 中島雅美 中島喜代彦
 まえがき
 本書の使い方

第1章 運動学総論
 1 運動力学の基礎
  1 生体力学とは
  2 力学の構成
  3 力学の単位
  基礎問題
  演習問題
 2 身体運動の面と軸
  1 基本的肢位
  2 運動の面と軸
 3 運動の表し方
  1 運動の表し方
  2 力の合成と分解
 4 運動の法則
  1 運動の三つの法則
  2 重力加速度
  3 落下運動
  4 質量・重量・力の単位
  基礎問題
  演習問題
 5 仕事と力学的エネルギー
  1 仕事と力学的エネルギー
  基礎問題
  演習問題
 6 剛体に働く力
  1 モーメント(トルク)
  2 てこの種類
  3 関節角度と力の関係
  4 滑車と輪軸
  基礎問題
  演習問題
 7 骨の構造と機能
  1 骨の構造
  2 骨の形状分類
  3 骨の機能
  基礎問題
  演習問題
 8 関節の構造と機能
  1 骨の連結
  2 関節の構造
  基礎問題
  演習問題
 9 骨格筋の構造と機能
  1 骨格筋の構造
  2 筋収縮のメカニズム
  3 骨格筋線維の生理学的特徴
  基礎問題
  演習問題
 10 筋の収縮(1)
  1 筋収縮の様態
  2 筋の働きによる分類
  基礎問題
  演習問題
 11 筋の収縮(2)
  1 単収縮と強縮
  2 筋張力
  3 筋の短縮速度
  基礎問題
  演習問題
 12 運動単位
  1 運動単位
  2 神経支配比
  3 運動単位からの筋の分類
  基礎問題
  演習問題

第2章 上肢の運動学
 1 上肢の解剖学
  1 上肢の骨格
  2 上肢骨のまとめ
  3 肩部の骨
  4 上肢の神経
  5 上肢の血管
  6 上肢の神経と筋支配
  基礎問題
  演習問題
 2 上肢帯の運動学
  1 胸鎖関節
  2 鎖骨の可動域
  3 肩鎖関節
  4 肩甲・胸郭関節(肩甲帯の動き)
  5 上肢帯の運動と筋
  基礎問題
  演習問題
 3 肩関節の運動学
  1 肩関節の靱帯
  2 回旋筋腱板(rotator cuff)
  3 肩関節の運動と筋
  基礎問題
  演習問題
 4 肘関節の運動学
  1 肘関節の構造
  2 肘関節の運動と筋
  3 肘関節の運動に関与する筋
  基礎問題
  演習問題
 5 手の運動学(1)
  1 手の骨と指の関節
  2 手根管の内部構造
  3 手関節の靱帯
  基礎問題
  演習問題
 6 手の運動学(2)
  1 手関節の運動と筋
  2 手関節の運動に働く筋
  3 手指の運動と筋
  4 手関節の運動に働く筋
  5 手掌腱膜と指間靱帯
  6 指の屈曲機構
  7 指の伸展機構
  基礎問題
  演習問題
 7 手の運動学(3)
  1 手の肢位
  2 手の変形
  基礎問題
  演習問題

第3章 下肢の運動学
 1 下肢の解剖学
  1 下肢の骨格
  2 下肢骨のまとめ
  3 骨盤帯の骨
  4 大腿骨
  5 下腿骨
  6 足部の骨
  7 下肢の神経と動脈
  8 下肢の神経と筋支配
  9 下肢の皮膚感覚
  基礎問題
  演習問題
 2 股関節の運動学(1)
  1 股関節の構造
  2 股関節の靱帯
  基礎問題
  演習問題
 3 股関節の運動学(2)
  1 股関節に働く筋
  2 股関節の運動と筋
  基礎問題
  演習問題
 4 膝関節の運動学(1)
  1 膝関節の構造
  2 膝関節の特徴
  3 膝の靱帯と半月板
  基礎問題
  演習問題
 5 膝関節の運動学(2)
  1 膝関節に働く筋
  2 膝関節の運動と筋
  3 膝関節角度の発育による変化
  基礎問題
  演習問題
 6 足関節・足部の運動学(1)
  1 足部の骨
  2 足根間関節
  3 足関節の特徴
  基礎問題
  演習問題
 7 足関節・足部の運動学(2)
  1 足関節部の靱帯
  2 足底の靱帯と腱膜
  基礎問題
  演習問題
 8 足関節・足部の運動学(3)
  1 足のアーチの構造
  2 足のアーチの特徴
  基礎問題
  演習問題
 9 足関節・足部の運動学(4)
  1 足関節の運動に働く筋
  2 足関節の運動と筋
  3 足部の運動に働く筋
  4 足指の運動と筋
  基礎問題
  演習問題

第4章 体幹の運動学
 1 体幹の解剖学
  1 体幹を構成する骨格
  2 脊柱
  3 椎骨
  4 椎間円板
  5 椎間関節の関節面の方向
  基礎問題
  演習問題
 2 顔面・頭部の運動学
  1 頭蓋骨
  2 表情筋
  3 咀嚼筋
  基礎問題
  演習問題
 3 頸椎の運動学
  1 脊椎と頭の連結
  2 脊椎の連結
  3 頸部の筋
  4 頭・頸部の運動と筋
  基礎問題
  演習問題
 4 胸椎・胸郭の運動学
  1 胸郭
  2 胸郭呼吸運動
  3 呼吸に関与する筋
  基礎問題
  演習問題
 5 腰椎・骨盤の運動学   1 骨盤の関節と靱帯
  2 腰部前面の筋
  基礎問題
  演習問題

第5章 姿勢
 1 重心と重心線
  1 重心
  2 重心の位置
  3 立位姿勢の安定のための影響因子
  基礎問題
  演習問題
 2 立位姿勢と姿勢保持
  1 立位保持に必要な筋
  2 重心動揺
  3 姿勢の型
  基礎問題
  演習問題

第6章 歩行
 1 歩行周期
  1 歩行周期
  基礎問題
  演習問題
 2 運動学的歩行分析
  1 重心移動
  2 体幹・下肢の動き
  3 歩行の決定要因
  基礎問題
  演習問題
 3 運動力学的歩行分析
  1 床反力
  演習問題
 4 歩行時筋活動
  1 歩行時筋活動の特徴
  基礎問題
  演習問題
 5 小児の歩行
  1 小児の起立・歩行の発達段階
  2 小児歩行の特徴
  基礎問題
  演習問題
 6 走行
  1 走行と歩行の比較
  基礎問題
  演習問題
 7 異常歩行
  1 異常歩行の分析(評価する際の着眼点)
  2 疾患・障害別異常歩行
  3 異常歩行の例
  基礎問題
  演習問題

第7章 運動学習
 1 運動学習
  1 学習の定義
  2 学習の種類
  3 運動学習
  4 運動技能
  5 条件付け
  6 運動技能学習の過程
  7 練習と訓練
  基礎問題
  演習問題

 付録 筋の作用と神経支配
 引用文献・参考文献