やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

訳者代表まえがき
 本書「原著第6版受精卵からヒトになるまで─基礎的発生学と先天異常」は,Keith L.Moore教授とT.V.N.Persaud教授との名著「原著第7版ムーア人体発生学」を簡明にまとめ,特に正常発生ならびに異常発生について,解剖学を学ぶ医学生およびコメディカルの学生に,理解しやすいよう記述されたものである.
 最近の発生学に関連する分野の進歩は目覚ましく,ヒトの遺伝子配列はすでに解析され,組換えDNA,トランスジェニック動物,ノックアウト動物などの分子生物学的知識や遺伝子操作の技術は確立され,それらを応用した遺伝子発現やその調節機構についての研究,ならびにクローン動物の作製,胚性幹細胞を用いた種々の難治疾患の治療に向けた,再生医療の研究が盛んに進められている.
 本書では,これらの最近の分子生物学の研究成果を積極的に取り込み,付図は三次元的に描き直され,色付けされて理解しやすいように改訂され,将来の研究にも役立つよう組み立てられている.また多くの胚子ならびに胎児の超音波診断画像やMRI,ならびにCT画像,走査電子顕微鏡写真が追加されている.さらに,先天異常についての記述を通して,奇形発生の危機評価,その発生原因を理解し,発生防止について臨床においても役立つように構成されている.
 本書の第1版と第2版は,カナダ・マニトバ大学で,Moore教授の同僚として一緒に教育研究に携わっておられた京都大学名誉教授星野一正先生により訳出された.第3版は埼玉医科大学解剖学教室の故平光礪司教授に引き継がれ,出版された.平光先生は惜しいことに病に斃れられ,第4版以降は訳者代表に翻訳を継続するよう,星野先生より仰せつかった.第5版は残念ながら,出版社の都合で出版されなかったが,医学教育の大幅な変革,すなわちEvidence-based medicine,Self-learning,tutorial system等の導入により,解剖学などをはじめ基礎医学の講義,実習の時間が大幅に少なくなってきた現状では,本書は自学自習のため,また問題解決型の学習を行う人たちに,最も有用となるものと期待される.
 本書の訳出にあたり,編集ならびにさまざまな場面にご協力いただいた医歯薬出版株式会社の遠山邦男氏をはじめ,多くの方々に深甚の感謝の意を表する次第である.
 2007年7月 神戸にて
 訳者代表
 瀬口春道

原著者まえがき
 この『受精卵からヒトになるまで』の第6版では,医学ならびに医療関連科学を学ぶ学生のために,ヒトの正常発生および異常発生の要点について記載されている.『受精卵からヒトになるまで』は,短い1学期間課程の学習のため,また専門職試験に備えて復習する学生のために,特別に企画されている.本書は,著者らが著した大きな本『原著第7版ムーア人体発生学』の要約である.それゆえ,いずれかの主題について,より多くの情報を欲する読者は,より多くの項目を含むこの教科書を調べてほしい.
 本書の主要な特色は,各章の終わりにある「臨床に関連した問題」の項目である.私どもは永年,学生や一般の人たちから,あれこれと質問を受けてきた.新聞記事やテレビ,ラジオにおいての討論などに由来する誤解があり,私どもは最近の研究や臨床の現場で支持されている回答をするよう努力してきた.
 この第6版は以前の版より,より臨床に則して編集してある.これらの項目は,色付けして他の記述からは際立たせてある.この版ではまた,より多くの(正常および異常の)胚子のカラー写真を添付してある.付図は描き直し,より効果的に三次元表示し,色付けして改良した.また胚子ならびに胎児の(超音波検査やMRI検査の)診断画像や,胚子の三次元的な走査電子顕微鏡写真を加えた.
 異常発生を学ぶことは危機評価,奇形の原因,先天異常をいかに防ぐことができるかを理解するのに役立つので,先天異常学の内容を増やした.発生生物学における分子生物学に関する記述も,臨床医学や将来の研究に役立つと思われる領域であるので,本書を通じての特徴といえる.国家試験を成功裏に終えるためには,今や発生学のこの方面の知識が必要である.
 出生前の人体の発生について,読みやすい内容を提供することに努力を続けた.各章は新しい研究の成果や臨床的意義を反映するよう,根本的に書き改められている.各章はまた,胚子および胎児の発生について,系統だった論理的な思考を提供できるよう編集されている.最新のデータに加え,この教科書はまた,問題解決型の学習を行う人たちに,最も役立つ臨床の実践,材料に有用である情報を網羅している.
 Keith L.Moore
 Vid Persaud

謝辞
 この版の準備に,多くの同僚(アルファベット順に記載する)が援助してくださった.これらの人たちに私どもの感謝の意を表することは大きな喜びである.
 Dr.Anne M.R.Agur,オンタリオ州,トロント市,トロント大学,外科学教室解剖学部門,解剖学准教授.Dr.Steve Ahing,ウイニペグ市,マニトバ大学,歯学部准教授.Dr.Judy Anderson,ウイニペグ市,マニトバ大学,解剖学細胞生物学教授.Dr.Kunwar Bhatnagar,ケンタッキー州,ルイスビル市,ルイスビル大学医学部,解剖学教授.Dr.Albert Chudley,ウイニペグ市,マニトバ大学健康科学センター,臨床遺伝学教室主任,小児科学小児保健学教授.Dr.Blaine Cleghorn,ウイニペグ市,マニトバ大学,歯学部准教授.Dr.Angelika Dawson,ウイニペグ市,マニトバ大学健康科学センター,細胞遺伝学研究室主任,生化学医学遺伝学教室准教授.Dr.Marc Del Bigio,ウイニペグ市,マニトバ大学,病理学教授.Dr.Raymond Gasser,ルイジアナ州,ニューオーリンズ市,ルイジアナ州立大学医学部.Dr.Barry Grayson,ニューヨーク州,ニューヨーク市,ニューヨーク大学医学センター,再生形成外科学研究室.Dr.Christopher Harman,メリーランド州,ボルチモア市,メリーランド大学,産婦人科学生殖科学教室.Dr.John A.Jane,Sr.,バージニア州,シャーロッツビル市,バージニア大学保健システム,脳神経外科教室,David D.Weaver脳外科教授.Dr.Dagmar Kalousek,ブリティッシュコロンビア州,バンクーバー市,ブリティッシュコロンビア大学,細胞遺伝学発生学研究室,プログラム主任,病理学教授.Dr.Peeyush Lala,オンタリオ州,ロンドン市,ウェスタンオンタリオ大学医学部名誉教授.Dr.Edward A.Lyons,ウイニペグ市,マニトバ大学,放射線医学産婦人科学教授.Dr.Moshe Matilsky,イスラエル,ハーガイルハタクトン医学プログラム,ポリア政府病院産婦人科学教室,生殖医学部門,体外受精研究室主任.Dr.John B.Mulliken,マサチューセッツ州,ボストン市,ハーバード大学医学部,小児病院外科学准教授,頸部センター主任.Professor T.S.Ranganathan,グレナダ,聖ジョージズ大学医学部.Dr.Gregory Reid,ウイニペグ市,マニトバ大学,産婦人科学生殖科学教室,助教.Dr.Prem Sahni,マニトバ州,ウイニペグ市,小児病院放射線医学教室.Dr.Kohei Shiota,日本,京都大学,解剖学発生学教室主任教授,先天異常研究センター長.Dr.Joseph Siebert,ワシントン州,シアトル市,小児病院地域医学センター,研究准教授.Dr.Gerald S.Smyser,グランドフォークス市,Altru健康科学システム.Dr.Pierre Soucy,オタワ市,オタワ大学,イースタンオンタリオ小児病院,小児一般外科部門,主任教授.Dr.Mark Torchia,ウイニペグ市,マニトバ大学,外科学教室准教授.Dr.Brunno L.Vendittelli,ニューヨーク州,ニューヨーク市,ニューヨーク大学医学センター,再生形成外科研究所.Dr.Michael Wiley,オンタリオ州,トロント大学,外科学教室解剖部門主任教授.
 新しい付図は,アリゾナ州,ファウンテンヒルズの電子作図グループの代表者,Hans Neuhart氏により作製された.ウイニペグ市のGisela Persaud氏,ならびにトロント市のMarion MooreおよびBarbara Cluneの両氏は,コンピュータによる文書作成,編集,ならびに原稿の校閲に携わってくださった.Elsevier Science出版グループ,Saunders社の,William Schmitt医学教科書出版局長,Jason Malley医学編集部員,Joan Sinclair出版販売監査役,Ellen Sklar出版編集員,P.M.Gordon参与,ならびに同社の人々や,この本の作製にあたり,多大のご援助を賜った,これらすべての人々に心より感謝の意を表します.最後に,いつも変わらぬ理解と支援をしてくれた私どもの妻,MarionとGiselaに感謝の意を捧げます.
 Keith L.Moore
 Vid Persaud
 訳者代表まえがき
 原著者まえがき
 謝辞
第1章 序論
 1.発生学用語
 2.発生学の重要性と進歩
 3.記載用語
  臨床に関連した問題
第2章 ヒトの生殖
 1.生殖器官
 2.生殖子形成
 3.女性の生殖周期
 4.生殖子の輸送
 5.精子の成熟
 6.生殖子の生存力
 7.生殖の要約
  臨床に関連した問題
第3章 ヒトの発生第1週
 1.受精
 2.接合子の卵割
 3.胚盤胞の形成
 4.発生第1週の要約
  臨床に関連した問題
第4章 ヒトの発生第2週
 1.胚子発生の継続
 2.絨毛膜嚢の発生
 3.胚盤胞の着床部位
 4.胚盤胞の着床の要約
 5.発生第2週の要約
  臨床に関連した問題
第5章 ヒトの発生第3週
 1.原腸胚形成:胚盤の形成
 2.神経胚形成:神経管の形成
 3.体節の発生
 4.胚内体腔の発生
 5.心臓循環器系の初期発生
 6.絨毛膜絨毛の発生
 7.発生第3週の要約
  臨床に関連した問題
第6章 器官形成期:第4から第8週までのヒトの発生
 1.胚子の折り畳み
 2.胚葉からできる構造物
 3.胚子発生の調節
 4.第4〜8週における発生の重要点
 5.胚子齢の推定
 6.第4〜8週までの発生の要約
  臨床に関連した問題
第7章 胎児期:第9週から出生まで
 1.胎児齢の推定
 2.胎児期の重要点
 3.分娩予定日
 4.胎児の発育に影響を及ぼす因子
 5.胎児の状態を評価する方法
 6.胎児期の要約
  臨床に関連した問題
第8章 胎盤と胎児被膜
 1.胎盤
 2.分娩
 3.羊膜と羊水
 4.卵黄嚢
 5.尿膜
 6.多胎妊娠
 7.胎盤と胎児被膜の要約
  臨床に関連した問題
第9章 ヒトの先天異常
 1.先天異常学:発生異常の研究
 2.遺伝要因による異常
 3.環境要因による異常
 4.多因子遺伝による異常
 5.ヒトの先天異常の要約
  臨床に関連した問題
第10章 体腔,腸間膜および横隔膜
 1.胚子の体腔
 2.横隔膜の発生
 3.先天性横隔膜ヘルニア
 4.体腔の発生の要約
  臨床に関連した問題
第11章 咽頭器官
 1.咽頭弓
 2.咽頭嚢
 3.咽頭溝
 4.咽頭膜
 5.甲状腺の発生
 6.舌の発生
 7.唾液腺の発生
 8.顔の発生
 9.鼻腔の発生
 10.口蓋の発生
 11.咽頭器官の要約
  臨床に関連した問題
第12章 呼吸器系
 1.喉頭の発生
 2.気管の発生
 3.気管支および肺の発生
 4.呼吸器系の要約
  臨床に関連した問題
第13章 消化器系
 1.前腸
 2.脾臓の発生
 3.中腸
 4.後腸
 5.消化器系の要約
  臨床に関連した問題
第14章 泌尿生殖器系
 1.泌尿器系の発生
 2.副腎の発生
 3.生殖器系の発生
 4.鼠径管の発生
 5.泌尿生殖器系の要約
  臨床に関連した問題
第15章 心臓循環器系
 1.初期の心臓および血管の発生
 2.心臓のさらなる発生
 3.心臓と大血管の異常
 4.大動脈弓からできる構造物
 5.大動脈弓奇形
 6.胎児循環と新生児循環
 7.リンパ系の発生
 8.心臓循環器系の要約
  臨床に関連した問題
第16章 骨格系
 1.骨と軟骨の発生
 2.関節の発生
 3.軸骨格の発生
 4.付属肢骨格の発生
 5.骨格系の要約
  臨床に関連した問題
第17章 筋系
 1.骨格筋の発生
 2.平滑筋の発生
 3.心筋の発生
 4.筋系の要約
  臨床に関連した問題
第18章 体肢
 1.体肢発生の初期段階
 2.体肢発生の最終段階
 3.体肢の皮膚の神経支配
 4.体肢に分布する血管
 5.体肢の奇形
 6.体肢発生の要約
  臨床に関連した問題
第19章 神経系
 1.神経系の起源
 2.脊髄の発生
 3.脊髄の先天異常
 4.脳の発生
 5.脳の先天異常
 6.末梢神経系の発生
 7.自律神経系の発生
 8.神経系の要約
  臨床に関連した問題
第20章 眼と耳
 1.眼およびその関連構造物の発生
 2.耳の発生
 3.眼の発生の要約
 4.耳の発生の要約
  臨床に関連した問題
第21章 外皮系
 1.皮膚の発生
 2.毛の発生
 3.爪の発生
 4.乳腺の発生
 5.歯の発生
 6.外皮系の要約
  臨床に関連した問題

 臨床に関連した問題の回答
 引用文献および参考文献
 索引