やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 アレルギー疾患は,いまやわが国の国民病ともいってもよいcommon disease群である.いわゆるアトピー体質とよばれる体質的基盤が関与するため若年期から発症しやすく,そして生涯にわたって患者を苦しめることが多い.また当初ダニのみに感作されていたものが,長年の経過の後には感作アレルゲンが拡大していくことが必発に近い.そして単一の病因アレルゲンが,同一の患者において複数のアレルギー疾患を発症することも重要な特徴である.すなわち,アレルギー診療においては,長期にわたる人生の質的保持を考慮しつつ,そして全身的・包括的に管理・治療を行うことが重要なのである.
 アレルギー診療の基本は,病因アレルゲンの検索・同定とその回避指導,病態を制御できる必要最小限の対症薬物療法,そして長期予後の改善をめざしたアレルギー疾患の自然経過を修飾しうる唯一の原因療法であるアレルゲン免疫療法の積極的な活用である.アレルゲン免疫療法についてはわが国での普及が諸外国と比較して著しく遅れていたものが,最も重要な環境アレルゲンである家塵ダニとスギ花粉に対しては,注射薬ならびに舌下療法薬が開発され,ようやく普及しはじめている段階である.アレルゲン免疫療法は喘息・鼻炎・結膜炎に包括的に効果を発揮できること,数年継続して行うと中止した後も効果が維持されること,薬物療法のみでは必発といってよい新規アレルゲン感作の拡大を抑制するなどの,患者個々のアレルギー病態の自然史に介入し,これを修飾する作用が証明されている.従来から国際社会ではアレルギー診療の中心的存在であったが,今後は日本でも広く普及させていくことが必要である.
 本書ではアレルゲン免疫療法を含め,アレルギー診療に必要な必須の重要知識を中心に,わが国の第一人者の先生方に執筆を依頼させていただいた.広くアレルギー診療に携わる先生方にご活用いただき,患者のためにぜひお役立ていただきたいと願うものである. 2019年8月
 埼玉医科大学呼吸器内科/アレルギーセンター 永田 真
 序(永田 真)
総論
 1 アレルギー診療における“トータルアプローチ”の重要性
  アレルギー疾患の典型的な臨床像
  主要な病因アレルゲンとその同定
  アレルギー疾患のメカニズム
  “トータルに診ること”の重要性
 2 アレルゲンの同定と回避指導の実際(1) 吸入性アレルゲン
  Keyword:ダニアレルゲン,カビアレルゲン,スギ花粉,回避
  吸入アレルゲンの同定法
  吸入アレルゲンと回避策
 3 アレルゲンの同定と回避指導の実際(2) 食物・接触性アレルゲン
  Keyword: 抗原特異的IgE検査,粗抗原,アレルゲンコンポーネント,経皮感作,経口免疫寛容
  アレルゲンの同定
  アレルゲンの回避指導の実際
 4 IgE関連検査の正しい読み取り方
  Keyword:総IgE値,特異IgE検査,アレルゲンコンポーネント
  血清総IgE値の測定と評価
  特異IgE抗体検査と評価
 5 アレルギー疾患のバイオマーカーの基礎知識
  Keyword:末梢血好酸球数,P-Eos,血清ペリオスチン,血清TARC
  喀痰好酸球
  末梢血好酸球数(P-Eos)
  血清ペリオスチン値
  血清TARC
 6 呼気NOの臨床的用い方の実際
  Keyword:気道炎症,好酸球,呼気ガス分析,喘息,IL-4
  呼気NO産生の原理
  臨床的な意義
  呼気NO測定の実際
  測定値に対する諸因子の影響
  喘息における測定結果の解釈
 7 アレルゲン免疫療法(1) 皮下注射法
  Keyword:皮下免疫療法,注射法,アレルギー性鼻炎,喘息
  アレルゲン免疫療法とは
  皮下注射法による治療
  治療適応となる患者
  施行手順と注意点
  安全性について
 8 アレルゲン免疫療法(2) 舌下法
  Keyword:舌下免疫療法,スギ花粉症,アレルゲン免疫療法
  アレルゲン免疫療法の特徴
  海外における舌下免疫療法
  わが国における舌下免疫療法
 9 喘息の管理におけるアレルゲン免疫療法の実際
  Keyword:皮下免疫療法,舌下免疫療法,ダニ,気管支喘息,アレルギー性鼻炎
  喘息治療におけるダニ皮下免疫療法(SCIT)
  包括的アレルギー診療におけるアレルゲン免疫療法のポジショニング
  ダニ皮下免疫療法(SCIT)の実際
  ダニ舌下免疫療法(SLIT)の臨床応用
 10 重症アレルギー疾患における抗体製剤の使い分け
  Keyword:気管支喘息,アトピー性皮膚炎,花粉症,分子標的治療,抗体製剤
  気管支喘息における気道炎症病態と抗体製剤の現状
  2型炎症を標的とした抗体製剤の現状
  喘息における分子標的薬の特徴と選択の考え方
  抗体製剤の他のアレルギー疾患への効果
  アレルギー疾患に対する抗体製剤の将来展望とまとめ
 11 吸入指導の実際
  Keyword:吸入療法,吸入ステロイド薬,吸入指導DVD,吸入時の舌の位置
  吸入指導のポイント
  望ましい舌の位置と患者への説明
  吸入指導におけるDVD導入の工夫
臓器別に分類されるアレルギー疾患の臨床
 【呼吸器領域】
  12 気管支喘息(成人)の診断と治療
   Keyword:JGL2018,慢性咳嗽,コントロール治療
   喘息の病態
   喘息の症状・診断
   喘息の治療
  13 アスリート喘息とその対応
   Keyword:アスリート喘息,運動誘発喘息(EIA),運動誘発気管支収縮(EIB)
   アスリート喘息の疫学
   アスリート喘息の診断
   アスリート喘息のメカニズム
   アスリート喘息の予防と治療
  14 アスピリン喘息とその対応
   Keyword:NSAIDs不耐症,AERD,好酸球性副鼻腔炎
   NSAIDsで増悪するアレルギー疾患
   アスピリン喘息とは
   アスピリン喘息の診療
   アスピリン喘息の管理と患者指導
  15 難治性喘息の病態と治療
   Keyword:ステロイド抵抗性喘息,2型自然免疫リンパ球,生物学的製剤
   難治性喘息とは
   難治性喘息と診断する前に〜difficult-to-treatsevereasthma〜
   ステロイド抵抗性喘息
   難治性喘息の治療
  16 気管支喘息(小児)の診断と治療
   Keyword:乳幼児喘息,小児気管支喘息,JPGL2017
   乳幼児喘鳴のフェノタイプ
   乳幼児喘息の診断
   学童期喘息への移行
   小児喘息の長期管理薬について
   急性増悪の対応
   乳幼児喘息から難治喘息への移行
  17 咳喘息とアトピー咳嗽の診断と治療
   Keyword:慢性咳嗽,好酸球,吸入ステロイド薬,ヒスタミンH1拮抗薬
   咳喘息
   アトピー咳嗽
  18 One airway,one diseaseの病態と治療
   Keyword:気管支喘息,アレルギー性鼻炎,好酸球性副鼻腔炎,好酸球性中耳炎
   Oneairway,onediseaseの病態
   喘息とアレルギー性鼻炎
   喘息と好酸球性副鼻腔炎
   喘息と好酸球性中耳炎
  19 アレルギー性気管支肺真菌症の診断と治療
   Keyword: 真菌,アスペルギルス・フミガーツス,IgE,好酸球,extracellular trap cell death
   アレルギー性気管支肺真菌症の基礎
   アレルギー性気管支肺真菌症の臨床:疫学から診断・治療まで
  20 過敏性肺炎の診断と治療
   Keyword:間質性肺炎,急性HP,慢性HP,炎症,線維化
   過敏性肺炎の概念
   過敏性肺炎の発症までの流れ
   過敏性肺炎の診断
   過敏性肺炎の治療
 【耳鼻咽喉科領域】
  21 花粉症の診断と治療
   Keyword:くしゃみ,鼻漏,鼻閉,舌下免疫療法
   花粉症の診断
   花粉症の重症度およびフェノタイプ分類
   花粉症の病態
   花粉症治療のポイント
  22 通年性アレルギー性鼻炎の診断と治療
   Keyword:ダニ,抗原特異的IgE,第二世代抗ヒスタミン薬,舌下免疫療法
   通年性アレルギー性鼻炎の罹患率
   通年性アレルギー性鼻炎の問診
   通年性アレルギー性鼻炎の検査
   通年性アレルギー性鼻炎の鑑別診断
   通年性アレルギー性鼻炎の治療
  23 好酸球性副鼻腔炎・中耳炎の診断と治療
   Keyword:好酸球性炎症疾患,気管支喘息,鼻ポリープ,嗅覚障害
   好酸球性副鼻腔炎の診断と治療
   好酸球性中耳炎の診断と治療
 【眼科領域】
  24 アレルギー性結膜疾患の診断と治療
   Keyword: アレルギー性結膜炎,春季カタル,ステロイドレスポンダー,免疫抑制点眼薬
   アレルギー性結膜疾患の病型
   アレルギー性結膜疾患の検査と診断
   アレルギー性結膜疾患の治療
   全身治療薬のアレルギー性結膜疾患の治療効果
   他科医のアレルギー性結膜疾患診療上の注意点
 【皮膚科領域】
  25 アトピー性皮膚炎の診断と治療
   Keyword:ステロイド外用薬,保湿外用薬,スキンケア,患者アドヒアランス
   アトピー性皮膚炎の病態のメカニズム
   アトピー性皮膚炎の治療
   診療におけるアトピー性皮膚炎の説明
   難治例の原因と治療
   アトピー性皮膚炎の合併症
  26 蕁麻疹・血管性浮腫の診断と治療
   Keyword:抗ヒスタミン薬,オマリズマブ,ステロイド
   蕁麻疹・血管性浮腫の診断
   蕁麻疹・血管性浮腫の病態
   蕁麻疹・血管性浮腫の鑑別疾患
   蕁麻疹・血管性浮腫の治療
 【消化器科領域】
  27 好酸球性食道炎・胃腸炎の診断と治療
   Keyword:好酸球,好酸球性食道炎,好酸球性胃腸炎,指定難病
   好酸球性消化管疾患の基礎
   好酸球性消化管疾患の症状
   好酸球性消化管疾患の検査所見
   好酸球性消化管疾患の診断
   好酸球性消化管疾患の病態
   好酸球性消化管疾患の治療
全身的アレルギー病態の臨床
 28 アナフィラキシーのガイドラインに基づいた診断と管理
  Keyword:アドレナリン,初期対応,エピペン,再発予防
  アナフィラキシーガイドラインの要点
  ガイドラインの普及と今後の課題
 29 食物アレルギー(成人)の診療の実際
  Keyword: 食物依存性運動誘発アナフィラキシー,花粉-食物アレルギー症候群,口腔アレルギー症候群,経皮感作
  食物依存性運動誘発アナフィラキシー
  口腔アレルギー症候群
  成人食物アレルギーにおける経皮感作の関与
  遅発型と遅発性のアナフィラキシー
 30 食物アレルギー(小児)の診療の実際
  Keyword:アナフィラキシー,抗原特異的IgE抗体価,食物経口負荷試験,耐性獲得
  小児期の食物アレルギー診断のポイント
  抗原特異的IgE抗体検査・皮膚プリックテストの有用性
  食物経口負荷試験による診断・管理
  小児期の食物アレルギー治療・管理のポイント
 31 ラテックスアレルギーの診療の実際
  Keyword:ラテックス-フルーツ症候群,天然ラテックス製ゴム手袋,Hev b 6.02(hevein)
  ラテックスアレルギーの臨床症状
  ハイリスクグループ
  ラテックスアレルギーの主要抗原
  天然ラテックスゴムを含む製品
  ラテックスアレルギーの診断と治療
  ラテックスアレルギー症状の誘発回避
  ラテックス-フルーツ症候群
 32 職業性アレルギーの診療の実際
  Keyword:職業性喘息,職業性過敏性肺炎,感作物質,刺激物質,IgE
  職業性喘息
  職業性アレルギー性鼻炎
  職業性過敏性肺炎
  職業性アレルギー性皮膚疾患とアナフィラキシー
 33 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の診断と治療
  Keyword:EGPA,ANCA関連血管,IVIG,メポリズマブ
  EGPAの臨床像
  EGPAの病因・病態
  EGPAの診断
  EGPAの治療
 34 物理アレルギーの診療の実際
  Keyword:じんま疹,運動誘発喘息,食物依存性運動誘発アナフィラキシー
  寒冷じんま疹
  温熱じんま疹
  コリン性じんま疹
  日光じんま疹
  機械性じんま疹
  その他の身体刺激で誘発される疾患
 35 薬物アレルギーによる薬疹の診療の実際
  Keyword:固定薬疹,重症薬疹,パッチテスト,プリックテスト
  薬疹の原因薬剤と病型
  重症薬疹
  薬によるアレルギーの検査法
 36 昆虫アレルギーの診療の実際
  Keyword:気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アナフィラキシー,ダニ,ハチ,免疫療法
  吸入性昆虫アレルギー
  経皮性昆虫アレルギー
 37 ペットアレルギーの診療の実際
  Keyword:イヌ,ネコ,コンポーネント,免疫療法
  ペットアレルギーを疑うとき
  ペットアレルギーの検査
  ペットアレルギーへの対策・対応
  ペットアレルギーは予防できるのか
 38 血清病の診療の実際225
  Keyword:血清病,抗毒素,血清病様反応,免疫複合体,補体
  血清病の病態―III型アレルギー
  血清病の臨床症状
  血清病の診断
  血清病の治療方針と患者への説明
特殊状態におけるアレルギー疾患の診療
 39 感染症合併時の副腎皮質ステロイド療法の実際
  Keyword: 感染免疫,形質細胞様樹状細胞(pDC),ロイコトリエン,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)
  喘息患者の易感染性
  喘息におけるステロイドと感染症
  ウイルス感染時の好中球性気道炎症とステロイド
  感染増悪時のステロイド投与の実際
  感染による喘息増悪の予防
 40 妊娠時・手術時のアレルギー診療
  キーワード:喘息,妊娠,授乳,ヨード造影剤,ラテックスアレルギー
  妊娠時の特殊病態
  妊娠時の喘息診療
  妊娠中のアレルギー性鼻炎の治療
  妊娠中の咳嗽
  手術時のアレギー診療:周術期に使用する薬剤アレルギー
  手術時における喘息のコントロール
  肺切除患者に対する術前評価(カナダ)