やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序〜アンチエイジング医学の潮流〜
 美は,余分なものの浄化である
  ミケランジェロ(1475-1564)
 加齢に伴ってさまざまな“余分なもの“が私たちの細胞に蓄積していく.老化とは酸化ストレス,糖化ストレス,小胞体ストレス,エピジェネティクスが個体に不可逆的な変化をもたらすと考えられてきた.しかし2014 年にScienceに発表された研究は,個体レベルでアンチエイジングが起こることを明らかにした.高齢のネズミと,若年のネズミの血管を吻合するシンビオシスにより,高齢ネズミの脳神経や筋肉が再生して,嗅覚をはじめ,臓器の機能が改善することから,加齢による老化にはなんらかの物質,あるいはなんらかの環境の変化,あるいは幹細胞の移入により,可逆的な変化が起こりうることが明らかになった.また生物の寿命は,摂取カロリーを減少させると延長することが,多くの生物種で明らかになっている.これにはサーチュインというヒストン脱アセチル化酵素が関わっていることから,サーチュインを活性化する生活習慣はヒトのアンチエイジングにつながる可能性がある.さらに染色体末端にあるテロメアは,遺伝子の加齢変化と寿命を示すインジケーターであることが明らかになっているが,生活習慣やストレスが,テロメアの長さを調節するテロメラーゼの活性に影響する.そもそも“見た目”が若い人はテロメアも長いこともわかってきた.このように加齢変化のバイオマーカーが明らかになり,また適切な介入が動物の寿命を延長させることから,アンチエイジング医学への関心が高まっている.
 アンチエイジング医学を研究する日本抗加齢医学会は,学際的な学会として2001年に発足し,現在8,500 人を超える会員が,抗加齢医学の研究そして実践を行っている.抗加齢医学会のモットーは,“ハツラツとした人生”の健康医学である.
 本書から,健康長寿で社会に貢献するためのアンチエイジング医学に関心を持っていただき,ぜひ学会総会に足を運んでいただけることを願っている.
 2019 年5 月
 日本抗加齢医学会理事長,順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授 堀江重郎
 序〜アンチエイジング医学の潮流〜(堀江重郎)
環境
 1 環境とアンチエイジング
  Keyword:EXPOSOME,環境因子,エピジェネティック時計,生物学的時計,エピゲノム
  環境因子の重要性
  Epigenetic clock(エピジェネティック時計)
  EXPOSOME
  環境(狭義)とアンチエイジング
  Epigenome trainerの可能性
各領域の最新情報
 2 脳のアンチエイジング
  Keyword:加齢変化,危険因子,軽度認知機能障害,生活習慣病,認知症
  神経系の加齢変化
  加齢関連疾患としての認知症
  脳のアンチエイジング
 3 心血管系のアンチエイジング
  Keyword:レニン-アンジオテンシン系,拮抗的多面性(antagonistic pleiotropy theory),心不全,慢性炎症,C1q-Wnt経路
  個体老化と心不全
  レニン-アンジオテンシン系
  慢性炎症と老化をつなぐC1q-Wnt経路
  老化関連疾患発症におけるC1q-Wnt経路の役割
 4 腎臓のアンチエイジング
  Keyword:慢性腎臓病,インフラマエイジング,三次リンパ組織,サルコペニア,フレイル
  加齢に伴う腎機能低下について
  高齢個体の障害応答性について
  腎臓のアンチエイジング
 5 排尿のアンチエイジング
  Keyword:排尿障害,下部尿路機能障害,膀胱血流,メタボリック症候群
  排尿サイクルにおける膀胱血流の変化
  「排尿障害」とメタボリック症候群
  膀胱血流という観点から考えるアンチエイジング治療法
 6 骨のアンチエイジング
  Keyword:骨リモデリング,酸化ストレス,重力負荷,オステオカルシン,骨粗鬆症
  骨リモデリング
  骨粗鬆症発症のメカニズム:骨のエイジングの進展
  骨のアンチエイジング:骨ホルモン“オステオカルシン”の関与
 7 口腔のアンチエイジング
  Keyword:摂食嚥下,唾液,食事,サルコペニア,認知症予防
  口腔の役割と機能
  睡眠時無呼吸症候群とアンチエイジング
  口腔ケアで認知症をふせぐ
 8 消化管のアンチエイジング
  Keyword:胃癌,大腸癌,腸内細菌叢,炎症,食
  21世紀になって増えつつある消化器疾患
  胃液の逆流が原因で増加する逆流性食道炎
  アルコールが原因とされる食道癌
  ピロリ菌が決める慢性萎縮性胃炎,胃癌
  炎症性腸疾患が急増
  大腸癌による死亡率は世界一?
  大腸癌とFusobacterium nucleatum菌
 9 見た目のアンチエイジング
  Keyword:ヒアルロン酸,ボツリヌス毒素,光学治療器,糸リフト,再生医療
  アンチエイジングのための美容医療
  日本人の見た目のアンチエイジングの特徴
  シミ,イボの治療
  シワ,張りの治療
  タルミの治療
  ハゲ(薄毛)の治療
  体幹の治療
  再生医療の取組み
 10 運動器のアンチエイジング
  Keyword:酸化ストレス,スーパーオキシド,SOD活性,脊柱バランス,脊柱変形予防
  骨の老化
  軟骨の老化
  筋肉の老化
  酸化ストレス制御と変性疾患進行予防
  体のバランス
 11 卵巣のアンチエイジング
  Keyword:原始卵胞,染色体不分離,抗ミュラー管ホルモン,妊孕性,プレコンセプションケア
  卵巣のエイジングとは
  卵巣のエイジングのメカニズム
  卵巣のエイジングのマーカー
  卵巣のアンチエイジング
 12 精巣のアンチエイジング
  Keyword:テストステロン,LOH症候群,メタボリック症候群,サプリメント
  テストステロンの作用と経時的変化
  加齢による精巣への影響
  テストステロン低下と男性更年期
  精巣のアンチエイジング対策
  精巣に効果のあるサプリメント
ライフスタイル・食事
 13 運動とアンチエイジング
  Keyword:テストステロン,加齢男性性腺機能低下(LOH)症候群,運動ストレス性低テストステロン症(ESLT),去勢抵抗性前立腺がん
  運動とテストステロン
  適正な運動量による前立腺がんの抑制
  メンズヘルス医学と運動量
 14 食事とアンチエイジング:カロリー制限/ファスティング
  Keyword:エネルギー摂取量,糖質制限食,認知機能低下防止,ケトン体
  カロリー制限によるアンチエイジングの分子基盤
  カロリー制限はヒトの最大寿命,健康寿命を延長させることができるか?
  ヒトにおける食事と認知機能との関係
 15 機能性表示食品とは:アンチエイジングへの活用
  Keyword:機能性関与成分,事前届出制,加工食品,生鮮食品,サプリメント
  機能性表示食品とは
  機能性表示食品の販売をするには
  機能性表示食品の現状
  医療機関でのサプリの販売
  今後の課題
 16 機能性表示食品の種類
  Keyword:健康寿命,生活習慣病,医薬品との相互作用,ADME
  機能性表示食品の種類
  血圧
  血糖値
  脂質
  認知機能
  医薬品と食品の相互作用
アンチエイジング・クリニック
 17 アンチエイジング医療の実践
  Keyword:抗加齢医療,栄養療法,キレーション治療,ホルモン補充療法,有害金属汚染
  アンチエイジング医療の3つの柱
  アンチエイジング・クリニックで行う検査
  アンチエイジング・クリニックで行う治療
 18 がん治療とアンチエイジング
  Keyword:エピジェネティクス,フェニル酪酸,高濃度ビタミンC療法,支持療法
  エピジェネティック療法
  高濃度ビタミンC点滴療法
トピックス
 19 遺伝子とアンチエイジング
  Keyword:プレシジョンメディシン,精密医療,遺伝学的検査(DTC),ゲノム薬理学,常染色体優性遺伝性疾患
 20 勃起のアンチエイジング
  Keyword:勃起障害(ED),心血管系疾患,PDE5阻害薬
 21 フォーミュラ食
  Keyword:食事の置き換え,食事摂取基準,肥満症診療
 22 アンチエイジング野菜 ベジマカ(R)
  Keyword:薬用植物,二次代謝産物,性機能改善,不妊
 23 光とアンチエイジング
  Keyword:メラノプシン,ブルーライト,光感受性網膜神経節細胞