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序〜日常臨床における“もやもや”を軽減するために〜
 日常臨床で日々マネージメントする必要のある慢性疾患,とくに生活習慣病の診療において,“もやもや”したものを感じることはないであろうか.食事療法や運動療法を指導しても,一方通行になりがちで,どのように工夫すればよいか分からず,「次までには頑張りましょう」というだけになっていないであろうか.また,薬物療法においても,服薬アドヒアランスが十分でなく,どのようにアプローチすればよいか自信がもてないという経験はないであろうか.
 そのような,生活習慣病を中心とした慢性疾患患者において重要な“行動変容”に関する理論と実践が,行動医学的・心身医学的アプローチの得意とする分野である.
 本書では,【総論】で,行動医学的・心身医学的アプローチに共通する概念・考え方を紹介し,【患者の行動変容に役立つ理論・技法】で,さまざまな行動医学的・心身医学的アプローチの理論と技法を紹介している.“理論”を紹介した理由としては,“うまくいかない場合”に,どのように修正すべきかの道標として“理論”が重要になるからである.うまくいかない場合には,ぜひ,理論に基づいて修正法を検討していただきたい.後半の【日常臨床における行動医学の実践】において,疾患領域ごとに,具体的なアプローチ法を紹介している.これらは,あくまでも一例であり,【患者の行動変容に役立つ理論・技法】で学んだ,他の理論・技法を読者の先生方の日常臨床に役立てるヒントにしていただきたい.
 本書では,“日常臨床に役立つ”ことを優先し,専門外の先生方でも理解しやすくしたために,やや厳密性を欠く部分もあるが,実践することに関しては支障がない(実践しやすい)と思われるので,その点はご了解いただきたい.
 最後に,各項目とも,“日々,日常臨床で実践”されている執筆者によるものであるので,読者の先生方の日常臨床に“今日から”役立てていただければ幸いである.
 2018年10月
 東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学 吉内一浩
 序〜日常臨床における“もやもや”を軽減するために〜(吉内一浩)
総論
 1 薬物療法だけで十分ですか?行動医学的・心身医学的アプローチの日常臨床への応用
  Keyword:ストレスモデル,心理社会的因子,心療内科,心身症
   行動医学的・心身医学的アプローチとは
   行動医学,心身医学とは
   行動医学的・心身医学的評価法
   行動医学的・心身医学的アプローチのエビデンス
   IoTを用いた行動医学的・心身医学的評価法Keyword:ecological momentary assessment(EMA)
   行動医学的・心身医学的アプローチの実際
 2 医師-患者関係を円滑にするコミュニケーション法とは
  Keyword:感情への配慮,コミュニケーションスキル,共感,SHARE
   初めての患者に接する時に大事なこと
   悪い知らせについて話し合う
   さらに困難なコミュニケーションの場合
患者の行動変容に役立つ理論・技法
 1 ストレスマネジメント
  Keyword:ストレッサー,ストレス反応,ストレスモデル,リラクセーション
   ストレスとは
   ソーシャルサポート
   ストレス対処行動(コーピング)
   ストレスマネジメント
   症例
   リラクセーション法
 2 学習理論
  Keyword: 古典的条件付け,オペラント条件付け,モデリング,自己効力感(セルフ・エフィカシー)
   学習理論とは
   条件付け
 3 変化ステージモデル(多理論統合モデル)
  Keyword:変化ステージ,変化プロセス,決断バランス,自己効力感
   変化ステージモデルの成り立ち
   変化ステージモデルの意義
   変化ステージモデルの4 つの要素
   5つの変化ステージ
   各変化ステージの特徴と介入方法
   逸脱と再発
 4 意思決定理論
  Keyword:意思決定,限定合理性,損失回避,フレーミング,ナッジ
   限定合理性
   損失回避
   参照点とフレーミング
   医療者の意思決定に影響を与えるバイアス
   ナッジを活用したコミュニケーションの方法
 5 認知行動療法
  Keyword:構造化,ケースフォーミュレーション,ABC分析,認知再構成法
   認知行動療法の特徴
   認知行動療法の構成要素
   認知再構成法
   認知行動療法の限界と新世代の認知行動療法
 6 セルフモニタリング・刺激統制法・代替行動法
  Keyword:機能分析,行動変容技法,セルフコントロール,自己効力感,プライマリケア領域
   行動に介入する前に
   行動変容技法の有効性
   セルフモニタリング
   さまざまな行動変容技法
   行動変容の実際
   セルフモニタリングを有効に行う方法
   行動変容技法を実践する際のコツ
 7 問題解決療法
  Keyword:問題解決スキル,SMART,自己コントロール感,不安・抑うつ
   問題解決療法とは
   問題解決療法の5つのステップ
   問題解決療法におけるそのほか,留意点
 8 動機づけ面接
  Keyword:両価性,チェンジ・トーク,維持トーク,カウンセリングスキル,スピリット
   両価性,チェンジ・トークと維持トーク
   5つのカウンセリングスキル
   4つのプロセス
   スピリット
   動機づけ面接とは違うこと
 9 マインドフルネス
  Keyword:気づき,受容(アクセプタンス),マインドフルネスストレス低減法
   マインドフルネスとは
   マインドフルネスの方法
   マインドフルネスの効果
   マインドフルネスのメカニズム
 10 交流分析
  Keyword:エゴグラム,やりとり分析,ゲーム分析,はい-でもゲーム,行動変容
   症例提示
   交流分析の技
   交流分析的アプローチの具体例
日常臨床場面における行動医学の実践
 1 糖尿病
  Keyword: 糖尿病エンパワーメント,動機づけ面接,コーチング,アレキシサイミア,糖尿病を受け入れる
   糖尿病診療における医療者の役割
   信頼関係の構築
   糖尿病診療における行動変容技法の応用
   行動変容技法の効果を高める心身医学的アプローチ
  ●アプローチ実例
   治療に消極的な期間が長かったが,感情表出の援助が行動変容につながった一例
 2 肥満症
  Keyword: ライフスタイル改善法,認知行動療法,ストレスマネジメント,マインドフル食事法
   減量治療への導入
   ライフスタイルの改善と行動医学・心身医学アプローチ
   肥満治療とマインドフルネス
  ●アプローチ実例
   抑うつ状態にあり循環器疾患を伴った男性高度肥満患者に対して認知行動療法に基づいた肥満治療を行った例
 3 循環器疾患
  Keyword:本態性高血圧症,冠動脈疾患,慢性心不全,心臓神経症,Psychocardiology
   急性ストレスと循環器疾患
   本態性高血圧症
   冠動脈疾患
   “心臓神経症”
   心不全と抑うつ,不安
  ●アプローチ実例
   パニック症の治療中に急性心筋梗塞を発症し,不安・抑うつの増悪をきたした例
 4 消化器疾患
  Keyword: 機能性消化管障害(FGID),機能性ディスペプシア(FD),過敏性腸症候群(IBS),
   認知行動療法(CBT),行動療法(BT)
   行動の問題を呈するFGID(機能性胃腸障害)モデル
   機能性胃腸障害(FGID)の病態・特性と心身医学的診療
   機能性胃腸障害(FGID)の行動療法(BT)と認知行動療法(CBT)
  ●アプローチ実例
   機能性ディスペプシア(FD)に行動療法(BT)が奏功した一例
   下痢型過敏性腸症候群(IBS)に認知行動療法(CBT)が奏功した一例
 5 呼吸器疾患
  Keyword:気管支喘息,COPD,心身症,呼吸困難,パニック症
   喘息
   COPD
  ●アプローチ実例
   時間をかけて心身相関への気づきを促した喘息(心身症)の一例
 6 慢性腎疾患
  Keyword:サイコネフロロジー,腎代替療法(透析),自己効力感,喪失体験
   慢性腎臓病(CKD)の定義と疫学
   CKDとサイコネフロロジー
   CKDの心身症としての側面
   CKD患者の心理的変化と精神疾患の併存
  ●アプローチ実例
   支持的対処を中心とする心身医学療法と適切な情報提供により腎代替療法(透析)に至った一例
 7 緩和ケアとサイコオンコロジー
  Keyword: 筋膜性疼痛症候群,ケミカルコーピング,アレキシサイミア,プラセボ効果と意識の志向性,サイコオンコロジー(精神腫瘍学)
   緩和ケアにおける心身医学,行動医学的視点
   サイコオンコロジーにおける心身医学,行動医学的視点
  ●アプローチ実例
   心理社会的背景のある症例への行動療法により疼痛コントロールに成功した一例
 8 神経疾患
  Keyword:頭痛,脳卒中,Parkinson病,慢性疾患,心身症,心理社会的背景
   頭痛(Headache)
   脳卒中(Stroke)
   Parkinson病(Parkinson's Disease)
  ●アプローチ実例
   心理社会的背景への配慮が奏功した一例
 9 摂食障害
  Keyword:食事記録(セルフモニタリング),スモールステップ,刺激統制法,代替行動
   治療開始まで
   エビデンスのある心理療法
   プライマリケアでの外来治療
  ●アプローチ実例
   患者主体の食行動改善の提案をサポートすることで,体重回復に結びついた外来症例
   行動療法の導入が体重回復に結びついた一例
 10 不登校児の診療
  Keyword:応用行動分析学,認知行動療法,神経発達症,小児心身症
   不登校状態で受診する子どもを取り巻く因子
   応用行動分析学に基づいた神経発達症児への支援(ソーシャルスキル・トレーニング)
  ●アプローチ実例
   概日リズム睡眠障害を呈する不登校児への認知行動療法の適用
 11 女性領域
  Keyword:周産期,産後うつ病,更年期障害,血管運動神経症状,心理社会的要因
   妊婦および産後女性における抑うつ
   更年期女性における不安と抑うつ
  ●アプローチ実例
   更年期に発症した不安障害に対する認知行動療法的アプローチ
 12 老年医学領域
  Keyword:認知症,フレイル,骨格筋,サルコペニア,ガイドライン
   認知症・うつの関連性とその対策
   フレイルと認知機能低下・うつ
  ●アプローチ実例
   フレイルの進行が危惧された患者への対応例