やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
ベテラン医師のClinical Pearlsとエビデンスが詰まった小児救急必携の書
 Tarasconのポケットブックシリーズは,ハンディサイズで臨床現場の“Must have”として海外の医師の白衣やスクラブのポケットで活躍している.今回Pediatric Emergencyが,UCLAメディカルセンターでProfessor Larry Baraffの下で小児救急に救急科レジデントとして従事された軍神正隆先生の尽力で邦訳され,我が国の小児救急の現場に導入されることは,現場の医師の新たな支えとして大変大きな意義があると思う.私の世代の医師は誰しも,救急で瞬時を争うような場合に必要な知識を先輩から聞いて書き込み,ポイントとなる文献の表のコピーを切り貼りした手帳を作成した経験があると思う.それに代わるのがこの書である.
 新しい研修制度のなかで,すべての医師は小児を含めた救急に対応することが求められており,とくに救急の中でも件数の多い小児救急に携わる医師の裾野を広げることは社会としても必須のことだと思う.すべての小児救急に携わる医師のポケットに入っていれば,必ず現場で役立つ本である.
 本書の特徴は,エビデンスとなる主要な文献から,そのエッセンスとなる表を原典を明示して記載している点である.専門家であっても,自分の経験に頼りがちな臨床判断について改めてチャレンジされるような知見を含んでいる.学ぶ者,教える者,すべての小児の救急現場にいる医師に見ていただきたい内容であり,大変な密度で凝縮された執筆者の知識と熱意を行間に感じ取っていただければと思う.
 2013年8月
 東京大学医学部附属病院
 小児科 教授
 岡 明


序文
 このたび,20年にわたって多方面にわたる臨床ポケット版マニュアルを出版し,世界的な名声を得ている「Tarasconポケットブックシリーズ」の「Pediatric Emergency Pocketbook(第6版)」の和訳本を出版できる運びとなりました.
 「Tarascon Pediatric Emergency Pocketbook」の特徴は,小児救急が総合救急診療の中の重要な一分野として認識されている米国らしく,「Tarascon Adult Emergency Pocketbook」と同じ救急医が執筆していることです.初期診療とその後の方向性の判断を救急医が,その後さらに専門的治療を小児科医が継続することを想定して書かれています.一方,我が国では,小児救急医療と成人救急医療が同じ土俵に乗っているとは必ずしも言えない場面が多い現況です.
 この訳書は,臨床現場で協力し診療を行っている当院の小児科医と救急医との共同作業により完成にこぎ着けました.私どもがこの訳書で心がけたのは,我が国の小児救急医療現場の現実に即した形にすることでした.もちろん,日本にない薬などで海外の実情を知る意味で有用なものはあえて残してあります.日常の小児救急の多くを担っている小児科医とこれまでは重症度の高い小児救急患者に特化して対応してきた救急医とは担当分野が異なっていた面がありました.
 当院の救急診療では小児科と救急との協力関係を築く中で,診療の基本となる共通の教程の必要性を感じていました.そのような状況で,「Tarascon Pediatric Emergency Pocketbook」はまさに目的にかなったマニュアルとして愛用されていました.しかし,医療制度や薬剤などの物資の面で,やはり日本の現場にあった日本語でのマニュアルにできないかという思いから,医歯薬出版株式会社のご理解をいただき,このたびの和訳本の出版となりました.
 和訳にあたっては,初期診療にあたる医師がいきなりなんでも小児科医に依存するということなく,自分である程度判断できるように,日本の現状に合わせて相当意訳あるいは補足説明をしています.
 この訳書が,小児救急医療に携わる若い研修医や医師,看護師,薬剤師をはじめ広く医療従事者の助けになれば私たちの望外の喜びです.
 2013年8月
 東京大学医学部附属病院
 救急部集中治療部 教授
 矢作直樹


監訳者序文
 救急医療崩壊が叫ばれている今日,小児救急医療は,従来の日本型小児救急診療と,各科横断的な一次救急から三次救急までの救急外来を訪れる多くの小児患者の初期評価・初期治療・外来完結型治療・各専門科への根本治療導入を行う救急科小児診療をバランスよく展開する必要があります.この際に重要なことは的確な初期評価(重症度・緊急度判定)の施行であり,重症度は「外観とバイタルサイン」,緊急度は「病歴と身体所見」が判定の指標となります.
 救急科小児診療では診察開始時点での鑑別疾患構築を前提にしており,鑑別すべき見落としてはならない緊急度の高い疾患を列挙する必要があります.緊急度判定の際,鑑別疾患の絞り込みと問題解決に有用なものが仮説演繹法であり,主訴・受診理由から疾患仮説を立て,得られる病歴と身体所見を基に仮説を強化あるいは棄却し,仮説の確率が妥当と思われるレベルに到達した時点で完了する推論法です.本書はこの初期評価・初期治療のプロセスと臨床判断を円滑とする最新のエビデンスとガイドラインを多数網羅しています.
 「まずいろいろ検査をやってみてから診断や治療を考える」という日本型救急診療のアプローチは「検査をする前に患者の有病確率を考えて検査の選択や結果の解釈を行う」という仮説演繹法と臨床疫学を基にした救急科診療のパターンと異なる点があります.この「救急科学」を基にした確率論的臨床アプローチは,救急科診療の中核をなすものです.内科的・集中治療的視点から発達した日本型小児救急診療と,総合診療的・臨床疫学的視点から発達した救急科小児診療が,有機的に連動できれば,日本の小児救急医療が直面している諸問題の解決,および小児救急診療のより一層の質の向上と医療再生に繋がると思われます.とくに,この救急科小児診療のバックアップとして,病院全体で各科をあげて小児救急医療に参加できる体制を構築することにより,限られた人的・物的資源を,最大限に生かすという目的を達成できると思われます.
 救急医療・救急科学の特徴は,実学であるということです.思考・判断と行動が直結していて連鎖的な診療過程が早いということや,診療の内容が結果に直接反映しやすいということが特徴として挙げられます.とっさの的確な臨床判断力「クリニカル・ジャッジメント」が絶えず必要とされるやりがいのある,魅力的な医療分野です.まさに本書が,小児救急医療に携わる各科医師,研修医,医学生,看護師,救急救命士の方々に頼りになるマニュアルとして愛読され,臨床判断のガイドとして利用されることを心から願っています.
 翻訳にあたっていただいた東京大学医学部附属病院小児科,救急部集中治療部の医師,監修に多大な御支援をいただいた岡明教授,矢作直樹教授,医歯薬出版社の情熱に心から感謝申し上げます.
 2013年8月
 東京大学医学部附属病院
 救急部集中治療部・救命救急センター
 助教/副センター長
 軍神正隆
 序文(岡 明)
 序文 矢作直樹
 監訳者序文(軍神正隆)
1.虐待(非偶発的外傷)
2.小児蘇生法(二次救命処置)
 バイタルサインと蘇生器具 新生児の心肺蘇生(CPR) 血管アクセス
3.気道と麻酔
 気道管理 鎮痛
4.アナフィラキシー
 遺伝性血管性浮腫(HAE)
5.乳幼児突発性危急事態(ALTE)
 評価と管理
6.大規模災害(NBCテロ)
7.熱傷
8.循環器疾患
 心内膜炎予防療法 心電図評価 不整脈 胸痛 先天性心疾患 生理的心雑音 失神
9.皮膚疾患
 新生児の発疹 小児期の発疹 丘疹落屑性/湿疹様の発疹
10.成長と発達
 その他の成長のマイルストーン
11.内分泌疾患
 副腎不全 糖尿病 低血糖
12.環境因子による障害
 高体温 低体温症 毒(刺咬傷)
13.水と電解質
 電解質異常 脱水:さらなる管理
14.消化器疾患
 薬剤 疝痛と啼泣 便秘 下痢 活動性消化管出血の評価と管理 新生児黄疸
15.血液疾患と腫瘍
 貧血 鎌状赤血球貧血 出血 溶血性尿毒症症候群(HUS) Henoch-Schonlein紫斑病(HSP) 特発性血小板減少性紫斑病(ITP) 血栓塞栓症 癌救急 輸血と血液製剤
16.高血圧
 小児高血圧の病因
17.予防接種
 狂犬病の曝露後予防療法 HIV(ヒト免疫不全ウイルス)
18.感染症
 抗菌治療の第一選択 新生児 菌血症 Yale観察スコア 髄膜炎菌 ダニ媒介性疾患 呼吸器感染症 肺炎 尿路感染症(UTI) ウイルス性呼吸器疾患と検査
19.川崎病
 川崎病の病期 診断検査 治療
20.先天性代謝異常症
 典型的症状
21.腎疾患
 腎障害
22.神経疾患
 乳児/小児の意識障害の管理 痙攣(熱性・無熱性) てんかん重積状態 シャント(CSFシャント感染と機能不全) 筋力低下・運動失調
23.栄養と授乳
 栄養
24.産婦人科疾患
25.眼科疾患
26.整形外科疾患
 関節炎・関節液・感染 成長板 上肢の損傷 骨盤・下肢の損傷 股関節痛と跛行 頸部痛(斜頸)
27.呼吸器疾患
 喘息 細気管支炎 嚢胞性線維症 呻吟(Grunting) 吸気性喘鳴(Stridor) 非侵襲的人工呼吸
28.精神疾患 放射線リスク
29.溺水
30.外科的腹部疾患
 外科的腹部疾患 腸重積 腸回転異常症 中腸軸捻転
31.中毒
 中毒
32.外傷
 外傷スコアと評価 腹部外傷 頭部頸部外傷 胸部外傷
33.泌尿器疾患
 泌尿器疾患―男児

 付録
 索引
 第6版改訂の特徴
 早引き目次
 抗菌治療の第一選択INDEX