やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 医用放射線科学講座:第14巻「医用画像工学」は,幸いにして「みっちり書いてあり,レベルが高い」と好評をいただき,平成9年(1997)10月1日の初版発行以来,2版12刷を数えた.教員,学生はじめ関係各位に深く御礼申し上げる.今回,改訂版を出版するにあたり,新・医用放射線科学講座『医用画像工学』と改題し,「記述をわかりやすく,レベルは高く」をモットーに版を改めた次第である.
 さて,最近の医療技術の進歩と環境の変化は驚くばかりである.
 第一に,画像診断装置の発展,画像情報のIT化など,放射線技師の業務が拡大・高度化している.その結果,「チーム医療」が提唱され,画像技術・システムは放射線技師に任せる,と言う声が大きくなりつつある.この環境に対応して,日本診療放射線技師会から厚生労働省に「放射線技師教育の向上(4年制化)」が上申され,放射線技師はすべて大学卒業者とすることが検討されている.
 第二に,医療施設における画像診断の重要性が増大するにつれ,放射線医が週に1度,来院し画像診断することが多い小病院や診療所では,対応に苦慮し,放射線技師に「ここの陰影が濃い,ここに変形がある」程度でも臨床医に指摘して欲しい,と言う声が多いと聞く.日本放射線技術学会では,「画像診断の資格」が授与される「特定診療放射線技師」の資格を提唱し,厚生労働省と協議中と報告している〔第67回日本放射線技術学会:総会学術大会「合同シンポジウム2」(2010.4.9)〕.
 第三は,「ゆとり教育の学生」の存在である.文部科学省の指導規則「数学I」は2次関数までの学習だが,数学Iのみ勉強して放射線技術学科に進学する学生が少なくない.当然,人体内のX線減衰を論ずる指数関数e-axが分からない.狽ニ∫の違いを知らず,標準偏差やフーリエ変換を教えるのに苦労する,と言う声が聞かれる.
 一方で放射線技師の高学力化を期待し,他方で技師の基礎学力の不足を嘆くのが実状である.今回,多くの読者の意見を検討し,いわゆる「医用画像工学」の範囲を多少逸脱するかもしれないが,「医用画像情報学」関連の記述を充実することにした.
 今後とも,皆様よりご意見・ご指導をいただき,よりよい医用画像工学書に育ててゆきたい.
 2010年6月
 岡部哲夫
 藤田広志
第1編 画像基礎論
 第1章 画像の展開・画像生成理論(小寺吉衞)
  1 画像の展開─フーリエ変換
   1.回転と周期性
   2.フーリエ変換対の例
   3.フーリエ変換の性質
   4.フーリエ変換の画像系への応用
  2 画像生成理論─畳み込み積分
 第2章 X線像の形成(小寺吉衞)
  1 X線の発生とその空間分布
  2 X線スペクトルと画像
  3 X線の減弱と画像
  4 画像の検出と記録,表示
   1.放射線画像系の結像
   2.定常線形系
 第3章 画像の品質と評価(小寺吉衞)
  1 画像の濃淡
  2 コントラスト
  3 鮮鋭度
   1.点像強度分布
   2.線像強度分布
   3.MTF
    1)定義
    2)測定法との関係
    3)MTFの考え方
  4 雑音─粒状性
   1.心理的粒状性
    1)試料の表示法
    2)測定法
   2.物理的粒状性
    1)RMS粒状度
    2)ウィナースペクトル
   3.増感紙-フィルム系の粒状性
   4.信号と雑音
 第4章 信号検出理論(小寺吉衞)
  1 統計的決定理論
   1.刺激-反応行列
   2.ベイズの決定則
  2 ROC曲線
   1.yes-no手続き
   2.評定手続き
   3.連続確信度法
   4.強制選択手続き
  3 C-Dダイアグラム
  4 DQEとNEQ
   1.DQE─入力と出力のゆらぎの比
   2.DQEとSN比
   3.NEQ─雑音に等価な量子数
   4.空間周波数特性としてのDQE,NEQ
  付則 画像の表現
第2編 デジタル画像論
 第1章 デジタル画像の生成(藤田広志)
  1 デジタルラジオグラフィ(DR)
   1.定義と分類
   2.DRシステムの基本構成
  2 デジタル化
   1.標本化
   2.量子化
   3.デジタル化と画質
   4.デジタル化パラメーター
   5.三次元画像
  3 標本化定理とエリアシング
   1.標本化定理
   2.ナイキスト周波数とエリアシング
  4 デジタル画像のデータ量と圧縮
   1.データ量
   2.画像圧縮
 第2章 デジタルラジオグラフィの画質
  1 画質に影響する因子(藤田広志)
    1)感 度
    2)入出力特性
    3)解像特性
    4)ノイズ特性
    5)コントラスト
    6)X線スペクトル
  2 代表的な画質評価法
   1.特性曲線
    1)DR系の特性曲線の定義
    2)DRの特性曲線の例
    3)特性曲線の有用性
    4)特性曲線の測定法
    5)デジタル特性曲線の測定例
   2.MTF
    1)DR系におけるMTF
    2)プリサンプリングMTFの測定法
    3)オーバーオールMTF
    4)グレア
   3.ウィナースペクトル(WS)
    1)DR系におけるWS
    2)WSの測定法
    3)DSAにおけるWSの測定例
   4.SN比
    1)NEQとDQE
    2)知覚系の内部雑音を考慮したSN比
   5.コントラストノイズ比
   6.C-Dダイアグラム
   7.ROC曲線
    1)必要なピクセル寸法のROC解析
    2)画像処理効果のROC解析
  3 CR画像の画質
   1.画像読み取り部の構造
   2.画像形成過程と画質
    1)解像特性
    2)ノイズ特性
  4 FPD画像の画質(山ア達也)
   1.FPDの原理
   2.間接型FPDの原理と特徴
   3.直接型FPDの原理と特徴
   4.FPD固有の画像処理
   5.FPD画像の画質評価
  5 具体的測定法
   1.画像の表現形式
   2.線質
   3.特性曲線とWSのための撮影
   4.画像の線形化
   5.WS
    1)ROI設定
    2)二次元WS計算
    3)一次元WS計算
    4)位置不変性
   6.MTF
    1)エッジチャート撮影
    2)MTF計算
   7.DQE
第3編 画像処理と医学への応用
 第1章 画像処理の基礎(石田隆行)
  1 画像の拡大・縮小
   1.座標変換
   2.濃度補間
    1)最近傍法
    2)線形補間法
    3)バイキュービック補間法
  2 階調処理
   1.LUTを用いた階調処理
   2.ヒストグラム平坦化
  3 空間フィルタ処理
   1.画像の平滑化
   2.画像の鮮鋭化
  4 エッジ検出
   1.1次微分処理
   2.2次微分処理
  5 空間周波数フィルタ処理
   1.畳み込み積分とフーリエ変換
   2.空間周波数フィルタ処理
  6 画像の2値化
  7 ラベリング
  8 特徴量分析
   1.特徴量について
    1)濃度に関する特徴量
    2)形状に関する特徴量
    3)エッジの強さと方向性
    4)空間周波数成分から得られる特徴量
   2.特徴量を用いた分類方法
  9 モルフォロジカルフィルタ
   1.膨張と収縮
   2.オープニングとクロージング
  10 画像間演算
   1.四則処理
    1)加算処理
    2)減算処理
    3)乗算処理
    4)除算処理
   2.論理演算
  付録 ImageJによる画像処理の実践例
 第2章 医用画像への応用
  1 デジタルX線(杜下淳次)
   1.画像の変換と強調
    1)階調処理
    2)ダイナミックレンジの圧縮処理
   2.画像の鮮鋭化のための処理
   3.サブトラクション処理
  2 CT(市川勝弘)
   1.CTの画像再構成
    1)CTの基本的構成
    2)CTにおける投影
    3)画像再構成理論
    4)逆投影法とFBP法
   2.CT画像
    1)CT値
    2)CT画像の表示
    3)再構成フィルタ関数
   3.CT画像の画質評価
    1)解像特性
    2)ノイズ特性
    3)スライス感度分布
    4)コントラスト
    5)アーチファクト
   4.ヘリカルCT
    1)360°補間再構成法
    2)180°補間再構成法
    3)ヘリカルCTにおけるピッチ
   5.マルチスライスCT
    1)マルチスライスCTの検出器
    2)マルチスライスCTにおける180°補間再構成
    3)フィルタ補間再構成処理
    4)コーン角の補正
    5)マルチスライスCTの画質
    6)マルチスライスCTの画像
  3 MRI(紀ノ定保臣)
   1.MRIの撮像パラメーターと画質
    1)MRIの撮像パラメーターと画質の関係
    2)MRIにおける画質改善
   2.MRIによく用いられる画像処理
    1)画像間演算処理とSAS
    2)ray tracing algorithm
    3)MR angiographyと三次元表示手法
   3.MRIにおけるサーフェイスレンダリング手法の応用
  4 DSA(梅田徳男)
   1.種類
   2.原理
   3.画像のノイズとその処理
    1)画像データ取得時のノイズ
    2)画像作成時の問題
    3)積算処理
   4.処理の基本ルーチン
    1)撮影
    2)画像差分法
    3)オート位置合わせ(mask reregistration)
    4)補間処理
   5.濃度補正
   6.多重処理
   7.医用画像への応用
    1)脳血管への応用例
    2)三次元血管撮影法
  5 超音波(福岡大輔)
   1.医療における超音波
    超音波検査の特徴
   2.超音波の物理的性質と画像形成
    1)波長と音速
    2)パルス波
    3)反射,屈折,減衰
    4)音場,超音波の伝達特性
    5)分解能
    6)プローブ(探触子)
    7)ハーモニックイメージング
   3.超音波診断装置と各種画像処理
    1)超音波診断装置のデジタル化
    2)3D・4D超音波画像
    3)組織弾性イメージング
    4)音速自動補正機能
    5)トラッキング技術
    6)IMT計測
    7)微細石灰化像の強調表示
    8)ホールブレストスキャナ
   4.画像評価
  6 核医学
   1.核医学画像の特性(小野口昌久)
    1)画像のもつ特徴
    2)画像とマトリックス
    3)画像と計数値
   2.核医学画像の評価
    1)空間分解能評価
    2)NMSEの評価
   3.補正処理(片渕哲朗)
    1)散乱補正法
    2)減弱(吸収)補正法
    3)空間分解能補正法
   4.臨床での画像処理
    1)脳領域
    2)循環器領域
    3)腫瘍領域
  7 マンモグラフィ(篠原範充)
   1.マンモグラフィとは
   2.乳房と病変の特徴
   3.マンモグラフィ専用撮影X線撮影装置
    1)ターゲットとフィルタ
    2)グリッド
    3)圧迫器
   4.アナログ受光系の特徴
   5.デジタルマンモグラフィの概要
    1)デジタルマンモグラフィの特徴
    2)デジタルマンモグラフィの空間分解能と濃度分解能
   6.デジタルマンモグラフィの受光系
    1)位相コントラストマンモグラフィシステム
    2)光学式スイッチング方式によるX線検出器
   7.デジタルマンモグラフィの品質管理のための画像評価
    1)ACR推奨ファントムとステップファントムを用いた視覚評価
    2)マンモグラフィのためのC-Dダイアグラム
 第3章 三次元画像への応用
  1 三次元画像表示法(小田敍弘,田畑慶人)
   1.医学領域における三次元画像
   2.断層画像に基づく三次元ボリュームデータの作成
   3.三次元表示法
    1)三次元表示法の種類
    2)さまざまな三次元表示法
   4.三次元表示画像の作成
    1)フリーソフトウェアの紹介
    2)ImageJを利用した三次元表示画像の作成
  2 仮想内視鏡(小倉敏裕)
   1.仮想大腸内視鏡
   2.さまざまな画像処理による仮想大腸内視鏡の応用
   3.仮想大腸内視鏡の読影
   4.デジタルバウエルクレンジング法
第4編 医用画像解析
 第1章 心機能解析
  1 DSAによる心機能解析(浜田正行)
   1.心機能解析(1)─左心室容積と左心室駆出率の算出
    1)ドッジ法(area-length法)
    2)シンプソン法
   2.心機能解析(2)─局所左心室壁運動の評価
    1)局所駆出率
    2)curved perimeter法
    3)radial法(Daughters&Ingels法)
    4)centerline法(Sheehan法)
   3.機能画像
    1)位相解析
    2)その他の機能画像
   4.冠動脈径および狭窄率の測定
  2 X線CTによる心機能解析(武村 濃)
   1.X線CTによる心臓検査の動向
   2.心臓撮影法
    1)心電図同期スキャン
    2)画像再構成法
   3.再構成表示法
    1)volume rendering(VR)
    2)curved planar reconstruction(CPR)
    3)cross-section image(直交断面画像)
    4)maximum intensity projection(MIP)
   4.心機能解析
    心機能と局所壁運動評価
   5.今後の展望
  3 MRIによる心機能解析(杉本直三)
   1.心臓血管領域での撮像法
    1)balanced SSFP法
    2)パラレルイメージングなどの高速撮像法
   2.one stop shopping cardiac MRI
    1)位置決め
    2)シネMRI(形態・壁運動評価)
    3)心筋パーフュージョンMRI(虚血の評価)
    4)遅延造影MRI(局所心筋バイアビリティ評価)
    5)冠動脈MRA(奇形,虚血性心疾患の評価)
   3.MRI特有の撮影像とその解析
    1)タギング法(局所心筋収縮能評価)
    2)フェイズコントラスト法(心筋局所収縮能評価)
    3)その他
  4 核医学による心機能解析(高橋康幸)
   1.心電図同期心プール検査
    1)ファーストパス法
    2)平衡時マルチゲート法
   2.心筋SPECT検査
   3.心電図同期心筋SPECT検査
 第2章 脳機能解析(中田 力)
  1 fMRI
   1.原理
    1)磁化率と磁化率効果
    2)賦活試験と機能画像
    3)fMRIの信号
   2.実践
    1)撮像装置と解析ソフト
    2)課題設定
  2 DTI
   1.原理
    1)拡散強調画像における信号強度
    2)DWIを用いた拡散テンソル解析
   2.実践
    1)固有値による定量解析
    2)最大固有値の固有ベクトルを利用した画像解析法
    3)三次元不等方性コントラスト
 第3章 コンピュータ支援診断
  1 コンピュータ支援診断とは(松原友子)
   1.コンピュータ支援診断の定義・目的
   2.商用化の進展
   3.システム構成
   4.コンピュータ支援診断の現状
   5.性能評価
    1)真陽性と偽陽性
    2)データベース
    3)学習と認識
    4)臨床評価
   6.CADシステムの処理の流れの具体例
   7.今後の展望
  2 コンピュータ支援診断の技術(真田 茂)
   1.乳房X線画像を対象としたCAD
    1)乳房領域および乳頭の抽出
    2)微小石灰化陰影の検出と良・悪性鑑別
    3)腫瘤状陰影の検出と良・悪性鑑別
   2.胸部正面X線画像を対象としたCAD
    1)肺野領域の抽出
    2)時系列画像の差分処理による病巣陰影の強調
    3)結節状陰影の検出
    4)間質性浸潤影の定量
    5)心臓辺縁の検出
    6)線状陰影の検出
   3.胸部CD画像を対象としたCAD
    1)肺野領域の抽出
    2)結節状陰影の検出と良・悪性鑑別
   4.骨X線画像を対象としたCAD
  3 ニューラルネットワーク(藤田広志)
   1.ニューラルネットワークの基礎
    1)ニューロコンピュータ
    2)ニューロンのモデル
    3)パーセプトロン
    4)ニューラルネットワーク
   2.パターン認識への応用
    1)ブラックボックス
    2)ニューラルネットワークの実行手順
    3)パターン分類
   3.医療支援診断システムへの応用
    1)応用の現状
    2)デシジョンサポートの例
  コラム 画像データベース
  トピックス1 類似画像検索型CAD
  トピックス2 解剖学的正常構造解析型CAD
第5編 画像関連機器
 第1章 画像ワークステーションの仕組み(山本修司)
  1 コンピュータの仕組み
  2 ワークステーションとワークステーションの歴史
  3 医療用の画像ワークステーションの仕組み
   1.医用画像ワークステーションの特徴
   2.画像ワークステーションによる大容量ボリュームデータ処理方法
  4 画像ワークステーションのソフトウェア構成
  5 画像ワークステーションによるグリッドコンピューティング
  6 画像ワークステーションのトレンド
 第2章 画像表示装置(市川勝弘)
  1 ディスプレイ
   1.CRTディスプレイ
    1)CRTディスプレイの輝度特性
    2)CRTディスプレイの解像特性
   2.液晶ディスプレイ
    1)液晶ディスプレイの構造
    2)液晶の駆動方式
    3)液晶ディスプレイの諸特性
    4)液晶の視野角特性と動作モード
  2 画像記録装置
   1.レーザープリンタ
    1)データ処理
    2)階調処理
    3)熱現像処理
   2.サーマルヘッド方式プリンタ
 第3章 医療情報システムの概要
  1 情報システムの基礎(岡部哲夫)
   1.ネットワークとは
   2.ネットワークの種類と基礎
   3.インタフェース
   4.メモリ
   5.ソフトウェア
  2 医療情報システムの分類
   1.病院情報システム
   2.画像管理・伝送システム
   3.電子カルテ
  3 DICOM規格(細羽 実)
   1.DICOMとは
   2.DICOMが利用されるシナリオの例
   3.DICOMが提供するサービス
    1)サービスクラスとは
    2)サービスクラスの例
    3)代表的なサービスクラス
   4.DICOM情報モデル
   5.DICOMのまとめ
   6.IHEによるシステム統合とDICOM
    1)標準規格による接続の問題点
    2)IHEとは
    3)IHE統合プロファイル
    4)IHEの展開

 参考文献
 索引
  和文索引
  欧文索引