やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 近年,薬学教育は6年制の教育年限の延長のみならず,それに見合った教育内容の充実が図られている.その指標となる薬学教育モデル・コアカリキュラムのなかで,天然物は「自然が生み出す薬物」として扱われており,「自然界に存在する物質を医薬品として利用するために,代表的な天然物質の起源,特色,臨床応用および天然物質の含有成分の単離,構造,物性,生合成系などについての基本的知識と,それらを活用するための基本的技能を修得する」という目標が掲げられている.今,薬学教育においては,天然物質の含有成分についての理解と,天然薬物が薬の宝庫として存在することについての理解が求められている.
 本書は,このような背景のもとに,天然物化学,植物化学,天然薬物学,生薬学といった科目の教育に用いる目的で,天然物の基本的知識を身につけられるようコンパクトにまとめられたものである.ほかにもこの分野を扱った成書はたくさんあるが,本書の特色はエッセンスだけを簡潔に,重点的に整理したところにある.取り上げる化合物は薬効の期待できるものを中心に,そのなかでも重要度が高いと思われるものに限った.また,学生の理解を助けるため,各論に登場する化合物はひとつひとつカード式のレイアウトでまとめ,その要点を一覧できるようにした.
 全体は,生合成経路を説明する総論と,それに沿って化合物を配列した各論の二部で構成されている.総論では,生物の生体内における天然物の位置づけ,各生合成経路の相互関係,代謝産物と生合成経路の関係について概説し,各論では,化合物の構造やその基原など,基本となる項目を分けて解説し,特に理解してほしい点は把握しやすいようPOINTとしてまとめた.また,各論の付記やコラムにおいては身近な話題や漢方処方や生薬などにも触れ,天然物に対し深い理解を促すよう心がけた.生合成の大きな流れをつかんだうえで各論につなげていくというスタイルをとった本書が,授業のテキストまたサブテキストとして,また,自宅学習の友として,より多くの読者の手に届き,役立つものとなることを願ってやまない.なお,内容の不備は機会あるごとに改め,より充実させたいと願っている.各位のご指導とご助言をいただければ幸甚である.
 おわりに,本書は故稲垣勲編著の『植物化学』,松浦信・福島清吾編の『要説植物薬品化学』,荻原幸夫・奥山徹・西部三省編『エッセンシャル植物薬品化学』のそれぞれの書に引き続いて出版されたものであることを付け加えておく.また,本書の出版にあたってお世話になった医歯薬出版の斎藤和博氏,青木晶子氏に深く謝意を表する.
 2007年(亥年)4月
 編集 奥山 徹
総論 植物成分の構造と生合成─はじめに(羽田紀康)
1.一次代謝産物と二次代謝産物
2.生合成経路の相互関係─一次代謝と二次代謝
3.二次代謝産物と生合成の関係
 ◎ポリケチド
 ◎テルペノイド,ステロイド
 ◎フェニルプロパノイド
 ◎アルカロイド
 ◎フラボノイド
4.二次代謝産物の生合成経路
 ◎酢酸-マロン酸経路
 ◎イソプレノイド経路
  (1)モノテルペン
  (2)セスキテルペン
  (3)ジテルペン
  (4)セスタテルペン
  (5)トリテルペンとステロイド
  (6)カロテノイド
 ◎シキミ酸経路
 ◎酢酸-マロン酸経路+シキミ酸経路
 ◎アミノ酸経路
  (1)脂肪族アミノ酸由来のアルカロイド
  (2)芳香族アミノ酸由来のアルカロイド
各論
糖質(羽田紀康)
 単糖類
  五炭糖,六炭糖
   D-リボース
   2-デオキシ-D-リボース
   L-アラビノース
   D-キシロース
   D-グルコース(ブドウ糖)
   D-ガラクトース
   D-マンノース
   D-フルクトース(果糖)
   ◎コラム:化学生態学への招待(1)
  デオキシ糖
   L-フコース
   L-ラムノース
   ◎コラム:化学生態学への招待(2)
  ウロン酸
   D-グルクロン酸
   D-ガラクツロン酸
   L-アスコルビン酸
  アミノ糖
   N-アセチル-d-グルコサミン
   N-アセチル-d-ガラクトサミン
   N-アセチル-d-ノイラミン酸
  糖アルコール
   D-グルシトール(ソルビトール)
   D-マンニトール
   D-キシリトール
 シクリトール(環状多価アルコール)
   ミオイノシトール
 少糖類
  還元性二糖
   マルトース(麦芽糖)
   ラクトース(乳糖)
   ゲンチオビオース
   ◎コラム:化学生態学への招待(3)
  非還元性二糖
   スクロース(ショ糖)
   トレハロース
   ◎コラム:化学生態学への招待(4)
  三糖,四糖
   ラフィノース
   スタキオース
   ◎コラム:糖の魅力
  多糖
   セルロース
   デンプン
   イヌリン
   ペクチン
   アラビアゴム
   ヒアルロン酸
   寒天
   ヘパリン
   クレスチン
   シゾフィラン
   レンチナン
テルペノイド
 モノテルペン(奥山恵美)
   ゲラニオール,ネロール
   シトラール(ゲラニアール+ネラール)
   d-リモネン
   l-メントール
   l-カルボン
   α-ピネン
   d-カンファー
   ペオニフロリン
   ピクロクロシン
   ◎コラム:サフラン
 イリドイド
   ゲニポシド
   ゲンチオピクロシド
   スウェルチアマリン
 セスキテルペン
   β-ファルネセン
   α-フムレン
   プタキロシド
   アトラクチロン
   α-サントニン
   β-ユーデスモール
   アニサチン
   ゴシポール
   ◎コラム:アニサチン
 ジテルペン
   プラウノトール
   アビエチン酸
   ステビオシド
   ギンコリドB
   ジベレリンA1
   グラヤノトキシンI
   ホルボール
   タキソール(パクリタキセル)
   エンメイン
 セスタテルペン
   ゲラニルファルネソール
   オフィオボリンA
   ◎コラム:学名(1)
 トリテルペン
   スクアレン
   プロトパナキサジオール,プロトパナキサトリオール
   リモニン
   グリチルレチン酸
   オウバクノン
   ウルソール酸
   サイコゲニン
   シクロアルテノール
   モグロール
   エブリコ酸
   ガノデリン酸A
   アリソールA
   ニガキラクトンA
   ベツリン酸
   ククルビタシンB
 トリテルペンサポニン
   グリチルリチン(グリチルリチン酸)
   ギンセノシド類
   サイコサポニン類
   プラティコディン類
 カロテノイド
   リコペン
   β-カロテン
   ◎コラム:カロテノイドと色
 ステロール
   コレステロール
   エルゴステロール
   β-シトステロール
 強心ステロイド(太田富久)
   ジギトキシン
   ラナトシドC
   プロスシラリジンA
   ◎コラム:センソ
 ステロイドサポニン
   ジオシン
   チモサポニンA-III
   ◎コラム:合成ステロイドホルモン
フェニルプロパノイド(太田富久)
   ケイヒ酸
   4-クマル酸
   カフェ酸
   フェルラ酸
   ケイヒアルデヒド
   アネトール
   オイゲノール
   ◎コラム:クロロゲン酸
 リグナン
   アークチゲニン
   ポドフィロトキシン
   セサミン
   ゴミシン
   ステガナシン
   マグノロール
   カズレノン
 クマリン
   クマリン
   ウンベリフェロン
   ジクマロール
   オストール
   ソラレン,ベルガプテン,キサントトキシン
   6′,7′-ジヒドロキシベルガモチン
   ◎コラム:グレープフルーツのフラノクマリン
キサントン(飯沼宗和)
   ゲンチシン,スベルチアニン
   α-マンゴスチン,γ-マンゴスチン
フラボノイド(飯沼宗和)
 フラバノン
   ナリンゲニン
   ヘスペレチン
   リクイリチン
 フラボン
   アピゲニン
   ルテオリン
   バイカレイン
   アンヒドロイカリチン
   クェルセチン
   ノビレチン
 フラボノール
   ケンフェロール
 イソフラボン
   ダイゼイン
   ゲニステイン
   ロテノン
   ◎コラム:マメ科植物
 二重分子フラボン
   アメントフラボン
 ホモイソフラバン
   オフィオポゴニンA
   ヘマトキシリン
   ◎コラム:サクラソウ属植物
 アントシアニジン
  カルコン
   カルタミン
   リコカルコンA
   イソリキリチゲニン
   フロレチン
   ◎コラム:ポリフェノール
 スチルベノイド
   レスベラトロール
   ラポンチシン
   スチルベンオリゴマー
 カテキン類
   エピガロカテキンガーレート
タンニン(飯沼宗和)
 加水分解性タンニン
   タンニン酸
  エラジタンニン
  カフェ酸誘導体
   ロズマリン酸
   リトスペルミン酸
   ◎コラム:ゲンノショウコ
 縮合型タンニン
   ラタンニン
   シンナムタンニン
キノン(飯沼宗和)
 アントラキノン
  エモジン型
   バルバロイン
   センノシド
   ヒペリシン
   アリザリン
   ◎コラム:オトギリソウ
 ナフトキノン
   ユグロン
   ロウソン
   シコニン
クロモン(太田富久)
   ケリン
脂質(太田富久)
   エイコサペンタエン酸
   ドコサヘキサエン酸
 プロスタグランジン
   プロスタグランジンE2
   プロスタグランジンF2α
その他の芳香族化合物(飯沼宗和)
 ジアリールヘプタノイド
   クルクミン
   ヤクチノンA
 カンナビノイド
   ロテレリン
   フムロン,ルプロン
 その他
   ジンゲロール
   アルブチン
   サリシン
   ベンズアルデヒド
   アニスアルデヒド
   バニリン
   ペオノール
   ウルシオール
   ビロボール
   カルドールI
   ◎コラム:学名(2)
アルカロイド(船山信次)
 脂肪族アミノ酸由来のアルカロイド
  オルニチンおよびアルギニン由来のアルカロイド
   アトロピン
   (-)-スコポラミン
   コカイン
   クコアミン
   ◎コラム:シーボルト事件とハシリドコロ
  リジン由来のアルカロイド
   ピペリン
   ペレチエリン
   スパルテイン
   マトリン
  グルタミン酸由来のアルカロイド
   γ-アミノ酪酸(GABA)
   カイニン酸
   イボテン酸
   トリコロミン酸
   ◎コラム:マクリからカイノイドへ
 芳香族アミノ酸由来のアルカロイド
  フェニルアラニンおよびチロシン由来のアルカロイド
   メスカリン
   ハイゲナミン
   パパベリン
   d-ツボクラリン
   モルヒネ,コデイン,テバイン
   ベルベリン
   ノスカピン
   コルヒチン
   エメチン
  トリプトファン由来のアルカロイド
   シロシビン,シロシン
   インジゴ
   フィゾスチグミン
   レセルピン
   アジマリン
   ヨヒンビン
   カンプトテシン
   C-クラリン
   エルゴメトリン
   エルゴタミン
   リンコフィリン
   ストリキニーネ
   キニーネ
   キニジン
   ビンブラスチン,ビンクリスチン
   エボジアミン
   ◎コラム:聖アンソニーの火からLSDへ
  ヒスチジン由来のアルカロイド
   ヒスタミン
   ピロカルピン
   ◎コラム:生体アミンとアドレナリンの復権
  アントラニル酸由来のアルカロイド
   スキミアニン
   アクロナイシン
   フェブリフジン,イソフェブリフジン
  ニコチン酸関連のアルカロイド
   ニコチン
   アナバシン
   アレコリン
   リシニン
   ◎コラム:喫煙とニコチン
 その他のアルカロイド
  プリンおよびピリミジン系アルカロイド
   サイクリックAMP(cAMP)
   カフェイン
   ゼアチン
   ビタミンB1
   ◎コラム:ビタミンB1 研究をめぐる日本人の業績
  テルペノイド骨格由来のアルカロイド
   アコニチン
   α-ソラニン
   バーチシン
   ◎コラム:矢毒ガエル,有毒鳥とバトラコトキシン類
  ポリケチド骨格由来のアルカロイド
   コニイン
  C6-C1 ユニット由来のアルカロイド
   カプサイシン
   エフェドリン

 付録
  1.おもな生薬一覧
  
 索引