やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 私たち日本人の平均寿命は,今から約50年前の1947年(昭和22年)では男性が50.1歳,女性が54.0歳であり,当時はまさしく「人生50年」という時代でした.それから約50年後の2000年(平成12年)になると,男性が77.6歳,女性が84.6歳と驚くべき高い平均寿命となっており,男女ともに世界で一番の長寿国となり,さらにその長寿年齢を更新中です.このような喜ばしい時代の変化とともに,一方では日本人の死亡原因もおおきく変化しています.すなわち,約50年前は「結核」が死亡原因のトップでしたが,その後は「脳血管障害」すなわち脳卒中が一時期トップとなっています.その後,1980年当時より他の先進諸国と同じように「悪性新生物」すなわち「がん(癌)」が死因のトップとなっており,現在でも圧倒的な頻度であり,依然として増加し続けています.さらに,40歳以上の方に限ってその死亡原因をみると,全体の51.1%ががんであり(平成9年度),私たちの半分以上ががんで死亡することになります.一方,どのようながんが日本人で多いかといえば,従来は胃がんや子宮がんが最も多いがん腫でした.最近では肺がん,乳がんなどとともに大腸がんが非常に増えており,2015年には男女ともに大腸がんが最も多いがんとなると予想されています.
 このような時代背景にあっては,がんに対する過剰な不安感があるのも無理もないことかと思います.過去においてはがんは不治の病と考えられており,がんの告知は死の宣告と同じ意味ととらえられた時期もありました.しかし,がんの予防,早期診断そしてがん治療の進歩は目覚ましく,がんは決して不治の病ではなくなりました.さらに,「ガイドライン」といった治療指針が,医師用とともに一般用にも公開されつつあります.すでに胃がんと肺がんなどは公開されており,大腸がんに関しても医師用のみですが平成17年度に公開されました.また,最初に診断された施設での治療方針のみでは不安であり,他の施設での治療方針を確認する“セカンドオピニオン”が盛んに行われています.このような情報公開はさらに進むと思われますが,最も大事なことは治療を受けるご本人の治そうとする意志であり,ご家族の方々の心からの援助が重要です.したがって,ご本人およびご家族の方々がみずから病気のことを学ぶこと,いい換えれば,敵を知ることから勝利がみえてくるとも言えるでしょう.とくに,大腸がんに関しては,予防,診断技術および治療の進歩が著しく,是非知っておいて頂きたいことが多くあり,この書を企画した次第です.私どもの施設は大腸肛門病センターとして,地域において年間10万人以上の大腸がん検診を行い,その診断と治療の最前線にある施設です.また,地域における大腸がん予防の啓蒙活動も行っており,まさしく予防からターミナルケアーまでを司っています.浅学非才ではありますが,これらの経験と実績から得られた最新の情報をお届けできたらと思っています.
 読者のみなさんにわかりやすくするために,問題点を明確にしてタイトルとし,Q&Aの形式にしました.また,図版を多く用いて,できるだけ簡潔な文章としました.一方,詳細な情報に関しては,問い合わせ先を明示いたしました.多くの皆様にとって闘病の糧となり,大腸がんの撲滅に貢献できることを願っております.
 ・まえがき

1 大腸がんの原因と予防
 Q 日本では大腸がんは増加している?
 Q なぜ,大腸がんは増加している?
 Q 大腸がんの原因は?―種類と発生原因―
 Q 大腸がんになるまでの過程はわかっている?
 Q がんの予防とは?
 Q 大腸がんに対する一次予防とは?
 Q 大腸がんの予防薬がある?
 Q 大腸がんの二次予防とは?
 Q 大腸がん検診は非常に有効である?
 Q 楽にできる大腸がんの検査がある?
2 大腸がんの診断―進行程度と治療方針―
 Q 大腸がんは何処に発生しやすい?
 Q 大腸がんの進行程度はどのようになっている?
 Q 大腸がんの早期がんの治療は?
 Q 大腸がんはどこに転移しやすい?
 Q 大腸がんの診断に最も適切な検査方法は何?
3 大腸がんの最新の治療
 Q 内視鏡治療で完治する大腸がんは多い?
 Q 大腸がんに対する内視鏡治療の実際は?
 Q 大腸がんに対する根治手術とは?
 Q 大腸がんが転移しても治癒する?
 Q 大腸がんに対する腹腔鏡手術とは?
 Q 腹腔鏡による大腸がん手術の実際は?
 Q 腹腔鏡による大腸がん手術の利点と欠点は?
 Q 直腸がんの手術はどんな手術?
 Q 直腸がんの手術後には重大な機能障害が多い?
 Q 直腸がんに対する自律神経温存手術とは?
 Q 直腸がんの自律神経温存手術で避けられる機能障害は?
 Q 直腸がん手術後の性機能障害へのさらなる対策は?
 Q 直腸がんに対する括約筋温存手術とは?
 Q 人工肛門はなくなる?―内肛門括約筋切除術の登場―
 Q 大腸がんが再発したらどうなるの?
 Q 肝転移の場合の治療は?
 Q 直腸がん局所再発の場合の治療は?
 Q 大腸がんに対して化学療法も非常に有効である?
 Q 大腸がん治療の目標は?
4 大腸がんと関連する疾患
 Q 遺伝性の大腸がんがある?
 Q 遺伝性大腸がんの治療の実際は?
 Q 潰瘍性大腸炎から大腸がんになる?
 Q 痔瘻などから大腸がんになる?
 Q 大腸がんは多発することが多い?
 Q 大腸がんに関する間い合わせ先は?
●大腸がんの最新治療法―解説編―
 1 大腸がんにおける腫瘍マーカーの意義
 2 大腸がんに対するPET検査の実際
 3 大腸がんの肝転移に対するSPIO-MRI検査の実際
 4 大腸がんの肝転移に対するRFA,MCT治療
 5 大腸がん肺転移の早期診断と治療方法
 6 下部直腸・肛門管がんに対する内肛門括約筋切除術の実際
 7 直腸がんに対する自律神経温存手術の実際
 8 大腸がんに対する新たな抗がん剤治療

 ・索引