やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版 序
 かつては“医学は日進月歩する”という言葉が医学の進歩を表現する慣例句として用いられてきた.しかし,最近の医学,特に分子生物学を始めとする領域の進歩はまさに目覚しいものがあり,この表現ではその早さの実態を表しきれないとさえ思える状況になってきている.すなわち,パーソナルコンピュータの普及と相俟って,今やこれらの最先端の情報は電子情報として日々インターネット等で地球上を飛び交っており,医学専門書誌といえどもその情報に追随していくことが困難になってきている.
 一方,医療の面では,単なる疾患の治療から患者のQOLまで含めた医療が求められる時代になっており,わが国の高齢化社会も反映して,介護・ケア等が重視されるようになり,それを担う医療職者もその範囲がますます拡大している.このことは医療行政にも及び,立法・法改正が次々と行われている.
 第2版刊行(1996年)後,改訂へ向けて,これらの医学・医療の状況への本辞典の対応を検討した.その結果,好評を博してきた初版以来の編集方針の基本を踏襲し,また本辞典の主対象である医学部学生を始めとする医療保健系学生にとって必要なレベルの情報の提供に主眼を置くという結論に達した.
 この方針に則り,編集体制も現役の方々を中心に刷新し,医療の方向性を勘案して,リハビリテーション,心療内科,形成外科等々の領域に専門の専任編集者を加えて充実を図り,執筆者も新たに三百数十名の専門家の方々にお願いした.
 具体的な作業内容は,全項目の進歩に合わせた解説内容の見直し,項目調整・加筆・訂正・改稿および新規語の収録,古い語の整理を行った.ただし,辞典という性格上,少し前の成書に記載のある語,歴史的意味合いのある語は残した.
 第3版が,その企図どおり,医学・医療に携わる方々,医療保健系学生諸君に大いに役立てていただき,前版にも増して好評をもって受け入れられることを願って止まない.
 2005年3月
 編集委員会

第1版 序
 本医学辞典刊行が企画され,その第1回編集会議が大阪大学医学部でもたれたのは,昭和52年暮であった.これが日の目を見るのに10年を要したことになる.わが国において名著といえる辞典が,医学以外の領域では既に幾つか刊行されている.これらに伍する医学辞典を作るべきだ,という私および医歯薬出版の年来の思いが本辞典を企画させたのである.
 辞典編集の基本方針は,まず,大,小いずれの分類主義を採るか,ということであろう.たとえば,ブロックハウス大百科辞典は前者大もしくは中,マイヤーは後者小分類主義を建前にしている.その得失は利用目的によると思うが,医学生が坐右におく医学辞典を頭に画くと,小分類多収録語辞典が日常の用に一番役立つのではないか.すなわち,本辞典は医学・医療の専門家をめざす広範囲の学生や,医療従事者を対象とし,小分類主義にのっとって,できるだけ多数の関連語を収録する実用辞典を目ざし,解説内容は医学生の水準におくことを編集の基本方針としている.
 収録語は,国内・外学会の編する最新の専門領域用語集,各専門領域成書,さらにこれらに含まれていない語を学術論文や関連資料から採集,追加した.医学一般に,化学物質,治療薬,生薬,鍼灸,医学情報,法規などを加えて,広く医療関連領域を包含している.
 このように広範囲の領域に及ぶ医学辞典は,一個人独力で編集・執筆できるものではない.医学辞典は,国語辞典など他領域辞典に比べて,格段に多くの専門家の協力を必要とする宿命を担っている.本辞典編集組織は,解剖学,生理学あるいは免疫学,麻酔学という大ないしは中分類領域の責任者50余人から成り,執筆者は600余人に及んだ.収録語数は最終的に約40,000語となった.
 編集の最終段階で,重複した用語解説を合併して一つに纒める作業が少なからず生じたが,これを編集者の責任で処理したことをお断りしておく.
 本辞典完成に至る長い年月の間,執筆者はもとより,他に非常に多くの方々の御協力を得た.ここに,編集者を代表して,これらの方々すべてに心から御礼を申し上げたい.編集者以外の方,とりわけ大和谷厚,広吉寿樹,越智隆弘の三氏には,編集に係わる作業も含めて,格別の御協力を頂いた.また,昨今の情報手段の急激な変革と厳しい経済状勢下,諸般の困難によく耐えて,この10年本辞典を完成するに至らせた医歯薬出版の今田喬士会長,三浦裕士社長には謝意に加えて敬意を表したい.また,医歯薬出版編集子の皆さん,終始私の傍で編集事務を援けて下さった戸田啓子さんに,改めて御礼を申し上げる.最後に,本辞典編集途次鬼籍に入れられた編集者,正井秀夫,大久保舜三,重松康,八倉隆保,敷田卓治の諸氏には,ここに深甚なる謝意を表するとともに衷心から御冥福を祈る.
 世に見識と断案という一言で評される個性的な辞典がある.遠くはサミュエルジョンソンの英語辞典,近くは吉田東伍の大日本地名辞書などがそれであろう.このような医学辞典は望むべくもないし,また望んではいけないとも考える.本医学辞典の特徴は,実用書たることに徹したことと思う.本辞典が医学・医療の学習・研究・実践に必携坐右の書となることを確信して,以上序文とする.
 昭和62年4月25日
 編集代表 後藤 稠

第2版 序
 本医学辞典初版が上梓されたのは昭和62年(1987年)である.その刊行と同時に,改訂を目標にする編集方針が検討・計画された.そして,凡例・基本方針は初版に準拠し,用語の追加および同義・関連語の調整・整理,また医学の流れ・進歩に伴う解説内容の見直し等の作業が開始されたのである.
 およそ10年を閲して生まれた本改訂第2版の総見出し語数は50,000語,初版の40,000語を大きく上廻ったが,本改訂版では治療薬・診断薬商品名を見出し語から外し,巻末に一覧表として一括したので,実用上からみた収録語数の増加は10,000語を優に超える.うち3,000語が解説語すなわち解説付き見出し語で,その追加・選択は医学全領域にわたったが,特に力点を外科系および遺伝学を含む生化学系用語においた.他約8,000語は参照語等の見出し語で,解説文中からも必要と考えられる語を見出し語とし,小分類主義を基本とする本辞典の実用性を高めた.
 本改訂版編集作業で,初版収録語の削除および関連語の整理等,編集者の責任において処理された語が少なくないことを,当該初版執筆者にお断りしなければならない.また,初版に引き続き編集作業や執筆の労をお願いした方々,そして第2版で編集者に加わっていただいた方々,新たに執筆をお願いした60名の方々に心から御礼申し上げる.同時に,この間に逝去された方々の御冥福を衷心からお祈りする.
 本改訂第2版が,医学・医療に携わる多くの方々の要望に初版以上に応えるものと確信し,以上序文とする.
 平成8年1月15日
 編集代表 後藤 稠