序
2004(平成16)年4月より,深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症予防のための弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法使用に予防管理料305点が新設された.予防法に対して保険適応が認められたことは画期的なことではあるが,それだけ適切な予防法を講じられなかったときには,その非を厳しくとがめられる時代になったといえる.これを機に全国の医療施設が,医師,看護師などからなる危機管理委員会などを中心に手術後や長期臥床患者への深部静脈血栓症予防に取り組み始めた.弾性ストッキングなどは,一時期すっかり品薄になってしまったと聞いている.
しかし,医療の現場においては,多くのとまどいがみられている.個々の患者さんを前にして,具体的に予防法を講じるときに「具体的にどんな運動をさせればよいのか,頻度はどうするのか」「弾性ストッキングは,ハイソックスでよいのか」「間欠的空気圧迫法(IPC)が足りないときにはどうするのか」「婦人科病棟では,どんな注意がいるのか」「深部静脈血栓症が疑われたときに,どんな検査をすればよいのか」「いつまで予防するのか」などの多くの疑問がでてくるからである.編者らは,臨床の場において,講演会において,また個人的にこのような具体的な質問に直面し,深部静脈血栓症への具体的予防法の解説書が必要と痛感してきた.このような背景から,本年6月に開催された第24回日本静脈学会総会(中野 赳会頭)のシンポジウム「わが国における静脈血栓塞栓症の予防」に参加したシンポジストたちを中心に,特に具体的な予防法を表すことを目的として本書が企画,編集された.
現在まで予防法にはエビデンスが必ずしも十分ではなく,具体的内容にしようとするほど記述がむずかしくなってくる.本書のあちらこちらに「……については,議論のわかれるところである」「今後の検討が必要である」などの記述がある.また,特に具体的内容については,ワンポイント・アドバイス/my opinionとして記述したが,my opinionをつけたのは,あくまで執筆者の個人的見解,責任において記述したという意味である.このことに関してはQ&Aも同様である.執筆者は,この方面においては日本を代表する専門家たちである.現在の国際的最前線の知識を踏まえたうえでの見解であると理解していただけたら幸いである.
本書は,深部静脈血栓症の予防に取り組んでいる医師,看護師を対象とした.図,写真,表を多く取り入れ,平易な記述で血管疾患である深部静脈血栓症になじみのない人にも理解しやすい内容とした.また,各施設の予防ガイドライン作成・改定に役立つよう全国11施設からの深部静脈血栓症への具体的取組法についても紹介した.本書が,深部静脈血栓症の予防に貢献し,患者,医療者ともに肺血栓塞栓症という致死的合併症から少しでも解放されることになれば編者のこのうえない喜びである.
本書を発行するにあたり,深部静脈血栓症予防の重要性を深く理解し,本書の企画時から適切なご助言をいただいた医歯薬出版株式会社・板橋辰夫氏に心より謝意を表します.
2004年10月
江里健輔,平井正文,中野 赳
2004(平成16)年4月より,深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症予防のための弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法使用に予防管理料305点が新設された.予防法に対して保険適応が認められたことは画期的なことではあるが,それだけ適切な予防法を講じられなかったときには,その非を厳しくとがめられる時代になったといえる.これを機に全国の医療施設が,医師,看護師などからなる危機管理委員会などを中心に手術後や長期臥床患者への深部静脈血栓症予防に取り組み始めた.弾性ストッキングなどは,一時期すっかり品薄になってしまったと聞いている.
しかし,医療の現場においては,多くのとまどいがみられている.個々の患者さんを前にして,具体的に予防法を講じるときに「具体的にどんな運動をさせればよいのか,頻度はどうするのか」「弾性ストッキングは,ハイソックスでよいのか」「間欠的空気圧迫法(IPC)が足りないときにはどうするのか」「婦人科病棟では,どんな注意がいるのか」「深部静脈血栓症が疑われたときに,どんな検査をすればよいのか」「いつまで予防するのか」などの多くの疑問がでてくるからである.編者らは,臨床の場において,講演会において,また個人的にこのような具体的な質問に直面し,深部静脈血栓症への具体的予防法の解説書が必要と痛感してきた.このような背景から,本年6月に開催された第24回日本静脈学会総会(中野 赳会頭)のシンポジウム「わが国における静脈血栓塞栓症の予防」に参加したシンポジストたちを中心に,特に具体的な予防法を表すことを目的として本書が企画,編集された.
現在まで予防法にはエビデンスが必ずしも十分ではなく,具体的内容にしようとするほど記述がむずかしくなってくる.本書のあちらこちらに「……については,議論のわかれるところである」「今後の検討が必要である」などの記述がある.また,特に具体的内容については,ワンポイント・アドバイス/my opinionとして記述したが,my opinionをつけたのは,あくまで執筆者の個人的見解,責任において記述したという意味である.このことに関してはQ&Aも同様である.執筆者は,この方面においては日本を代表する専門家たちである.現在の国際的最前線の知識を踏まえたうえでの見解であると理解していただけたら幸いである.
本書は,深部静脈血栓症の予防に取り組んでいる医師,看護師を対象とした.図,写真,表を多く取り入れ,平易な記述で血管疾患である深部静脈血栓症になじみのない人にも理解しやすい内容とした.また,各施設の予防ガイドライン作成・改定に役立つよう全国11施設からの深部静脈血栓症への具体的取組法についても紹介した.本書が,深部静脈血栓症の予防に貢献し,患者,医療者ともに肺血栓塞栓症という致死的合併症から少しでも解放されることになれば編者のこのうえない喜びである.
本書を発行するにあたり,深部静脈血栓症予防の重要性を深く理解し,本書の企画時から適切なご助言をいただいた医歯薬出版株式会社・板橋辰夫氏に心より謝意を表します.
2004年10月
江里健輔,平井正文,中野 赳
疑問に答える深部静脈血栓症予防ハンドブック
第1章 深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症
1.深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症 中野 赳
2.深部静脈血栓症の臨床 星野俊一
○ワンポイントアドバイス
●深部静脈血栓症が疑われたときに,どのような検査を行うか? 高瀬信弥
●D-ダイマーの臨床的意義 佐久間聖仁,白土邦男
3.肺血栓塞栓症の臨床 江里健輔
4.深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症のリスク 渋谷 卓,川ア富夫
○ワンポイントアドバイス
●DVT,PTEの既往歴はあるが,カテーテル検査後など一過性の原因にすぎないときにも最高リスクに入れるべきか? 渋谷 卓
●予防に関して,同意書,クリニカルパスの必要性は? 浦山 博
第2章 予防法の種類と実際 中村真潮
1.予防法の種類 中村真潮
○ワンポイントアドバイス 中村真潮
●小児にも予防は必要か?
●予防の開始時期と終了時期は?
●離床時期に気をつけること
2.薬物的予防法の実際 後藤信哉
○ワンポイントアドバイス 後藤信哉
●ヘパリンナトリウムとヘパリンカルシウム
●ヘパリン使用で出血の危険のある症例とは?
●低分子ヘパリンとは?
●その他の抗凝固薬
3.理学的予防法の実際
1)運動,マッサージ,下肢挙上,深呼吸 平井正文
○ワンポイントアドバイス
●運動,マッサージ,下肢挙上の位置づけは? 平井正文
●運動,マッサージの頻度と回数は? 岩田博英
2)弾性ストッキング 平井正文
○ワンポイントアドバイス
●弾性ストッキング使用中の注意は?(合併症の予防) 平井正文
●弾性ストッキングは使い捨てか? 再利用してもよいのか? 岩田博英
●ハイソックスとストッキングタイプのどちらを使用するのか? 平井正文
●弾性ストッキングのかわりに弾性包帯を使用してよいか? 平井正文
3)間欠的空気圧迫法 佐戸川弘之,横山 斉
○ワンポイントアドバイス 佐戸川弘之
●IPCは24時間継続して使用するのか?
●IPCの使用期間は,麻酔導入前から歩行までか?
●IPCの数が足りないときにはどうするか?
●フットポンプとカーフポンプはどのように使い分けるか?
●IPCと弾性ストッキングは併用してもよいのか?
第3章 各部門の特異性と予防の実際
1.麻酔科 瀬尾憲正
Q&A 瀬尾憲正
●どのような所見からPTEを疑うか
●DVTを起こさせにくい麻酔の方法があるか,また麻酔中に気をつけることは?
●麻酔中に特に気をつける患者,体位は?
●ヘパリンによる予防と脊椎麻酔,硬膜外麻酔
2.一般外科 左近賢人,池田正孝,門田守人
Q&A 左近賢人,池田正孝,門田守人
●癌の患者はすべて高リスクとしIPCまたはヘパリンを使用すべきか?
3.整形外科 藤田 悟
Q&A 藤田 悟
●ギプス着用患者―どのように予防するのか,何ができるか?
●足の手術や体位などで術中にIPCや弾性ストッキングを使用しにくいときにはどうするか?
●骨折では受傷直後から弾性ストッキングを使用したりIPCを行ったほうがよいか?
4.産科・婦人科 小林隆夫
Q&A 小林隆夫
●DVT,PTEの既往歴のある妊婦に対して妊娠初期からずっと継続し,10カ月間ヘパリンを使用したほうがよいのか?
●妊婦にヘパリンを使用すると,妊娠中,分娩時にどんなことに注意するべきか?
5.脳神経外科 宮 史卓
6.泌尿器科 島居 徹,服部一紀,赤座英之
7.血管外科 原田裕久
Q&A 原田裕久
●血行再建術における予防
●ストリッピングではどうか?
●血行障害患者への予防で特に注意する点
8.内 科 山田典一
Q&A 山田典一
●すべての長期臥床患者に予防を行うべきか?
●高齢者へのヘパリン使用の注意点は?
9.検査に伴うDVT予防の特徴 善甫宣哉
第4章 各施設の取り組み
1.済生会福岡総合病院の取り組み 福田篤志,隈 宗晴,岡留健一郎
2.周術期深部静脈血栓症/肺塞栓症予防クリニカルパス (DVT/PE・CP)導入後の現状 春田直樹,内田一徳,新原 亮,杉野圭三
3.近畿大学医学部附属病院における血栓対策の取り組み 保田知生
4.京都大学医学部附属病院における術後肺塞栓症予防への取り組み 江原夏彦,木村 剛
5.大垣市民病院におけるDVT予防 相川 潔,山口晃弘,児玉章 朗
6.名古屋大学医学部附属病院外科病棟におけるDVT予防の実際 横山 惠,錦見尚道
7.東京歯科大学市川総合病院の取り組み 園田満子,首藤由紀江,猪田直美,大内貴志
8.肺塞栓症予防に対する福島県立医科大学病院での取り組み 高瀬信弥
9.会津中央病院手術室における弾性ストッキングとIPC使用の現状 金田栄子,白井理恵
10.弘前大学医学部附属病院における取り組み 福田幾夫,砂田弘子
11.札幌医科大学附属病院手術部の取り組み 水上寿恵,水野かおる
第5章 エコノミークラス症候群の予防 森尾比呂志
各種製品一覧
(1)予防に用いられる薬剤一覧 山田典一
(2)弾性ストッキング製造販売企業,製品一覧 平井正文
(3)間欠的空気圧迫法,IPC一覧 平井正文
索引
第1章 深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症
1.深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症 中野 赳
2.深部静脈血栓症の臨床 星野俊一
○ワンポイントアドバイス
●深部静脈血栓症が疑われたときに,どのような検査を行うか? 高瀬信弥
●D-ダイマーの臨床的意義 佐久間聖仁,白土邦男
3.肺血栓塞栓症の臨床 江里健輔
4.深部静脈血栓症,肺血栓塞栓症のリスク 渋谷 卓,川ア富夫
○ワンポイントアドバイス
●DVT,PTEの既往歴はあるが,カテーテル検査後など一過性の原因にすぎないときにも最高リスクに入れるべきか? 渋谷 卓
●予防に関して,同意書,クリニカルパスの必要性は? 浦山 博
第2章 予防法の種類と実際 中村真潮
1.予防法の種類 中村真潮
○ワンポイントアドバイス 中村真潮
●小児にも予防は必要か?
●予防の開始時期と終了時期は?
●離床時期に気をつけること
2.薬物的予防法の実際 後藤信哉
○ワンポイントアドバイス 後藤信哉
●ヘパリンナトリウムとヘパリンカルシウム
●ヘパリン使用で出血の危険のある症例とは?
●低分子ヘパリンとは?
●その他の抗凝固薬
3.理学的予防法の実際
1)運動,マッサージ,下肢挙上,深呼吸 平井正文
○ワンポイントアドバイス
●運動,マッサージ,下肢挙上の位置づけは? 平井正文
●運動,マッサージの頻度と回数は? 岩田博英
2)弾性ストッキング 平井正文
○ワンポイントアドバイス
●弾性ストッキング使用中の注意は?(合併症の予防) 平井正文
●弾性ストッキングは使い捨てか? 再利用してもよいのか? 岩田博英
●ハイソックスとストッキングタイプのどちらを使用するのか? 平井正文
●弾性ストッキングのかわりに弾性包帯を使用してよいか? 平井正文
3)間欠的空気圧迫法 佐戸川弘之,横山 斉
○ワンポイントアドバイス 佐戸川弘之
●IPCは24時間継続して使用するのか?
●IPCの使用期間は,麻酔導入前から歩行までか?
●IPCの数が足りないときにはどうするか?
●フットポンプとカーフポンプはどのように使い分けるか?
●IPCと弾性ストッキングは併用してもよいのか?
第3章 各部門の特異性と予防の実際
1.麻酔科 瀬尾憲正
Q&A 瀬尾憲正
●どのような所見からPTEを疑うか
●DVTを起こさせにくい麻酔の方法があるか,また麻酔中に気をつけることは?
●麻酔中に特に気をつける患者,体位は?
●ヘパリンによる予防と脊椎麻酔,硬膜外麻酔
2.一般外科 左近賢人,池田正孝,門田守人
Q&A 左近賢人,池田正孝,門田守人
●癌の患者はすべて高リスクとしIPCまたはヘパリンを使用すべきか?
3.整形外科 藤田 悟
Q&A 藤田 悟
●ギプス着用患者―どのように予防するのか,何ができるか?
●足の手術や体位などで術中にIPCや弾性ストッキングを使用しにくいときにはどうするか?
●骨折では受傷直後から弾性ストッキングを使用したりIPCを行ったほうがよいか?
4.産科・婦人科 小林隆夫
Q&A 小林隆夫
●DVT,PTEの既往歴のある妊婦に対して妊娠初期からずっと継続し,10カ月間ヘパリンを使用したほうがよいのか?
●妊婦にヘパリンを使用すると,妊娠中,分娩時にどんなことに注意するべきか?
5.脳神経外科 宮 史卓
6.泌尿器科 島居 徹,服部一紀,赤座英之
7.血管外科 原田裕久
Q&A 原田裕久
●血行再建術における予防
●ストリッピングではどうか?
●血行障害患者への予防で特に注意する点
8.内 科 山田典一
Q&A 山田典一
●すべての長期臥床患者に予防を行うべきか?
●高齢者へのヘパリン使用の注意点は?
9.検査に伴うDVT予防の特徴 善甫宣哉
第4章 各施設の取り組み
1.済生会福岡総合病院の取り組み 福田篤志,隈 宗晴,岡留健一郎
2.周術期深部静脈血栓症/肺塞栓症予防クリニカルパス (DVT/PE・CP)導入後の現状 春田直樹,内田一徳,新原 亮,杉野圭三
3.近畿大学医学部附属病院における血栓対策の取り組み 保田知生
4.京都大学医学部附属病院における術後肺塞栓症予防への取り組み 江原夏彦,木村 剛
5.大垣市民病院におけるDVT予防 相川 潔,山口晃弘,児玉章 朗
6.名古屋大学医学部附属病院外科病棟におけるDVT予防の実際 横山 惠,錦見尚道
7.東京歯科大学市川総合病院の取り組み 園田満子,首藤由紀江,猪田直美,大内貴志
8.肺塞栓症予防に対する福島県立医科大学病院での取り組み 高瀬信弥
9.会津中央病院手術室における弾性ストッキングとIPC使用の現状 金田栄子,白井理恵
10.弘前大学医学部附属病院における取り組み 福田幾夫,砂田弘子
11.札幌医科大学附属病院手術部の取り組み 水上寿恵,水野かおる
第5章 エコノミークラス症候群の予防 森尾比呂志
各種製品一覧
(1)予防に用いられる薬剤一覧 山田典一
(2)弾性ストッキング製造販売企業,製品一覧 平井正文
(3)間欠的空気圧迫法,IPC一覧 平井正文
索引











