やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第5版の序

 2001年2月に第4版を発行し約2年余りになるが,この間にも緊急安全性情報の発令,新薬の発売,相互作用の追加などが頻繁に行われたのに伴い,今回,第5版として大幅な補足,修正を行うことになった.
 まず,トピックスにはオランザピン(ジプレキサ)による高血糖で死亡例が報告されたことから「抗精神病薬と糖尿病」について取り上げてみた.また,本文中に「塩酸チクロピジン(パナルジン)による血液障害」「アジスロマイシン(ジスロマック)によるSJS,TEN誘発」「ゲフィニチブ(イレッサ)による間質性肺炎を含む肺障害の誘発」「エダラボン注(ラジカット)による腎機能障害誘発」に関する安全性情報についても補足した.薬学的な基礎知識を深めるため《注意》《参考》には「ビスホスホネート系の作用機序」「CYP2A6の遺伝的多型」「糖尿病性合併症:糖尿病性腎症および網膜症に対するACE阻害剤の効果;糖尿病性神経障害と塩酸メキシレチン」「NSAIDによる不妊症」「アスピリンとNSAIDの抗血小板作用」,また《付録》には「片頭痛」「カプサイシン感受性知覚神経とCGRP」などを追記した.相互作用では,同時禁忌,禁忌である「Zn含有製剤とペニシラミン製剤,甲状腺ホルモン製剤」「酸性飲料とニコチンガム」「イトラコナゾール,ミコナゾールと硫酸キニジン」「イトラコナゾール,ミコナゾールとシンバスタチン(リポバス)」「チオリダジン(メレリル)とCYP2D6で代謝される薬剤,CYP2D6阻害剤」などを追加し,その他に「シプロフロキサシン(シプロキサン)とグリベンクラミド(オイグルコン)」「カルバペネム系とバルプロ酸Na(デパケン)の相互作用発現機序」「トリメトプリムによる陽イオン輸送系阻害」「MAO阻害剤とヒスチジン含有食品」「安息香酸誘導体とチオプリン系」「プロピオン酸系(イブプロフェンなど)とアスピリン」などの相互作用を補足した.さらに,《付録》には相互作用の書として充実させるため「飲食物・嗜好品(20品目)と薬の相互作用」を新たに設けた.一方,P糖タンパクやCYP450に起因する相互作用が増えていることから,表として「表18-2;P糖タンパクの基質となりうる薬剤(CYP450分子種に分類表示)」「表26-3;同一阻害剤・作動剤,同効薬でCYP450酵素が異なる主な薬剤」を加えて整理してみた.その他の相互作用は,以下に示す新薬などに関連するもので,必要に応じて薬理作用,特性などの追加・補足を行っている.
 アレンドロン酸Na(ホサマック,ボナロン;ビスホスホネート系),リセドロン酸Na(ベネット,アクトネル;ビスホスホネート系),テルミサルタン(ミカルディス;AT1拮抗剤),塩酸メフロキン(メファキンエスエス;抗マラリア剤;キニーネ類),塩酸バラシクロビル(バルトレックス),ラミブジン(ゼフィックス;抗HBV剤),リン酸オセルタミビル(タミフル;抗インフルエンザ剤),ガチフロキサシン(ガチフロ;キノロン系),オランザピン(ジプレキサ;MARTA),臭化水素酸エレトリプタン(レルパックス;5-HT1B/1D作動剤),ゾルミトリプタン(ゾーミッグ;5-HT1B/1D作動剤),モンテルカストNa(シングレア,キプレス;LT拮抗剤),ザフィルルカスト(アレコート;LT拮抗剤),リスペリドン(リスパダール;SDA),フマル酸クエチアピン(セロクエル;SDA),塩酸ペロスピロン(ルーラン;SDA),メシル酸イマチニブ(グリベック;チロシンキナーゼ阻害抗悪性腫瘍剤),ゲフィニチブ(イレッサ;チロシンキナーゼ阻害抗悪性腫瘍剤),カベルゴリン(カバサール;ドパミン受容体刺激剤),フェンタニル(デュロテップパッチ;μオピオイド作動剤),メロキシカム(モービック;選択的COX2阻害剤),塩酸セビメリン(エボザック,サリグレン;口腔乾燥改善剤),ロラタジン(クラリチン;抗アレルギー剤),ラベプラゾールNa(パリエット;プロトンポンプ阻害剤),塩酸プロカルバジン(ナツラン;アルキル化剤),リネゾリド(ザイボックス;抗菌剤),リバビリン(レベトール;抗HCV剤),サキナビル(フォートベイス;HIVプロテアーゼ阻害),ザルシタビン(ハイビット;抗HIV剤),ピラセタム(ミオカーム;ミオクローヌス治療剤),ホスカルネットNa水和物(ホスカビル;抗CMV剤),ジノプロスト(プロスタルモン),ペントスタチン(コホリン;アデノシンデアミナーゼ阻害抗悪性腫瘍剤)など.
 上記以外にも多少の追加,修正はあるが,相互作用についての解説および考え方は,初版から一貫して同じである.なお,販売中止となった薬剤については,一般名を残し商品名を削除している〔例;シTプリド(アセナリン,リサモール)→シサプリド,テルフェナジン(トリルダン)→テルフェナジン,セリバスタチンNa(セルタ,バイコール)→セリバスタチンNa(販売中止),など〕.
 2002年4月から薬剤師の技術料として特別指導加算がさらに重視され,薬剤師がこれを遂行するには,薬のスペシャリストとして高い学術レベルの知識が要求されていると痛感している.本書が読者の方々の良き相談相手として,常に最新の情報を兼ね備えた相互作用の理論書,また実践書となるよう最善の努力をするつもりである.読者の方々が本書を愛読されることを心から願って,改訂版序の言葉としたい.
 2002年11月
 杉山 正康

推薦の言葉

 医薬品は周知の如く,医療の現場に於いて,きわめて重要な役割を果たしており,その適切かつ有効な使用は,疾病の進展抑止,治癒促進をもたらす.しかし,不十分で曖昧な知識のままの使用は,患者に不幸な結果をもたらす.日進月歩の医学の発展に伴い,今日,我々臨床医が手にする医薬品の数は,薬価基準収載品目だけでも1万数千という膨大なものになってきており,多忙をきわめる臨床医にとって,その一つ一つについての正確な知識,情報を得ることは,益々困難になっている.一方,我が国は未曽有の高齢化社会を迎え,疾病構造も複雑化,多様化し,使用する薬剤も必然的に多剤併用とならざるを得なくなっている.従って,薬剤単独使用の場合の薬理作用や副作用だけでなく,多剤併用の場合の相互作用や,副作用についても,最新の知識,情報を得て,頭の中で整理しておく必要がある.
 最近のソリブジンと5-FUの相互作用による死亡例の発現は不幸な事例であるが,国民が併用薬剤による薬害にこれまで以上に関心を寄せているのは事実である.このような状況にあって,現場の医師,看護婦,薬剤師をはじめ,薬剤にかかわる多くの方々より医薬品の相互作用の仕組み(発現機序)について,理解しやすい解説書の出現が望まれていた.杉山正康先生は永らく久留米大学医学部医化学教室の講師を務められ,米国留学の経験もある気鋭の薬学者であるが,調剤薬局の臨床薬剤師として転進され,現場での幾多の経験から,医師や患者との良好な信頼関係を確立するために,薬剤師が医薬品の相互作用発現機序について理解しておくことの重要性を早くから認識されていた.特に医師と薬剤師がより一層,薬剤に関する情報交換を行い,密接な連携を図ることが期待されている折に,杉山先生の昼夜を徹する努力によりその願いがかない,本書が上梓される運びになったことは臨床薬剤師のみならず,第一線の臨床医にとっても望外の喜びである.
 本書「薬の相互作用としくみ」は,単に個々の薬剤の相互作用の列記に終わらず,相互作用の発現機序に重点をおいて記載されていることに従来にない特徴がある.本書は処方せんを受け付けた薬剤師が処方内容の併用薬剤について,注意すべき点はないか,併用は禁忌であるか,併用は慎重にすべきかなど,直ちにチェックできる利便性をもった実用書でもある.処方せんを書く医師が全ての薬剤の併用についてあらかじめ知識を有していることが本来の姿であろうが,現実は必ずしも,そうはいかない.医師も本書を利用することにより相互作用に対する知識を深め,薬剤師との相互ダブル・チェックにより,薬剤併用に伴う副作用発現を未然に防止することが可能となる.医師は医療の実践に於いてはオールマイティーであり,リーダーではあるが,薬剤についてのスペシャリストではない.従って,彼のような臨床薬剤師の存在は,我々,臨床医にとって鬼に金棒ともいえる良きパートナーを得た心強さを与えてくれるし,また,その彼が執筆した本書のような存在は,座右において,臨床医の良き片棒となるものと信じている.
 本書が医師,薬剤師をはじめ,薬剤にかかわる多くの方々の良き相談相手となって活用され,薬剤併用による副作用軽減に役立ち,ひいては患者さんのやすらぎとしあわせにつながっていくことを願っている.
 1996年師走
 後藤クリニック院長,産業医科大学非常勤講師 後藤 誠一

はじめに

 著者は,調剤薬局の薬剤師としての知識を身につけようと薬学専門書などを読み,また学術講習会にも出席するようにしているが,適切な参考書は以外にも少ないと感じたのが本書を執筆した動機である.
 当初から,薬剤師は処方箋にしたがって薬を患者に説明して手渡すだけではなく,医師や患者から求められていることを理解して行動すべきと考えていた.実務を経験して,薬に対オての知識の豊富さ,つまり薬についてはどんなことでも知っている薬のスペシャリストであることが真の薬剤師であるとの思いを強くもった.薬についての正確な知識の積み重ねが医療従事者間の信頼感を生み出し,ひいては患者からも頼りにされることと強く感じている.したがって,薬剤師は,常に薬全般の新しい情報に目を見張り続けなくてはならず,生涯勉学に勤しむ職業である.特に,薬物相互作用についての知識は,患者にはもちろんのこと,医師からも最も求められていることの一つで,薬剤師が能力を発揮しうる分野である.しかし,ただ単に併用薬剤の是非を知るのみでなく,その発現機序(仕組み)を理解しておく必要がある.なぜならば,その知識を基に薬剤師のみが独自の判断で処方医師と連絡を取り交わし,場合によっては処方変更となることもあり,逆に医師から相互作用について意見を求められることも多いからである.また,発現機序を把握していなければ,似たような薬剤の組み合わせが処方されても応用が効かず,ましてや予期しうる相互作用による薬害を未然に防ぐことも困難である.さらに,PL法が施行されて以来,相次ぐ相互作用に関する医薬品の添付文書の改訂が行われているが,発現機序からこれらを把握しなければ,相互作用に関係するすべての医薬品を個々に覚えることなど不可能である.それゆえに,相互作用の発現機序を理解するのによい専門書はないものだろうかと常々思っていたが,残念ながら個々の薬剤の相互作用を羅列して解説されているものが多く,相互作用の発現機序に対する総括的な知識を得るのが難しい.
 以上のような観点に立ち,本書では相互作用の発現機序(仕組み)に重点をおくことを目的として,これまでに報告されている主要な医薬品相互作用を発現機序別に分類して解説し,随所に薬剤師としての立場での対処についても述べてみた.近年話題となっている薬物代謝酵素のチトクロームP450酵素についても,判明しているレベルでまとめてみた.
 初版でもあり,全薬剤の相互作用を網羅するには至らず,また臨床経験の不足から不備な点も多々あると思われるが,読者の方々からご意見・ご教示をいただき,さらに充実した本になるように改訂を続けるつもりである.本書が薬剤師をはじめとして医師,看護婦,薬業関係者やMR・MSの方々が,医薬品相互作用の発現機序を理解するうえで少しでも役立つことを心から願っている.
 最後に,本書の発行にあたり,終始ご協力,ご尽力を賜った小倉薬剤師会専務理事の小田利郎氏,医歯薬出版の担当者諸氏,また本書の作成にあたりご協力いただいた北里大学獣医学部公衆衛生学講座の上野俊治氏,ご意見をいただいた福岡県薬剤師会薬事情報センターの北島麻利子氏,キョーエイ薬品(株)薬事室の二宮ルミ氏をはじめ,ご協力くださったメーカー,医薬品卸の方々および関係各位に心よりお礼を申し上げる.
 1996年12月
 杉山 正康
 本書の構成,内容について
  参考図書・文献
  本書の構成と使い方
  欧文略号
  医薬品名・構造式

序章 薬物相互作用とは
 1.相互作用の発現機序
 2.相互作用に注意すべき薬剤
 3.処方箋を受け付けた際の相互作用の考え方と医師・患者への対処
  1)最初に処方箋を受け付けたとき
  2)患者への投薬
 4.発現機序別の併用禁忌(同時服用禁忌も含める)・原則禁忌のまとめ
第1章 薬動態学的相互作用
A.消化管吸収
 1.物理化学的変化
  1)金属キレート,吸着
  2)結合による吸収阻害(薬効低下)
 2.抗菌剤による腸内細菌叢の変化
 3.消化管運動の変化
  1)難溶性薬剤の溶解
  2)胃排泄時間と初回通過効果
  3)薬剤の分解
 4.消化管内のpH上昇
  1)薬剤の溶解性
  2)薬剤の解離度
 5.その他
B.分布
 1.血漿タンパク結合
 2.血液脳関門(BBB)
C.腎排泄
 1.NSAIDによる腎血流量の低下(糸球体濾過低下)
 2.近位尿細管での分泌阻害・競合(作用増強)
  1)P糖タンパク輸送系
  2)陽イオン輸送系
  3)陰イオン輸送系
 3.尿酸の再吸収,分泌の変化
 4.近位尿細管でのリチウム,抗菌剤の再吸収
 5.尿pHの変化
 6.その他
D.代謝
 1.肝チトクロームP450(CYP450)酵素関係
  1)肝チトクロームP450酵素阻害
  2)肝チトクロームP450酵素誘導
  3)二相効果
 2.チトクロームP450酵素以外での代謝に関係する相互作用
  1)ウラシル脱水素酵素
  2)キサンチンオキシダーゼ(XOD)
  3)アルコール代謝酵素系
  4)抱 合
  5)モノアミンオキシダーゼ(MAO)
  6)コリンエステラーゼ
  7)チオプリンメチルトランスフェラーゼ(TPMT)
第2章 薬力学的相互作用──協力および拮抗作用──
A.薬の作用に起因する相互作用
 1.中枢神経抑制および興奮
 2.末梢神経系
  1)交感神経系
  2)副交感神経系(抗コリン,コリン),運動神経遮断,神経節遮断
 3.MAO阻害
 4.ヒスタミン
 5.心機能促進および抑制,QT延長
 6.血管拡張および収縮
 7.血液凝固抑制および促進
 8.血糖低下および上昇
B.薬の副作用に起因する相互作用
 1.痙攣,パーキンソン病
  1)痙 攣
  2)パーキンソン病(脳内ドパミン低下)
 2.低K・高K血症
 3.血液障害
 4.NSAIDによる副作用
  1)消化性潰瘍
  2)腎血流量低下
  3)アスピリン喘息
  4)スティーブンズ-ジョンソン症候群(SJS;皮膚粘膜眼症候群),ライエル症候群(TEN;中毒表皮壊死症)
  5)ライ症候群
  6)不妊症
  7)その他
 5.その他の副作用
  1)横紋筋融解症
  2)内耳(第八脳)神経障害および腎障害
  3)光線過敏症
  4)間質性肺炎
 6.その他の併用禁忌

A.5-HT(セロトニン)
  1)うつ病,精神分裂病
  2)末梢循環不全
  3)催吐作用
  4)消化管運動賦活
  5)片頭痛
B.PDE(ホスホジエステラーゼ)
  1)血管系(血管平滑筋・内皮,血小板)
  2)心 筋
  3)気管支平滑筋,炎症細胞
  4)海綿体平滑筋
C.飲食物・嗜好品(20品目)と薬の相互作用

 索引