はじめに
本書は,胎児期にホルモンがいつ頃から作り出され,どのように働き,その働きは出生前後でどんなに変化し,乳幼児期ではどう働き,思春期までにどう変化し,おとなのホルモンに発達して行くのかを,平易,かつ簡明に述べたものです.その発達の過程で,ホルモンは実に不思議なことをします.それで,本書の題名を「ホルモン発達のなぞ」としたのです.
本書は,広く生物系の学生諸君や医学生,看護学生,獣医学生はもとより,ホルモンに興味のある一般の方々の教養書・参考書として読んで頂けるように,平易に書いてありますので,これによって,皆様が読後に満足感が得られれば,著者の望外の喜びとするところです.
本書ではとくに,胎児のとき,出生前後のとき,乳幼児のときに力点を置いています.その頃に,ホルモンの働きに劇的変化が起きるからで,そのときの影響が,とおとなになっても大きくしています.
現在,環境ホルモンというホルモンのが,本物のホルモンの働きをすることから,社会問題となっており,とくに胎児期,乳幼児期では甚大な被害をるとされています.それは,本物のホルモンがその時期に一生を左右する働きをしているからで,その働きを環境ホルモンが撹乱するのです.
その意味で,ホルモンの発達を理解して頂いて,環境ホルモンを改めて見つめなおして頂けば,環境ホルモンの有害性をはっきりと認識して頂けるものと,思います.
ホルモンの発達についての研究は,20世紀半ば頃から本格的に始まりました.医学の世界では,ほかの分野に比べて比較的に研究のスタートが遅れたようです.とくに胎児は母親の胎内にいますので,直接ふれて研究
することがむずかしかったからです.とくにヒトの胎児のホルモン活動の研究はむずかしく,動物実験に頼るしかありません.そういうことから,医学研究者よりも,むしろ,生物学研究者の研究対象になったように思います.つまり,学際的な研究分野になっているのです.
本書では,環境ホルモンのなぞを最終章におき,胎児を守っている筈の胎盤のなぞから始めて,ホルモンの発達中に起きるさまざまななぞの事件を解き明かして行きます.たとえば,糖尿病のなぞ,骨成長のなぞ,ストレスのなぞ,性の分化のなぞ,などですが,これらにはまだ解き明かされていないなぞもたくさんあります.それによって,環境ホルモンの有害性を,よりよく理解できるようになると思います.
ホルモンの発達の研究はヒトで研究することは非常にむずかしいので,これまでに得られた多くの知識は,ネズミのデーターに基づいています.したがって本書の,とくに,脳と性,ストレスと性の分化などはネズミの実験が主体になっていますが,それはヒトにも当てはまるものとして,理解してほしいと思います.
なお,ネズミの妊娠日齢の算定は文献によってなので,本書では妊娠した最初の日を妊娠0日とすることに統一しました.つまり,文献によっては,妊娠の最初の日を妊娠第1日目と表現しているのがかなり多く,なかには,1/2日と表現しているのもあって,たいへんらわしいからです.また,動物の子は,専門的には「胎子」「新生子」と書くのが本当ですが,本書ではすべて「胎児」「新生児」に統一しました.
巻末の文献は一般には不必要と思われますが,原著でもっと詳しく調べたいという方々のために,参考として挙げておきました.
2002年秋
著者
本書は,胎児期にホルモンがいつ頃から作り出され,どのように働き,その働きは出生前後でどんなに変化し,乳幼児期ではどう働き,思春期までにどう変化し,おとなのホルモンに発達して行くのかを,平易,かつ簡明に述べたものです.その発達の過程で,ホルモンは実に不思議なことをします.それで,本書の題名を「ホルモン発達のなぞ」としたのです.
本書は,広く生物系の学生諸君や医学生,看護学生,獣医学生はもとより,ホルモンに興味のある一般の方々の教養書・参考書として読んで頂けるように,平易に書いてありますので,これによって,皆様が読後に満足感が得られれば,著者の望外の喜びとするところです.
本書ではとくに,胎児のとき,出生前後のとき,乳幼児のときに力点を置いています.その頃に,ホルモンの働きに劇的変化が起きるからで,そのときの影響が,とおとなになっても大きくしています.
現在,環境ホルモンというホルモンのが,本物のホルモンの働きをすることから,社会問題となっており,とくに胎児期,乳幼児期では甚大な被害をるとされています.それは,本物のホルモンがその時期に一生を左右する働きをしているからで,その働きを環境ホルモンが撹乱するのです.
その意味で,ホルモンの発達を理解して頂いて,環境ホルモンを改めて見つめなおして頂けば,環境ホルモンの有害性をはっきりと認識して頂けるものと,思います.
ホルモンの発達についての研究は,20世紀半ば頃から本格的に始まりました.医学の世界では,ほかの分野に比べて比較的に研究のスタートが遅れたようです.とくに胎児は母親の胎内にいますので,直接ふれて研究
することがむずかしかったからです.とくにヒトの胎児のホルモン活動の研究はむずかしく,動物実験に頼るしかありません.そういうことから,医学研究者よりも,むしろ,生物学研究者の研究対象になったように思います.つまり,学際的な研究分野になっているのです.
本書では,環境ホルモンのなぞを最終章におき,胎児を守っている筈の胎盤のなぞから始めて,ホルモンの発達中に起きるさまざまななぞの事件を解き明かして行きます.たとえば,糖尿病のなぞ,骨成長のなぞ,ストレスのなぞ,性の分化のなぞ,などですが,これらにはまだ解き明かされていないなぞもたくさんあります.それによって,環境ホルモンの有害性を,よりよく理解できるようになると思います.
ホルモンの発達の研究はヒトで研究することは非常にむずかしいので,これまでに得られた多くの知識は,ネズミのデーターに基づいています.したがって本書の,とくに,脳と性,ストレスと性の分化などはネズミの実験が主体になっていますが,それはヒトにも当てはまるものとして,理解してほしいと思います.
なお,ネズミの妊娠日齢の算定は文献によってなので,本書では妊娠した最初の日を妊娠0日とすることに統一しました.つまり,文献によっては,妊娠の最初の日を妊娠第1日目と表現しているのがかなり多く,なかには,1/2日と表現しているのもあって,たいへんらわしいからです.また,動物の子は,専門的には「胎子」「新生子」と書くのが本当ですが,本書ではすべて「胎児」「新生児」に統一しました.
巻末の文献は一般には不必要と思われますが,原著でもっと詳しく調べたいという方々のために,参考として挙げておきました.
2002年秋
著者
はじめに
プロローグ・ホルモンとは何か?
ホルモンの目的細胞での受け入れ
ホルモンを作る場所
1章 胎盤の仕組みと働き
ホルモンは胎盤を通るか?
胎盤とはどんなものか?
胎盤の仕組みはどうなっているか?
胎盤の物質通過,何が通り何が通らないのか?
2章 ホルモンの中枢
ホルモンのネットワークの要,下垂体の役目とは?
視床下部はどうやって下垂体を支配するか?
3章 膵臓ホルモン発達のなぞ
膵臓ホルモンはどこから出されるか?
膵臓ホルモンはいつから作り出されるか?
膵臓ホルモンの働きはどんなものか?
糖尿病とはどんなものか?
糖尿病で巨大児が生まれるわけは?
動物でも糖尿病で胎児の異常が起きるか?
胎児は血糖値上昇でインシュリンを出すか?
胎児の膵島細胞は再生能力があるか?
生後の膵島活動のなぞ
4章 甲状腺ホルモン発達のなぞ
1.甲状腺の分化
甲状腺ホルモンとは?
甲状腺ホルモンはいつから合成分泌を開始するか?
下垂体と視床下部はいつから働くか?
胎児の甲状腺ホルモンは胎盤を通るか?
2.甲状腺ホルモンの働き
骨の成長に必要
体脂肪とタンパクの代謝に必要
体温維持と酸素消費に作用
脳の発達に必要
3.カルシウムの調節
カルシトニンとパラトルモン
妊娠が進むとカルシウムが要るわけは?
5章 副腎皮質ホルモン発達のなぞ
1.副腎皮質ホルモンの特徴
副腎はどんな構造をしているか?
副腎皮質ホルモンとはどんなものか?
2.副腎皮質ホルモンの働き
3.胎児期の視床下部・下垂体の働き
4.ストレスと胎児・新生児
ストレスとは何か?
胎児はストレスに反応するか?
母のストレスで胎児の副腎はどうなるか?
新生児はストレスに反応するか?
新生児の副腎が縮むわけは?
胎児の副腎は母の副腎皮質不全を補うことができるか?
5.新生児の心肺機能の変化
肺呼吸への切り替えに働く副腎皮質ホルモン
心臓の働きにも皮質ホルモンが働く
6章 性ホルモン発達のなぞ
1.生殖腺の分化
生殖腺の始まりは?
個体の性とはどういうものか?
精巣や卵巣になるための条件は?
奇妙にも未分化生殖腺の自己分化能は精巣型?
2.生殖管の分化
最初の生殖管分化はオスもメスも同じ?
生殖管分化の決め手は何か?
3.生殖腺の下降
4.外性器の分化
5.性ホルモン分化の性差
アンドロジェン分泌開始は?
抗アンドロジェンによって分かることは?
沈黙するメス胎児の卵巣?
6.異性ホルモンの作用
精巣ホルモンはメス生殖器官の発達を抑制する
エストロジェンはオス胎児生殖器分化を阻害する
7章 脳の性分化とストレスの性差
1.脳の性分化──男性(オス)の脳と女性(メス)の脳の違い
脳の性は何が決めるのか?
脳の性分化はどうして起きるか?
脳のオス化の本当の原因はエストロジェンの働き?
2.ストレスの性差
ストレス反応に性差があるか?
二次性徴発達のメカニズム
3.過剰ストレスの恐ろしさ
ストレスが続くと海馬が縮小する
過剰ストレスで免疫機能が低下する
8章 環境ホルモンのなぞ
1.環境ホルモンとは何か?
環境ホルモンとは内分泌撹乱物質のこと
環境ホルモンの作用の仕組み
2.いろいろな環境ホルモン
DDT
DDE
ノニルフェノール
ビスフェノールA
フタル酸エステル類
DES
農薬
3.悪玉の代表格,PCB
PCBとは何か?
PCBの毒性
PCBの規制
4.猛毒とされるダイオキシン
ダイオキシンはどうして発生するか?
ダイオキシンの作用機構
ダイオキシンの毒性
5.環境ホルモンの胎児・幼児ホルモン撹乱
子孫への影響
世代交代の早い動物ほど酷く侵される
環境ホルモンは胎盤を簡単に通る
環境ホルモンはホルモン・レセプターに結合しやすい
環境ホルモンの最大の標的は性ホルモン
免疫器官の退縮
学習能力の低下
細胞の分化とアポトーシスヘの影響
甲状腺ホルモンの撹乱
母乳の汚染
エピローグ
参考文献
索引
プロローグ・ホルモンとは何か?
ホルモンの目的細胞での受け入れ
ホルモンを作る場所
1章 胎盤の仕組みと働き
ホルモンは胎盤を通るか?
胎盤とはどんなものか?
胎盤の仕組みはどうなっているか?
胎盤の物質通過,何が通り何が通らないのか?
2章 ホルモンの中枢
ホルモンのネットワークの要,下垂体の役目とは?
視床下部はどうやって下垂体を支配するか?
3章 膵臓ホルモン発達のなぞ
膵臓ホルモンはどこから出されるか?
膵臓ホルモンはいつから作り出されるか?
膵臓ホルモンの働きはどんなものか?
糖尿病とはどんなものか?
糖尿病で巨大児が生まれるわけは?
動物でも糖尿病で胎児の異常が起きるか?
胎児は血糖値上昇でインシュリンを出すか?
胎児の膵島細胞は再生能力があるか?
生後の膵島活動のなぞ
4章 甲状腺ホルモン発達のなぞ
1.甲状腺の分化
甲状腺ホルモンとは?
甲状腺ホルモンはいつから合成分泌を開始するか?
下垂体と視床下部はいつから働くか?
胎児の甲状腺ホルモンは胎盤を通るか?
2.甲状腺ホルモンの働き
骨の成長に必要
体脂肪とタンパクの代謝に必要
体温維持と酸素消費に作用
脳の発達に必要
3.カルシウムの調節
カルシトニンとパラトルモン
妊娠が進むとカルシウムが要るわけは?
5章 副腎皮質ホルモン発達のなぞ
1.副腎皮質ホルモンの特徴
副腎はどんな構造をしているか?
副腎皮質ホルモンとはどんなものか?
2.副腎皮質ホルモンの働き
3.胎児期の視床下部・下垂体の働き
4.ストレスと胎児・新生児
ストレスとは何か?
胎児はストレスに反応するか?
母のストレスで胎児の副腎はどうなるか?
新生児はストレスに反応するか?
新生児の副腎が縮むわけは?
胎児の副腎は母の副腎皮質不全を補うことができるか?
5.新生児の心肺機能の変化
肺呼吸への切り替えに働く副腎皮質ホルモン
心臓の働きにも皮質ホルモンが働く
6章 性ホルモン発達のなぞ
1.生殖腺の分化
生殖腺の始まりは?
個体の性とはどういうものか?
精巣や卵巣になるための条件は?
奇妙にも未分化生殖腺の自己分化能は精巣型?
2.生殖管の分化
最初の生殖管分化はオスもメスも同じ?
生殖管分化の決め手は何か?
3.生殖腺の下降
4.外性器の分化
5.性ホルモン分化の性差
アンドロジェン分泌開始は?
抗アンドロジェンによって分かることは?
沈黙するメス胎児の卵巣?
6.異性ホルモンの作用
精巣ホルモンはメス生殖器官の発達を抑制する
エストロジェンはオス胎児生殖器分化を阻害する
7章 脳の性分化とストレスの性差
1.脳の性分化──男性(オス)の脳と女性(メス)の脳の違い
脳の性は何が決めるのか?
脳の性分化はどうして起きるか?
脳のオス化の本当の原因はエストロジェンの働き?
2.ストレスの性差
ストレス反応に性差があるか?
二次性徴発達のメカニズム
3.過剰ストレスの恐ろしさ
ストレスが続くと海馬が縮小する
過剰ストレスで免疫機能が低下する
8章 環境ホルモンのなぞ
1.環境ホルモンとは何か?
環境ホルモンとは内分泌撹乱物質のこと
環境ホルモンの作用の仕組み
2.いろいろな環境ホルモン
DDT
DDE
ノニルフェノール
ビスフェノールA
フタル酸エステル類
DES
農薬
3.悪玉の代表格,PCB
PCBとは何か?
PCBの毒性
PCBの規制
4.猛毒とされるダイオキシン
ダイオキシンはどうして発生するか?
ダイオキシンの作用機構
ダイオキシンの毒性
5.環境ホルモンの胎児・幼児ホルモン撹乱
子孫への影響
世代交代の早い動物ほど酷く侵される
環境ホルモンは胎盤を簡単に通る
環境ホルモンはホルモン・レセプターに結合しやすい
環境ホルモンの最大の標的は性ホルモン
免疫器官の退縮
学習能力の低下
細胞の分化とアポトーシスヘの影響
甲状腺ホルモンの撹乱
母乳の汚染
エピローグ
参考文献
索引