やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 高齢者の自動車運転による事故は頻繁に報道されているが,アクセル・ブレーキペダルの踏み間違えや逆走の問題等は,認知機能低下が要因の1つになっている可能性があり,脳障害者であれば,高齢でなくても生じる可能性が考えられる.リハビリテーション医療の現場では,急性期〜回復期,生活期に至るまで,自動車運転再開や中止に関する相談があり,支援に取り組む医療機関は多い.また,自動車運転は生活に密接に関係しており,脳障害により運転中止となると住む地域によっては移動手段の問題が生じてくる.運転再開支援は交通量や代替移動手段の地域差もあるため,全国で統一した判定基準や手順を定めることは難しい.また,医療機関によっても評価はさまざまであり,診察や机上検査,運転シミュレーター(driving simulator;DS)検査,実車評価等,多岐にわたる.
 そこで,本特集では,各医療機関の実情により対応できる評価等は異なるため,適した方法を選択できるよう,経験豊富な先生方に執筆を依頼し,運転支援に関する話題を網羅する特集を企画した.小林康孝先生には,総論として,高齢者や脳障害者の運転特性や適性判断に関する内容を幅広く説明していただいた.堀 諒子先生には,多くの医療機関で活用が増えているDSの利点と欠点,国内で利用できるDSに関してまとめていただいた.自動車教習所との連携については,佐藤卓也先生には新潟県での充実した連携システムに関して,生田純一先生には実車運転コースがある医療機関での支援に関してそれぞれご紹介いただき,連携のポイント等を述べていただいた.最後に,山田恭平先生には,高齢者の運転継続・中止の双方のメリットとデメリット,運転継続および中止後の移動支援の実際に関して述べていただいた.今回の執筆者の職種は,医師,言語聴覚士,作業療法士と多職種にわたっており,このことからも運転に関する問題は多職種による協働が重要であり,連携も多岐にわたることが理解できる.
 本特集のテーマには「脳障害」という用語を用いているが,筆者は「脳損傷(injury)」というと,脳出血や外傷による画像でもわかるような破壊的な脳のダメージを連想してしまうため,脳症・脳炎,変性疾患等による画像ではわかりにくい脳疾患による機能障害(impairment)まで幅広い病態を含める意味合いで「脳障害」を用いた.ただし,各執筆者に用語の使用は任せたため,統一できていない点はご了承いただきたい.内容的には充実した特集になっているため,医療者のみならず患者や家族,高齢者の今後の診療や生活の一助になると幸いである.
 (編集委員会 企画担当:加藤徳明)
特集 高齢者・脳障害者の自動車運転再開・停止の判断と支援
 特集にあたって(加藤徳明)
 高齢者・脳障害者の自動車運転再開・停止の判断(小林康孝)
 運転シミュレーターを活用した運転再開支援(堀 諒子 加藤徳明・他)
 自動車教習所と連携した運転再開支援(佐藤卓也)
 実車運転コースがある医療機関における運転再開支援(生田純一)
 高齢者の自動車運転および地域移動支援(山田恭平)

TOPICS 障害当事者のリハビリテーション科医が仲間とパラスポーツ体験会を開催するまでの軌跡
 (古賀信太朗 和泉屋圭紀・他)

連載
リハなひと
 理学療法士 中村 翔さん

巻頭カラー リハビリテーション科医が知っておくべき最新の義肢構成パーツ
 12.最新のスポーツ義足(沖野敦郎)

知っておきたい! がんサポーティブケア
 5.がん疼痛(松本禎久)

最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
 12.針筋電図(青柳陽一郎)

ニューカマー リハ科専門医
 (内田健太)

リハビリテーション科医に必要な消化器疾患の知識と近年の進歩
 10.消化器外科移植術(福井彩恵子 曽山明彦・他)

リハビリテーション科医師に必要な診察,評価手技
 15.がんリハビリテーション診療に関する評価法(篠田裕介)

おさえておきたい転倒・転落予防の基本知識と現場での応用
 8.転倒・転落の主な原因と対策:(7)認知機能低下,認知症(永田智子)

障害福祉サービスとリハビリテーション
 9.就労継続支援A型(雇用型)(塩津博康)

臨床研究
 回復期リハビリテーション病棟を早期退院後,地域包括ケアシステムを利用した多職種連携支援により社会復帰を達成した脳出血後の一例(森泉秀太郎 須江慶太・他)

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