やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 がん医療の進歩は目覚ましく,治療の個別化や新規治療法の開発,医療技術の進歩により死亡率は年々減少し,地域がん登録における全がん(2009〜2011年診断症例)の5年相対生存率は64.1%に達する.また,根治が難しい担がん状態においても生存期間の延長が可能となり,がんが慢性疾患化しつつある.その一方で,がん患者の抱える問題は多様化・複雑化しており,単一の診療科や職種による対応では限界がある.このような背景から,がん診療における学際的アプローチの重要性が近年ますます認識されるようになってきた.がん学際領域とは,腫瘍学を中心として,複数の専門分野が有機的に連携し,患者中心の包括的ながん医療を実現しようとする新しい診療体制である.この中で,リハビリテーション医学・医療は,がん患者のQOL向上と機能維持・回復において極めて重要な役割を担っている.
 本特集では総論として,腫瘍内科医の立場から高野利美先生(がん研有明病院)に,がん学際領域の生まれた経緯,がん診療における実際の取り組みやリハビリテーション専門職に期待することに言及していただいた.そして各論として,がん学際領域の中でもリハビリテーション医学・医療と密接に関連する5つの分野に焦点を当て,各分野の第一線で活躍する専門家に執筆いただいた.田沼 明先生(順天堂大学)には,リハビリテーション科医の立場から,Exercise Oncologyとして運動療法の科学的根拠と実践,井上順一朗先生(神戸大学)には,がん専門理学療法士の立場から,Geriatric Oncologyとして高齢がん患者への包括的アプローチ,木田圭亮先生(聖マリアンナ医科大学)には,循環器内科医の立場から,Cardio-OncologyRehabilitationとしてがん治療関連心機能障害への対応,河野浩之先生(杏林大学)には,脳卒中治療医の立場から,Stroke Oncologyとして脳卒中合併がん患者への介入,そして岡村 仁先生(広島大学)には,精神腫瘍科医の立場から,Psycho-Oncologyとして心理社会的支援の実際について,がん診療における位置づけやベストプラクティス,学術的な位置づけ,エビデンスや将来展望とともに,当該分野との協働を進めていくうえで参考になるように,リハビリテーション専門職の役割についても言及していただいた.これらの学際領域における最新の知見と臨床実践を学ぶことにより,リハビリテーション医療の新たな可能性が開かれることも期待される.
 本特集が読者の皆様にとって,がん学際領域におけるリハビリテーション医学・医療の意義を再確認し,さらなる発展への展望を共有する機会となれば幸いである.がん医療の質向上に向けて,多職種協働のもと,リハビリテーション医療が果たすべき役割は今後ますます重要となるであろう.本特集を通じて,がん医療における新たな視座と実践的知識を得ていただくことを願っている.
 (編集委員会 企画担当:辻 哲也)
特集 がん学際領域とリハビリテーション医学・医療─多学際領域との協働で奏でる臨床腫瘍学の未来
 特集にあたって(辻 哲也)
 がん学際領域とは? リハビリテーションに期待すること(高野利実)
 Exercise Oncology(運動腫瘍学)(田沼 明 越智英輔)
 Geriatric Oncology(老年腫瘍学)(井上順一朗)
 Cardio-Oncology Rehabilitation(腫瘍循環器リハビリテーション)(木田圭亮 貝原俊樹・他)
 Stroke Oncology(腫瘍脳卒中学)(河野浩之)
 Psycho-Oncology(精神腫瘍学)(岡村 仁)

連載
リハなひと
 リハビリ当事者 玉澤良樹さん

巻頭カラー リハビリテーション科医が知っておくべき最新の義肢構成パーツ
 9.最新の差高調整エネルギー蓄積型足部(東江由起夫 佐藤未希・他)

ニューカマー リハ科専門医
 (望月 碧)

最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
 9.VE:食物を用いた評価(小川真央)

リハビリテーション科医師に必要な診察,評価手技
 12.摂食嚥下(水飲みテスト,RSST,VF,VEの手技,評価のポイント)(柴田斉子 大高洋平)

“こんなときどうする?” リハビリテーション臨床現場のモヤモヤ解決! 令和版
 形態変更・スキルアップ編 (1)診療報酬に精通したい(内田健太 緒方直史)

障害福祉サービスとリハビリテーション
 6.自立訓練(機能訓練)(杉原勝宣)

おさえておきたい転倒・転落予防の基本知識と現場での応用
 5.転倒・転落の主な原因と対策:(4)薬剤(松本彩加)

知っておきたい! がんサポーティブケア
 2.化学療法に伴う悪心・嘔吐(CINV)(安部正和)

リハビリテーション関連職の現状と展望
 10.作業療法士の現状と展望(山本伸一)

臨床研究
 回復期リハビリテーション病院での入院時Alzheimer型認知症の簡易スクリーニング検査の正確性に関する研究(渡辺淳志)

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