やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 リハビリテーション医療は急性期,回復期,生活期のあらゆる時期に障害を予防し,機能を最大限に高め,生活を豊かにするために必須な医療機能であり,適切なリハビリテーション医療の実践により,医療の質は飛躍的に向上する.われわれリハビリテーション医療者はチーム一丸となって,対象者の最大限の機能回復と日常生活活動(ADL)自立度の向上,早期の社会復帰を目指して日夜努力を続けている.一般的にこれらの取り組みは,在宅生活で問題となる介護の負担を軽減するうえで有用なアプローチと考えられており,実際にそのような効果が得られる場合も少なくない.
 一方では,ADLの自立度が高まったにもかかわらず,介護者の負担感がかえって増してしまう場合もしばしば経験される.たとえば私事になるが,脳卒中で倒れ,嚥下障害,失語症が残った親を自宅介護したことがあった.当初,日常生活は全介助であり,身体的にはきつかったが,介護は家族のペースで行えたため,負担感はそれほど高くなかった.ところがリハビリテーション治療により機能が向上すると,負担感がどんどん高まっていった.少し動けるようになるとベッドから一人で起き上がりトイレに行こうとして倒れ,尿を漏らし,衣服も廊下も汚してしまうということが頻繁に起こるようになり,絶えず見守りや介助が必要になったためである.ある時,誤嚥性肺炎の発症を機に再び寝たきり状態になると,家族の負担感は大幅に軽減した.ADLが向上すると介護負担感が増し,ADLが低下すると負担感が減るという,この時の逆説的な経験から,単に機能の向上だけでなく,家族の介護負担感にも目を向けることの重要性を痛感させられたものである.
 2000年当時,リハビリテーション領域において「介護負担感」に着目した取り組みや研究は極めて限られていたが,このような中で本誌2001年10月号(10巻10号)では,「介護負担感:リハビリテーションからの取り組み」のテーマのもと,介護負担感の概念と研究の動向および代表的疾患(脳卒中,頸髄損傷,脳外傷,認知症,神経筋疾患)における介護負担感研究の動向と課題が取り上げられた.前回特集から20数年が経過し,その間に介護保険制度の定着が進むとともに,介護にかかわる新たなトピックスにも注目が集まるようになった.
 このような背景を踏まえ,本特集では,前回特集以降の当該分野の研究動向を探るとともに,高次脳機能障害,摂食嚥下障害,排泄障害,医療的ケア児,ヤングケアラー,ライフサイクルを通した障害児の介護を取り上げ,それぞれ造詣の深い著者に解説していただいた.本特集が,「介護負担感」をリハビリテーション医療における重要なアウトカムとして位置付けた取り組みや研究が進展する契機となれば幸いである.
 (編集委員会)
特集 介護負担感とリハビリテーション医療
 特集にあたって
 介護負担感研究の動向 里宇明元
 高次脳機能障害と介護負担感 渡邉 修
 摂食嚥下障害と介護負担感 藤谷順子
 排泄障害と介護負担感 冨田哲也 植村 修
 医療的ケア児と介護負担感 杉山 瑶 大森まいこ・他
 ヤングケアラーと介護負担感 奥山滋樹
 コラム:障害児のライフステージと介護の問題 小ア慶介

新連載
知っておきたい神経科学のキィワード
 1.Hebb可塑性 植木美乃 村上里奈・他

連載
巻頭カラー 症例でつかむ!摂食嚥下リハビリテーション訓練のコツ
 6.神経筋疾患に対するメンデルソン手技のコツ 保田祥代 小口和代・他

ニューカマー リハ科専門医
 松田恭平

リハビリテーションと薬剤
 9.リハビリテーションでよく遭遇する症状・症候と薬剤:(6)摂食嚥下障害 齊藤智子

リハビリテーションスタッフがかかわるチーム医療最前線
 13.岡山大学病院 周術期を安全に円滑に−周術期管理センターの紹介− 千田益生

リハビリテーション職種が知っておくべき臨床統計:基礎から最新の話題まで
 18.ビッグデータを用いたリアルワールドリサーチ 百崎 良 牛田健太・他

リハスタッフが知っておくべきプレゼン(学会発表・講演)のコツ
 10.学会発表・講演:4.聴衆が引く残念プレゼンとは 水野 篤

心に残ったできごと−リハビリテーション科の現場から
 ケニアの医療とリハビリテーション事情 武居光雄

臨床研究
 イミダプリル著効し嚥下障害と咳嗽反射が改善した重度心身障害の脳性麻痺の一例 渡辺淳志
 COVID-19肺炎後呼吸機能障害患者に対し,包括的リハビリテーション治療が有効であった一症例 武原 格 酒井貴哉・他

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