やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 地球には,およそ100種類という数多くの元素が存在している.これらの元素は構造も分子量も働きもさまざまである.そのなかで,生体に含まれる元素のうち,生体の維持・活動に不可欠なものが必須元素と呼ばれている.
 必須微量元素の生体中の存在量ベスト3は,鉄4.5g,亜鉛1.4〜2.3g,銅0.1〜0.15gである.また,必須微量元素のヒト1 日必要量は,鉄10〜18mg,亜鉛10〜15mg,銅1.0〜2.8mg,マンガン0.7〜2.5mg,ヨウ素1mg,セレン0.03〜0.06mg,クロム0.01mg,モリブデン0.1mg,コバルト0.02〜0.16mg とされる.たとえば亜鉛は,酵素の成分やタンパク質の合成,味覚,インスリンの生成や機能,また免疫能の賦活や生殖機能そのものなどに重要な役割を果たし,その欠乏によって味覚障害などの異常や疾病の進展に関与しており,亜鉛を補充することにより病態が改善することも知られている.
 一方で,過剰投与や摂取による弊害も存在する.亜鉛製剤の持続的な大量投与を行えば反面,銅の低下を励起し,褥瘡など皮膚疾患の悪化や,顆粒球の減少など免疫能の低下を励起する.鉄も過剰摂取による問題が重要視され,とくに組織の酸化ストレスを介した発がんや組織障害の進展が報告されている.セレンも近年補充薬が発売され,その補充が可能となったことは嬉しい限りではあるが,安全域が狭くモニターが必要である.マグネシウムは微量元素ではないが,腎障害などを励起し,高齢者や腎機能が低下している患者への使用には注意が必要だが,ある種のマグネシウム製剤の長期投与が漫然と行われているという指摘もある.これら微量元素補充の際に起こりやすい毒性と中毒についても,ぜひ理解しておいていただきたい.
 小児の栄養管理にも微量元素の補充は重要であり,最新の知見を含めて基礎を述べていただいた.また,高齢者や障害者,担がん患者ではサルコペニアをきたしやすいことが問題であり,ぜひサルコペニアの概念を再度確認していただきたい.
 本特集では,これらの微量元素とマグネシウムについてエキスパートの先生方に最新の知見を述べていただいた.微量元素の欠乏や過剰は生体においてさまざまな疾患に関連し,ヒトの多様な病態の背景として重要である.微量元素の漫然とした補充には問題があることをぜひ念頭に置いて,日常の診療に励んでいただきたい.
 医療法人三慶会指扇療養病院
 森山光彦
特集 微量元素とMgの最新知見を臨床に活かす!―機能・代謝・疾患との関連
 特集にあたって 森山光彦
 鉄の最新知見─鉄ホメオスタシス異常と神経疾患 川原正博
 亜鉛の最新知見─亜鉛トランスポーターの生理機能:個体恒常性の維持と亜鉛シグナル 吉開会美・他
 銅の最新知見─生体内銅代謝と銅代謝異常症 清水教一
 セレンの最新知見─セレンの代謝機構を中心に 小椋康光
 マグネシウムの最新知見─マグネシウム代謝と臨床的意義 小林洋輝・阿部雅紀
 サルコペニアと微量元素 白木 亮
 小児の栄養管理と微量元素 上原秀一郎
 微量元素の毒性・中毒 吉田宗弘

管理栄養士の未来を彩る! 「食&色」コーディネート(4)
 季節や行事と食文化からみる色彩 吉田美代子

活動レポート 栄養ケア・ステーション
 認定栄養ケア・ステーション 鈴鹿 中東真紀

ぷろらぼ 研究室で学んでみませんか
 栄養学の基礎研究と実践現場をつなぐ「実践栄養学」の発展のために
 同志社女子大学大学院 生活科学研究科 食物栄養科学専攻 実践栄養学研究室

スポット
 高齢者におけるスキンフレイル 飯坂真司
 障害者病棟における栄養サポートチームの有用性 荒畑 創・他

連載
宮島流! 病棟栄養士のためのケースカンファレンス活用術
 CASE 8 経腸栄養(逆流) 宮島 功

ビタミン栄養学UPDATE―新たな臨床的意義の確立に向けて(8)
 葉酸をめぐる話題 平岡真実

Medical Nutritionist養成講座56
 経腸栄養投与経路の管理(2)―器具などの名称を統一する必要があります 井上善文

『日本食品標準成分表』の活用でもっと深まる 食品と調理のキソ知識(40)
 魚介類7 渡邊智子

ORIGAMI ART―食に活かすおりがみ/食の教養
 パイナップル 西田良子・立木美保

こんだてじまん
 じまんの一品料理 落花生の煮物
 医療法人愛生館 小林記念病院 土田麻由美・他

News & Information
 日本栄養士会医療職域 2022年度国際会議・イベント等のご案内 鈴木達郎
 自治体病院 プラダーウィリー症候群外来(PW外来)の取り組み 三浦明子
 精神科病院 第24回・第25回日本病態栄養学会年次学術集会報告 石岡拓得
 厚生労働省・消費者庁 「第11回健康寿命をのばそう!アワード(母子保健分野)」募集開始について・他
 おしらせ 女子栄養大学香友会主催 令和4年度 第2回専門家講座・他

 REMARKS―編集委員のひとこと
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