企画趣旨
山口泰彦
北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能学分野 冠橋義歯補綴学教室
ブラキシズムはさまざまな歯科疾患のリスクファクターと考えられており,その治療,管理が歯科治療における重要な課題であることは,多くの歯科医師の共通認識となっていると思われる.従来,ブラキシズムは,歯ぎしり音の指摘,歯の咬耗,起床時の顎関節症症状などの臨床所見により判断されてきた.しかし,臨床の現場で患者にそれらの臨床所見がみられた場合,たとえば歯に咬耗がみられた際に,その咬耗は進行中なのか,スプリント(アプライアンス)を夜間使用しなければならないのか,CAD/CAM冠を適用していいのか,インプラントは大丈夫か,クラウンやブリッジのガイドや咬頭展開角の設定は通常通りでいいのかなど,実際にはどのような対応をとれば良いのか,判断に苦慮することは少なくない.そのような場合,その患者が本当に睡眠時にブラキシズムを行っているのか,それはどの程度なのかなどの定量的な情報があれば,より確実な治療方針が立てられるはずである.そのため,ブラキシズムの治療,管理を行ううえで,個々の患者のブラキシズムの実態を客観的な検査により,定量的に診断,評価することは非常に重要である.
近年,小型の携帯型筋電計による日常環境下での咀嚼筋筋電図検査が可能となり,睡眠時ブラキシズムについては2020年に「睡眠時歯科筋電図検査」として保険収載された.これはブラキシズムの診療において大きな進歩であり,日常臨床において治療方針を立てるうえで重要な情報を得られるようになった 1,2).一方で,ブラキシズムは睡眠時だけに発現するものではなく,覚醒時にも発現し得る.覚醒時ブラキシズムに関しての保険収載は実現していないが,近年,ウェアラブル筋電計を用いた覚醒時ブラキシズムの研究が進み,その重要性が次第に明らかとなり,注目を集めている.したがって,ブラキシズムの診断,評価については,睡眠時から日中覚醒時までを網羅した状態把握が必要と考えられる.
ブラキシズム時の顎運動は,歯をこすり合わせる歯ぎしり運動(グラインディング)と,ある顎位での咬みしめ運動(クレンチング)に大別される.そのため,ブラキシズムが生体に及ぼす影響を考える際には,単に筋の活動量により発揮される力だけでなく,その力が加わる方向や作用点も考慮するべきである.これらのブラキシズムの特性を考えると,より確実な治療方針を目指してブラキシズムの検査,診断,評価を行うためには,理想的にはブラキシズム発現時の顎運動まで網羅した解析が求められる.現在,ブラキシズムに関していくつかのクリニカルクエスチョンが考えられるが,これらの疑問点を解き明かすためには,上述のような多面的なアプローチが必要と考えられる.
本特集は,このようなブラキシズムの診断,評価における多面的なアプローチの最新情報に関する理解を深めることを目的に,この分野のエキスパートの3人の先生とその研究グループの方々に登場いただくこととなった.これまで携帯型やウェアラブル筋電計の開発とその臨床応用に携わってきた三上紗季先生には睡眠時ブラキシズム検査について,覚醒時ブラキシズムに対するバイオフィードバックに長年取り組んできた藤澤政紀先生の研究グループからは村上小夏先生に覚醒時ブラキシズム検査について,睡眠中の顎位,顎運動の実態解明に取り組んできた鈴木善貴先生には睡眠時ブラキシズム時の顎運動検査について,それぞれの先生の研究で得られたこれまでの知見やこの分野の最新情報を基に解説いただく.本特集を通して,ブラキシズムの検査・診断法の現状と将来展望を睡眠時,日中覚醒時を含めた終日の観点,さらにはそれに顎運動の観点を加えて網羅的に理解することは,日常臨床のレベルアップにつながるとともに,今後のブラキシズムの診断法,治療法の発展への貴重なヒントになるものと期待される.
文献
1)山口泰彦,三上紗季,前田正名,斎藤未來,後藤田章人.睡眠時ブラキシズムに対する睡眠時筋電図検査の保険収載と歯科医療革命.日補綴会誌.2021;13:28-33.
2)日本歯科医学会.筋電計による歯ぎしり検査実施に当たっての基本的な考え方.https://www.jads.jp/basic/pdf/document-200401-4.pdf
山口泰彦
北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能学分野 冠橋義歯補綴学教室
ブラキシズムはさまざまな歯科疾患のリスクファクターと考えられており,その治療,管理が歯科治療における重要な課題であることは,多くの歯科医師の共通認識となっていると思われる.従来,ブラキシズムは,歯ぎしり音の指摘,歯の咬耗,起床時の顎関節症症状などの臨床所見により判断されてきた.しかし,臨床の現場で患者にそれらの臨床所見がみられた場合,たとえば歯に咬耗がみられた際に,その咬耗は進行中なのか,スプリント(アプライアンス)を夜間使用しなければならないのか,CAD/CAM冠を適用していいのか,インプラントは大丈夫か,クラウンやブリッジのガイドや咬頭展開角の設定は通常通りでいいのかなど,実際にはどのような対応をとれば良いのか,判断に苦慮することは少なくない.そのような場合,その患者が本当に睡眠時にブラキシズムを行っているのか,それはどの程度なのかなどの定量的な情報があれば,より確実な治療方針が立てられるはずである.そのため,ブラキシズムの治療,管理を行ううえで,個々の患者のブラキシズムの実態を客観的な検査により,定量的に診断,評価することは非常に重要である.
近年,小型の携帯型筋電計による日常環境下での咀嚼筋筋電図検査が可能となり,睡眠時ブラキシズムについては2020年に「睡眠時歯科筋電図検査」として保険収載された.これはブラキシズムの診療において大きな進歩であり,日常臨床において治療方針を立てるうえで重要な情報を得られるようになった 1,2).一方で,ブラキシズムは睡眠時だけに発現するものではなく,覚醒時にも発現し得る.覚醒時ブラキシズムに関しての保険収載は実現していないが,近年,ウェアラブル筋電計を用いた覚醒時ブラキシズムの研究が進み,その重要性が次第に明らかとなり,注目を集めている.したがって,ブラキシズムの診断,評価については,睡眠時から日中覚醒時までを網羅した状態把握が必要と考えられる.
ブラキシズム時の顎運動は,歯をこすり合わせる歯ぎしり運動(グラインディング)と,ある顎位での咬みしめ運動(クレンチング)に大別される.そのため,ブラキシズムが生体に及ぼす影響を考える際には,単に筋の活動量により発揮される力だけでなく,その力が加わる方向や作用点も考慮するべきである.これらのブラキシズムの特性を考えると,より確実な治療方針を目指してブラキシズムの検査,診断,評価を行うためには,理想的にはブラキシズム発現時の顎運動まで網羅した解析が求められる.現在,ブラキシズムに関していくつかのクリニカルクエスチョンが考えられるが,これらの疑問点を解き明かすためには,上述のような多面的なアプローチが必要と考えられる.
本特集は,このようなブラキシズムの診断,評価における多面的なアプローチの最新情報に関する理解を深めることを目的に,この分野のエキスパートの3人の先生とその研究グループの方々に登場いただくこととなった.これまで携帯型やウェアラブル筋電計の開発とその臨床応用に携わってきた三上紗季先生には睡眠時ブラキシズム検査について,覚醒時ブラキシズムに対するバイオフィードバックに長年取り組んできた藤澤政紀先生の研究グループからは村上小夏先生に覚醒時ブラキシズム検査について,睡眠中の顎位,顎運動の実態解明に取り組んできた鈴木善貴先生には睡眠時ブラキシズム時の顎運動検査について,それぞれの先生の研究で得られたこれまでの知見やこの分野の最新情報を基に解説いただく.本特集を通して,ブラキシズムの検査・診断法の現状と将来展望を睡眠時,日中覚醒時を含めた終日の観点,さらにはそれに顎運動の観点を加えて網羅的に理解することは,日常臨床のレベルアップにつながるとともに,今後のブラキシズムの診断法,治療法の発展への貴重なヒントになるものと期待される.
文献
1)山口泰彦,三上紗季,前田正名,斎藤未來,後藤田章人.睡眠時ブラキシズムに対する睡眠時筋電図検査の保険収載と歯科医療革命.日補綴会誌.2021;13:28-33.
2)日本歯科医学会.筋電計による歯ぎしり検査実施に当たっての基本的な考え方.https://www.jads.jp/basic/pdf/document-200401-4.pdf
特集 ブラキシズム24hours
―睡眠時・覚醒時ブラキシズムの検査・診断法―
(山口泰彦・三上紗季・村上小夏・浅見和哉・藤澤政紀・鈴木善貴・大倉一夫・重本修伺・小澤 彩・松香芳三)
特別寄稿 MTMの基本原則と実践的対応
(中村輝夫)
巻頭Topic 第41回日本顎咬合学会学術大会・総会 理事長インタビュー
(黒岩昭弘・倉富 覚、)
東京歯科大学発 臨床組織・解剖学のコラボレーション 6・完
骨部・軟組織部から構成される顎関節
(山本将仁・北村 啓・阿部伸一・山本 仁)
コンポジットレジン修復Q&A 臨床での疑問点を解決して適応範囲を拡大しよう! 10
接着操作(1)
(高橋真広・田代浩史)
エンド再治療を成功に導くための症例選択×テクニック 9
エンド再治療における根尖開放歯への対応
(大森さゆり・石井 宏)
モノリシックジルコニアレストレーションの臨床UPDATE 6
ジルコニアの審美性を高めるKey point
(小泉寛恭)
臨床家のための疼痛コントロール CheckPoint 9
各論:口腔外科手術のための疼痛コントロール
(田中香衣・神部芳則)
補綴修復治療の成功を目指した支台歯形成 12・完
補綴装置の装着
(岩田 淳)
訪問歯科診療における義歯治療〜少しでも良い義歯を最期まで〜 13・完
義歯の“卒業”について
(石田 健・三輪俊太・松田謙一)
この状態,どう診ますか?!〜歯科訪問診療の現場で遭遇する口腔内〜 6
特別編 人生の最終段階における医療を,どう選択しますか?
〜ACPへの視点・その2〜
(阪口英夫)
臨床
UAIとiNP法による根管洗浄法について
(吉岡隆知)
歯科口腔保健の新時代 ―データからのat a glance 21
少子化問題や国民医療費の高騰から考える口腔保健による社会変革
(有川量崇・鈴木 到)
Patient Oriented Dentistry ―行動を学び・介入する歯科医療 12
若者の行動と歯科疾患
(長澤敏行・松岡紘史・安彦善裕)
事例に学ぶ歯科保険請求 201
令和4年度 歯科診療報酬改定における不備事例(6)
HIT(水平埋伏智歯)の抜歯に係る不備
〜連月における病名の疑義事例〜
(東京医療保険問題研究会)
患者の行動を変える「歯科カウンセリング」4つのステップ 3
(山内敬士)
米国歯周病科大学院(専門医プログラム)合格までのCareer Path 10
(呉 圭哲)
口腔機能とオーラルヘルス向上を目指して〜患者やスタッフの行動変容を促すBOCプロバイダーの取り組み〜 18
(奥村歳子)
経済学的視点から歯科業界を読み解く 63
(濱田吉之輔)
私の歯科医師人生―「医療変革の時代」を超えて― 16・完
(笠原 浩)
「顎関節症臨床医の会」だより 3
(田口 望)
WITHコロナ×AFTERコロナの時代の私たち 18
(中嶋優太)
My Bookshelf〜私の本棚〜 6
(槻木恵一)
Find the Cat!!〜ポンゲを探せ! 6
(パント大吉)
【Book Review】
吉岡隆知編『根管充填』(和達礼子)
【News & Report】
Dentistry,Quo Vadis? ナチュラルティース・ルネッサンス―天然歯から「咬合学」―「歯と力・骨」を考察する(江本 元)
社)医学生物学電子顕微鏡技術学会 第38回学術講演会開催報告(永山元彦)
K.I.M「咬合とAirwayの追究」セミナー(杉山達也)
第46回北九州歯学研究会発表会/第32回日本有病者歯科医療学会学術大会
【Conference & Seminar】
6月〜8月の学会案内,大学卒後研修会
第141巻第1〜6号(2023年1〜6月号)総目次
―睡眠時・覚醒時ブラキシズムの検査・診断法―
(山口泰彦・三上紗季・村上小夏・浅見和哉・藤澤政紀・鈴木善貴・大倉一夫・重本修伺・小澤 彩・松香芳三)
特別寄稿 MTMの基本原則と実践的対応
(中村輝夫)
巻頭Topic 第41回日本顎咬合学会学術大会・総会 理事長インタビュー
(黒岩昭弘・倉富 覚、)
東京歯科大学発 臨床組織・解剖学のコラボレーション 6・完
骨部・軟組織部から構成される顎関節
(山本将仁・北村 啓・阿部伸一・山本 仁)
コンポジットレジン修復Q&A 臨床での疑問点を解決して適応範囲を拡大しよう! 10
接着操作(1)
(高橋真広・田代浩史)
エンド再治療を成功に導くための症例選択×テクニック 9
エンド再治療における根尖開放歯への対応
(大森さゆり・石井 宏)
モノリシックジルコニアレストレーションの臨床UPDATE 6
ジルコニアの審美性を高めるKey point
(小泉寛恭)
臨床家のための疼痛コントロール CheckPoint 9
各論:口腔外科手術のための疼痛コントロール
(田中香衣・神部芳則)
補綴修復治療の成功を目指した支台歯形成 12・完
補綴装置の装着
(岩田 淳)
訪問歯科診療における義歯治療〜少しでも良い義歯を最期まで〜 13・完
義歯の“卒業”について
(石田 健・三輪俊太・松田謙一)
この状態,どう診ますか?!〜歯科訪問診療の現場で遭遇する口腔内〜 6
特別編 人生の最終段階における医療を,どう選択しますか?
〜ACPへの視点・その2〜
(阪口英夫)
臨床
UAIとiNP法による根管洗浄法について
(吉岡隆知)
歯科口腔保健の新時代 ―データからのat a glance 21
少子化問題や国民医療費の高騰から考える口腔保健による社会変革
(有川量崇・鈴木 到)
Patient Oriented Dentistry ―行動を学び・介入する歯科医療 12
若者の行動と歯科疾患
(長澤敏行・松岡紘史・安彦善裕)
事例に学ぶ歯科保険請求 201
令和4年度 歯科診療報酬改定における不備事例(6)
HIT(水平埋伏智歯)の抜歯に係る不備
〜連月における病名の疑義事例〜
(東京医療保険問題研究会)
患者の行動を変える「歯科カウンセリング」4つのステップ 3
(山内敬士)
米国歯周病科大学院(専門医プログラム)合格までのCareer Path 10
(呉 圭哲)
口腔機能とオーラルヘルス向上を目指して〜患者やスタッフの行動変容を促すBOCプロバイダーの取り組み〜 18
(奥村歳子)
経済学的視点から歯科業界を読み解く 63
(濱田吉之輔)
私の歯科医師人生―「医療変革の時代」を超えて― 16・完
(笠原 浩)
「顎関節症臨床医の会」だより 3
(田口 望)
WITHコロナ×AFTERコロナの時代の私たち 18
(中嶋優太)
My Bookshelf〜私の本棚〜 6
(槻木恵一)
Find the Cat!!〜ポンゲを探せ! 6
(パント大吉)
【Book Review】
吉岡隆知編『根管充填』(和達礼子)
【News & Report】
Dentistry,Quo Vadis? ナチュラルティース・ルネッサンス―天然歯から「咬合学」―「歯と力・骨」を考察する(江本 元)
社)医学生物学電子顕微鏡技術学会 第38回学術講演会開催報告(永山元彦)
K.I.M「咬合とAirwayの追究」セミナー(杉山達也)
第46回北九州歯学研究会発表会/第32回日本有病者歯科医療学会学術大会
【Conference & Seminar】
6月〜8月の学会案内,大学卒後研修会
第141巻第1〜6号(2023年1〜6月号)総目次














