やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに―本特集にあたって
 危機的出血における緊急輸血への対応は輸血部門にとってもっとも重要な業務の一つですが,最近になってようやく臨床現場での関心が高まってきたといえます.従来,大量出血に遭遇すると,輸血部門は現場の医師から次々に出される大量輸血のオーダーに翻弄され,いつ終わるともしれない輸血への対応に追われるのが常でした.しかし,大量出血の病因・病態を科学的に理解し,それに対して適切な体制を整備しておくことが,患者さんの救命〜予後改善にとって非常に大切であることが理解され始めてきたわけです.危機的出血に対応する体制の整備は,今や病院の危機管理の一つとして必須であるといえます.
 危機的出血に際しては,適合する赤血球製剤を迅速に供給することがもっとも大切であるのは言うまでもありませんが,いち早くO型異型適合血輸血を積極的に行うべきであり,それが輸血の安全性担保にもつながるといえます.また,止血困難な凝固障害を呈してくることは確実であり,「止血しうる血液」を維持できるよう,実効性の上がる効率的な凝固因子の補充治療も欠かせません.
 一方,輸血部門としてのニーズをあげるとするなら,「危機的出血状況の情報共有」と「凝固因子濃縮製剤の輸血部一元管理」でしょう.輸血オーダーを受けるだけでは現場の出血状況がわからず,輸血治療の一翼を担う役割を十分に果たしがたいといえます.また,止血用血液製剤の輸血部管理は重要であり,赤血球および新鮮凍結血漿の輸血とあわせて,現在行われている止血目的の輸血治療の全体が把握できます.危機的出血には連携のとれたチーム医療で対応するべきですが,高い専門性を有する輸血部スタッフの的確な判断と迅速な業務の遂行がもっとも重要であるといえるでしょう.
 本特集では,経験豊富な現場の医師や輸血部門のスタッフそれぞれの立場から,危機的出血に臨む臨床検査技師が知っておくべき病因・病態と,検査・輸血治療などの具体的対応について,わかりやすくご解説いただきました.執筆者はいずれもこの分野におけるエキスパートの方達であり,必ずや読者の皆さんの業務にお役立ていただけることと思います.
 ◎監修 山本晃士(埼玉医科大学総合医療センター 輸血細胞医療部 教授)
特集 これで安心! 危機的出血の輸血戦略
  はじめに―本特集にあたって
  山本晃士
 1.危機的出血と緊急輸血
  藤田 浩
 2.臨床現場から輸血部に求めること
  1)麻酔科医の立場から
  香取信之
  2)産科医の立場から
  松永茂剛
  3)救急医の立場から
  齋藤伸行
 3.輸血部門での対応
  1)輸血部門での体制整備・臨床現場への働きかけ
  阿南昌弘
  2)他部署・多職種とのコミュニケーションのとり方
  加藤千秋

Editorial―今月のことば
 アフターコロナに向けた準備を始めましょう
 松本哲哉

話題―NEWS&TOPICS
 初心者向け新型コロナウイルス核酸検査解説書『はじめて新型コロナウイルス検査を行う方のために』が公開に
 松下一之

技術講座
 迅速細胞診(ROSE)の有用性と実際
 阿部香織・小井戸綾子・安田真大・古村祐紀・渡邉侑奈・斉藤仁昭・飯嶋達生

基礎講座
 病理・細胞診検査の精度管理
 陣内慶大・平田勝啓
 消化管寄生蠕虫類の検査方法と同定
 小林浩二
 胸水・腹水のデータの見方
 脇田 満

呼吸機能検査の苦手意識をなくそう!
 3.呼吸機能検査と血液ガス,周術期の臨床応用を学ぶ
  2)手術と呼吸機能検査(意義とデータの読み方)
 加藤政利

FOCUS
 敗血症/重症感染症におけるバイオマーカーの有用性
 仲村 究
 TTPの診断・治療の最前線
 鈴木康大・宮川義隆

From LABO
 常に進歩し続ける輸血医療のトップランナーとしての臨床検査技師を目指して
 前田岳宏
 コロナ禍における検査技師の活躍現場を覗く! 藤田医科大学PCRセンターで奮闘する臨床検査技師
 東本祐紀

Book Review
 多職種で取り組む抗菌薬適正使用 AST活動はじめの一歩
 宮本仁志

LABO LIFE―私の仕事・私の明日
 パラレルワーカーとして生きる
 神戸 翼

Information
 第71回日本アレルギー学会学術大会
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 第50回日本臨床免疫学会総会
 第84回日本血液学会学術集会
 第44回日本高血圧学会総会

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