WHOは,日本の歯科保健・医療を以下のように評しています. 1. 砂糖消費量は先進国のなかでもっとも少ない. 2. 歯科医師数は充足し,優れた歯科医療サービスが提供されている. 3. 保健所で,歯科保健指導やう蝕予防サービスが行われている. 4. しかし,ほかの先進諸国と比較したとき,日本の歯科医療にはもっとも重要なものが欠けている.それはフッ化物の利用である. これは実は,1985年に発表されたものです.しかしながら21世紀を迎えた今日においても,残念ながらこれらの傾向に大きな変化はみられず,同じ状況が続いています. わが国の12歳児の平均DMFTは1999年の歯科疾患実態調査で2.4本でした.これはWHOのデータバンクにおいてDMFTが1.2~ 2.6の「低い国」に位置していますが,先進国の多くが0~ 1.1の「非常に低い国」となっている現状からすると,これでよしとする状況にはありません.また,健康日本21では12歳児の平均DMFTを1以下にするとなっています.8020達成のためにも歯の喪失原因の第1位で,約40%を占めるう蝕対策は不可欠です. 上記の1~ 3に,積極的なフッ化物応用を加えることによって,わが国のう蝕予防の状況を世界のトップレベルに引き上げることも十分可能です. カイスの3つの輪やニューブラウンの説明図(カイスの輪に時間要因を加味)で表されるように,う蝕は多くの要因によって発生する疾病です.したがって,その予防も多くの要因それぞれに対応するものでなければなりません(図1). 米国の予防サービス専門調査班は,各種のう蝕予防の方法についてEBM(Evidence-Based Medicine)の観点と現実的な応用の場面を考慮して,表1のように整理し,推奨を行っています. この内容は,診療室,家庭,園・学校,地域などでう蝕予防を行う場合に,どの方法を,あるいはどのような組み合わせを選択したらよいかを判断する際の基準となります.フッ化物応用は,いずれもう蝕予防効果に関する証拠のレベルが高く,強く推奨される予防法に位置づけられています.ほかの予防法との組み合わせによって,さらなるう蝕の減少をもたらすことでしょう. 日本歯科医学会は1999年に「フッ化物応用についての総合的な見解」を,日本口腔衛生学会は2002年に「今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術支援」を示し,有効性,安全性の面からフッ化物応用推進を明確にしています.また,マスコミでもフッ化物の効果や有用性がアピールされるようになりました.このような状況を受け,子どもをもつ保護者や一般住民のなかにも,フッ化物に対する関心が高まってきているようです.歯科医師や歯科衛生士には,いままで以上にう蝕予防,フッ化物応用の専門家としての役割が期待されています. 自院での予防管理システムのなかで,あるいは行政・教育委員会との共同事業や歯科医師会の地域活動など多くの場面でフッ化物応用が可能です.う蝕予防はもとより,8020の実現やQOLの向上にむけて,フッ化物応用の拡大が望まれます. (小林清吾) 図1 う蝕の発生要因(カイスの3つの輪)とそれに対応した各種予防法 表1 う蝕予防法の評価と利用勧告(米国予防サービス専門調査班.1989*) 予防法 証拠の質 利用勧告の強さ フッ化物応用 全身応用:水道水フッ化物添加,フッ化物錠剤 I A 局所応用:フッ化物洗口,フッ化物歯面塗布,フッ化物配合歯磨剤利用 I A シーラント処置 I A 食事のコントロール 甘食摂取を控える II-2 A 就寝中の哺乳瓶使用をやめる III B 個人による歯口清掃 フッ化物が配合されていない歯磨剤利用による歯磨き,フロスの応用 III C 定期的な歯科検診 III C 証拠の質基準 I:1つ以上の正しくデザインされた無作為コントロール研究から得られた証拠 II-2:複数の調査機関による,よくデザインされたコホート研究または症例コントロール研究分析から得られた証拠 III:臨床的経験,記述的研究,熟達した委員会の報告にもとづいた社会的地位のある権威者の意見 利用勧告の強さ基準 A:その項目を行うべきだという勧告を支持する確かな証拠がある. B:その項目を行うべきだという勧告を支持する証拠がある. C:その項目を行うべきだと考えられる証拠が乏しい.しかしほかの団体からは勧告される可能性もある. *:1996年の第2版では,う蝕予防と歯周疾患予防を区別せずに評価されているので,今回は1989年の初版のう蝕予防法の評価を採用した.