本書の中で提示された問題の数々は,読者に運動学やバイオメカニクス的原則を人間の動作の解析に応用するのを奨励している.読者はセラピストが臨床的問題を解決するためにたどるであろう順序で情報を得られるようそれぞれの筋書きは論理的経過に従っている.これらの問題解決には,読者が情報をまとめたり,いくつかの数学の方程式を解くために図を通常描くことが不可欠となる.これは作業療法の学生とセラピスト両方をはじめとする多くの読者に親しんでもらえる点でもある. 詳細な記述や長めの解析は,三角関数による解析に興味をもつ人達のために付録Cの中で解説されている.セラピストはエンジニアとともに働きうるし,また一緒に仕事をする機会がある.エンジニアの力学に関する知識や理解のおかげで,複雑な適応機器,補装具,それに人間工学的な産業用具のデザインを行う上で必要とされる数学をより的確に利用できるようになる.バイオメカニクスの中でいかに数学が役立つかを理解することはセラピストが臨床的問題を解決するために必要とされる関連データを特定するのを助けてくれる.これは,バイオエンジニアや義肢装具士とのチームワークを必要とするセラピストに特にいえることである. この科目を長年教えてきた経験を通じて,われわれは多くの学生がより複雑な数学に基づいた解析を行おうとしないことを認識している.それどころかこの複雑な段階がしばしばあきらめへの引き金となって,多くの学生は代数公式での正弦や余弦を見たとたん,常識的に考えればできそうなことからも逃げ出すようになる.運動学に対する伝統的アプローチでは,問題を解くために三角関数の利用に重きをおいている.このことはセラピスト間でも運動学の教育課程で彼らが学習したものは学校でのみ通用するものであって,日常の実践では非現実的であるという一般的な意見に達している. 事実,本書で提示されたあらゆる状況や,日常の作業療法実践におけるほとんどのバイオメカニクス的挑戦では正弦や余弦を利用せずとも確かな運動学的思考を通じてその理由づけが得られるものである.われわれは,すべての読者が提示された問題を一貫して考え抜くことができる一方で,あまりなじみのない事柄によって脱線しないよう鼓舞することに努め,代数や三角関数をあまり重要視しないように心がけてきた.図を用いた解析はこのテキストの中で利用されているが,数学は絶対必要な時に限ってのみ使われている. われわれは応用問題の提示の際,力の単位としてニュートンの代わりにキログラムを使用してきた.これは見すごしとか誤りではない.なぜなら第3章でこれらの単位の違いを説明しているし,これら単位の適切な変換のための例を提示しているからである.力の単位としてキログラムを用いているのは,読者やセラピスト,それにその助手らがフィールドワークを通じての観察や経験に近い,一般的な形で情報を提供するというわれわれの意図に基づいている. この非伝統的アプローチは,明確な考え方を打ち出すために必要な道具を提供するとともに,これらの道具が臨床的実践の中で日常の基本となる真のクライエントの状況を完全に理解するのに重要な概念や思考の過程であることを強調するために利用されてきた.これは学校においてのみあなた方が行っているようなこととは別個のものである. David Paul Greene Susan L.Roberts