やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 医学や公衆衛生の発展は,人類にこれまで経験したことのない高齢化社会をもたらした.そのため既存のシステムでは対応できない状況が数多く発生してきている.日本は2005年より全体としては人口減少に転じたが,65歳以上の人口は2040年頃まで増加することが推定され,そのうち75歳以上の後期高齢者は2050年頃まで引き続き増加傾向が続くと推定されている.このような劇的な人口構造の変化を見据えて,国は「病院完結型(治す医療)」から「地域完結型(治し・支える医療)」へと大きく舵を切った.
 「治し・支える医療」はまさに,リハビリテーション医学のコンセプトと大きくオーバーラップし,そこにリハビリテーション医療は不可欠な存在である.そこではまた,介護ということも重要になってくる.1997年に制定された介護保険法に基づき,2000年から介護保険制度がスタートした.それまでの日本の公的介護制度は,老人福祉法による福祉の措置として,やむを得ない事由による行政措置の範疇に留まっていたが,これを国民全員がいつか辿る道として介護を位置付けたのは大きな転換点である.さまざまな介護保険施設が全国に造られ,その約半分にリハビリテーション専門職が常勤として勤務している.
 介護保険適用対象となる介護サービスについて厚生労働省が定めた報酬が介護報酬であり,財源は公費である.これまでこの介護報酬額は施設基準や入所者介護認定等に対して決められていて,介護の内容そのものに対して支払われてきたわけではない.極端に言うと外見さえ整えれば,どのようなサービスを提供しようとも報酬は同じという時代が20年以上続いてきたのである.その中で,小規模デイサービスの供給過剰や,特別養護老人ホームの著しい供給不足等さまざまなアンバランスが生じてきた.
 この大きな要因として,医療と比べて介護は内容の定量化およびそのアウトカムの定量化が極めて困難なことがある.そこで厚労省は2021年度から,利用者の状態やサービスの内容,リハビリテーションの状況等の情報を幅広く集める「LIFE(Long-term care Information system For Evidence)」を実装し,介護内容とそのアウトカムを科学的に定量化し評価するという世界で初めての試みに踏み出した.このように目まぐるしく変化する高齢者のリハビリテーション医療を取り巻く社会環境の変化のなかで,高齢者のリハビリテーション医学の学術的側面も大きく進歩してきた.本特集では,高齢者のリハビリテーション医学・医療の最新の知見をさまざまな側面から概説し,超高齢社会におけるリハビリテーション診療の羅針盤となるように企画した.
 (編者:海老原 覚)
巻頭カラー 科学的介護情報システム「LIFE(ライフ)」 海老原 覚 宮城 翠・他
第1章 「高齢者リハビリテーションに必要な老年医学の知識」
 加齢に伴う生理変化とそのリハビリテーションでの配慮 東本有司
 老年症候群と高齢者リハビリテーション 白石成明
 サルコペニア・フレイルとリハビリテーション 吉村芳弘
 ポリファーマシー 林 宏行
 アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning) 小山照幸
第2章 「高齢者のリハビリテーション総論」
 地域包括ケアと介護保険下での地方リハビリテーション病院の存在意義と役割について 柳 東次郎 武田清美・他
 居宅・訪問リハビリテーション 岩屋 毅 川手信行
 老年症候群(含むフレイル)対策・転倒予防等の予防的リハビリテーション事業 大渕修一
第3章 「高齢者のリハビリテーション各論」
 高齢者の中心性脊髄損傷におけるリハビリテーション医療 加藤真介
 高齢者の切断におけるリハビリテーション 陳 隆明
 高齢心不全患者に対しての包括的心臓リハビリテーション 白石裕一 的場聖明・他
 高齢者呼吸不全の呼吸リハビリテーション 笠井史人 鶴田かおり・他
 高齢慢性腎臓病患者の腎臓リハビリテーション 上月正博
 高齢者脳卒中片麻痺患者のリハビリテーション 宮田隆司 下堂薗 恵
 認知症高齢者に対する脳・身体賦活リハビリテーション 大沢愛子 前島伸一郎・他

 Column
  「うごきのクリニック」における高齢者リハビリテーション 太田昭生
  認知症情動療法 藤井昌彦 佐々木英忠
  COVID-19重症高齢者のリハビリテーション 大國生幸 新井義朗・他