やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに―今後の高齢者社会における健康と医療
 琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会会長
 住友病院名誉院長・京都大学名誉教授
 亀山正邦 Kameyama Masakuni

 @2002年11月,琵琶湖長寿科学シンポジウムでは,医療と介護の問題――それにふさわしい環境づくり,そのための深刻な――しかし,徐々に改善されつつあるケア施設,ケアのスタッフのありかた,新しいコミュニティーの展望など,まず,概観的な面から貴重なご意見が呈示された.いずれも,現在進行形の改革やアイディアの開示で参考になる面が多かった.何よりも従来の考えかたを常識的に閉じこめない発想と実践とが印象的である.
 A各論的な面であるが,高齢者の睡眠障害については,わかりやすく,かつ具体的で,この方面の焦点を衝いた好論文である.
 B高齢者の栄養と食事については,データや事実に側して,問題点が指摘され,大きな影響を与えた.ことに現在,マスコミや食料品売り場などで,栄養と健康,痴呆,生活習慣病のことなどが取りあげられ,一般的にはほとんど無批判的に受け入れられている傾向がある.しかし,きちんとした基礎的データを踏まえて,高齢者を含む栄養の問題をチェックし,今後のsuggestionを与えている点は注目される.
 C高齢者との対話のありかた――皆が気づいていることではあるが,このように明快に改示されると,感心する.老人と高齢者,国別にみた老年意識の違いなど,興味深かった.
 D以上,高齢者のための住みよい環境,それを創造し維持し発展させるための多くの智慧の指摘など,貴重な成績の発表である.各執筆者はじめ,座長担当の各位に対して感謝申しあげるとともに,この会の今後のますますの発展を祈ってやまない.
 2003年10月
 琵琶湖長寿科学シンポジウム
 「住み慣れたまちで最期まで生活したい
 〜そのための環境づくり」
 ●開催日:2002年11月12〜13日
 ●会 場:滋賀県立長寿社会福祉センター(レイカディアセンター)
 ●主 催:滋賀県・琵琶湖長寿科学シンポジウム実行委員会
住み慣れたまちで最期まで暮らす もくじ

はじめに―今後の高齢者社会における健康と医療……亀山正邦

安心できる高齢者医療をどうつくっていくか―在宅医療の現実と問題点,それを支えるコミュニティー形成……佐藤 智
 最大の鍵はコミュニティー形成-コミュニティー形成とは,その必要性は/在宅医療の現実と問題点/「ライフケアシステム」の誕生/在宅ケアの実現/今後どうしたらよいか/安心できる高齢者社会と医療-具体例「ライフケアシステム」について/Q&A

その人らしい終末期―ケアのありかた,スタッフのありかた……宮崎和加子
 訪問看護の対象/ターミナルで何を支援するか/末期がん女性のターミナルケア/初回の訪問看護/ターミナルまでの生活/ケアスタッフ,家族の覚悟/わがままを言ってもらう/その人らしい終末期のために/Q&A

介護の社会化と在宅サービスへのシフト……野中 博
 介護保険制度の目的/要介護認定と介護サービス計画/居宅管理療養指導/地域医療の再構築/介護保険における痴呆性高齢者/在宅サービスへのシフト/Q&A

高齢者の睡眠障害……大川匡子
 高齢者の睡眠障害の現状/加齢による睡眠の変化/高齢者の睡眠障害の要因と疾患の種類/Q&A

高齢者の栄養と食事―食事からみえる生活の質……香川靖雄
 高齢者に適切な栄養を/個人差と栄養アセスメント/高齢者の食事についての注意/介護予防は生活習慣から/寿命の回数券テロメアを保つ食事/長期栄養研究と老化/双生児研究/修道院研究と痴呆予防/モルモン教徒の研究/長寿県沖縄の急変と食事/生活習慣病による介護・医療費の増大/元気な百歳老人/Q&A

パワーリハビリテーション―介護予防・自立支援のための新しい手法……木村義徳
 急増する要介護高齢者とその課題/パワーリハビリテーションとは/パワーリハビリテーションの基礎理論/パワーリハビリテーションの対象/パワーリハビリテーションの手法/パワーリハビリテーションの運営/マシントレーニングの紹介/パワーリハビリテーションにおける評価/パワーリハビリテーションの効果/まとめ/Q&A

地域における高齢者の新しい住まいかた……園田眞理子
 高齢期の居住の選択肢/自宅居住を可能にする仕組み/高齢者住宅の種類と特徴/自分にあったふさわしい住まいをどうやってみつけるか/Q&A

高齢者ケア施設の環境づくり―地域での実践……小梶 猛
 住宅改修の取り組み/地域での実践報告/さりげない対応/周囲の環境を味方に/Q&A

介護施設のリスクマネジメント……廣江 研
 リスクマネジメントとはなにか/いまなぜリスクマネジメントか/経営者のリーダーシップ/対人サービスだという自覚/組織風土の改善/リスク要因のとらえかた/第三者評価/地域は何をのぞんでいるか-苦情から/職員研修制度の強化/Q&A

高齢者との対話のありかた―よりよい世代間コミュニケーションのために……宇佐美まゆみ
 高齢者をとりまくコミュニケーション環境を分析する/「保護するようなコミュニケーション」(第二の赤ちゃん言葉)が高齢者のコミュニケーション環境を脅かす/高齢者をとりまくコミュニケーション環境を改善するためにできること/Q&A

 表紙デザイン:M's