やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 2002年(平成14年)の栄養士法の一部改正を受けて,管理栄養士の業務内容や管理栄養士養成校の教育カリキュラムも大きく変わり,それと同時に管理栄養士の活躍する場も,従来のフードサービスはもちろんのこと,保健・医療・福祉領域における人間に対する栄養管理へと広がっています.こうした変化によって,専門職としての資質の向上が要求されています.とくに医療・福祉分野では,包括医療や出来高払いが導入され,チーム医療に基づいたクリニカルパスや入院計画表などによる治療が進められ,管理栄養士もその一員として活躍が期待されています.
 そのなかでも栄養教育は管理栄養士にとって基本的業務であり,専門家として能力を発揮できる業務となります.栄養教育で大切なことは患者さんに対応するとき,患者さんや家族に対してその作業プロセスに一貫性をもたせ,苦しめたり,不安にさせないで,栄養状態の評価や生活・食事についての問題を明確に捕らえ,解決することです.また,チーム医療では,栄養教育業務がカルテに経過記録として記載され,治療行為として役立たなければなりません.今日にいたるまで,栄養士の栄養教育記録は統一された記録方式として確立されていません.しかし,新カリキュラムにおいては記録方式としてPOSが明記され,いよいよ管理栄養士養成校においてPOSについての教育がはじまります.
 すでに医療現場では看護婦を中心に患者記録方式としてPOSが導入され,SOAP記録方式が採用されています.近年とくに,DRG/PPSに基づきクリニカルパスが導入され,多くの医療機関ではPOS使用により,患者さんの問題解決が系統的に進められています.
 こうした医療環境の新たな変化に対して管理栄養士がチーム医療の一員として記録に対応できるよう,本書は1998年に発行されたものに新たに3章を追加し,改訂されたものです.内容としては,POSの基本的な考え方とSOAPによる記録方式を,具体的な事例に基づいて理解していただけるようまとめました.また,今回あらたに栄養教育の実際についても詳しく解説し,DRG/PPSを中心とする医療情勢についてもふれ,実践ツールとしてのクリニカルパスについても考え方や取り組み方を解説しました.
 本書が栄養教育記録の実務書として,多くの分野の現場においてお役に立つことを願っています.また,一人でも多くの皆さんに利用していただき,本書についてのご指導,ご批判をいただくことを願っています.
 2003年1月 著 者
I 栄養士業務とカルテに記録を書く必要性 松崎政三
 1 POSの歴史
 2 医療における記録の必要性
   ベッドサイドで実施した栄養評価や栄養指導を記録し,次の栄養管理に生かす
   病歴や食歴,栄養素摂取量など情報源の活用
   チーム医療に大切なコミュニケーションの場として
   医療行為の評価や治療計画を助ける
   研究や教育のために
   医療監視のために
 3 カルテに記録すべき業務内容
   栄養状態の評価
   栄養教育と栄養補給計画
II 栄養教育の方法と技術 寺本房子
 1 栄養ケアとPOS
   栄養ケアプラン
   介護保険制度と栄養ケア
 2 栄養教育の実際
  対象の把握
  改善が必要な問題点の整理
  栄養ケア計画の作成
   目標設定
   栄養教育計画の作成
  栄養教育の実施
   動機づけ
   栄養教育
   栄養教育の形態
   栄養教育とカウンセリング
   環境の違いによる栄養教育の特徴
   プレゼンテーション技術
 3 栄養教育の効果判定と評価:効果判定のために必要な考え方とその表現・記録方法
  教育目標の到達度
  指導者側の評価
III 栄養教育実践のためのシステム化 松崎政三
 1 栄養教育システム化の実際
   栄養教育システム
    栄養部門での準備
    病棟(ナースステーション)での対応
    病棟における患者面談
    栄養指導の報告
    医事課への報告
   医療スタッフとの連携
    チーム医療への参画がなぜ必要か
    医療の専門職種としての知識・技術が必要
    医療人として守るべき行動やマナー
   指導依頼せん,フォーマットを作るうえでの注意点
   教材作りと考え方
   病態と栄養(食事),症状についての説明が必要な教材
   栄養素,食物繊維の含有量表の作成
   食事療法を実行するための具体的教材
   記録表の作成
IV 栄養教育を行う際の準備 松崎政三
 1 医療人としての心構えと患者面接での注意点
   疾病についてどこまで話をするか
   患者の訴えを受けとめる
   プライドを傷つけない
   患者の考え方や生活習慣を認める
   患者の行動ペースを尊重し,ひと声かけてから行動する
   スキンシップを忘れずに
   場合によっては家族同席での指導を
   ベッドサイドでの注意点
 2 栄養アセスメント
  問診,調査,観察
  栄養摂取量調査
  身体計測
  その他の生理・生化学的検査データ
  栄養教育を行うために必要なカルテ情報
V POS入門 寺本房子
 1 POSとは
  POSを日本語に直すと
   PROBLEM(プロブレム):問題とは
   ORIENTED(オリエンテッド):志向(指向)
   SYSTEM:システム
  POSの3つのステップ
   ファーストステップ
   セカンドステップ
   サードステップ
  POMRの4つのステップ
   POMR(PROBLEM ORIENTED MEDICAL RECORD):問題志向型診療記録の作成
  実施した記録(POMR)の監査-オーディット(Audit)
  修正
   POMRはチーム全員の記録
  POSを栄養教育へ取り入れると
   POSの基本はプロブレムごとに展開すること
 2 POMRの作成
  POMRの作成
  基礎データ(DATA BASE)
   他のメディカルスタッフから
   栄養士が直接インタビューして得る情報
   データベースの作成:栄養指導を行うために必要な情報の整理
  問題点の整理→問題リスト(PROBLEM List)
  初期計画(INITIAL PLAN)
  経過記録(PROGRESS NOTES)
   叙述的記録
  SOAPを的確に表現するために
   S:SUBUJECTIVE DATA(主観的な情報)
   O:OBJECTIVE DATA(客観的な情報)
   A:ASSESSMENT(評価)
   P:PLAN(計画)
  フローシート
  退院時要約(要約)
VI SOAP記録方式の実際 福井富穂
 1 栄養指導をはじめるにあたって
 2 食事療法とPOS
 3 問題志向型システムの展開
 4 カルテをのぞいてみよう!
   プロブレムリスト
 5 栄養食事指導におけるPOSの展開
   栄養食事指導にあたって患者をどうとらえるか
 6 POSに必要な基礎データ
   主観的・客観的情報とその分類
   具体的な記録方法
   おわりに
VII DRG/PPSとPOS 福井富穂
 1 DRG/PPS
  DRGとは
   DRGの目的
   DRGの疾病分類
  PPSとは
   PPSによる効果-医療の標準化
  DRG/PPSと栄養管理
   管理栄養士の行うべき業務内容
VIII クリニカルパスとPOS 松崎政三
  クリニカルパスとは
  4つの基本概念
  クリニカルパスの種類と使用目的
  クリニカルパスと栄養管理・栄養教育-導入前にしておくこと
   教育プログラムが作成されているか
   教材が作成されているか
   栄養教育を測定・評価する方法が検討されているか
   記録方式とフォーマットが統一されているか
   プロブレムの判断基準となる基準値が決められているか
  クリニカルパスの記録はPOS-SOAP記録方式
  クリニカルパス作成に積極的に参画しよう

POSに必要なフォーマット集 福井富穂,松崎政三
 1.栄養指導退院時要約用紙
 2.栄養指導記録(1)
 3.栄養指導記録(2)
 4.栄養録経過用紙
 5.患者情報
 6.入院初期調査票(1)
 7.入院初期調査票(2)
 8.タイムスタディ様式
 9.意識調査様式
 10.調査結果
 11.食歴・食生活状況記録表(1)
 12.食歴・食生活状況記録表(2)

 面接におけるカウンセラーとクライエントの位置関係
 POSの概念
 POSの目的
 目的を絞った栄養指導を
 情報の収集と問題の明確化
 患者が理解し実践できるプランを
 まずはシステム作りから
 患者に自信をもたせる
 コンプライアンス(Compliance)とは
 栄養食事指導と動機づけ