やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき 第5版
 2002年3月の初版発行以来版を重ね,2007年の「第4版」改訂から2年半ぶりに「第5版」発行の運びとなった.この間,管理栄養士・栄養士をめぐるさまざまな動きの中で記憶に留めたい出来事として,2008年9月に国際栄養士会議が横浜で開催され,6,000人もの世界の栄養士が集ったことであろう.この会議では栄養士の職業倫理が取り上げられ,国際標準化された倫理綱領の在り方について熱心に議論がおこなわれた.臨床分野で活躍する管理栄養士・栄養士は疾病や障害と闘う人々に対して,栄養や食の視点から支援をおこなう専門職としての倫理観を共有することは基本的な責務といえる.
 また,近年の管理栄養士・栄養士に関連した医療制度の変化は著しい.とくに特定健診・特定保健指導が開始され,この分野の管理栄養士の役割が明確になったこと,栄養管理実施加算の導入から臨床分野の栄養業務が大きく変化したことは特筆すべきである.
 今回はこれらを踏まえて,学生諸君が学生の間に基本的な職業倫理観を養えるように配慮すること,および臨床分野における栄養マネジメント業務の遂行能力を養えるような学習がおこなえることを主な目的として,大規模に改訂することとした.
 その内容は,「栄養食事療法」の基本構成を,(1)栄養食事療法の基本,(2)栄養アセスメント,(3)栄養管理計画,(4)栄養食事指導・生活指導,(5)モニタリングと評価,と実際の栄養マネジメントに沿うように改めたことである.
 さらに診療報酬の改定(平成21年)と介護報酬の改定(平成22年)に対応することにより,入院時食事療養制度,診療報酬における管理栄養士の技術評価,介護報酬における栄養ケアマネジメントに関する最新の情報を盛り込んだ.
 また,(1)高血圧治療ガイドライン2009,(2)CKD(慢性腎臓病)診療ガイド2007,(3)慢性腎臓病に対する食事療法基準2007,(4)動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007,(5)糖尿病治療ガイド2008―2009,(6)慢性肝炎の治療ガイド2008,(7)食物アレルギーの栄養指導の手引き2008,(8)日本人の食事摂取基準2010年版,(9)特殊ミルク情報44号(2008),(10)標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)2007,など最新ガイドラインや最新情報に準拠させた.
 今後も本書が時代の流れに沿ったものとなるように必要な改訂をおこないながら,より充実した臨床栄養学の教科書となるように努めていく所存である.
 2009年8月
 編集者一同

まえがき 初版
 2002年4月1日から管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラムが全面的に改訂される.新しいカリキュラムでは管理栄養士に対して,「病態の正確な理解と栄養状態の的確な評価を基にした栄養管理」を医療の専門家としておこなうことが求められている.そのためには,臨床栄養学の基礎知識をきちんと整理して理解することが必要である.本書は管理栄養士・栄養士教育のもっとも重要な柱である臨床栄養学について新しいカリキュラムに対応できるように,わかりやすく簡潔に解説している.病態の理解に基づく栄養療法という視点から最新の医学知識を盛り込み,重要なポイントをなるべく平易に説明するように心がけた.補足説明の必要なキーワードについては脚注を加えた.また,医療チームの一員として管理栄養士にも診療録(カルテ)を理解できることが要求されるが,カルテに用いられる用語集,頻用される薬品の商品名一覧,臨床検査値の意義と基準値も記載し,実践に役立つ内容となるように配慮した.
 本書の前身である『臨床栄養学概論』は1975年に野幸久(現・日本女子大学名誉教授)と杉山二六佑によって書かれた臨床栄養学のパイオニアともいうべき名著である.版を重ね,第4版(1993年)では逝去した杉山に代わり小松龍史(現・お茶の水女子大学教授)が補筆改訂をおこなった.今回,野名誉教授の提案により,『臨床栄養学概論』の伝統を引き継ぎつつ,全面改訂をおこない新しい書として発刊することになった.成人病が生活習慣病と名称が改められ,糖尿病の診断基準や高血圧の分類も改訂された現在,時機を得たものといえよう.執筆は医師として佐藤和人(内科),本間健(内科),新村文男(小児科),管理栄養士として小松龍史,松月弘恵が担当した.『臨床栄養学概論』の理念を引き継ぎ,医師と管理栄養士が緊密に連携をとりながら執筆・編集をおこなった.
 本書が管理栄養士・栄養士のみならず,看護師,薬剤師,臨床検査技師など医療スタッフの教育や研修に役立ち,臨床栄養学のさらなる理解につながることを願っている.最後に,本書の企画から編集まで根気強く携わっていただいた医歯薬出版編集部諸氏に心から感謝申し上げたい.
 2002年3月
 編集者一同

補訂の序
 増刷にあたり、糖尿病治療ガイド2010、高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版(2010)、CKD診療ガイド2009、特殊ミルク情報45号(2009)、また、平成22年4月より施行された栄養サポートチーム加算などの最新情報をそれぞれの項目に反映させた。
 2011年2月
 編集者一同
Part-1 病態生理と栄養食事療法
1 胃・腸
 消化器疾患の病態生理(佐藤)
  1 胃炎
  2 胃・十二指腸潰瘍
  3 胃癌
  4 下痢・便秘
  5 過敏性腸症候群
  6 炎症性腸疾患
   6a 潰瘍性大腸炎
   6b クローン病
  7 大腸癌
 栄養食事療法(小松)
  1 胃・十二指腸疾患
  2 胃癌
  3 下痢・便秘
   3a 下痢
   3b 便秘
  4 過敏性腸症候群
  5 炎症性腸疾患
   5a 潰瘍性大腸炎
   5b クローン病
  6 大腸癌
2 肝・胆・膵
 肝臓・胆嚢・膵臓疾患の病態生理(本間)
  1 肝炎
   1a 急性ウイルス肝炎
   1b 慢性肝炎
  2 肝硬変症
  3 肝癌
  4 脂肪肝
  5 NAFLD・NASH
  6 胆石・胆嚢炎
   6a 胆石
   6b 胆嚢炎
  7 膵炎
   7a 急性膵炎
   7b 慢性膵炎
  8 膵癌
 栄養食事療法(小松)
  1 急性肝炎・慢性肝炎
  2 肝硬変
  3 脂肪肝
  4 胆石症
  5 胆嚢炎・胆管炎
  6 膵炎
3 内分泌・代謝
 内分泌・代謝疾患の病態生理(本間)
  1 肥満・るいそう
   1a 肥満症
   1b るいそう
  2 脂質異常症(高脂血症)
  3 糖尿病
  4 高尿酸血症・痛風
  5 甲状腺機能亢進症・低下症
   5a 甲状腺機能亢進症
   5b 甲状腺機能低下症
 栄養食事療法(小松)
  1 肥満・肥満症
  2 るいそう
  3 脂質異常症(高脂血症)
  4 糖尿病
  5 高尿酸血症・痛風
  6 甲状腺機能亢進症・低下症
4 循環器
 循環器疾患の病態生理(本間)
  1 メタボリックシンドローム
  2 動脈硬化症
  3 高血圧症
  4 虚血性心疾患
  5 うっ血性心不全
  6 脳卒中
 栄養食事療法(小松)
  1 メタボリックシンドローム
  2 動脈硬化症
  3 高血圧症
  4 虚血性心疾患
  5 うっ血性心不全
  6 脳卒中
5 呼吸器
 呼吸器疾患の病態生理(佐藤)
  1 上気道炎
  2 肺炎
  3 気管支喘息
  4 慢性閉塞性肺疾患
  5 肺癌
 栄養食事療法(小松)
  1 肺炎
  2 気管支喘息
  3 慢性閉塞性肺疾患
6 腎臓
 腎臓疾患の病態生理(佐藤)
  1 慢性腎臓病(CKD)
  2 糸球体腎炎
  3 ネフローゼ症候群
  4 腎盂腎炎
  5 腎不全
  6 人工透析,腎移植
 栄養食事療法(小松)
  1 慢性腎臓病(CKD)
  2 ネフローゼ症候群
  3 腎盂腎炎
  4 急性腎不全
  5 人工透析
  6 糖尿病性腎症
7 血液
 血液疾患の病態生理(佐藤)
  1 鉄欠乏性貧血
  2 その他の貧血:巨赤芽球性貧血など
 栄養食事療法(小松)
  1 鉄欠乏性貧血
  2 巨赤芽球性貧血
8 免疫・アレルギー
 免疫・アレルギー疾患の病態生理(佐藤)
  1 アレルギー疾患
  2 自己免疫疾患
  3 免疫不全症候群
 栄養食事療法(小松)
  1 アレルギー疾患
   1a 食物アレルギー
   1b アトピー性皮膚炎
  2 自己免疫疾患
   2a 膠原病
  3 免疫不全症候群
   3a HIV感染
9 感染症
 感染症の病態生理(佐藤)
  1 急性熱性疾患
  2 腸管感染症
  3 慢性消耗性疾患
 栄養食事療法(小松)
  1 急性熱性疾患
  2 慢性消耗性疾患
   2a 肺結核
10 骨・関節
 骨・関節疾患の病態生理(佐藤)
  1 骨粗鬆症
  2 くる病・骨軟化症
 栄養食事療法(小松)
  1 骨粗鬆症
  2 くる病・骨軟化症
11 歯科
 歯科疾患の病態生理(佐藤)
  1 う蝕(むし歯)
  2 歯周病
 栄養食事療法(小松)
  1 う蝕(むし歯)
  2 歯周病
12 栄養欠陥
 低栄養の病態生理(佐藤)
  1 栄養失調症
  2 ビタミン欠乏症および過剰症
  3 微量元素欠乏症および過剰症
 栄養食事療法(小松)
  1 栄養失調症
  2 ビタミン欠乏症および過剰症
  3 微量元素欠乏症
13 心身症
 心身症の病態生理(本間)
  1 神経性の摂食障害
   1a 神経性食欲不振症
   1b 神経性大食症
 栄養食事療法(小松)
  1 神経性食欲不振症
14 外科
 外科の病態生理(鷲澤)
  1 胃の手術と術後後遺症
   1a 胃・十二指腸潰瘍
   1b 胃癌
  2 肝・胆・膵の手術
  3 短腸症候群
  4 基礎疾患と外科手術
   4a 糖尿病
   4b 肝機能障害
   4c 腎機能障害
   4d 心機能障害
 栄養食事療法(鷲澤・小松)
  1 術前の栄養管理
  2 術中の栄養管理
  3 術後の栄養管理
  4 疾患別の術後栄養管理
   4a 胃術後の栄養管理
   4b 短腸症候群
   4c 人工肛門造設後
   4d 食道手術
   4e 消化器以外の術後
15 小児疾患
 小児の特異性(新村)
 小児の病態生理(新村)
  1 栄養失調症
  2 消化不良症・下痢症
  3 周期性嘔吐症(自家中毒症・アセトン血性嘔吐症)
  4 牛乳過敏症(牛乳アレルギー)
  5 小児腎臓病
   5a 遺伝性腎炎
   5b 溶連菌感染後急性糸球体腎炎
   5c 慢性腎炎
   5d ネフローゼ症候群
   5e 尿路感染症
  6 小児糖尿病
  7 小児の肥満
  8 先天性代謝異常症
   8a フェニルケトン尿症
   8b ヒスチジン血症
   8c ホモシスチン尿症
   8d メープルシロップ尿症
   8e ガラクトース血症
 栄養食事療法(小松)
  1 先天性代謝異常症
   1a フェニルケトン尿症
   1b メープルシロップ尿症
   1c その他の先天性代謝異常症の食事療法
   1d 先天性代謝異常症のための特殊ミルク
  2 乳児下痢症
  3 小児腎臓病
   3a 小児腎炎
   3b 小児ネフローゼ症候群
   3c 小児腎不全
  4 小児糖尿病
  5 小児肥満
16 高齢者疾患
 高齢者の病態生理(松月・小松)
  1 高齢者の特異性
   1a 高齢者の生理
   1b 高齢者の摂食機能
  2 高齢者の症候と疾患
   2a 老年症候群
   2b 高齢者と疾患
  3 高齢者に多くみられる障害
   3a コミュニケーション障害
   3b 認知症
   3c ADLの低下
  4 高齢者の褥瘡
  5 高齢者の栄養問題
   5a たんぱく質・エネルギー低栄養状態(PEM)
   5b 摂食・嚥下困難
 栄養食事療法(小松・松月)
  1 高齢者の栄養管理
  2 障害がある場合の栄養管理
   2a 咀嚼・嚥下困難
   2b 認知症
  3 褥瘡
Part-2 新しい臨床栄養学の基礎知識
1 臨床栄養学の意義と目的(小松)
 1 臨床栄養学の目的
 2 栄養療法により期待される効果
 3 QOL(生活の質・人生の質)と臨床栄養
 4 ターミナルケア(終末期医療)
 5 医の倫理と生命倫理
 6 患者の権利
2 医療と臨床栄養(小松)
 1 チーム医療
 2 入院時食事療養制度と診療報酬(栄養管理実施料・栄養食事指導料)
 3 特定健診・特定保健指導の開始
3 栄養法(鷲澤・小松)
 1 栄養法の種類と選択
 2 経静脈栄養法
 3 経腸栄養法
 4 経口栄養法
4 福祉・介護と臨床栄養(小松・松月)
 1 障害の分類
 2 わが国の介護福祉制度と栄養ケア
5 栄養評価(小松)
 1 臨床栄養管理が重要になってきた背景と栄養士の役割
 2 医療の現場で発生しやすい低栄養とは
 3 栄養評価の目的
 4 臨床診査
 5 栄養評価指標として直接用いられる情報
 6 栄養評価の実際
 7 栄養状態のモニタリング
6 栄養管理計画のプランニング(小松・松月)
 1 栄養管理計画とは
 2 栄養管理計画の作成
 3 栄養教育
 4 他の医療職種やサービスとの連携
7 食物と薬剤の相互作用(佐藤)
 1 薬剤の吸収による効果と副作用
 2 食物と医薬品の相互作用の例
 3 薬剤が食物や栄養素摂取に与える影響
8 臨床検査(佐藤・本間)
 臨床検査の基礎知識
  1 末梢血液検査
  2 血液生化学検査
   2a 糖代謝
   2b 血清たんぱくと分画
   2c 血清脂質
   2d 電解質
   2e その他
  3 尿検査
  4 糞便検査
  5 細菌検査
  6 免疫学的検査
  7 臓器機能検査
   7a 腎機能検査
   7b 肝機能検査
   7c 膵機能検査
  8 腫瘍マーカー
  9 動脈血ガス分析
  10 生理学的検査

 付録
  1 おもな疾患の治療薬一覧
  2 略語一覧
  3 日本人の食事摂取基準(2010年版)
  4 静脈・経腸栄養剤一覧

 参考文献
 索引