やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第7版の序
 本書の前身となる『総論栄養学』が1988年秋に発行されて以来,『日本食品標準成分表』や『日本人の栄養所要量』などのたび重なる改定があったため,その都度,内容には手が加えられていたところである.また2002年に行われた管理栄養士・栄養士養成施設における教育カリキュラムの変更にともない,そのカリキュラム名に応じて書名を『基礎栄養学』と改題し,続く2003年に発表された管理栄養士国家試験出題基準に合わせて,本書中に新規の3項目が追加された.さらに2004年には,従来の『日本人の栄養所要量』が第7次の改定に当たって『日本人の食事摂取基準(2005年版)』として発表されたことにより,新基準に準拠して数多くの内容の改変がなされた.
 一方,このような経過の間には,参加願った執筆者のなかに所属や担当科目などの変動などが生じた方がたもおられたため,執筆陣の一部入れ替えが必要な状況となった.そこでこの機会に,出版当初から本書の執筆に携わり,かつ栄養学の教育・研究を着実に進めておられる気鋭の2教授に編集者として参加願ったうえで内容の検討を加え,本書を『新 基礎栄養学』第7版として改版することとしたのである.
 管理栄養士・栄養士養成の基準となるカリキュラムに手が加えられてきた過程では,健康のための栄養にとっては基礎となるべき食生活全般の把握のために必要な学問分野が少なくなってきたように思われる.したがって本書を学ぶに当たっては,単に栄養的な知識・技術を獲得するだけでなく,食糧の絶対的欠乏が健康の保持に致命的な影響を及ぼすこと,すなわち人々の健康・栄養に重大な結果をもたらすことに思いをいたし,食糧問題ひいては農業問題(水・畜・林業を含む)などをも含む食生活全般について,従来にも増して広く深く関心を抱くように努力していただきたいと考えている.
 本書の出版当初は予想もされなかった20年以上にわたる刊行を続けることができたことは,執筆された先生方はもちろん,本書の出版・改訂を通して長期にわたりかかわっていただいた医歯薬出版株式会社編集部の担当者各位の協力にもよるところが大きいと考えている.この機会に,改めて謝意を表しておきたい.

 2009年3月
 編者を代表して
 吉田 勉


はしがき
 健康を願う世人の指向が著しく高められた今日において,栄養に関する正しい知識を身につけることは,現代人の備えるべき常識となりつつある.しかし一方,栄養現象は個人の食生活と健康状態の経験に密接しているため,個人的体験が科学的裏付けなしに常識化することも起こりうる.したがって,今日ほど,栄養情報の取捨選択能力が求められる時代はないといえる.
 ほかの分野と同じく,栄養に関する知見も日進月歩ではあるが,栄養学を理解するために要求される基礎の大筋は,それほど大きな変動をしないものである.
 本書は,基礎栄養学の分野で活躍している研究者が,実験栄養学の最新の成果をとりこみながら,しかも化学方程式はあまり使わずに,食品のもつ栄養効果について学ぶ者に必要な事項を,重点的にまとめたものである.とくに,大学・短大・専門学校などの,家政学科・食物学科あるいは栄養士・管理栄養士課程において,“栄養学”というものを学ぶ学生に対して,必須不可欠な基礎を把握させ,かつ新鮮な興味を抱かせる教材でありたいというのが,執筆者共通の願いである.
 本書によって,客観性ある科学的な栄養学を身につけた学生や健康に関心をもつ人びとが,往々にして非科学的な各種の個人的体験を見直しかつ是正して,栄養学の内容をさらに深めることに役立てることは可能であろう.そのような意味で,本書はきわめて実践的な栄養学入門書でもある.
 最後に,本書の出版に当たり,種々な面で配慮頂いた医歯薬出版編集部に深謝する次第である.

 1988年7月
 編者記す
 第7版の序
 はしがき
第1章 栄養の概念 (石井孝彦)
 1 栄養の定義
  1 生命の維持 2 健康の保持 3 食物摂取 4 健康のための食生活 5 栄養素の分類 6 生体成分と食品の栄養成分・栄養価
 2 栄養と健康・疾患
  1 欠乏症 2 過剰症 3 生活習慣病 4 健康増進
 3 栄養学の歴史
  1 呼吸とエネルギー代謝の研究 2 三大栄養素の消化と利用 3 糖質の研究 4 脂質の研究 5 たんぱく質の研究 6 ビタミンの発見 7 無機質(ミネラル)の栄養 8 遺伝子など
第2章 三大栄養素の化学(構造) (渡邊令子,石井孝彦,馬場 修)
 1 炭水化物
  1 糖質 2 食物繊維
 2 脂質
  1 脂肪酸 2 トリアシルグリセロール(トリグリセリド,中性脂肪) 3 リン脂質 4 ステロール 5 リポたんぱく質(リポプロテイン) 6 糖脂質
 3 たんぱく質
  1 たんぱく質の定義 2 たんぱく質の分類 3 アミノ酸・ペプチド 4 たんぱく質の高次構造
第3章 摂食行動 (西条寿夫,小野武年)
 1 摂食行動の調節
  1 空腹・満腹感と食欲 2 食物報酬と味覚 3 脳の役割
 2 摂食の調節因子
  1 摂食にともなう体液性の変化 2 その他の摂食調節因子
 3 摂食中枢と満腹中枢
第4章 消化・吸収 (西村直道)
 1 消化・吸収の定義
  1 定義 2 基本概念 3 消化作用の分類
 2 消化器系の構造と機能
  1 消化器の構造 2 胆のう・膵臓 3 肝臓の構造と機能
 3 消化酵素
  1 酵素・補酵素・補因子(賦活剤) 2 消化酵素
 4 消化液と消化過程
  1 口腔 2 食道 3 胃 4 小腸 5 大腸
 5 管腔内消化の調節
  1 脳相・胃相・腸相 2 自律神経系による調節 3 消化管ホルモンによる調節
 6 吸収の機構
  1 膜の透過(受動輸送) 2 能動輸送
 7 栄養素別の消化・吸収
  1 糖質・食物繊維 2 脂質 3 たんぱく質 4 ビタミン 5 無機質
 8 吸収後の経路
  1 門脈系 2 リンパ系
 9 消化管内微生物相
  1 口腔内と胃内の細菌 2 腸内細菌 3 腸内細菌叢の安定性と変化 4 腸内細菌叢の働き 5 プレバイオティクス,プロバイオティクス
 10 生物学的利用度(有効性)
  1 消化吸収率 70 2 栄養価
第5章 炭水化物(糖質・食物繊維)の栄養 (渡邊令子)
 1 糖質の体内代謝
  1 グルコースを中心とする代謝 2 糖質代謝の臓器差 3 食後,食間,空腹時の糖質代謝
 2 血糖値とその調節
  1 血糖調節に関与するホルモン 1 血糖曲線 2 血糖調節における肝臓,筋肉,脂肪組織の役割
 3 糖質と他の栄養素との関係
  1 相互変換 2 糖質摂取によるたんぱく質節約作用 3 糖質摂取とビタミンB1必要量の増加 4 糖質の摂取量
 4 食物繊維
  1 食物繊維の生理機能 2 食物繊維の摂取量
第6章 脂質の栄養 (石井孝彦)
 1 脂質の体内代謝(食後・食間期)
 2 脂質の臓器間輸送と貯蔵エネルギーと 臓器別脂質代謝(臓器差)
  1 リポプロテイン(リポたんぱく質)の種類と機能 2 肝臓中の脂質代謝 3 脂肪細胞中の脂質代謝 4 脂肪組織細胞の役割 5 ホルモン感受性リパーゼと血中遊離脂肪酸 6 筋肉細胞中の脂質代謝 7 ケトン体の代謝(アセチルCoAの処理)
 3 コレステロール代謝の調節
  1 コレステロールの合成・輸送・蓄積とフィードバック調節 2 胆汁酸(コレステロールの排泄形態)とコレステロールの腸肝循環 3 ステロイドホルモンの合成と作用 994 コレステロールの食事摂取基準
 4 脂質の役割
  1 必須脂肪酸 2 脂肪酸由来の生理活性物質(プロスタグランジンなど) 3 他の栄養素との関係 4 脂質の過酸化と抗酸化物質(ビタミンA,E,Cなど)
 5 食事摂取基準(摂取する脂質の量と質の評価)
  1 脂肪エネルギー比率 2 n-6/n-3比(n-6系不飽和脂肪酸/n-3系不飽和脂肪酸比) 3 飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・ 多価不飽和脂肪酸比率
第7章 たんぱく質の栄養 (馬場 修)
 1 たんぱく質の体内代謝
  1 食後・食間・空腹時のたんぱく質代謝 2 たんぱく質代謝の臓器差 3 アルブミン 4 急速代謝回転たんぱく質(RTP)
 2 アミノ酸の臓器間輸送
  1 アミノ酸プール 2 .分岐鎖アミノ酸の特徴
 3 たんぱく質の栄養価
  1 必須(不可欠)アミノ酸 2 食品たんぱく質の栄養価評価
 4 アミノ酸の代謝
  1 アミノ酸の分解 2 アミノ酸の生合成
 5 他の栄養素との関係
   ●エネルギー代謝とたんぱく質
 6 たんぱく質の食事摂取基準
第8章 ビタミンの栄養 (中嶋洋子)
 1 ビタミンの定義と分類
 2 ビタミンの構造と機能
  1 脂溶性ビタミン 2 水溶性ビタミン
 3 ビタミン代謝と栄養学的機能
  1 レチノイド(ビタミンA)と活性型ビタミンDのホルモン様作用 2 抗酸化作用とビタミンC・ビタミンE・カロテノイド 3 補酵素 4 止血とビタミンK 5 貧血とビタミンB12・葉酸 6 糖質・脂質代謝とビオチン・パントテン酸
 4 ビタミンの生物学的利用度
  1 脂溶性ビタミンと脂質の消化吸収の共通性 2 水溶性ビタミンの組織飽和と尿中排泄 3 腸内細菌とビタミン 4 ビタミンB12吸収機構の特殊性
 5 他の栄養素との関係
  1 エネルギー代謝とビタミン 2 糖質代謝とビタミン 3 たんぱく質代謝とビタミン 4 カルシウム代謝とビタミン
第9章 無機質(ミネラル)の栄養 (篠田粧子)
 1 無機質の分類と栄養学的機能
  1 多量元素 2 微量元素 3 無機質の栄養学的機能
 2 硬組織と無機質
  1 硬組織を形成する無機質 2 カルシウム(Calcium;Ca) 3 リン(Phosphorus;P) 4 マグネシウム(Magnesium;Mg) 5 骨形成に影響を与える因子 6 硬組織とフッ素(Fluorine;F)
 3 生体機能の調節作用
  1 ナトリウム(Sodium;Na)と塩素(Chlorine;Cl) 2 カリウム(Potassium;K) 3 クロム(Chromium;Cr)
 4 酵素反応と無機質
  1 銅(Copper;Cu) 2 亜鉛(Zinc;Zn) 3 マンガン(Manganese;Mn) 4 セレン(Selenium;Se) 5 鉄(Iron;Fe) 6 モリブデン(Molybdenum;Mo) 7 ヨウ素(Iodine;I)
 5 鉄代謝と栄養
  1 鉄(Iron;Fe)の体内代謝と蓄積 2 ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収
 6 無機質の生物学的利用
 7 その他の元素
  1 イオウ(Sulfur;S) 2 コバルト(Cobalt;Co)
第10章 水の機能と出納 (篠田粧子)
 1 水の出納
  1 代謝水 2 不感蒸泄 3 不可避尿量 4 不可避水分摂取量
 2 電解質の代謝
  1 水・電解質・酸塩基平衡の調節 2 高血圧とナトリウム・カリウム
第11章 エネルギー (江口昭彦,雨海照祥)
 1 エネルギーの定義と分類
  1 エネルギーの定義 2 エネルギーの単位 3 カロリー
 2 食物のもつエネルギー
  1 物理的燃焼値と生理的燃焼値 2 熱量換算係数 3 食品のエネルギー計算 4 酒,その他のエネルギー
 3 エネルギー代謝の測定法
  1 直接測定法 2 間接測定法 3 燃焼したたんぱく質量 4 燃焼した糖質と脂肪の量 5 総熱量のもとめ方 6 最近の間接熱量測定法
 4 エネルギー消費量
  1 基礎代謝量 2 安静時代謝 3 睡眠時代謝 4 活動代謝 5 食事誘発性体熱産生(diet-induced thermogenesis: DIT) 6 生活時間調査
 5 推定エネルギー必要量
 6 臓器別エネルギー代謝
  1 筋肉 2 肝臓 3 脳 4 脂肪組織
第12章 遺伝子発現と栄養 (原 一雄)
 1 遺伝形質と栄養の相互作用
  1 個人差とヒトゲノム 2 栄養に対する反応の個人差と遺伝 3 生活習慣病と遺伝子多型
 2 後天的遺伝子変異と食品成分
  1 がんのイニシエーションとプロモーション 2 栄養素とイニシエーション・プロモーション

 コラム
  脂質と脂肪内シグナル伝達
  カルシウム不足はイライラの原因?
  生命にかかわる水の欠乏
  アルカリ性食品と酸性食品
  コエンザイムQ(coenzyme Q)
 付表
 索引