やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第6版改訂にあたって

 本書は著者島薗順雄先生の生前のお考えに従い,第5版改訂以降最新の資料への差し替えおよび内容の修正を加えて補訂してまいりました.今回厚生省から「第六次改定日本人の栄養所要量」が発表され,新しい考え方を取り入れた「食事摂取基準」が示されたので本書も新たに第6版を刊行することになりました.
 「第六次改定日本人の栄養所要量」が従来の栄養所要量と大きく異なる点は,世界の流れに沿うかたちで国際的標準化と生活習慣病の予防対策への対応が基本的な考え方として取り入れられていることであります.人が必要な栄養素全体に対して栄養素欠乏症を予防する観点からその所要量と,過剰摂取による健康障害を予防する観点から許容摂取上限値が示されています.本書の改訂にあたっては,これらの考え方に沿って数値および文章を訂正しました.さらに新しい資料をインターネットからダウンロードして加え,また時代の流れに従い日本人の日常生活も変化してきており,それに伴って生じる現代社会での新しい栄養学上の問題点にもふれました.
 今回は大幅な改訂となりましたので,内容に不備な点もあるかと思いますが,お気づきの箇所はぜひご教示をいただきたいと存じます.また資料の収集にあたりご協力いただきました関係者各位に厚くお礼申し上げます.
 2000年1月 八杉悦子

はじめに

 本書は,ヒトが種々の生活条件のもとにある場合の栄養について考究したものであります.こういう領域は,栄養士・管理栄養士の養成のための教育では「特殊栄養学」という科目で取り扱われることになっていますので,本書はその教科書または参考書として役に立つように執筆しました.本書の特長は,次のような点であります.
 1)全編をひとりの著者が執筆し,各章の間の連絡やバランスに注意を払ったこと
 2)関連する分野との連絡をよくするよう,内容を工夫したこと,たとえば栄養学総論,栄養生理学,病態栄養学,公衆栄養学などと内容の重複をいとわず密接な連絡をはかったこと
 3)最も新しい資料を利用するようにし,内容にも最新の知識にもとづく記述を盛りこんだこと
 4)要点を簡潔に記すようにし,図表を豊富にして,容易に理解されるようにつとめたこと
 などであります.本書を参考書として用いられる場合には,全編を通読することにより栄養学の重要な事項の知識が獲得されるよう構成してありますが,教科書として授業に用いられる場合には,他の科目と重複する部分などを適当に取捨し調節していただくようにお願いします.
 著者はかつて栄養士・管理栄養士養成教育の検討に加わったことがあり,最近は女子大学や女子短期大学の学生に対し特殊栄養学を講ずること10年近くに及んでいますので,それらの経験から本書を執筆することを計画したのであります.現在,特殊栄養学の教科書として幾種類もの立派な書物がありますので,著者も今日までそれらの教科書を使って授業を続けてきました.その間にそれらの書物から吸収した養分を自分なりに整理して本書の内容としました.また関連する領域の専門書から重要な資料を入手したり考え方を学ばせていただきました.それらの書名は参考書として本書の巻末に掲げてありますが,ここにそれらの書物の著者に対し厚くお礼を申上げます.
 特殊栄養学は取り扱う内容が広い範囲にわたりますので,ひとりの著者が全編を執筆するというようなことは,はじめての試みであります.したがって本書執筆にあたって種々の分野の専門の方々から直接教えていただいた点も少なくありません.これらの方々に対しても心から感謝申上げますとともに,本書について訂正や加筆を必要とする点がありましたら是非ご教示いただきますよう,お願い申上げます.また読者からも何事によらず不備の点に気づかれた場合,ご指摘下さいますようお願い申上げます.
 1983年12月 島薗順雄
第6版改訂にあたって
はじめに

Chapter1 序説………page 1
栄養学各論の目的…1
 栄養学各論の目的と対象 1 栄養学各論の他分野との関係 1
日本人の人口構成…2
 日本の人口 2 人口構造と動態 2 死因と余命 3 人口分布,世帯,職業 4
日本人の体位…5
 成長期の体位 5 体位基準値 5
3大栄養素の意義…6
 エネルギー 6 糖質 9 脂質 9 たんぱく質 10 食物繊維 11
無機質・ビタミンの栄養学的意義…11
 無機質(ミネラル) 11 脂溶性ビタミン 12 水溶性ビタミン 13
栄養所要量…13
 栄養素の平均必要量と所要量 13 エネルギー 16 たんぱく質 17 無機質 17 ビタミン 18 食生活指針 20

Chapter 2 母性栄養………page 21
妊娠の生理学…21
 妊娠の経過 21 つわりと悪阻 22 母体の変化 23
妊娠の栄養学…24
 代謝の亢進 24 ビタミンの意義 26
妊婦の栄養所要量…27
 エネルギー 27 たんぱく質 27 無機質 29 ビタミン 29
妊婦の食生活…30
 食生活欠陥の原因と対策 30
異常妊娠…32
 妊娠悪阻 32 妊娠中毒症 32 流産・早産 32
分娩・産褥と栄養…33
 分娩の経過と食事 33 産褥期と栄養 33
授乳期の生理と栄養…34
 授乳期と栄養 34 授乳障害 34
授乳期の栄養所要量…35
 エネルギー 35 たんぱく質 36 無機質 36 ビタミン 37

Chapter 3 乳幼児の栄養………page 39
新生児・未熟児と栄養…39
 新生児と栄養 39 未熟児と栄養 40
乳幼児の成長…41
 乳幼児の体位 41 成長の標準値との比較 42
乳幼児の生理学的発達…44
 化骨と生歯 44 皮下脂肪 46 呼吸と循環 46 消化 46 糞便 47 水分の代謝 48 運動 48
乳汁の種類とその比較…48
 人乳と牛乳 48 粉乳 50 その他の乳製品 51
母乳栄養と人工栄養…51
 母乳栄養 51 粉乳による人工栄養 53 牛乳による人工栄養 54 混合栄養 54 母乳栄養と人工栄養との比較 54
離乳…55
 離乳の必要性 55 離乳の実施 55 離乳期の食物 57
幼児期の栄養…58
 幼児期の食事 58 幼児期栄養の注意点 59
乳幼児の栄養所要量…60
 エネルギー 60 ビタミン 62
乳幼児の栄養異常…63
 消化器の障害 63 栄養の障害 63 先天性代謝異常症とその他の異常 64 アレルギーと不耐症 65

Chapter 4 学童期・青春期の栄養………page 67
学童期・青春期の発育…67
 体位,体力 67 各器官の発達 70
学童期・青春期の栄養…72
 エネルギー 72 3大栄養素 72 無機質 72 ビタミン 73 食習慣の規制 73
学童期・青春期の栄養所要量…73
 エネルギー 73 たんぱく質 74 無機質 74 ビタミン 74
学童期・青春期の栄養障害…75
 肥満 75
学校給食…80
 学校給食の歴史 80 学校給食の目標 81 栄養の基準 82

Chapter 5 中年期・老年期の栄養………page 85
加齢と老化…85
 老化の原因 85 中年期・老年期の区分と特徴 86
老化の生理学…87
 諸臓器の萎縮 87 諸臓器の生理的機能の変化 87
中年期・老年期の栄養と栄養所要量…90
 エネルギー 90 脂質 90 たんぱく質 91 アルコール 91 食物繊維 91 無機質 92 脂溶性ビタミン 93 水溶性ビタミン 93 長寿者の食生活 94
生活習慣病の予防と食生活…94
 肥満 94 高血圧 95 動脈硬化 96 脳卒中(脳血管疾患) 97 虚血性心疾患 97 癌 98 糖尿病 101 脂肪肝 101 骨粗鬆症 102 喪失歯 102

Chapter 6 生活活動と栄養………page 103
生活活動エネルギーの測定…103
 直接エネルギー測定法 103 間接エネルギー測定法 104 酸素負債 105 酸素需要量と運動強度 107
生活活動とエネルギー所要量…107
 エネルギー所要量と生活活動強度 107 脳機能とエネルギー代謝 109 日本人の身体活動量の低下と付加運動量の目安 110
生活活動と栄養素…110
 糖質と脂肪 110 たんぱく質 111 無機質 111 ビタミン 112
疲労と栄養…112
 疲労の原因 112 疲労の徴候と分類 112 疲労の判定法 113 疲労の防止・回復と栄養 113
スポーツと栄養 115

Chapter 7 異常生活条件と栄養………page 117
ストレス反応と栄養…117
 ストレスと汎適応症候群 117 ストレスの種類 118 ストレスと栄養 118
低温・高温環境と栄養…118
 低温に対する反応 118 低温環境と栄養 119 体温の低下凍傷と凍瘡 119 暑熱に対する反応 119 発汗 120 高体温熱射病と日射病 121 基礎代謝の季節変動 121
低圧環境と栄養…121
 低圧に対する反応 121 低圧下の食生活 122 登山食と航空食 123
無重量環境(宇宙環境)と栄養…123
 無重量環境の人体への影響 123 宇宙船の食糧 125
高圧環境(潜水)と栄養…126
 高圧の人体への影響 126 高圧混合ガス 126 減圧症 127 飽和潜水と食生活 127
日内リズムと栄養…128
 人体と日内リズム 128 日内リズムの変動 128 食生活のリズム 128
生体防御と栄養…129
 人体の防御機構 129 防御機構と栄養 131 アレルギー 131
非経口栄養…132
 経管栄養 132 静脈栄養(高カロリー輸液法) 134

付表…136
付表1 日常生活の動作強度の目安…136
付表2 体重(kg)だけを用いた基礎代謝の推定式…137
付表3〜7 肥満とやせの判定表…137
参考文献…142
索引…145