やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 食べることに関する情報は,マスメディアをとおしていまや過多の現象にある.直接的に触れることのできないメディアの世界からみたり,誰か他人の経験したことを聞いたりしたのでは,理解して受け入れられるものが一面的になりやすい.とりわけ,栄養士・管理栄養士,家庭科教員などを目指す人たちは,自分で直接,食べ物の味やにおい,温度,歯触りなどを体得し理解するとともに,調理過程で起きている現象やおいしさの秘訣を裏づける理論を学ぶことが大切である.
 近年,日々の食事は簡便化が進み,外食や中食,調理済み食品などですませることが可能になり,調理技術を駆使しなくても多様な食事ができるようになった.さらに,外食は盛りつけ,配膳や後片づけなどの手間までを不要にしている.しかし,これらに依存しすぎると,食べる行為は目的を意識的にとらえられなくなるばかりか,人間らしい食べ方さえも見失ってしまうであろう.
 21世紀の調理学は,テクノロジーの世紀であると同時に環境問題をも考慮して,国際的には豊かさの格差を縮めた,新しい形の食生活への道を構築していくものでありたいと考える.とくに,情報のグローバル化は,個々の地域文化を抑圧していくことにもなりかねないが,日本の気候風土を背景とした食文化の独自性を尊重し,伝統的な日本料理の秘伝やコツは,特別な範囲の人たちに限定せずに広く情報公開することによって共有財産として蘇らせ,後世の人たちに継承してゆきたいものである.
 本書が栄養士・管理栄養士,家庭科教員などを目指す人たちの学びの場で活用され,より一層学習意欲を高めるために役立つことを心より願うものである.
 終わりに,本書出版の機会を与えていただき,多大なご助力をいただいた医歯薬出版株式会社ならびに編集部に感謝の意を表する.
 2001年2月 著者一同
序……iii

序章 調理学の意義……1
 1.調理学の今日的意義……1
 2.調理学と食文化……1
 3.調理と環境……2
 4.調理学と食品産業の発展……3
1 食事計画……5
 1.献立とは……5
   1)食事の目的と種類……6
   2)献立づくりの考え方……6
 2.料理様式と献立……7
   1)日本料理様式……8
   2)西洋料理様式……9
   3)中国料理様式……9
   4)その他……11
 3.食品構成と献立……11
 4.食味構成と献立……13
 5.献立作成の手順……13
   1)日常食……13
   2)供応・行事の食事……14
 6.供食,喫食……14
   1)日本料理様式にみる演出……14
   2)西洋料理様式にみる演出……15
   3)中国料理様式にみる演出……15
2 食べ物のおいしさ……17
 1.調味料とその特性……17
   1)塩味料……17
   (1)塩17(2)しょうゆ19(3)みそ19
   2)酸味料,甘味料……20
   (1)食酢20(2)砂糖…21
   3)うま味料,風味料……21
   (1)天然のうま味料21(2)うま味調味料,風味調味料21
   4)その他……22
   (1)酒類22(2)油脂22
 2.香辛料とその特性……23
 3.おいしさの要因……24
   1)おいしさの化学的要因……24
   (1)化学的な味24(2)味の知覚28(3)味の閾値28(4)味の相互作用29(5)におい30
   2)おいしさの物理的要因……32
   (1)温度32(2)テクスチャー33(3)外観,音34
   3)その他の要因……36
   (1)生理的状態36(2)喫食環境36(3)食文化37
 4.味の評価……37
   1)官能検査による評価法……37
   2)理化学的評価法……38
   (1)化学的測定による評価法38(2)物理的測定による評価法39
3 調理操作……41
 1.調理操作の種類……41
 2.非加熱調理操作……41
   1)計量・計測……41
   (1)食品の計量41(2)温度・時間の計測41
   2)洗浄……42
   3)浸漬……42
   (1)吸水,膨潤,軟化42(2)不味成分の抽出42(3)変色防止42(4)塩抜き(塩出し)42(5)香味成分の抽出43(6)調味料の浸透43(7)テクスチャーの向上43
   4)切断……43
   5)粉砕,磨砕……43
   6)混合,撹拌,混捏……44
   7)圧搾,ろ過,裏ごし……44
   8)冷却……45
   9)凍結(フリージング),解凍……45
 3.加熱調理操作……47
   1)湿式加熱……47
   (1)煮る47(2)茹でる49(3)炊く50(4)蒸す50
   2)乾式加熱……52
   (1)焼く52(2)炒める53(3)揚げる54
   3)マイクロ波加熱(誘電加熱,電子レンジ加熱)……56
   (1)加熱方法の特徴56(2)マイクロ波による加熱調理の特徴および操作の要点57
4 食品の調理性……59
植物性食品
 1.穀類……59
  米
   1)米の種類と特徴……59
   2)米の調理……60
   (1)うるち米60(2)もち米63(3)米粉…64
  小麦粉
   1)小麦粉の種類と特徴……64
   (1)グルテンの形成64(2)グルテンの加熱65(3)小麦粉生地の物性65(4)ドウとバッター66(5)添加材料の影響66(6)膨化調理67
   2)小麦粉の調理……69
   (1)スポンジケーキとパウンドケーキ69(2)パイとシュー69(3)ビスケットとクッキー69(4)パン69(5)めん69(6)ルウ70(7)てんぷらの衣70
 2.いも類……71
   1)いもの種類と特徴……71
   (1)じゃがいも71(2)さつまいも71(3)さといも72(4)やまいも73
   2)いも類の調理……73
   (1)じゃがいも73(2)さつまいも75
 3.豆類……75
   1)豆類の種類と特徴……75
   (1)豆類の吸水性75(2)豆類の加熱による変性76
   2)豆類の調理……77
   (1)煮豆77(2)あん77(3)豆腐77(4)凍り豆腐77(5)ゆば(湯葉)78
 4.野菜類……78
   1)野菜の種類と特徴……78
   (1)野菜のあく78(2)野菜の色78(3)野菜の香り81(4)酵素作用による変化81
   2)野菜類の調理……81
   (1)生食調理81(2)加熱調理82
 5.果実類……83
   1)果実の種類と特徴……83
   (1)果実の色84(2)果実の味84(3)果実の香り84
   2)果実の調理……84
   (1)生食調理84(2)加熱調理84
 6.種実類……85
   1)種実の種類と特徴……85
   2)種実の調理……85
   (1)ごま85(2)くるみ,落花生,アーモンド85
 7.海藻類……85
   1)海藻類の種類と特徴……85
   2)海藻類の調理……85
   (1)こんぶ85(2)わかめ86(3)ひじき87(4)のり87
 8.きのこ類……87
   1)きのこ類の種類と特徴……87
   2)きのこ類の調理……87
   (1)しいたけ87(2)マッシュルーム88(3)まつたけ88(4)きくらげ88
 動物性食品
 9.肉類……89
   1)肉類の種類と特徴……89
   (1)食肉の組織89(2)食肉の成分89(3)食肉の死後硬直91
   (4)食肉の熟成…91
   2)肉類の調理性……91
   (1)肉の色91(2)肉の収縮92(3)肉の軟化92(4)肉の香り93
   3)肉類の調理……93
   (1)部位別調理93(2)その他93
 10.魚介類……95
   1)魚介類の種類と特徴……95
   (1)魚介類の筋肉組織,構造95(2)魚介類の成分95
   2)魚介類の調理性……96
   (1)魚の鮮度96(2)魚肉と調味料97(3)魚介類の加熱98
   3)魚介類の調理……98
 11.卵……99
   1)卵の種類と特徴……99
   (1)卵の構造99(2)卵の成分100(3)卵の鮮度100
   2)卵の調理性……101
   (1)熱凝固性101(2)起泡性103(3)乳化性103(4)その他の調理性104
   3)卵の調理……104
 12.牛乳と乳製品……104
   1)牛乳と乳製品の種類と特徴……104
   2)牛乳と乳製品の調理性……105
   (1)牛乳105(2)クリーム106(3)バター107(4)チーズ107
 成分抽出素材
 13.油脂類……108
   1)油脂の種類と特徴……108
   (1)植物性油脂108(2)動物性油脂109(3)加工脂109
   2)油脂の調理性……109
   (1)高温の熱媒体109(2)風味,食感への影響109(3)乳化性110(4)可塑性110(5)ショートニング性110(6)クリーミング性110(7)疎水性111
   3)油脂の調理……111
   4)油脂の劣化……111
 14.でんぷん……112
   1)でんぷんの種類と特徴……112
   2)でんぷんの調理性……113
   (1)でんぷんの糊化と糊化でんぷんの性状113(2)でんぷんの老化114(3)でんぷんのデキストリン化115
   3)でんぷんの調理……115
   (1)粉末でんぷんとしての使用(吸水性,粘性の利用)115(2)低濃度(0.5〜6%)での使用(粘性の利用)115(3)高濃度(8〜25%)での使用(ゲル化性の利用)115
 15.砂糖……116
   1)砂糖の種類と特徴……116
   2)砂糖の調理性……117
   (1)呈味性117(2)親水性,溶解性,保水性117(3)加熱による変化117(4)その他117
   3)砂糖の調理……118
   (1)シロップ118(2)フォンダン,砂糖衣118(3)抜糸118(4)カラメル…119
 16.ゲル化素材……119
   1)ゲル化素材の種類と特徴……119
   2)ゲル化素材の調理性……120
   (1)ゼラチン120(2)寒天121(3)カラギーナン121(4)ペクチン121
   3)ゼラチン・寒天の調理……121
   (1)ゼラチン121(2)寒天122
 17.たんぱく質素材……123
   1)大豆たんぱく質……123
   2)小麦たんぱく質……123
 18.その他の成分抽出素材……124
5 調理の設備・器具・エネルギー源……125
 1.調理の設備……125
   1)厨房設備……125
   2)真空低温調理……125
   3)クックチルシステム……125
 2.調理器具……126
   1)調理用計量器具……126
   2)非加熱用器具類……126
   3)加熱用器具類……126
   (1)熱源機器126(2)熱源内蔵機器134(3)鍋類137
   4)食器・容器……138
 3.エネルギー源……139
   1)ガス……139
   (1)都市ガス139(2)プロパンガス139(3)天然ガス139
   2)電気……139
 4.調理の後始末……141
   1)食器の後始末……141
   2)調理器具の後始末……141
   3)台所用洗剤……141
   4)残菜・ごみ・廃油の処理……142
   (1)残菜・ごみの分別142(2)廃油の処理142

COLUMNS
1 調理と酵素 1―辛味を増強させる酵素の働き……27
2 コロイドと調理 1……32
3 食品のガラス化……33
4 調理と酵素 2―色を悪くさせる酵素……36
5 テクスチャーと食品成分……38
6 調理と酵素 3―納豆のうま味……75
7 色と調理……79
8 調理と酵素 4―栄養素の減少にかかわる酵素……81
9 浸透圧と調理……83
10 調理と酵素 5―たんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)……84
11 調理と酵素 6―生じめ,活魚……98
12 コロイドと調理 2―泡……102
13 コロイドと調理 3―乳化……110
14 コロイドと調理 4―ゲル……119

参考図書……143
索引……145