やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 序
 生化学は,生命の構造と機能に関与する重要な物質について学習する.これらの物質の働きを知ることにより,生命の正常および病的な状態を分子レベルで理解することを目的としている.しかしながら,生体構成成分の性質やそれらが示す化学反応との関わりを理解するには,講義のみでは不十分であり,各自が実験を通して生体成分に触れることが重要である.
 コアカリキュラムの導入以降,歯科,医科をとりまく環境は目まぐるしく変動し,講座の統廃合,再編成など,生化学をとりまく教育環境にも影響を及ぼしている.このような状況の中で,「歯学生に視覚的に生化学として何を教えなくてはならないか」「生化学を苦手科目と感じている学生に“わかりやすくかつ興味を抱かせる実験内容”をどのように構築するか」という問題は歯学部および歯科大学で生化学実習に携わる教官の共通した悩みである.
 本書は2002年に各大学の生化学実習に可能な限り対応できるように,編集者の堀内登(当時奥羽大学教授),加藤節子(当時明海大学教授),深江允(当時鶴見大学教授),根本孝幸(当時長崎大学大学院教授),佐藤詔子(当時岩手医科大学教授)の5名の先生方によって上梓された.それ以来20年の月日が経過し,生化学は長足の進歩を遂げた.本書はその進歩を取り込みながら従来の基礎生化学実習内容から,口腔生化学実習,さらには最近の遺伝子工学操作をふまえた分子生物学実験まで含んでおり,各大学の実習内容や設備に応じて,本書を活用していただければと考える.
 生化学は,歯科医師においてもその重要性がますます増しており,特にしっかりとした生化学的知識に基づいて臨床生化学検査結果を判断できるようになることが求められている.そのためにも学生時代に実験を通して基礎固めを行うことが重要である.執筆者一同,本書がそのために役立つことを願うとともに,本書を利用する読者の皆様のご意見,ご批判を仰ぎながら,よりよきものにしていきたいと考えている.
 最後に,出版にあたって御協力いただいた医歯薬出版株式会社の方々に深謝する.とくに,本書の出版計画より,献身的にお世話いただいた川村幸裕氏に心からお礼を述べる.
 2023年3月
 山越康雄



 2002年10月は,わが国の科学の歴史にとって記念すべきときとなった.二人の日本人が同時にノーベル賞を受賞することになったからである.小柴昌俊氏はニュートリノの分野で物理学賞を,田中耕一氏は生化学の分野で化学賞を受賞された.お二人の偉大な科学者に心から祝福するとともに,とりわけ田中氏の受賞は,生化学の研究と教育に携わるわれわれにとっても大きな意味をもとう.
 変革の時代にあって,歯科,医科をとりまく環境は激変しつつある.コアカリキュラムの導入や講座の統廃合,再編成など,生化学をとりまく教育環境も変化の波に曝されないわけにはいかない.各大学での生化学の実習内容は多岐にわたっており,これらを一冊の実習書にもとめることはきわめて困難である.執筆の先生方の御努力と御協力を得て,試行錯誤を繰り返し,最近ようやくその内容も一応の確立をみるに至ったので,実習書として上梓することができた.
 本書は各大学の実習内容にできる限り対応できるようにしたが,まだまだ不十分な点はあると思う.従来の生化学実習内容から,最近の遺伝子操作の実験まで含まれており,各大学の実習内容,設備に応じて,本書を利用していただければと考えている.
 最後に,出版にあたって御協力いただいた牧野和彦氏をはじめ医歯薬出版(株)の方々に深謝する.とくに,本書の出版計画のときから,献身的にお世話いただいた元社員の渡辺完氏に心からのお礼を述べる.
 2002年10月 郡山にて
 堀内 登
 実習についての一般的注意事項と機器の使用法(堀内 登・坂東健二郎)
第1章 糖の定性反応
 (斉藤まり・山越康雄)
 INTRODUCTION
 I 糖の定性反応
第2章 タンパク質の定量
 (坂東健二郎・加藤節子)
 INTRODUCTION
 I 紫外吸収法(UV法)
 II Coomassie Brilliant Blue法(Bradford法)
 III Biuret法
 IV Lowry法
第3章 タンパク質の分画(血液タンパク質に関する実験)
 (山越康雄)
 INTRODUCTION
 I 血漿(血清)タンパク質の分画
 II 血漿(血清)タンパク質の電気泳動
 III 赤血球とヘモグロビンに関する実験
第4章 DNAの実験
 INTRODUCTION(藤本健吾)
 I ラット肝臓を用いたDNAの抽出(藤本健吾)
 II 分光光度計を用いたDNA濃度の推定(藤本健吾)
 III 大腸菌を用いた実験(唐木田丈夫)
 IV DNAの電気泳動と制限酵素地図(藤本健吾・唐木田丈夫)
第5章 ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による遺伝子実験
 INTRODUCTION(藤本健吾)
 I 毛髪からのDNA抽出とPCR法による増幅およびアガロース電気泳動による分離(藤本健吾・友村明人)
 II 赤色蛍光タンパク質遺伝子の増幅(唐木田丈夫・山越康雄)
第6章 酵素反応速度
 (山本竜司・大熊理紗子・根本孝幸)
 INTRODUCTION
 I アルカリホスファターゼ(ALP)
第7章 硬組織に関する実験
 (山本竜司・大熊理紗子・山越康雄)
 INTRODUCTION
 I カルシウム(Ca)の定量(MXB法)
 II コラーゲンに関する実験
第8章 唾液とプラークに関する実験
 INTRODUCTION
 I 唾液タンパク質のSDS電気泳動と免疫化学法(稲葉明美)
 II 唾液,プラークの乳酸産生能(酵素法による乳酸の定量)(山本竜司・大熊理紗子)

 索引