やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版の序

 20世紀後半から21世紀にかけては,科学技術の進歩が著しい時代とされています.その間,保存修復学の領域でも関連する全身ならびに口腔諸器官の形態,機能の解明,齲蝕をはじめとする硬組織疾患の病因,病態,その予防法,治療法の整理とともに,新しい材料の開発とそれに伴う新技法の考案など,保存修復学の概念の修正を要するような変革が続いています.
 一方,社会環境も少子化,高齢化,核家族化など,従来の保存修復学が育ってきた土壌が大きく変動しています.すなわち,近代歯科医学のベースとしてその中心的役割を担ってきた保存修復学も,齲蝕治療学としての狭い分担範囲から精神医学,行動科学を含めた大きな医学・医療の一翼を担う学問として生まれ変わることを要求されています.また,歯科医学教育の面からも『歯科医学教授要綱』の5年ぶりの改訂,『歯科医師国家試験出題基準』の3回目の改訂,および『歯科医学教授要綱―臨床実習編―』の発刊など,社会の要請を受けた指針が示されています.
 本書は,保存修復学の標準的な教科書として,昭和55年に初版が発行されました.その後,昭和60年に第2版,平成5年に第3版と改訂が行われ,そのつど,保存修復学の基準を示す教科書として迎えられてきました.
 今般,保存修復学を取り巻くこのような学問背景のもとに,医歯薬出版株式会社から,これらの教育指針に準拠し,学問の進歩に即した改訂が提案されました.そこでこの機会に全国の歯科大学,歯学部の教育現場におられる多くの先生方に分担執筆をお願いいたしましたところご快諾いただき,本書の出版に至りました.
 本書は,歯科学生の標準的教科書という基本方針のもとに執筆されてきた従来の『保存修復学』の精神を受け継ぎ,その間に生まれた新しい材料,技法や医療人として必要な人間科学的側面についてもできうる限り収録し,新しい保存修復学についての理解を深められるような企画,編集作業を行ったものであります.今後,読者各位のご意見,ご批判を頂戴できれば幸いです.
 最後に,お忙しいなか分担執筆をお引き受けくださった先生方ならびに編集に尽力された医歯薬出版株式会社の担当者に感謝の意を表します.
 平成12年3月 編者一同

第3版の序

 1980年5月に本書の第1版が出版され,1985年11月に新教授要綱にのっとり,第2版が出版された.その間,修復技術が急速に進歩し,保存修復の内容もさらに充実をはからなければならない時機に到達した.
 出版以来13年を経過し,著者の交替も多く,各歯科大学,歯学部で教育の現場に携わっておられる可能な限り多くの教授に分担執筆をお願いした次第である.
 本書では,保存修復の基本原則を踏まえながら,新しい修復技術について詳述し,保存修復学の将来を見据えながら編集作業を行った.用語についても合議を重ね,かなり統一をはかったつもりである.
 現在,保存修復分野の進歩発展は目ざましく,今後読者各位の御叱正を賜り,さらに改善をはかりたいと念じている.
 おわりに,分担執筆に御協力いただいた各位ならびに本書の編集にあたり,終始絶大な努力をはらわれた医歯薬出版株式会社に感謝の意を表する.
 平成5年2月 勝山 茂 石川達也 小野瀬英雄

第2版の序

 昭和55年5月に,第1版が出版されて6カ年が過ぎた.この間“保存修復学”とくに各論の項目については,著しい発展がみられるようになった.すなわち,いくつかの新製品の登場をはじめとする歯科材料と技術の改善,進歩がそれである.加えて,旧版のままではかなり不都合な点も散見される.
 そこで,このたびの改訂にあたっては,主として以下のような不備な事項を補うこととした.
 まず,用語については,昭和60年3月に発行された新教授要綱にのっとり統一をはかった.
 次に,現在ではさほど重要ではないと思われる事項については,簡略化ないし一部を削除した.
 さらに,新製品,新技術などについては追加,詳述した.
 その他付図,グラフなども一部修正・整理した.
 歯学は,今後ますます急速に発展することは明らかである.したがって,本書もそれに沿った内容の充実を期し,今後も各位のお役に立つことを切に願っている次第である.
 昭和60年10月 渡邊冨士夫 井上時雄



 この“保存修復学”は,歯科学生の教科書として,かつ一般臨床家をも対象として企画されたものである.
 保存修復学の歯科臨床における重要性については,いワさら述べるまでもないことであろう.そして保存修復学に関する学問と技術の進歩は,きわめて急速であり,広範囲となり,しかも複雑化しつつある.それにともない,多くの研究業績が相ついで発表されているが,それらが評価され,あるいは定説となるためには,長い年月と数多くの臨床的な実証が必要である.教科書としてとり入れる限度についてのむずかしさがここにある.
 そこで,本書は,日本の歯科大学や歯学部において,新しい情報を吸収消化し,独自の教育をされている保存修復学担当の教授により分担執筆されたものである.
 内容は可及的重複を避け,系統的に,しかも最大公約数的に平易に記載し,理解を深めるようにつとめたつもりである.
 本書が多くの学生諸君や臨床家に少しでも役立つことができれば幸いであり,そのためにも今後さらに内容の充実を期する次第である.
 最後に,分担執筆に協力いただいた各位ならびに本書の編集にあたり,終始絶大な努力を惜しまなかった医歯薬出版株式会社に感謝の意を表する.
 昭和55年4月 渡邊冨士夫 井上時雄
第1章 保存修復学概説……1
 1.保存修復学の概念と目的……小野瀬英雄……1
  A.保存修復学の概念……1
  B.保存修復学の目的……1
 2.保存修復学の歴史……2
  A.修復材に関する歴史……3
  B.切削器械に関する歴史……4
 3.ひとの身体―正常―……5
  歯・周囲組織の構造と口腔の機能……井上廣……5
  A.歯の構造……5
  B.歯周組織……11
  C.咬合面・接触点・空隙……12
  D.有歯顎の咬合……腰原 好……13
  E.咀嚼と嚥下……森本俊文……16
 4.ひとの身体―異常―……19
  硬組織疾患,歯の発育異常および硬組織関連疾患……池見宅司……19
  A.齲蝕……19
  B.摩耗症……21
  C.咬耗症……22
  D.侵蝕症……22
  E.エナメル質形成不全……22
  F.歯の破折……23
  G.奇形歯……24
  H.変色歯……25
  I.無髄歯……26
  J.知覚過敏……26
  K.歯髄疾患……恵比須繁之・竹重文雄……27
  L.歯周疾患……27
  M.咬合異常……腰原好……28
 5.保存修復の適応症と禁忌症……久保田稔・寺田林太郎……30
  A.適応症……30
  B.禁忌症……30
 6.保存修復の種類……30
  A.修復物の製作方法による分類……30
  B.材料の技術的特性による分類……31
  C.材料の数による分類……31
 7.修復材料の一般的性質……31
  A.所要性質……31
  B.理工学的性質……31
 8.修復材料の選択基準……33
  A.患者の状態および術者側の条件による選択……33
  B.修復部位による選択……33
 9.処置ステップの概要……河野篤……33
  A.診療のステップ……33
  B.前準備処置……33
  C.齲蝕病巣の除去・窩洞形成……35
  D.歯髄保護……36
  E.欠損修復……36
  F.メインテナンス……37
第2章 患者の診かた……39
 1.診療設備……山本宏治・堀田正人……39
  A.歯科用治療椅子……39
  B.歯科用ユニット……39
  C.椅子……40
  D.歯科用キャビネット……41
  E.その他(補助診療用具)……41
 2.診療姿勢……42
  A.術者・患者の姿勢……42
  B.視野の確保……42
  C.ハンドピースの把持……43
  D.手指の固定……44
 3.診査,診断,検査……小野瀬英雄……45
  A.患者の癒し方……45
  B.医療面接……46
  C.病歴の取り方……46
 4.診査法……恵比須繁之・竹重文雄……47
  A.診査用器具……47
  B.診査法……48
 5.診査に必要な基礎知識……久保田稔・寺田林太郎……51
  A.歯面の表示法……51
  B.歯式……51
 6.齲蝕の病因と病態……小野瀬英雄……52
  A.齲蝕の病因論……52
  B.齲蝕の予知……54
  C.プラークコントロール……54
  D.齲蝕病巣の進行……58
  E.齲蝕病巣の構造……58
 7.齲蝕の分類とその表記……60
  A.齲蝕の分類……60
  B.齲蝕の表記……62
第3章 患者の治しかた……63
 1.治療計画……恵比須繁之・竹重文雄……63
  A.治療の緊急性……63
  B.口腔環境……63
  C.矯正,補綴処置との関連……64
  D.全身状態……64
  E.患者の社会的事情……65
  F.治療期間と処置方式……65
 2.治療方針……65
 3.緊急処置……65
 4.齲蝕の処置……田上順次……66
  A.エナメル質齲蝕の処置……66
  B.象牙質齲蝕の処置……68
 5.硬組織の切削……千田彰……74
  A.手用切削器具……75
  B.回転切削器具……77
  C.レーザー……82
  D.エアブレーシブ……84
  E.音波切削……84
  F.化学的溶解または薬液溶解……85
 6.窩洞……松田浩一・小野瀬英雄……85
  A.窩洞の分類……85
  B.窩洞の構成と各部の名称……89
 7.窩洞形態に関する諸条件……91
  A.窩洞外形……92
  B.保持形態……97
  C.抵抗形態……102
  D.便宜形態……103
  E.窩縁形態……103
  F.窩洞の清掃……105
 8.歯髄傷害とその対策……平井義人・牛木猛雄……106
  A.修復時の歯髄傷害とその要因……106
  B.修復システムと歯髄保護……113
 9.修復時の留意点……117
  A.滅菌・消毒と感染予防……117
  B.修復時の前準備……122
  C.修復物の具備すべき形状と面の性質……132
第4章 直接修復……135
 1.光重合型レジン修復……岩久正明・岡本明……135
  A.光重合型レジン修復とは……135
  B.光重合型レジン修復の特徴……137
  C.コンポジットレジンの組成……137
  D.コンポジットレジンの種類……141
  E.ボンディングシステム……144
  F.コンポジットレジンの特徴……148
  G.光重合型レジン修復の適応症……154
  H.光重合型レジン窩洞の一般的特徴……155
  I.光重合型レジン修復の手順……158
  J.各種光重合型レジン修復……164
  K.仕上げ,咬合調整,研磨……170
  L.術後管理……171
  付.コンポマー……171
 2.グラスアイオノマーセメント修復……井上廣・田村尚治……172
  A.グラスアイオノマーセメント修復とは……172
  B.グラスアイオノマーセメントの種類と組成および硬化機序……174
  C.グラスアイオノマーセメント修復の特徴……181
  D.光硬化型グラスアイオノマーセメント修復の適応症……186
  E.光硬化型グラスアイオノマーセメント修復の手順……186
  F.そのほかの用法……189
 3.アマルガム修復……寺下正道・小川孝雄……195
  A.アマルガム修復とは……195
  B.アマルガム修復の特徴……196
  C.アマルガム修復の種類と組成……198
  D.アマルガム修復の適応症……207
  E.アマルガム修復の手順……207
  F.そのほかのアマルガムの用法……215
  G.水銀の取り扱い……215
  付.接着性アマルガム……216
 4.直接金修復……平井義人・牛木猛雄……217
  A.直接金修復に用いる金の種類……218
  B.直接金修復の特徴と適応症……219
  C.直接金修復の手順……219
第5章 間接修復……221
 1.鋳造修復……田中久義・前田徹……221
  A.鋳造修復とは……221
  B.鋳造修復の特徴……221
  C.鋳造用金属の種類と組成……222
  D.鋳造修復の手順……224
  付1.全部鋳造冠……250
  付2.支台築造……251
 2.コンポジットレジンインレー修復……井上清……252
  A.コンポジットレジンインレー修復とは……252
  B.コンポジットレジンインレー修復の特徴……253
  C.コンポジットレジンインレー修復の種類と組成……257
  D.コンポジットレジンインレー修復の適応症……258
  E.コンポジットレジンインレー修復の手順……258
 3.セラミックインレー修復……河野篤・高水正明……260
  A.セラミックインレー修復とは……260
  B.セラミックインレー修復の特徴……260
  C.セラミックインレー修復の種類と組成……263
  D.セラミックインレー修復の適応症……265
  E.セラミックインレー修復の手順……266
  付.歯科用CAD/CAM装置による修復法……安藤進……272
 4.ラミネートベニア修復……新谷英章 ・占部秀徳……276
  A.ラミネートベニア修復とは……276
  B.ラミネートベニア修復の特徴……277
  C.ラミネートベニア修復の適応症……277
  D.ラミネートベニア修復の種類……277
  E.ラミネートベニア修復の手順……279
 5.合着と接着……寺中敏夫・花岡孝治……284
  A.合着材の所要性質……284
  B.リン酸亜鉛セメント……286
  C.カルボキシレートセメント……290
  D.グラスアイオノマーセメント……292
  E.レジン強化(配合)型グラスアイオノマーセメント……295
  F.接着性レジンセメント……297
  G.EBAセメント……301
  H.被着面の処理……302
第6章 変色歯の漂白……久光久・東光照夫……305
 1.歯の変色の原因……305
  A.外因性の歯の変色……306
  B.内因性の歯の変色……306
 2.漂白処置法……308
  A.無髄変色歯の漂白法……308
  B.有髄変色歯の漂白法……309
 3.歯科用漂白剤の種類……311
  A.過酸化水素水……311
  B.過酸化尿素……312
  C.過ホウ酸ナトリウム……312
 4.漂白作用のメカニズム……312
 5.漂白剤の歯質に対する作用……313
第7章 破折歯の処置……高津寿夫……315
 1.歯の破折……315
  A.原因……315
  B.分類……315
  C.診査上の注意点……315
 2.前歯の破折と処置法……316
  A.歯冠破折……316
  B.歯冠-歯根破折……318
  C.歯根破折……319
 3.臼歯の破折と処置法……320
  A.不完全破折……320
  B.完全破折……321
第8章 知覚過敏の処置……安田英一……323
  A.象牙質知覚過敏の原因と処置方針……323
  B.薬液塗布による方法……324
  C.イオン導入法……324
  D.露出象牙質を被覆する方法……325
  E.抜髄処置……326
  F.歯科用レーザーの応用……326
第9章 顎関節症の処置……五十嵐孝義……327
 1.顎関節症……328
  A.日本顎関節学会による分類……328
  B.顎関節症原因の各説……328
  C.発症因子として考えられている咬合異常……328
  D.鑑別診断……329
 2.診断・治療……329
  A.顎関節症患者の治療の実際の流れ……329
  B.顎関節症の一般的病態診断……329
  C.顎関節症の画像診断……330
  D.顎関節症に対する治療方法……331
  E.スプリント療法……331
第10章 術後管理……井上正義……333
 1.メインテナンス……333
  A.患者に対する指導……333
  B.刷掃指導……334
  C.化学的清掃法……335
 2.リコールシステム……335

参考文献……339
和文索引……348
欧文索引……358
執筆者略歴……362