やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 2022年に出版した『臨床家のための床矯正治療 バイオファンクショナルセラピーという新しいアプローチ』では,床矯正治療について総論的に書かせていただきました.本書はその臨床編として,叢生,上顎前突と過蓋咬合について,診査・診断から実際の治療までを解説しています.
 近年,床矯正治療は多くの歯科医師に知られるようになりましたが,診査・診断が正しく行われずに,場当たり的に治療が行われているのを見かけます.たしかに早期治療は不確定要素があり,計画どおりに治療を進めることが難しい面があります.したがって,治療の開始時だけでなく,治療中も診査・診断を続ける必要があります.本書で述べているように,永久歯の萌出状況,顎顔面の発育という不確定要素を経時的に診査・診断して,バイオロジカルな治療とメカニカルな治療を適切に行っていくことで理想的な状況へ導くことができると私は確信しています.
 人はプラモデルではないから,部品を説明書どおりに組み立てれば完成というわけにはいかない――恩師である鈴木設矢先生のお言葉です.長年臨床を続けることで,治療とは術者が治すのではなく,患者自身の治癒力によって治るのだということを強く感じるようになりました.治療を術者の想定どおりに進めたいというのは思い上がりなのかもしれません.多くの先生方は,治療がうまくいかないとさらなるメカニクスを取り入れる傾向があります.しかし,複雑なメカニクスを取り入れれば取り入れるほど治療は複雑になり,難しくなります.治療がうまくいかないときは是非,原因の解決であるバイオファンクショナルセラピーに目を向けてください.そこに必ず解決策があるはずです.
 床矯正治療の素晴らしい点は,想定していた以上に治るという経験ができることです.「床装置で側方拡大しただけなのに歯列がこんなに治ってしまった!」「歯列だけでなく顔貌がこんなに改善した!」という経験です.これは術者や装置の力だけでなく,バイオファンクショナルセラピーによる患者の治癒力の賜物です.本書が多くの臨床家に床矯正治療の素晴らしい経験をもたらし,歯列不正や咬合異常をもつ多くの子どもたちに明るい将来を与えることができれば,この上ない喜びです.
 最後に,多くの教えをいただいている鈴木設矢先生,ともに床矯正治療の普及に尽力していただいている日本床矯正研究会の理事・評議員の先生方と会員の皆様,はなだ歯科クリニックを支えてくれているスタッフ,昨年歯科医師になった娘の初音,私の人生を支えてくれている妻,私を生んで育ててくれた母の勝子と父の康広に,この場を借りて感謝申し上げます.
 2024年1月
 花田真也
Part 1 叢生
 Chapter 1 叢生の診査・診断
  治療開始年齢
  主訴
  顔貌所見
  口腔内所見
  犬歯関係
  永久歯萌出状況(パノラマエックス線写真)
  咬合力検査
  口唇,インジケーターライン
  リットレメーター
  側方拡大終了後の装置の選択
  削合による側方歯群の萌出管理
   Column 床矯正の治療費
   Column 床矯正で正中口蓋縫合は分割されない
 Chapter 2 叢生のバイオファンクショナルセラピー
  食事指導
  ポカンXを用いた呼吸訓練(開口癖,口呼吸への対応)
  リットレメーターを用いた口腔周囲筋のバランス獲得
  チューブ咀嚼訓練
 Chapter 3 症例解説(混合歯列前期の叢生)
  [CASE-1] 5歳8カ月・女児 (I級)
  [CASE-2] 7歳9カ月・女子 (I級)
  [CASE-3] 8歳1カ月・女子 (I級)
  [CASE-4] 8歳0カ月・男子 (I級)
  [CASE-5] 8歳11カ月・女子 (II級傾向)
 Chapter 4 症例解説(混合歯列後期の叢生)
  [CASE-1] 11歳6カ月・女子 (I級)
  [CASE-2] 10歳0カ月・女子 (I級)
   Column 平行タイプとファンタイプ
  [CASE-3] 11歳0カ月・男子 (I級,大臼歯の後方移動)
 Chapter 5 乳歯の早期喪失
  乳中切歯(A)の早期喪失
  乳側切歯(B)の早期喪失
  乳犬歯(C)の早期喪失
  第一乳臼歯(D)の早期喪失
  第二乳臼歯(E)の早期喪失(第一大臼歯の萌出障害)
   Column 乳歯の抜歯による犬歯の誘導
Part 2 上顎前突
 Chapter 1 上顎前突の診査・診断
  治療開始年齢
  主訴
  顔貌所見
  口腔内所見
  永久歯萌出状況(パノラマエックス線写真)
  犬歯関係
  咬合力検査
  口唇,インジケーターライン
  リットレメーター
 Chapter 2 上顎前突のバイオファンクショナルセラピー
  悪習癖の除去
  食事指導
  タッチスティックを用いた呼吸訓練
  リットレメーターを用いた口腔周囲筋のバランス改善
  チューブ咀嚼訓練
 Chapter 3 症例解説(上顎前歯唇側傾斜)
  [CASE-1] 8歳7カ月・女子 (I級傾向,叢生なし)
   Column 「…前歯が出ているから口が閉じにくい」って本当?
  [CASE-2] 8歳5カ月・女子 (I級傾向,叢生あり)
   Column 発育葉は咬耗していますか?
 Chapter 4 メカニカルな下顎の前方誘導
  オクルーザルテーブル
  ザンダーIIアプライアンス(バイトジャンピングアプライアンス)
 Chapter 5 症例解説(下顎後退)
  [CASE-1] 11歳5カ月・女子 (II級傾向,バイオファンクショナルセラピー)
  [CASE-2] 9歳5カ月・女子 (II級傾向,オクルーザルテーブル)
  [CASE-3] 9歳8カ月・女子 (II級傾向,ザンダーIIアプライアンス)
   Column ミラー位でのCT撮影
  [CASE-4] 11歳7カ月・男子 (II級2類,上下顎後退)
   Column オクルーザルテーブルの高径
Part 3 過蓋咬合
 I級の過蓋咬合
 II級の過蓋咬合
 
 文献
 索引