やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

この本を手にしてくださったすべての方へ,感謝の心を込めて
 私は,歯医者の三代目です.生まれ育った実家は,診療所と自宅がセットになっていましたから,幼い頃の私の遊び場は,技工室だったように記憶しています.だからでしょうか?高校を卒業し進路を決めるとき,一番なりたくなかった進路が「歯科医師」という選択肢でした.「親の敷いたレールの上を歩くのは,絶対にイヤだ」と,かたくなに歯学部受験を拒んでいた自分がいます.これも,振り返えれば甘ったれた考え方でした.
 しかし,今考えれば何かの運命に引き寄せられるように,違ういい方をすれば,親の庇護という大きな愛情の中で過ごす快適さ,外の環境へ飛び出す強い意志の欠如などが原因だったのかもしれませんが,結局,歯学部にはいることになりました.
 当初,大学に入学した時点では,「俺は本当は歯医者になんか,なりたくないんだ!」というオーラをプンプン漂わせて学校へ通っていました.本当にアホな,親の気持ちもわからない歯科大生でした.どこかで,医学部に行った高校の同級生に対してコンプレックスを感じていたのだと思います.大学受験が,人間のすべての価値を決定するとすら思っていたのだと思います.「よい仕事」と「悪い仕事」があると思って,十八や十九歳で何をわかったつもりでいたのでしょうか?思い出すだけで恥ずかしくなります.
 ちなみに,今の私は歯科医療という仕事に誇りをもっています.次の世代の若者たちが,こぞって歯科医療に進んでくれるような未来をバトンタッチしたいと願っています.それが,私たち現役世代の責任だとも思います.文句をいうよりも,何ができるか?を考えることが肝心だと信じています.そして…
 今,私は歯医者になれたこと,この時代に生まれてきたことに感謝できるようになりました.
 今,「歯科界は大変な状況におかれている」というような文字が,そこかしこで目につきます.どうも将来に不安を抱いておられる先生がたくさんいらっしゃるようです.
 そんな時代だからこそ,この本を書きたいと強烈に思いました.
 この本の中には,「もう,そろそろ歯医者なんて辞めようかな」と思った先生すら登場します.
 そして,歯科医療そのものを違った角度から見ることで,
 「自分が感じていたストレスの正体が分かった!」
 「俺は,こんなことに不安を感じていただけなのか!」
 と,今までと違ったまったく新しい歯科医療の世界をつくられた先生の赤裸々な告白が登場します.
 今の時代に来院者数が右肩上がりで伸び,スタッフがイキイキと働き,自主的な取り組みで院内業務を改善している,そんな歯科医院のお話は,私の面倒くさい論述を,何よりもわかりやすくサポートしてくださっています.そして何よりも,そのような先生方のおかげで,
 この本には,魂がこもっています.
 残念ながら,「増患対策マニュアル」ではありませんので,簡単な「ハウツー」は,どこを探しても書いてありません.
 しかし,最後までお読みいただいた暁には,心の中の不安が随分と消えていくように,執筆陣の魂がこめられております.楽しみに読み進めてください.ただし何度もいいますが,私の記述は「邪魔くさいな〜」と感じる瞬間があります.そのときは,遠慮せずに,ページをバンバン飛ばしてください.本当に「よい本」ならば,後から「飛ばしたページが気になるな〜」と振り返っていただけるはずですから.
 皆様の歯科医療に対する情熱が,一段とメラメラと燃えあがりますこと,そして皆様の歯科医院が,活気にあふれ,笑顔にあふれ,すべての方々を幸せにする空間となられんことを祈念します.
 数ある歯科関係の図書の中で,この本を手にとってくださったことに心から感謝いたします.
 平成20年7月 諸井英徳
Chapter1 人はなぜ歯科医院に来るのか?
 穴が開いたから歯科医院に行く?
  要素還元主義と急性期疾患
  「命」と直接関係しない医療?
  「健康な人」「病気の人」その間に存在するもの
  「QOL」は,来院動機を知るカギ
Chapter2 医療者のためのコミュニケーションとは?
 まずは,受け止めること.相手を認めること.その人の未来を応援したいと思うこと
 来院者が「満たされたい」と思っていることを考える
  少年サッカーのコーチをしていて学んだこと
 「聴いてもらえている」という満足感,贅沢
  コミュニケーションとは何か?
  「言葉」は「想い」を伝えられない!?
 「事実」と「解釈」の違いをきちんと理解する
 「わかる」ということ―「分かる」「判る」「解る」の違いを考える
  「分かる」とは?
  「判る」とは?
  「解る」とは?
 「聞く」から「聴く」へ
  向き合う
  うなづく
  繰り返す
  承認する
  そして何よりも,興味を持つ――「その人」に
  「質問」について考える
 「相談」から「コーチング」へ―要は本人次第
Chapter3 ヘルスプロモーションとは何か?
 定義,背景
 対象をだれとみるか?
 歯科は,ヘルスプロモーションに最適のフィールド
  歯科医院に来る人の心理学
 ここが重要!CHP的アプローチ
  準備因子について考察する
  強化因子について考察する
  実現因子について考察する
 「自主的な人を創る」に潜む,落とし穴
  「育てる」という発想の落とし穴
  「操作主義」からの脱却
 「教育」から「学習」へ
Chapter4 実践するために専門家が行う3つのプロセスとは?
 唱道
 能力の付与
  目で見てわかる,説明用のツールを用いましょう
  体験型学習にするために,効果が出やすい場所,方法を選んでスタートしましょう
  自己効力感が継続には必要
  「快感」でなければ続きません
  最後に,コミュニケーションの大切さをくれぐれも忘れずに
 調停
 実際の歯科医院で取り組むこと
  コーチングをはじめとするコミュニケーションスキルの向上
  きちんとした予防の知識,技術を身につけること
  仕組みとしての院内改造
Chapter5 ヘルスプロモーション型歯科医院で患者さんがどのように変化したか?
 1 佐藤歯科医院劇場の誕生(横浜市・佐藤歯科医院/佐藤信二)
 2 みんなの笑顔が見たいから(札幌市・すずき歯科クリニック/鈴木淳一)
 3 ヘルスプロモーションで患者さんはこう変わった(札幌市・加藤歯科医院/加藤誠也)
 4 CHP共奏曲(倉敷市・医療法人しんくら歯科医院/藤井秀紀)
Chapter6 経営からみたCHP型歯科医院とは?
 マーケティングの発想からみたヘルスプロモーション
 ブランド戦略からみたヘルスプロモーション
 スイッチング・コストという発想からみたヘルスプロモーション
 PPMから考える,歯科医院の事業戦略
 今後の課題
Chapter7 今日からトライ,はじめの一歩
 まず最初は,マスクを外して自己紹介から
 意味のある言葉を,語る!
  生きるための「力」
  天ぷらうどんの天ぷらは,最初に食べろ!!
 大声で「夢」を語る.目的をもって始める.思いが先,行動は後!