やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 小児は,出生後の約10年は著しい成長発育の変化を続けている.顎顔面,歯列そして歯の発育にも目ざましいものがある.口腔内では,無菌期,乳歯列期,混合歯列期,そして永久歯列期と推移している.この発育変化の激しい時期の子供たちを取り扱い,永久歯咬合への誘導をはかるのが小児歯科学である.
 乳歯が健全に口腔内に残っていても,個体の発育的変化は正しい永久歯咬合の完成を約束しない.乳歯の齲蝕は,多発性で急進性であることを考えれば、子供たちの齲蝕は急激に残根化して抜歯されることも多い.
 乳歯の齲蝕や外傷による早期喪失,乳歯の晩期残存,口腔習癖の存在は,咬合が推移していく間に多くの障害を生じ,歯列や顎顔面に不正を起こすことがある.この不正の原因を早期にみつけ,予防したり治療することによって,正しい永久歯咬合を導く方法を咬合誘導(denture guidance)という.
 保隙(space maintenance)も咬合誘導の一方法で,乳歯が失った生理的な空隙を、近遠心的,上下的に,しかも静的に保つことである.“注意深い観察”のもとに空隙の変化を監視するという処置も行われるが,隣在歯の空隙部への移動を防ぎ,対合歯の挺出を防止するために,保隙装置(space maintainer)を装着することで,より確実に空隙を保持することができるのである.
 保隙装置にかぎらず,小児歯科臨床での技工製作物は,永久歯咬合を誘導していく.このために成長発育変化の出現や,技工製作物の取り扱いには十分な考慮が払われなければならない.術者と装置の製作者の“知識と知恵”が,乳歯列や混合歯列を健全に保ち,正しい永久歯咬合を導くのである.
 したがって,保隙装置が装着された時点で,どのような機能をもっているか,また個体の成長とともに保隙装置の調整や交換が,どのように行われるかを十分に知らなければならない.このため本書では少数歯欠損から多数歯欠損,乳歯列期から混合歯列期の順に保隙装置の基本的な製作法を述べていくとともに,保隙装置の選択についてもふれておいた.
 本書が“知識”に加うる“知恵”として活用されれば幸いである.
 なお,木書を書くに当たって,臨床例の写真の提供に協力いただいた小児歯科学教室の諸先生に感謝の意を表したい.また,編集にご協力いただいた医歯薬出版株式会社の相川富美子氏,池内祐幸氏に感謝する.
 昭和54年3月26日 坂井正彦
1 保隙装置の適応と種類…1
 1・1 保隙装置の適応…1
  1・1・1 乳前歯の早期喪失…1
  1・1・2 乳臼歯の早期喪失…2
 1・2 保隙装置の種類…2
2 保隙装置に必要な条件…3
3 クラウンループ保隙装置…4
 3・1 乳歯冠の適合,印象採得…4
 3・2 ループの外形線の設定…6
 3・3 ワイヤーの屈曲…7
 3・4 ループの固定,鑞着…11
 3・5 研磨,完成…13
 3・6 臨床例…14
4 ディスタルシュー保隙装置…16
 4・1 印象採得,模型製作…16
 4・2 シューの調整…19
 4・3 シューの固定,鑞着…22
 4・4 研磨,完成…23
 4・5 パラタルバーをシューに応用した製作法…23
 4・6 臨床例…26
5 可動ブリッジ型の固定保隙装置…29
 5・1 印象採得,模型製作…29
 5・2 ダミー部の調整…30
 5・3 鑞着…32
 5・4 コンポジットレジンの充填,完成…33
 5・5 臨床例34
6 可撤保隙装置…35
 6・1 印象採得…35
 6・2 外形線の設定…35
 6・3 維持装置…39
  6・3・1 単純鉤…39
  6・3・2 アダムスのクラスプ…40
  6・3・3 シュワルツのアローヘッドクラスプ…42
  6・3・4 ボールクラスプ…44
  6・3・5 唇側線…45
 6・4 排列…46
 6・5 重合・研磨…49
 6・6 臨床例…51
7 固定保隙装置 52
 7・1 バンドの適合…52
 7・2 印象採得…52
 7・3 外形線の設定…53
 7・4 ワイヤーの屈曲…54
 7・5 主線の固定,鑞着…54
 7・6 研磨…56
 7・7 臨床例…57
8 クローザット装置応用の可撤保隙装置…58
 8・1 模型形成…58
 8・2 クローザットのクラスプの屈曲…59
 8・3 主線の屈曲…61
 8・4 鑞着…61
 8・5 研磨,完成…63
 8・6 臨床例…64
9 保隙装置の選択と調整…66

参考文献…67
さくいん…68