やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 正確な臨床検査データを出すためには,検査技術とともに検査を行うまでの検体取り扱いが大切である.近年,検査技術の熟成とともに,検体検査の正確度・精密度を確保するために,検査前の検体取り扱いに注目が集まっている.臨床検査技師にとって,検査検体の保存,外注に出すまでの検体処理は必須であり,当直時などは一人でいろいろな検体に対応しなくてはならない.また,臨床側に検体取り扱いの説明を求められることも想定される.がんゲノム検査はまだ発展途上であるが,抽出した核酸のクオリティーが検査結果に影響するとの考察をよく耳にする.
 以上の状況から,現在,形態学的検査とがんゲノム検査の検体取り扱いについて,広く解説した技術書はなく,本書はそうしたニーズに応えることを目的としている.具体的には,形態学的検査における染色までの技術に加え,がんゲノム検査のための検体取り扱いについても詳説している.対象読者は,病院や登録衛生検査所の臨床検査技師をはじめ,研究室,大学教員なども想定しているが,学生や企業の方々にも有用と思われるので,ご活用いただきたい.
 本書の構成は病理,細胞診,がんゲノム(組織,血液),血液検査(塗抹,固定,他),尿沈渣,寄生虫検査および染色体検査であり,それぞれ独立した章とした.また,論文内で解説しきれなかった箇所についてはコラムに記載しているので,ぜひそちらも合わせて読んでいただきたい.
 「1章 病理」では固定,包埋,薄切,伸展,未染色標本の保存を解説した.ホルマリン固定・パラフィン包埋(FFPE)組織も加え,組織凍結,特に筋生検組織の凍結技術,さらに電子顕微鏡の検体取り扱いについても解説した.「2章 細胞診」では,従来法の剥離細胞診の他,FNA(fine needle aspiration)やLBC(liquid-based cytology)も盛り込んだ.「3章 がんゲノム」では,ホルマリン固定・パラフィン切片,血液検体からの核酸抽出検体取り扱い,およびがんゲノム検査を目的とした組織の取り扱いと組織保存法を解説した.「4章 血液検査」では塗抹技術と目的に応じた細胞固定法にも言及し,5章は尿沈渣検査を目的とした検体の取り扱いを紹介した.6章では,寄生虫学検査における糞便を主体とした検体取り扱いに加え,直接塗抹,浮遊法などの標本作製についても解説した.そして7章は染色体検査である.実際に行う機会は少ないと想定されるが,採取された血液細胞の培養から染色体標本作製技術の知識を身につけることは有用である.
 本増刊号が,『染色法のすべて』(水口國雄 編集代表,医歯薬出版,2021年)とあわせ,形態学的検査およびがんゲノム検査に役立ち,読者の皆様に永きにわたりご愛読いただけることを願っている.
 2022年12月
 月刊『Medical Technology』編集委員会
 順天堂大学 医療科学部 臨床検査学科 教授
 廣井禎之
 発刊にあたって(廣井禎之)
1章 病理
 1.ホルマリン固定・パラフィン切片
  1)固定
   (1)総論(塩竈和也)
   (2)乳腺(川崎卓弥・杉野 隆・刀稱亀代志)
   (3)肺(龍見重信)
   (4)消化管(石井脩平・阿部 仁・河内 洋)
   (5)肝,脾,腎(伊藤聡史)
   (6)リンパ節(澁木康雄)
   (7)中枢神経系(関 絵里香)
  2)包埋
   (1)総論(西川 武)
   (2)硬組織(森藤哲史・三浦聡史・金羽美恵・安井 寛)
   (3)神経組織(森藤哲史・金羽美恵・安井 寛・廣井禎之)
   (4)乳腺(川崎卓弥・刀稱亀代志・杉野 隆)
  3)薄切
   (1)総論(廣井禎之)
   (2)腎組織(阿部 仁)
   (3)神経組織(森藤哲史・金羽美恵・安井 寛・廣井禎之)
   (4)連続切片(廣井禎之)
  4)伸展(森藤哲史・金羽美恵・安井 寛)
  5)薄切未染色標本の保存(渡部顕章)
 2.凍結切片法
  1)総論(青木裕志・飯野瑞貴・外山志帆)
  2)固定後組織の凍結保護処理(鈴木美那子)
  3)組織凍結
   (1)外科病理組織(術中迅速病理診断)(青木裕志・飯野瑞貴・外山志帆)
   (2)筋生検組織(廣井禎之・冨永 晋)
  4)薄切
   (1)外科病理組織(術中迅速病理診断)(青木裕志・飯野瑞貴・外山志帆)
   (2)筋生検組織(廣井禎之)
   (3)固定後凍結組織(鈴木美那子)
 3.電子顕微鏡(矢野哲也)
2章 細胞診(塗抹・固定)
 1.総論(澁木康雄)
 2.喀痰(柿沼廣邦)
 3.液状検体(澁木康雄)
 4.FNA(鈴木彩菜)
 5.LBC(河原明彦)
3章 がんゲノム
 1.組織検体取り扱い(固定,薄切,伸展の技術)(柳田絵美衣)
 2.組織の取り扱いと組織保存(金子伸行)
 3.血液検体処理(森 こず恵・畑中佳奈子・畑中 豊)
4章 血液検査
 末梢血塗抹標本の作製と固定・検体の保存(日下 拓・太田川和美)
5章 尿沈渣
 尿沈渣検査を目的とした検体処理(土屋貴絵)
6章 寄生虫検査
 (山本徳栄)
7章 染色体検査
 (松田和之)

 コラム
  乳腺組織はなぜ固定液の浸透が悪いのか(川崎卓弥)
  脳はなぜ固定してから割を入れるのか(関 絵里香)
  パラフィン以外の包埋法には何があるのか(西川 武)
  表面脱灰(森藤哲史・金羽美恵・安井 寛)
  大割切片はなぜ必要か(森藤哲史・金羽美恵・安井 寛)
  学生教育用標本作製のポイント(廣井禎之)
  乳腺のセンチネルリンパ節とは(河原明彦)
  NGSで何がわかるのか(柳田絵美衣)
  がんゲノムとは?(金子伸行)
  “Germline”変異,CHIPって?(畑中佳奈子)
  がんゲノムを考慮したセルブロック作製の注意点(加戸伸明)