やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 服部信孝
 順天堂大学大学院医学研究科神経学,理化学研究所脳科学研究センター神経変性疾患連携研究チームチームリーダー
 2019年にはじまった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのなか,本企画に賛同していただいたパーキンソン病エキスパートの先生たちには感謝している.コロナ災禍のなか,Stay homeだからこそじっくり考えていただき,過去,現在,そして明るい未来へと読者へのメッセージとなりうる力作をお願いした.
 パーキンソン病(Parkinson's disease:PD)は,1817年にJames Parkinsonが“Shakingpalsy“を報告したことにはじまる.1888年にCharcotがParkinsonを称え,筋強剛を加えて“PD”と名づけ,その後1919年にFrederic H.Lewyによる黒質レビー小体の発見,1960年に佐野,Ehringerらによる東西で同時発見されたドパミン欠乏,それに基づく治療薬レボドパの導入,1983年に神経毒MPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,5,6-tetra hydropyridine)の発見,1997年に遺伝性PDのα-synuclein原因遺伝子の発見,翌年に筆者らのグループからparkin原因遺伝子の発見と,1990年以降は枚挙に遑がない.さらに単一遺伝子異常に伴う遺伝性PDは,現時点でPark1-23まで同定されており,最近,筆者らのグループにより優性遺伝性PDの原因遺伝子プロサポシンが同定された.
 これまで遺伝性PDの原因遺伝子産物の機能解析から,ドパミン神経細胞死にミトコンドリア,リソソーム,輸送システム,神経炎症,そして酸化ストレスの関与などが推測されている.さらには疾患の進行にプリオン病様の病態の関与が提唱され,すくなくとも異常α-シヌクレインが脳内伝播することは動物モデルでは多くの証左がある.加えて近年,人工知能(AI)による診断技術の開発が進んでおり,また,コロナ災禍のなかで遠隔診療の有用性が認識され,運動症状を呈しているPDでの有効性が確認されている.100年人生が現実的になっている昨今を考えると長期にわたって患者をフォローする必要があり,多様性のなかでプレシジョンメディシンの実現が喫緊の課題といえよう.
 本特集では過去を検証し,現在の問題点を明確にして将来展望を提案する正鵠を射た内容となっている.これらが読者にとって有効な情報となることを願ってやまない.
 はじめに(服部信孝)
総論
 1.パーキンソン病の歴史(廣瀬源二郎)
  KeyWord パーキンソン病(PD),ドパミン欠乏症,中脳黒質変性,レビー小体
 2.パーキンソン病の病理─過去,現在,未来(仙石錬平)
  KeyWord パーキンソン病(PD),レビー小体,レビー小体病,レビー病理(LP),α-シヌクレイン
診断・症状
 3.パーキンソン病の臨床診断基準─種類とその精度(鑑別診断も含む)(前田哲也)
  KeyWord パーキンソン病(PD),臨床診断基準,Movement Disorder Society,英国パーキンソン病協会ブレインバンク(UKPDSBB)
 4.パーキンソン病の運動症状(渡辺宏久・他)
  KeyWord 運動症状,評価方法,出現機序,人工知能(AI),デジタルヘルステクノロジーツール
 5.パーキンソン病の非運動症状(馬場 徹)
  KeyWord 非運動症状,prodromal PD,臨床サブタイプ
 6.パーキンソン病の病態生理─大脳基底核の役割(濱田 雅)
  KeyWord 大脳基底核,発射頻度仮説,発射パターン説
 7.パーキンソン病の眼球運動(徳重真一・寺尾安生)
  KeyWord パーキンソン病(PD),眼球運動,サッカード
基礎研究の進展
 8.α-シヌクレイン細胞間伝播─メカニズムから新規治療へ(石山 駿・長谷川隆文)
  KeyWord α-シヌクレイン(α-syn),細胞間伝播仮説,疾患修飾療法
 9.パーキンソン病の分子遺伝学─家族性パーキンソン病(舩山 学・服部信孝)
  KeyWord 連鎖解析,次世代シーケンサー(NGS),パネル解析,エクソーム解析,リピート伸長
 10.孤発性パーキンソン病のゲノム背景(佐竹 渉・戸田達史)
  KeyWord 孤発性パーキンソン病,リスク遺伝子,ゲノムワイド関連解析(GWAS),エクソーム解析
 11.パーキンソン病の診断バイオマーカー(徳田隆彦・笠井高士)
  KeyWord バイオマーカー,パーキンソン病(PD),α-シヌクレイン(α-syn),神経線維軽鎖(NfL),オミックス解析
 12.基礎研究のためのパーキンソン病モデル(今居 譲)
  KeyWord マウス,ショウジョウバエ,線虫,酵母,iPS細胞(人工多能性幹細胞)
薬物治療
 13.パーキンソン病薬物治療の変遷(山本光利)
  KeyWord パーキンソン病(PD),ドパミン補充療法,持続的ドパミン配送(CDD),レボドパ(L-dopa)
 14.新しいパーキンソン病治療薬の登場とその適応─MAO-B阻害薬,COMT阻害薬(斉木臣二)
  KeyWord monoamine oxidase B(MAO-B),catechol-O-methyltransferase(COMT)
 15.ドパミン受容体作動薬貼付製剤を用いたContinuous Drug Delivery(CDD)(永山 寛)
  KeyWord Continuous dopaminergic stimulation(CDS),continuous drug delivery(CDD),運動合併症,ドパミン受容体作動薬(DA),貼付製剤
新たな治療法
 16.Device aided therapyの適応とその種類(中島明日香・下 泰司)
  KeyWord Device aided therapy(DAT),脳深部刺激療法(DBS),レボドパ/カルビドパ持続経腸療法(LCIG)
 17.パーキンソン病における運動療法の有効性(市川 忠)
  KeyWord 運動療法,神経栄養因子,神経保護作用,疾患修飾療法
 18.パーキンソン病における疾患修飾療法の可能性(波田野 琢・服部信孝)
  KeyWord α-シヌクレイン(α-syn),疾患修飾療法,グルコセレブロシダーゼ
 19.パーキンソン病における細胞移植療法の過去・現在・未来(山門穂高)
  KeyWord パーキンソン病(PD),細胞移植療法,中絶胎児由来中脳(fVM)組織移植,iPS細胞,iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞移植
 20.オンライン診療の現状と課題(大山彦光・服部信孝)
  KeyWord 遠隔医療,ウェアラブルデバイス,デジタル化

 サイドメモ
  デジタルヘルステクノロジー
  SAS-ELISA
  シーディング凝集のアッセイ法
  機能獲得変異と機能喪失変異
  疾患研究でのトランスジェニックとノックイン
  iPS細胞のメリットとデメリット
  疾患研究でのノックアウトとノックダウン
  運動合併症(motor complications)
  疾患修飾効果(disease-modifying effect)
  衝動制御障害
  ドパミン調節異常症候群
  精神科領域での脳深部刺激療法(DBS)