やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 黒川峰夫
 東京大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学
 造血幹細胞移植は血液疾患を中心に,特徴的な治療としてたいへん重要な位置を占めてきた.対象疾患は造血器悪性腫瘍,造血不全・ウイルス・遺伝性疾患を含め,血液疾患はもとより,それ以外の領域にも幅を広げ,実施数は現在でも年々増加している.前処置のさまざまな工夫は疾患ごとに最適な移植法をもたらし,とくに前処置軽減移植は高齢者や臓器障害例にも適応を広げてきた.また,血縁,非血縁,あるいは骨髄,末梢血,臍帯血など,幹細胞ソースも多様化し,それぞれの特徴を活かした移植法が発展している.非血縁ドナーからの末梢血幹細胞移植はわが国でも実現をめざして進んでおり,複数の幹細胞ソースを用いる試みも国内外で注目を集めている.幹細胞の動員も新しい方法が期待されている.また,感染症やGVHDなどの合併症についても,その病態解明とともに,あらたな抗菌薬の導入やGVHD予防法の工夫が進んでいる.このように造血幹細胞移植は進歩が早く,目が離せない領域である.
 移植医療においては,専門的な学識,洞察力とともに,疾患の発症から治癒まで,いわば治療過程全体に目を配る総合力が必要である.本特集は,移植の方法,対象疾患,合併症という観点から造血幹細胞移植の基本をひととおり網羅しながら,最新のトピックスや議論の対象となる点をなるべく多く取り上げた.執筆は第一線で移植医療を実践されている方や,それぞれの領域の第一人者の方にお願いしたので,造血幹細胞移植の現状が俯瞰できるとともに,実地診療に役立つ実践的な内容も豊富に含まれたと考える.本特集を,移植医療に携わる多くの方に目を通していただければ幸いである.
 はじめに(黒川峰夫)
造血幹細胞移植の方法と特徴:最近の知見
 1.幹細胞ソースの種類と特徴―骨髄,末梢血幹細胞,そして臍帯血(長藤宏司)
  ・それぞれの移植片ソースの特徴
  ・各移植片中の細胞の比較
 2.わが国における造血細胞移植の現状と展望(加藤俊一)
  ・わが国における移植データ登録事業の推移と一元化
  ・ドナー別移植数の推移
  ・移植細胞源の推移
  ・年齢別推移
  ・適応疾患の推移
  ・非血縁者間移植
  ・造血細胞移植医療の地域間差と地域内差
  ・今後の展望と課題
 3.骨髄非破壊的移植(内田直之)
  ・骨髄非破壊的移植前治療開発の歴史
  ・NMA/RICの実際
  ・NMA/RICの利点と欠点
  ・幹細胞源による移植前治療の選択
  ・現在から未来の展望,移植前治療の最適化への道
 4.非血縁者間末梢血幹細胞移植(宮村耕一)
  ・世界の状況
  ・わが国への導入の必要性
  ・ドナーの安全性
  ・わが国における移植成績
  ・今後の課題
 5.わが国のHLA不適合造血幹細胞移植の現状(神田善伸)
  ・HLA適合血縁者間移植とHLA一抗原不適合血縁者間移植との比較
  ・HLA一抗原不適合血縁者間移植とHLA適合非血縁者間移植との比較
  ・HLA二抗原以上不適合血縁者間移植
  ・薬物による強力なGVHD予防法を用いたHLA二抗原以上不適合血縁者間移植
  ・NIMA相補血縁者間HLA不適合移植
  ・アレムツズマブを用いたHLA二抗原以上不適合血縁者間移植
  ・海外で行われている体外T細胞非除去HLA不適合移植
  ・今後の展望
疾患別にみた造血幹細胞移植の最新動向
 6.急性白血病に対する造血幹細胞移植の適応―わが国における実際(森 甚 一・大 橋一輝)
  ・急性骨髄性白血病(AML)(急性前骨髄性白血病を除く)
  ・急性前骨髄性白血病(APL)
  ・急性リンパ性白血病(ALL)
 7.骨髄異形成症候群(谷本光音)
  ・造血幹細胞移植の予後因子
  ・わが国の同種造血幹細胞移植の成績
  ・同種造血幹細胞移植の適応
  ・造血幹細胞ソース―骨髄vs.末梢血
  ・移植前処置―骨髄非破壊的vs.骨髄破壊的
  ・わが国の移植適応ガイドライン―日本造血細胞移植学会ガイドラインによる
 8.再生不良性貧血(中尾眞二)
  ・造血幹細胞移植の適応
  ・移植前処置の選択
  ・幹細胞ソース
  ・GVHD予防
  ・拒絶に対する再移植
 9.リンパ腫に対する造血幹細胞移植の役割(伊豆津宏二)
  ・びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
  ・濾胞性リンパ腫
  ・マントル細胞リンパ腫
  ・T/NK細胞リンパ腫
  ・Hodgkinリンパ腫
 10.新規薬剤時代の多発性骨髄腫における造血幹細胞移植の動向(花村一朗・飯田真介)
  ・新規薬剤登場前のMMにおけるASCTの有用性―従来治療との比較,1回ASCT vs.2回ASCT
  ・新規薬剤の初回ASCT治療戦略への組込み
  ・ASCT導入療法
  ・ASCT前処置
  ・ASCT強化療法
  ・ASCT維持療法
  ・ASCT至的施行時期など
  ・MMに対する同種移植
 11.小児進行期神経芽腫(高橋義行)
  ・大量化学療法併用自家移植の確立
  ・自家末梢血幹細胞移植の工夫
  ・同種移植法の試み
  ・キメラ抗原受容体(CAR)
移植の合併症と管理
 12.GVHDの診断と治療―新しい潮流(森下剛久)
  ・急性GVHDの診断
  ・急性GVHDの対策と治療
  ・慢性GVHDの診断
  ・慢性GVHD対策と治療
 13.造血幹細胞移植後の血栓性微小血管症―病態生理・診断・治療(山下卓也)
  ・TA-TMAの臨床所見
  ・TA-TMAの病態生理
  ・TA-TMAの定義と診断
  ・TMAの分類
  ・TA-TMAの疫学と増悪因子
  ・TA-TMAの予後
  ・TA-TMAの治療
  ・TA-TMAの予防
  ・今後の展望
 14.細菌・真菌感染症への対策―最近の進歩(吉田 稔)
  ・造血幹細胞移植後の免疫回復と感染症
  ・細菌感染症
  ・真菌感染症
 15.造血幹細胞移植後のウイルス感染症―サイトメガロウイルス感染症を中心に(森 毅彦・加藤 淳)
  ・サイトメガロウイルス(CMV)
  ・単純ヘルペスウイルス(HSV)
  ・水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)
  ・ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)
  ・アデノウイルス(ADV)
  ・Epstein-Barrウイルス(EBV)
造血幹細胞移植のトピックス
 16.造血幹細胞移植におけるplerixaforを用いた効率的な造血幹細胞動員法―その臨床応用の現状と今後の課題(岡本真一郎)
  ・造血幹細胞動員のメカニズム
  ・自家造血幹細胞移植における従来の造血幹細胞動員法とplerixaforの比較
  ・健常人ドナーからの末梢血幹細胞採取におけるplerixaforの応用
  ・Plerixaforを用いた至適な造血幹細胞の動員
  ・今後の課題
 17.GVHDのメカニズムとその克服に向けた細胞療法の展開(豊嶋崇徳)
  ・造血幹細胞移植におけるドナーT細胞の役割
  ・GVHDにかかわるCD4+T細胞サブセット
  ・GVHDにかかわるCD8+T細胞サブセット
  ・Mesenchymal stromal cel(lMSC)
  ・ドナーT細胞と標的細胞の相互作用
 18.革新的移植方法―灌流法+骨髄内骨髄移植法(池原 進)
  ・新しい骨髄移植方法の特徴
  ・造血幹細胞と間葉系幹細胞の“相性”
  ・灌流法vs.吸引法
  ・骨髄内骨髄移植法vs.静脈内骨髄移植法
  ・臓器移植への応用
  ・難病治療への応用
  ・胸腺移植併用効果
  ・最近の国内外の動向
 19.幹細胞の体外増幅法の現状と将来(丹羽 明・中畑龍俊)
  ・造血幹細胞採取の課題
  ・造血幹細胞の2つの顔
  ・造血幹細胞の評価法
  ・幹細胞体外増幅の現状
  ・幹細胞体外増幅のチャレンジ性と将来への展望
 20.造血幹細胞移植におけるHLAの意義(森島聡子・森島泰雄)
  ・HLA
  ・造血細胞移植におけるHLAの適合性
  ・非血縁者間移植におけるHLAハプロタイプの意義

 サイドメモ目次
  GVHD方向のHLA不適合と拒絶方向のHLA不適合
  ドラッグラグ
  ドナー型晩期生着不全
  自家移植の前処置(大量化学療法)
  体外循環式光化学療法(ECP)
  特発性血栓性血小板減少性紫斑病
  先制攻撃的治療