やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 人生において健康ほど価値のあるものはない.その健康生活に必要な条件として栄養,運動,休養の3条件が挙げられる.わが国では1950年くらいまでの栄養学は「栄養素とその欠乏の栄養学」が主題であった.しかし,現在の先進国では主要栄養素の欠乏による疾患はほとんど姿を消し,栄養学は日常生活やライフスタイルへの応用が進み,「栄養素の科学」から「食事と健康の科学」に移行してきている.
 近年わが国を含め欧米先進国では経済的な繁栄のため食料事情は豊かになり,またモタリゼーション,日常生活の電化などで人々は極めて快適な生活を楽しめるようになった.しかし一方では,これらの社会生活の変貌は「飽食」とか「運動不足」という状況を生み出し,その結果生活習慣病が蔓延し,肥満,糖尿病,高血圧,高脂血症,動脈硬化に起因する疾患や癌などが増加し,むしろ上述の近代化は新たに国民の健康を阻害する社会的な大問題になってきている.しかもこれらの生活習慣病は,かつては「成人病」ともいわれていたが,現在では,その病態はすでに小児期から始まっていることが,最近の疫学的な調査で明らかにされた.
 したがって,これから健康を維持するには,国民一人一人が日常の食生活で豊富な食物の中からいかに賢く食品を選択してゆくかが重要になってきている.すなわち21世紀の国民の健康の維持には,医療に依存するよりも子どもの保育に関わる人々が子どもの頃から発育の栄養学を十分に理解し,さらに成人に至るまで公衆栄養学知識に基づいて啓蒙活動を続けることが極めて重要である.
 さて本書は故国分義行教授と佐伯節子教授の『保育者のための小児栄養学』を全面的に改編した新版である.旧版は幸い広範な読者の支持を得て版を重ねてきたが,最近の小児栄養学が乳幼児の栄養学から,さらに上述の社会的変動に伴う学童・思春期の栄養学にいたるまで,その重要性が大きくなってきたので,従来の記載に最近の問題点を含めて広く詳細に記述することにした.またわが国の最近の保育環境も「健康児の保育」から「病児を含めた保育」に拡大する状況を配慮して,「病児の栄養」についての基礎的な知見も加えることにした.
 「食の乱れは心の乱れ」といわれる.食事は子どもにとっては毎日の生活の中でのメインイベントであるべきなのに,最近のわが国の子どもたちを囲む食環境には肥満児の増加,欠食,孤食,問題の多い外食や夜食,理不尽なダイエットの流行,あるいは家族団欒の食事の機会の減少など問題が山積しており,子どもの健全な心身の発達を目指すうえでの大きな障害になっている.食事は子どもにとっては栄養のみならず,基本的な人間形成の極めて有効な場であり,食育の重要性はいくら強調してもし過ぎることはない.これは子どもの食事と大人の食事の根本的に異なる点である.
 本書が保育や看護に関わるすべての職種の人々,児童学の修得を目指す学生諸君に有用な教科書になることを念願するものである.今後,読者のご指導を賜りながら内容の充実に一層努力する所存である.
 本書は第1,2,3,4,5,8章および第12章は赤塚,第6,7章および11,12章は野原,第9章および10章は佐伯が,それぞれ単独または分担して執筆にあたった.
 おわりに本書の出版に際して大変お世話になった医歯薬出版の関係各位に深甚の謝意を捧げます.
 平成12年4月 執筆者一同
 推薦のことば 川並弘昭
 序

第1章 小児栄養
 1.小児栄養の意義
 2.栄養学の流れ
 3.現代の栄養上の問題点
  1)栄養素摂取の実態
  2)食品摂取の実態
  3)栄養素の食品群別摂取構成の実態
  4)人口の高齢化と栄養問題
  5)疾病構造の変化と栄養
  6)機械化と省力化の進展と栄養問題
  7)食事産業の発展と栄養問題
  8)外食産業の発展と栄養問題
  9)環境要因と栄養問題

第2章 栄養生理
 1.炭水化物(糖質)
  1)炭水化物の種類
  2)炭水化物の消化吸収
  3)炭水化物の代謝
  4)炭水化物の栄養学的意義
  5)炭水化物を含む食品
 2.脂質
  1)脂質の種類
  2)脂質の消化吸収
  3)脂質の代謝
  4)脂質の栄養学的意義
  5)脂質を含む食品
 3.たんぱく(蛋白)質
  1) たんぱく質の種類
  2)たんぱく質の栄養価
  3) たんぱく質の消化・吸収
  4) たんぱく質の代謝
  5) たんぱく質の栄養学的意義
  6) たんぱく質を含む食品
 4.エネルギー(熱量)
  1) 基礎代謝
  2)特異動的作用
  3)成長
  4)活動
  5)排泄
  6)各栄養素のエネルギー
  7)エネルギー摂取の過剰と過少
 5.無機質
  1)カルシウム(Ca)
  2)リン(P)
  3)鉄
  4)ヨウ素
  5)ナトリウム(Na),カリウム(K),塩素
  6)微量成分
 6.ビタミン
  1)ビタミンA(レチノール)
  2)ビタミンD(カルシフェロール)
  3)ビタミンE
  4)ビタミンK
  5)ビタミンB1(チアミン)
  6)ビタミンB2(リボフラビン)
  7)ビタミンB6(ピリドキサール)
  8)ビタミンB12(コバラミン)
  9)葉酸
  10)ナイアシン(ニコチン酸,ニコチンアミド)
  11)ビオチン
  12)ビタミンC
 7.水分の役割
  1)生体内水分
  2)水分の働き
  3)水分の出納

第3章 栄養所要量
 1.日本人の食事摂取基準(2005年版)
 2.各栄養素の所要量
  1)エネルギー
  2)炭水化物・食物繊維
  3)脂質
  4)たんぱく質
  5)ビタミン
  6)無機質(ミネラル)
  7)食事摂取基準量のまとめ

第4章 小児の摂食・消化機能の発達
 1.小児の食物摂取機序
 2.摂食行動の発達過程
  1)乳汁の摂取
  2)固形物の摂取
  3)咀嚼
 3.味覚と嗜好
 4.消化吸収の生理
  1)口腔
  2)食道
  3)胃
  4)腸
  5)便
  6)肝臓
  7)腎臓

第5章 小児の栄養状態の評価
 1.栄養評価とは
 2.栄養摂取量の評価
  1)食事の質的評価
  2)食事の定量的評価
 3.栄養障害に関連する臨床症状
 4.人体計測法による栄養評価法
  1)体重および身長
  2)皮脂厚から肥満の判定法
 5.検査学的所見による評価
  1)血液検査
  2)毛髪および爪の構成成分
  3)尿の分析
  4)その他

第6章 乳児期の栄養
 1.授乳栄養
  1)母乳栄養
  2)人工栄養
  3)混合栄養
 2.離乳栄養
  1)離乳の定義
  2)離乳の必要性
  3)離乳の開始とすすめ方の基本
  4)離乳食のすすめ方
  5)離乳食の与え方
  6)離乳食品類
<離乳食の献立例>

第7章 幼児期の栄養
 1.幼児期栄養の特徴と必要性
  1)身体発育の特徴
  2)脳の発育
  3)活動
  4)精神発達
  5)こころの発達と食事
  6)食生活
 2.幼児期の栄養生理
  1)生体のリズムと食事
  2)消化機能
  3)食欲の発達
  4)味覚の発達
  5)嗜好の発達
  6)咀嚼機能の発達
 3.幼児期の栄養所要量
 4.幼児の食品構成
 5.幼児期の献立
  1)幼児期の献立の原則
  2)1日の栄養の配分
  3)献立作成上の注意
  4)避けたい食品
 6.幼児食の調理
  1)幼児食の調理の原則
 7.食事の与え方
  1)食事の与え方
  2)食行動の発達
 8.幼児期の栄養上の注意
  1)遊び食い
  2)むら食い
  3)偏食
  4)食欲不振
  5)咀嚼に関する問題
 9.幼児の間食とお弁当
  1)間食の意義
  2)間食の食品
  3)間食の与え方
  4)お弁当
 <間食・おやつとお弁当の献立と調理例>
 <幼児期の献立表>

第8章 学童・思春期の栄養
 1.学童・思春期の心身の発達
 2.思春期の栄養の特徴
 3.学校給食
  1)学校給食の目標
  2)学校給食の実施状況
  3)学校給食の栄養基準と食品構成
  4)学校給食の摂取の現状
 4.学齢期の栄養の問題
  1)欠食・孤食
  2)間食・夜食
  3)ダイエット
  4)貧血
  5)肥満
  6)高脂血症
  7)食事アレルギー
  8)給食嫌い
  9)神経性食欲不振症
  10)青少年のスポーツと栄養
 <学童・思春期の献立表>

第9章 食品の選び方
 1.植物性食品
  1)穀類およびその製品
  2)いも類およびその製品
  3)豆類およびその製品
  4)野菜類
  5)果実類
  6)種実類
  7)きのこ類
  8)海藻類
  9)香辛料食品
 2.動物性食品
  1)獣鳥肉類およびその製品
  2)卵類
  3)魚介類とその製品
  4)牛乳および乳製品
 3.油脂類
  1)植物性油
  2)動物性脂
  3)マーガリン
  4)その他の油脂類
 4.砂糖類
  1)砂糖
  2)滋養糖
  3)はちみつ
 5.菓子類

第10章 献立・調理
 1.献立
  1)献立作成の基本
  2)食品成分表
  3)献立の栄養価計算
 2.調理
  1)調理の目的
  2)調理法
  3)調味
  4)調理についての一般的注意
  5)乳幼児食調理の注意点
  6)乳幼児の供食の注意点

第11章 集団給食
 1.集団における給食
 2.児童福祉施設の給食
  1)施設の種類と給食の区分
  2)給食の役割
  3)児童福祉施設の栄養給与目標
 3.保育所の給食
  1)保育所における給食の役割
  2)保育所給食の問題点
  3)保育所入所時の食事に関する個人情報
 4.保育所給食の実際
  1)乳児の栄養
  2)幼児の栄養
 <保育所給食の献立例>

第12章 病児の栄養
 1.急性胃腸炎
  1)乳幼児下痢症の食事療法の原則
  2)食事療法の際の注意事項
 2.食事アレルギー
  1)食事アレルギーの症状
  2)食事性アレルゲン
  3)食事アレルギーの診断
  4)食事アレルギーの治療
 3.栄養性貧血
 4.慢性疾患
  1)心臓病
  2)腎臓病
  3)肝臓病
 5.悪性腫瘍
 6.先天性代謝異常症
 7.肥満症
  1)肥満の原因
  2)肥満の判定
  3)肥満の治療
 8.糖尿病
  1)1型糖尿病
  2)2型糖尿病
 <病院の献立例>

 文献
 索引