やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 わが国では,2001〜2005年まで高次脳機能障害支援モデル事業が実施され,その結果,高次脳機能障害の診断基準が確立し,記憶障害,注意障害,遂行機能障害といった症状が注目され,標準的社会復帰,生活,介助支援プログラムがまとめられた.ただし,古典的な高次脳機能障害とよばれる,失語,失行,失認の患者が減ったわけではなく,むしろ高齢化に伴いこれらの患者は多くなっている印象がある.
 脳卒中診療に不慣れな病棟では,言動に問題がある患者を,「この患者さん,認知症がひどくて……」と,脳卒中後であっても認知症と一括りにしてしまうことがしばしばある.指示をうまく理解できない場合は軽度の失語症を合併していることもあり,食事を自力摂取できない場合は失行や半側空間無視を合併している可能性もある.後頭葉の損傷であれば,見え方が何かおかしいと訴える患者に対して,丁寧に評価をすると視野の問題ではなく視覚性失認を合併していることもある.失語,失行,失認といっても,症状は多岐にわたるため,適切な評価をしないと病態を理解できず,症状を把握しないまま漫然とリハビリテーションを実施してしまうことが懸念される.学会等で稀な症例の報告を聞くと,「果たして今まで診てきた患者の症状を適切に把握できていたのか? もう少しよいリハビリテーションの方法があったのではないか?」と不安を抱くこともある.また,医学は日々進歩しており,半側空間無視や失語症に対する経頭蓋磁気刺激や電気刺激療法等,非侵襲的な治療法の報告も多く,最新の情報を知ることも重要である.
 そこで本特集では,症状を適切に評価し病態を理解したうえで,最適なリハビリテーションを実施することを目的として,臨床で遭遇することが多い失語,発語失行,半側空間無視だけでなく,注視しないと見逃す可能性がある失行や視覚性失認,コラムでは稀な症状である聴覚性失認を取り上げた.内容に関しては,豊富な経験をもつ先生方に,まずは各症状(兆候)の分類や病態,責任病巣,その評価法を解説いただいた.リハビリテーションは,症状によっては確立されておらず,定まった方法はない症状もあるが,報告例も含めどのようなものがあるかを示していただき,最後に,臨床で既に施行されている方法や将来的な展望を含め,最近の情報をまとめていただいた.失語,失行,失認を認知症と一括りにしてしまうことがないように,今回の特集が,多くの患者や医療者にとって有益な情報となることを期待したい.
 (編集委員会 企画担当:加藤徳明)
特集 失語,失行,失認のリハビリテーション
 特集にあたって(加藤徳明)
 失語症(前島伸一郎 半井慎太郎・他)
 発語失行(大槻美佳)
 失行(中川賀嗣)
 半側空間無視(水野勝広)
 視覚性失認(平山和美)
  コラム:聴覚性失認の評価とリハビリテーション(伊藤典子 加藤徳明)

新連載 リハビリテーション科医師に必要な診察,評価手技
 1.可動域,筋力,痙縮,麻痺の評価法(立花佳枝)

連載
リハなひと
 看護師/リハビリ当事者 三井和哉さん

巻頭カラー デザインが拓くリハビリテーションの未来
 10.補助人工心臓患者へのリハビリテーション(小池俊光 黄野皓木・他)

ニューカマー リハ科専門医
 (稲垣良輔)

各都道府県における自動車運転に関する公安委員会提出用診断書の書き方-脳卒中関係
 2.千葉県(菊地尚久)

知っていてほしい義肢装具とその実際
 5.下肢装具(補装具)(和田 太)

地域リハビリテーションの現状と今後
 6.都道府県支援センターにおける地域リハビリテーション(兵庫県)(大串 幹)

認知症の基礎知識とリハビリテーション
 9.認知症におけるコミュニケーションのコツ(大庭 輝)

リハビリテーション医療におけるEvidence-Based Practice
 11.神経難病リハビリテーション診療におけるEvidence-Based Practice実践(有明陽佑)

リハビリテーション医学・医療の歴史秘話“あの時なにが?”
 13.回復期リハビリテーション病棟協会(三橋尚志)

 書評『ポジショニング学 体位管理の基礎と実践 改訂第2版』
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