やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 飲食物を食べ飲み込むことは,人が生きていくうえで必要な栄養を取り入れるという基本的行為であるというだけでなく,人間らしく生きていく誇りや喜び,そして幸せとも関係が深いものである.そのため,この機能が障害された場合に,回復を強く願う人は多く,リハビリテーション(以下リハ)治療においても,最も重要な治療対象として取り扱われることになっていく.
 リハ治療における治療戦略の組み立てに際しては,何が治療ターゲットであっても機能評価が欠かせない.たとえば歩行がターゲットであれば,歩行に関連する筋力やバランス等の丁寧な評価に基づいて歩行訓練の計画が練られる.摂食嚥下リハも同様で,正しい機能評価が適切な治療方針の礎となる.ところが,摂食嚥下の機能評価には,ひとたび食物が口に入り唇を閉じてしまえば,食物を直接観察することができなくなるという特殊性がある.食物摂取中の対象者の動きや反応(ムセ等),音等を頼りに評価していく方法論はある程度確立しているものの,食物が見えていない状態で機能推定をしているに過ぎないという弱点を,臨床経験を積めば積むほど思い知らされてしまうのが実情ではないだろうか.
 嚥下造影検査(以下,VF)は,嚥下の準備期から食道期までを包括的に見える化するもので,最も重要な異常所見である誤嚥や咽頭残留の見落としが少ない優れた検査法である.検査法としての歴史もあり,疾患や病態ごとに,どのような嚥下動態(異常所見)が録画できるかについての知見も積み上げられ,標準的な実施方法については,2001年に日本摂食嚥下リハビリテーション学会より示され,さらに改訂も続けられている(2014年版が最新).そのため,VFによって得られた正常所見と異常所見から,嚥下機能を読み取ったうえで,リハ治療計画に結びつけるという作業は,多くのエキスパートが臨床現場で当たり前に日々くり返していることである.ところが,疾患別や病態別の嚥下動態に関する解説は充実している一方で,VFで発見する異常所見をどのように解釈して治療計画に結びつけていくかという,思考過程の解説はあまりされてこなかったと思われる.思考過程の習得は,解説を読むだけで簡単に身につくものではないかもしれないが,読者の臨床過程に少しでも溶け込み,適切にVFを活用できるエキスパートが増えるきっかけとなることを,この特集に期待する.
 (編集委員会)
特集 嚥下造影検査所見の解釈と対策
 特集にあたって
 嚥下造影検査でわかる所見 P田 拓
 誤嚥・喉頭侵入の解釈と対策 柴田斉子
 咽頭残留の解釈と対策 金沢英哲
 嚥下反射遅延と早期咽頭流入の解釈と対策 新井伸征 平岡 崇
 口腔内の残留やため込みの解釈と対策 松尾浩一郎

連載
巻頭カラー 症例でつかむ!摂食嚥下リハビリテーション訓練のコツ
 11.頭頸部がんに対する咀嚼訓練と綿棒移送訓練のコツ 保田祥代 小口和代・他

リハスタッフが知っておくべきプレゼン(学会発表・講演)のコツ
 16.オンラインプレゼンテーション:2.ツール別テクニック 百崎 良 加藤佑基・他

ニューカマーリハ科専門医
 片平健人

パラアスリートに聞く パラスポーツとの出会い
 第3回 鈴木 徹選手(走り高跳び)

新型コロナウイルス感染症とリハビリテーション医療
 9.COVID-19患者における嚥下障害とリハビリテーション治療 青柳陽一郎 大橋美穂

知っておきたい神経科学のキィワード
 7.フィードバック制御とフィードフォワード制御 大田哲生

リハビリテーションと薬剤
 15.リハビリテーションでよく処方される薬剤とその副作用:(5)抗てんかん薬 小瀬英司

リハビリテーション医療におけるACP―治らないかもしれない障害をもつ患者に対応する―
 4.切断患者に対するACP 目谷浩通

回復期・生活期リハビリテーション医療に必要な内科的管理
 6.循環器(虚血性心疾患 心不全) 諸冨伸夫

リハビリテーション医学・医療と私
 第5回 世界のリハビリテーション科女性医師たちと出会って 浅見豊子

学会報告
 第59回 日本リハビリテーション医学会学術集会 永野靖典 成田亜矢・他

臨床研究
 回復期脳卒中リハビリテーション入院患者の運動FIM利得:機械学習モデルを用いた要因分析 徳永 誠

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