やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 辻田賢一
 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学
 心筋梗塞(myocardial infarction:MI)の急性期死亡率は,緊急カテーテル治療を提供する虚血医の弛まぬ献身的努力により大きく低下してきた.一方で,トロポニンが陽性で急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)が疑われるも,冠動脈造影にて責任病変と考えられる閉塞性冠動脈病変が認められない症例が少なからず存在し,冠動脈閉塞を伴わない心筋梗塞(MI with non-obstructive coronary arteries:MINOCA)とよばれ,世界的な注目を集めている.全国津々浦々,広く緊急冠動脈造影が施行される日本においては,より広く循環器内科医が認識しえる疾患群であり,日本循環器学会からもこのたび「2023年JCS/CVIT/JCCガイドラインフォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療」が発行され,MINOCA診療の標準化が試みられている.
 日米欧,いずれのガイドライン,ステートメントにおいても,MINOCAは暫定的に診断される“working diagnosis”でもあることが強調されており,その後の原因精査と層別化されたより特異的な治療法の選択が個々の症例の予後改善に向け重要となる.しかし実臨床の現場において,この暫定的診断から原因特定の過程はかならずしも容易な症例ばかりではなく,臨床医を悩ませる.
 本特集では,MINOCAの定義,ガイドライン上の位置づけから,その診断と治療に至るまで,日本を代表するエキスパートの先生方に執筆いただいた.MI急性期診療に携わるすべて関係者にご一読いただき,わが国のMI診療のさらなる精緻化,予後改善の一助になれば望外の喜びである.また本特集をもとに,均てん化されたMI診療が提供されているわが国から,MINOCAのデータがさらにアウトプットされることを願いたい.
 最後に,多忙な診療のなか,執筆いただいた先生方に改めて心から感謝申し上げる.
特集 MINOCAの病態・診断・治療
 はじめに(辻田賢一)
 ガイドラインにおけるMINOCAの位置づけ(掃本誠治・辻田賢一)
 MINOCAのコンセプト・定義を理解する(神戸茂雄・安田 聡)
 外的環境要因によるMINOCAの発症リスク(石井正将)
 血管内イメージから診るMINOCA(樽谷 玲・田中 篤)
 MINOCAの画像診断(尾田済太郎)
 MINOCAの治療・二次予防(今仲崇裕・石原正治)
 核医学ではINOCA・MINOCAはどう映る?(松本直也)
 INOCA/MINOCAと心不全(的場哲哉・他)

連載
救急で出会ったこんな症例─マイナーエマージェンシー対応のススメ(10)
 ギンナン中毒:身近な食べ物で中毒を起こすことがあるってご存じですか?─ギンナン,フキノトウ,タケノコ,ワラビ,ナツメグ(大村大輔)

医療システムの質・効率・公正─医療経済学の新たな展開(1)
 はじめに(今中雄一)
 医療システムの質・経済性(今中雄一)

TOPICS
 社会医学 医療イノベーションは“解決に値する”課題の設定からはじまる─医療機関が担いうる新しい社会的意義(中川敦寛・他)
 疫学 サプリメントの有益性を問う(大橋瑞紀・矢野裕一朗)

FORUM
 病院で活躍する救急救命士の現状と将来像(植田広樹・田中秀治)

 次号の特集予告