やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 石井明子 国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部
 津本浩平 東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻
 世界ではすでに100品目を超える抗体医薬品が承認され,日本での承認品目も90を超えている.適応となる疾患領域はがんや自己免疫疾患にとどまらず,喘息,アトピー性皮膚炎,骨粗鬆症,感染症,眼疾患,神経系疾患などにも広がり,今後さらなる発展が期待される.近年の抗体医薬品開発の特徴として,IgG抗体のみならず抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC),二重特異性抗体の他,scFv(single chain Fv)やVHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)などの低分子抗体のように,構造の多様性が広がっていることがあげられる.一方,最近の医薬品の開発動向全体を見渡すと,オリゴ核酸,メッセンジャーRNA(mRNA),中分子ペプチド,遺伝子治療用製品,細胞加工製品と,モダリティの多様化が著しく,これからは低分子と抗体の二者択一ではなく,意図したmode of actionに合わせてモダリティを選択し,医薬品や再生医療等製品を開発する流れが見えてくる.
 このようななかで本特集では,抗体の特徴を理解し,今後の開発に求められる課題を共有すべく,「抗体医薬の進歩と課題」として,各領域の第一線で活躍する著者の方々に執筆していただいた.まず「リード抗体取得・エンジニアリング技術」では,(1)リード抗体の取得と可変領域の最適化,(2)IgG型抗体におけるFc改変抗体や,修飾技術を活用したADCの開発,さらに(3)非IgGモダリティとして,低分子抗体やIgA抗体について最新動向を解説していただいた.次に「有効性・安全性の予測・評価技術」では,抗体医薬品の重要な特徴であるリサイクリング機構を含めた体内動態の制御機構を中心に,さらに「臨床における最新動向」では,がんと炎症性疾患を中心に抗体医薬品を用いた各領域での最先端のトピックを紹介していただいた.
 本特集が,抗体を用いた新しい治療法開拓の一助になれば幸いである.
 はじめに(石井明子・津本浩平)
リード抗体取得・エンジニアリング技術
 【可変領域】
 モノクローナル抗体作製クロニクル─効率的なヒト抗体医薬品シーズの取得を目指して(登内奎介・高橋宜聖)
 ヒトADLibシステムおよびADLib KI-AMPによる治療用抗体候補の創出と最適化(瀬尾秀宗・他)
 抗原結合親和性向上のための技術(松長 遼・津本浩平)
 【IgG型抗体】
 抗体のエフェクター活性を担うFcγ受容体(木吉真人・石井明子)
 抗体の体内動態制御に関わる受容体FcRnをめぐる話題─FcRnのバイオロジー,FcRn親和性改変抗体の開発動向,関連する研究(鈴木琢雄・石井明子)
 抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate:ADC)(追立真孝)
 t-CAP法を用いたコンジュゲート抗体の開発(伊東祐二)
 【非IgGモダリティ】
 低分子抗体─VHH,scFv(中木戸 誠・津本浩平)
 経口IgA抗体を用いた腸内細菌叢制御による治療薬開発(新藏礼子)
 IgA抗体を用いた呼吸器ウイルス感染症治療薬の実現可能性(早川美奈子・鈴木忠樹)
有効性・安全性の予測・評価技術
 抗体医薬品の体内動態総論(加藤基浩)
 抗体医薬品の創薬研究における生理学的薬物動態(PBPK)モデリングおよびシミュレーションの活用(橘 達彦・原谷健太)
 Phosphor integrated dots(PID)技術を用いた抗体医薬の腫瘍組織内ミクロ薬物動態解析の開発(濱田哲暢)
 ADC医薬品の研究開発に不可欠な定量および定性分析技術(高草英生)
臨床における最新動向
 免疫チェックポイント阻害薬の有効性予測バイオマーカー(熊谷和裕・他)
 免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性機序とその対策(二宮利文・冨樫庸介)
 近赤外光線免疫療法─近赤外光感受性ADCとしての薬剤デザインを中心に(小林久隆)
 炎症性腸疾患に用いられる抗体医薬品(秋山慎太郎)
 乾癬,アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患に用いられる抗体医薬品(大久保ゆかり)
 抗体医薬品の血中濃度モニタリング(米澤 淳)
 抗体医薬品によるインフュージョンリアクションなどの副作用の特徴とそのマネジメント(下方智也・安藤雄一)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  B細胞抗原受容体と抗体の多様性
  B細胞の分化や生存,増殖に関わる因子
  ホットスポット
  エフェクター活性
  バイスタンダー抗腫瘍効果(Bystander antitumor effect)
  腸管などの粘膜で分泌されるIgA抗体
  半減期の延長
  2-コンパートメントモデル解析
  抗体薬物複合体(ADC)
  特定薬剤治療管理料 1