やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 市原佐保子
 自治医科大学医学部環境予防医学講座
 近年の環境による健康影響として,先進国においては,工業化の進展に伴う工場を発生源とする大気汚染や水質汚濁などがめだたなくなり,典型的な産業中毒症例は減り,低濃度の環境化学物質などによる環境ストレスの長期曝露による影響が問題となってきている.一方,生産の拠点が移った発展途上国において,環境汚染は喫緊に解決すべき重大な課題となっている.工業の盛んな国からその周辺の国へ汚染物質が運ばれ被害を出すといった国境を越えた環境汚染も問題となり,大陸規模・地球規模での環境影響が懸念され,環境問題がグローバル化していることも特徴である.また,わが国においてはさまざまな法整備にもかかわらず,新たな産業中毒症例が一定の割合で発生している.
 人体に影響を及ぼす環境要因は,われわれの健康を脅かすのみならず,次世代への影響も危惧される.社会の持続的な発展を目指すためにも,環境の健康への影響を科学的に明らかにすることが重要である.WHO(世界保健機関)は,2020年に“公衆衛生上の懸念のある10の化学物質”として,大気汚染,ヒ素,アスベスト,ベンゼン,カドミウム,ダイオキシンおよびダイオキシン様物質,フッ化物,鉛,水銀,危険性の高い農薬をあげた.また,2022年に“現在の10の公衆衛生問題”として,新型コロナウイルス感染症(COVID-19),健康の公平性,メンタルヘルス,電子タバコなどと同時に“健康への環境の影響”をあげ,有機フッ素化合物(PFAS)による健康影響を取り上げている.
 本特集では,これら現時点で問題となっている環境化学物質を中心に,そのヒトへの影響に関する話題をそれぞれの専門家に解説していただいた.また近年,立て続けに発生した職業がんに関しても解説する.公衆衛生に携わる方だけではなく,多くの医療関係者にお読みいただき,環境問題とその健康リスクを考えるきっかけにしていただきたい.
特集 環境化学物質が人体へ与える影響
 はじめに(市原佐保子)
 PM2.5・超微小粒子の健康影響(上田佳代)
 環境中のカドミウムと人への健康影響(堀口兵剛)
 ヒ素による健康影響─高血圧,動脈硬化,糖尿病との関連(姫野誠一郎)
 農薬類の健康影響リスク評価とリスク管理(上島通浩)
 アスベストの人体への影響(島 正之)
 ダイオキシンによる健康影響と日本の規制の現状(遠山千春・木村栄輝)
 有機フッ素化合物(PFAS)への曝露とヒト健康リスク(原田浩二・他)
 職業性胆管がんの発見(熊谷信二)

連載
医療DX─進展するデジタル医療に関する最新動向と関連知識(14)
 診療情報の利活用と個人情報保護法(山本隆一)

救急で出会ったこんな症例─マイナーエマージェンシー対応のススメ(4)
 その発赤,壊死性筋膜炎では?─軽微な皮膚の発赤が生死を分ける!?(檜山秀平・松村福広)

TOPICS
 生化学・分子生物学 ヒト胎児卵母細胞発生過程の体外再構成(水田 賢・他)
 細菌学・ウイルス学 SARS-CoV-2オミクロンBA.2株のウイルス学的性状の解明(木村出海・佐藤 佳)

FORUM
 「第14次労働災害防止計画」のねらい(樋口政純)

 次号の特集予告