やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 徳永勝士
 国立国際医療研究センター研究所ゲノム医科学プロジェクト
 難病とは,発症の機構が明らかでなく,治療方法が確立しておらず,希少な疾患であり,また長期にわたって療養が必要な疾患群である.したがって,難病については患者の診断を確定し,適切な医療を提供し,新たな治療法を開発することが求められており,ゲノム解析がそれらの基盤的な役割を担うことが強く期待されている.
 ゲノム解析技術の急速な発展により,候補遺伝子の解析(遺伝子検査)は日常診療にも用いられるようになった.また近年は,全エクソーム解析によって多くの病的バリアントが特定されることがわかってきた.わが国の未診断疾患イニシアティブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases:IRUD)事業では,未診断難病患者の43%で病的バリアントが特定されたことが報告されている.そして,現在進行中の難病の全ゲノム解析プロジェクト(先行解析)によって,さらに9%ほどの患者について病的バリアントが見出されたという予備的成果が得られている.
 本特集の第一部「総論」では,まず難病のゲノム医療を概説していただいた後,その技術面やデータ共有などの基盤的活動のいくつかを紹介いただき,加えて倫理社会面についても考察していただいた.第二部「各論」では,難病の各分野においてわが国のゲノム医学研究をリードする先生方に全ゲノム解析研究の現状と展望を解説していただいた.
 全ゲノム解析による多様な難病の研究はまさに進行中である.執筆者の先生方には,ホットな研究の現状を述べ,また続々と得られつつある新しい成果の一端を披露するという困難な役目を引き受けていただいたことを深く感謝している.読者の方々が,全ゲノム解析がもたらす難病のゲノム医療への力強い潮流を感じていただければ望外の喜びである.
 はじめに(徳永勝士)
総論
難病のゲノム医療に向けた現状と展望
 (M 由香・他)
ゲノム解析技術の進歩
 (宇津野泰弘・松本直通)
難病のゲノム解析に必要なデータベースと今後の展望
 (鈴木寿人)
未診断疾患イニシアチブ(IRUD)
 (松原洋一)
難病の全ゲノム解析プロジェクトにおけるゲノム基盤
 (河合洋介・大前陽輔)
難病の全ゲノムに関する実証事業
 (三宅紀子)
各論
希少疾患の網羅的ゲノム解析─全エクソーム解析/全ゲノム解析
 (要 匡)
神経難病の全ゲノム解析
 (辻 省次・他)
筋疾患におけるゲノム医療─トランスクリプトーム解析とロングリードシークエンス
 (江浦信之・他)
難聴の全ゲノム解析
 (西尾信哉・宇佐美真一)
遺伝性網膜疾患のゲノム解析
 (須賀晶子・他)
心筋症の全ゲノム解析
 (朝野仁裕・宮下洋平)
心血管疾患における遺伝学的検査
 (野村征太郎)
血液疾患の全ゲノム解析
 (杉奈緒・加藤元博)
遺伝性腫瘍の全ゲノム解析
 (井本逸勢)
多因子性神経難病の全ゲノム解析─筋萎縮性側索硬化症
 (中村亮一・他)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  Genomics England
  All of US Research Program
  未診断疾患イニシアチブ(IRUD)
  Segmental duplication(SD)
  Variantとmutation
  最大効率のフィルターは?
  全ゲノムシークエンス(WGS)データの解析
  遺伝性腫瘍の特徴