やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 武田憲昭
 徳島大学大学院医歯薬学研究部耳鼻咽喉科学
 めまいは最も頻度の高い症状のひとつであり,さまざまな疾患により発症する.日本めまい平衡医学会では,めまい診療の標準化を行っており,最近,「メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン」,「良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン」,「前庭神経炎診療ガイドライン」を改訂した.本特集では,これらの診療ガイドラインの治療に関するクリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)を中心に,新しい診断基準も含めて解説している.
 最近の進歩として,メニエール病や遅発性内リンパ水腫の難治例に対する中耳加圧治療が保険収載された.また,良性発作性頭位めまいに対する耳石置換法のエビデンスも確立されてきた.さらに,持続性知覚性姿勢誘発めまい(persistent postural-perceptual dizziness:PPPD)や前庭性片頭痛などの新しいめまい疾患の診断基準が提唱されたことにより,診断がつかない症例の割合が大きく減少した.
 平衡機能検査にも新しい進歩があった.ビデオヘッドインパルス検査(video head impulse test:vHIT)と前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potential:VEMP)により,3つの半規管と2つの耳石器の機能を別々に評価できるようになり,診断の精度が向上している.また,内耳造影MRIを用いた内リンパ水腫画像検査が広く行われるようになり,メニエール病の病態である内リンパ水腫が画像診断できるようになった.本特集では,これらの新しい検査法についても解説している.
 慢性難治性めまいには前庭リハビリテーション(平衡訓練)が有効である.日本めまい平衡医学会では,前庭リハビリテーションを標準化し,「平衡訓練/前庭リハビリテーションの基準」を改訂した.また最近,デバイスを用いた前庭リハビリテーションが開発され,有効性が報告されている.これまで両側前庭機能障害によるめまいは治療が困難であったが,ノイズ前庭電気刺激治療が開発され,有効性が報告されている.本特集では,このような新しい治療法についても解説している.
 本特集がめまい診療の現場で活用され,めまい患者の診断と治療に役立つことを願っている.
特集 めまい−治療と研究の最前線
 はじめに 武田憲昭
 メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版 將積日出夫
 良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン2022年版 今井貴夫
 前庭神経炎診療ガイドライン2021年版 肥塚 泉
 新しいめまい疾患−PPPDと前庭性片頭痛 堀井 新
 新しい平衡機能検査−vHITとVEMP 室伏利久
 内耳造影MRIによるメニエール病周辺疾患の内リンパ水腫陽性率 北原 糺
 平衡訓練/前庭リハビリテーションの基準−2021年改訂− 伏木宏彰
 ウェアラブルデバイスを用いた平衡訓練の開発 佐藤 豪
 両側前庭障害に対するノイズ前庭電気刺激治療の開発 岩ア真一

連載
バイオインフォマティクスの世界(14)
 やってみようバイオインフォマティクス−RNAseq解析編 永井貴大・他

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