はじめに
滝川 一
帝京大学医療技術学部長,同医学部名誉教授
薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)の多くは予測不能であり,肝細胞障害型では劇症化して死に至ったり,肝移植になる場合もあるが,その発生機序もほとんどが不明のままである.近年,肝障害のタイプ別では胆汁うっ滞型が減少し,肝細胞障害型が増加している.また起因薬にも変化がみられ,抗悪性腫瘍治療薬の頻度が増加している.これを受けて,筆者も参加し計5回の会議が開催されたCIOMS(Council for International Organizations of Medical Science)のWorking Groupが作成し,2020年6月に発刊されたDILIの提言でも,発症機序の分類を従来の直接型(direct,intrinsic)と特異体質(idiosyncratic)の中間に間接型(indirect)を新たに加えることを提唱している.このカテゴリーの特徴として,用量依存性は通常なく,発症までの期間や予測可能であるかは直接型と特異体質によるものの中間とし,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)やprotein kinase inhibitorやモノクローナル抗体などを起因薬に含めている(https://cioms.ch/wp-content/uploads/2020/06/CIOMS_DILI_Web_16Jun2020.pdf).
ICIによる免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)のなかでも肝障害は頻度が高く,諸外国のDILIの研究者も注目しており,米国ではimmune-mediated liver injury caused by ICIs(ILICI)と,ヨーロッパではcheck-point inhibitor induced liver injury(CHILI)ともよばれている.
現在,わが国で広く用いられている日本消化器関連学会週間(DDW-Japan)2004のワークショップで提案した診断基準は,1993年に出されたRUCAM-CIOMSの診断基準をわが国の現状に合わせて改定した肝臓専門医以外の利用を目的としたものである.年数がたって,起因薬や肝疾患の変遷に伴って改訂の必要性を感じていた.RUCAM-CIOMSの診断基準については,2008年にNational Institutes of Health(NIH)で開催されたDILIのWorkshopで米国の研究者を中心に改訂の話がでていたが,そのままであった.また,2020年のCIOMSの提言にも改訂を行う旨が記載されている.わが国では今後の改訂に向け,どのように対応するかは悩ましいところである.
本特集ではDILIの最新の知見についての執筆を,わが国の最先端の先生方にお願いした.読者の日常診療に有益なものになることを期待したい.
滝川 一
帝京大学医療技術学部長,同医学部名誉教授
薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)の多くは予測不能であり,肝細胞障害型では劇症化して死に至ったり,肝移植になる場合もあるが,その発生機序もほとんどが不明のままである.近年,肝障害のタイプ別では胆汁うっ滞型が減少し,肝細胞障害型が増加している.また起因薬にも変化がみられ,抗悪性腫瘍治療薬の頻度が増加している.これを受けて,筆者も参加し計5回の会議が開催されたCIOMS(Council for International Organizations of Medical Science)のWorking Groupが作成し,2020年6月に発刊されたDILIの提言でも,発症機序の分類を従来の直接型(direct,intrinsic)と特異体質(idiosyncratic)の中間に間接型(indirect)を新たに加えることを提唱している.このカテゴリーの特徴として,用量依存性は通常なく,発症までの期間や予測可能であるかは直接型と特異体質によるものの中間とし,免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)やprotein kinase inhibitorやモノクローナル抗体などを起因薬に含めている(https://cioms.ch/wp-content/uploads/2020/06/CIOMS_DILI_Web_16Jun2020.pdf).
ICIによる免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)のなかでも肝障害は頻度が高く,諸外国のDILIの研究者も注目しており,米国ではimmune-mediated liver injury caused by ICIs(ILICI)と,ヨーロッパではcheck-point inhibitor induced liver injury(CHILI)ともよばれている.
現在,わが国で広く用いられている日本消化器関連学会週間(DDW-Japan)2004のワークショップで提案した診断基準は,1993年に出されたRUCAM-CIOMSの診断基準をわが国の現状に合わせて改定した肝臓専門医以外の利用を目的としたものである.年数がたって,起因薬や肝疾患の変遷に伴って改訂の必要性を感じていた.RUCAM-CIOMSの診断基準については,2008年にNational Institutes of Health(NIH)で開催されたDILIのWorkshopで米国の研究者を中心に改訂の話がでていたが,そのままであった.また,2020年のCIOMSの提言にも改訂を行う旨が記載されている.わが国では今後の改訂に向け,どのように対応するかは悩ましいところである.
本特集ではDILIの最新の知見についての執筆を,わが国の最先端の先生方にお願いした.読者の日常診療に有益なものになることを期待したい.
特集 薬物性肝障害の最新トピック
はじめに
滝川 一
薬物性肝障害発症機序と分類の最新理解
齋藤英胤
薬物性肝障害発症に関連するバイオマーカー
中村亮介・他
薬物性肝障害の起因薬の変遷
相磯光彦・滝川 一
薬物性肝障害の診断
加川建弘
健康食品による肝障害
辻 恵二
免疫チェックポイント阻害薬による肝障害
大平弘正・他
薬物性肝障害による急性肝不全とACLF
持田 智
連載
オンラインによる医療者教育(22)
コロナ時代の研修医リクルート
肥田侯矢・他
COVID-19診療の最前線から−現場の医師による報告(14)
米国の臨床現場からの報告−ニューヨーク市での感染爆発を経験して
野本功一
バイオインフォマティクスの世界(3)
プロテオミクスと質量分析−疾患の現場にいたのはどの遺伝子だ?
三浦信明
TOPICS
循環器内科学
Cyclic GMP-Protein Kinase Gシグナルを標的とした新たな心不全治療戦略
伊藤 慎・北風政史
脳神経外科学
転移性脳腫瘍の個別化治療
三矢幸一
免疫学
Non-Coding DNA領域による制御性T細胞分化メカニズム
川上竜司
FORUM
中毒にご用心−身近にある危険植物・動物(7)
マグロ,カツオなど(ヒスタミン魚中毒)−保存状態の悪いものを食べると…
小原佐衣子
速報
先天性心疾患成人における癌併発−当施設での実態
中澤 誠・他
次号の特集予告
はじめに
滝川 一
薬物性肝障害発症機序と分類の最新理解
齋藤英胤
薬物性肝障害発症に関連するバイオマーカー
中村亮介・他
薬物性肝障害の起因薬の変遷
相磯光彦・滝川 一
薬物性肝障害の診断
加川建弘
健康食品による肝障害
辻 恵二
免疫チェックポイント阻害薬による肝障害
大平弘正・他
薬物性肝障害による急性肝不全とACLF
持田 智
連載
オンラインによる医療者教育(22)
コロナ時代の研修医リクルート
肥田侯矢・他
COVID-19診療の最前線から−現場の医師による報告(14)
米国の臨床現場からの報告−ニューヨーク市での感染爆発を経験して
野本功一
バイオインフォマティクスの世界(3)
プロテオミクスと質量分析−疾患の現場にいたのはどの遺伝子だ?
三浦信明
TOPICS
循環器内科学
Cyclic GMP-Protein Kinase Gシグナルを標的とした新たな心不全治療戦略
伊藤 慎・北風政史
脳神経外科学
転移性脳腫瘍の個別化治療
三矢幸一
免疫学
Non-Coding DNA領域による制御性T細胞分化メカニズム
川上竜司
FORUM
中毒にご用心−身近にある危険植物・動物(7)
マグロ,カツオなど(ヒスタミン魚中毒)−保存状態の悪いものを食べると…
小原佐衣子
速報
先天性心疾患成人における癌併発−当施設での実態
中澤 誠・他
次号の特集予告