やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 櫻井裕之
 東京女子医科大学形成外科
 重症熱傷は,およそ外傷のなかでも最も侵襲が高度で,大量の医療資源・人的資源の投入を必要とする.受傷後早期は循環動態がきわめて不安定な時期であるが,大量輸液と循環・呼吸管理などのライフサポートと並行して,熱傷創部壊死組織(焼痂)切除と植皮術による皮膚再建を要する.また,社会復帰に向けては機能的・整容的障害に対する治療,精神・心理面でのケア,社会的支援が不可欠である.したがって,近年の熱傷治療の進歩は救急医,形成外科医を中心とした多領域医師,看護師,理学療法士,栄養士,臨床心理士,社会福祉士などの多職種の医療従事者が,それぞれ役割分担を担うチーム医療体制に支えられている.本特集においては,さまざまな側面から近年の熱傷治療の進歩に関して,それぞれの専門家に執筆をお願いした.
 広範囲熱傷においては,患者自身から採取できる皮膚面積は限られているため,日本スキンバンクネットワークによる同種皮膚の役割は非常に大きなものである.同時に人工真皮,培養表皮,細胞因子などの再生医療が,制限の大きいわが国の同種移植事情を補完する治療として確立しつつある.また焼痂切除においても,温存しうる組織を可及的に残し,壊死組織のみを選択的に排除する機器や薬剤も使用できるようになった.また感染制御のための局所管理として,抗菌力の強い被覆材の開発も,とくに自然上皮化が期待できるII度熱傷創に対してはきわめて有効である.社会復帰に向けて大きな障害となる,瘢痕拘縮に対しては形成外科的再建手術,リハビリテーションによる機能回復訓練,瘢痕の質的改善を目的とした再生医療な度が近年の進歩として注目されている.
 日本社会においては安全重視の生活環境,労働環境,インフラ整備が進み,半世紀前に比べ重症熱傷患者の発生件数は大きく減少した.一方で,災害,事故,事件などで多数の傷病者が発生する事案は現代社会においても起こりうることであり,上記チーム医療体制の維持と,重症熱傷患者多数発生時の分散搬送システムの構築に関する日本熱傷学会としての取り組みに関しても紹介する.
特集 熱傷治療の進歩
 はじめに
 櫻井裕之
 多数熱傷患者発生時の日本スキンバンクネットワークの役割
 青木 大・他
 災害発生時の熱傷診療
 井上貴昭
 培養表皮による広範囲熱傷患者の救命
 上田敬博・他
 熱傷手術の進歩−Versajet(R),NexoBrid(R),MEEK,RECELL(R)
 松村 一
 熱傷創に対する感染対策の進歩
 海田賢彦
 遊離皮弁による熱傷後瘢痕拘縮形成術の実際
 松峯 元
 ケロイド・肥厚性瘢痕に対する再生医療導入の展望
 樫村 勉・副島一孝
 熱傷創治療に対する再生医療−細胞増殖因子・人工皮膚・幹細胞
 副島一孝
 熱傷患者に対するリハビリテーションの進歩
 木村雅彦

連載
オンラインによる医療者教育(21)
 オンラインによるFaculty Development−Zoom教育事例検討会
 磯部真倫
COVID-19診療の最前線から−現場の医師による報告(13)
 COVID-19患者の宿泊療養
 大澤良介
バイオインフォマティクスの世界(2)
 トランスクリプトームデータの一般的な解析手順
 橋本浩介

TOPICS
 腎臓内科学
 新しいループス腎炎の組織学的分類の有用性と残された課題
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 疫学
 バイオマーカーとしてのテロメア長
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 眼の健康寿命を延ばそう−“アイフレイル”と気づきにくい眼疾患
 平塚義宗

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 中毒にご用心−身近にある危険植物・動物(6)
 ドクゼリ−日本三大有毒植物,欧米で最も有毒な植物
 千葉拓世

 次号の特集予告