やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 『コミュニティケアマネジメント@保健・医療・福祉のネットワーキング』を発刊しようとする意図,あるいは問題意識は,何よりも21世紀のわが国や諸外国においてはコミュニティケアのマネジメントが非常に重要になってくるであろうという予測に基づいている.従来,コミュニティケアとかケアマネジメント,あるいは保健・医療・福祉とその関連領域のネットワークやネットワーキングなどの重要性は個々別々に論じられてきたけれども,一つの統合化された理念と方法によって提示されることはなかったからである.
 しかし,現時点においても,また未来志向的に考えても,さまざまな分野における対人サービスやヒューマンサービスにおいて,少子高齢化,家族規模の縮小化,地域連帯の希薄化などの現象がみられるなかで,一方では家族やコミュニティにおいて発生するさまざまな生活課題が複雑多岐化し,医師,保健師,看護師,理学療法士,作業療法士,社会福祉士,精神保健福祉士,介護福祉士,保育士,介護支援専門員(ケアマネジャー)などの専門職だけではなく,NPO(特定非営利活動),NGO(非政府組織),ボランティア,住民なども参加するコミュニティケアの推進がますます身近に必要になってきている.
 このような状況をみるとき,コミュニティケアのマネジメント,すなわちコミュニティケアマネジメントが新しいコンセプトと方法をもち,登場しなければならないと思われるのである.
 すでにケアマネジメントの理論と手法はあり,わが国においても介護保険法の運用のなかで一定の成果をあげていることは確かではあるけれども,これからはもっと軸足をコミュニティケアに移していかなければならないと考えられる.とすると,新しいイノベーションマネジメント,リスクマネジメント,プロセスマネジメントなどをも含んだコミュニティケアマネジメントこそ,これからの医療サービス,対人保健サービス,対人福祉サービスなどの進むべき方向であると思われる.と同時に,従来は縦割りでなされてきた保健・医療・福祉とその関連分野の諸サービスのトータルケア,地域統合が必須になってきており,そのように再編していくことが求められており,コミュニティケアマネジメントの重要な方向性としてネットワーキングが浮かびあがってくるのである.このような意図と目的意識をもって,本書ではコミュニティケアマネジメントの理論と実践,さらにまた海外の最新の動向を踏まえ,読者の皆様に提供しようとするものである.
 コミュニティケアそのものは,淵源をたどるといくつかのルーツがある.1つは,19世紀後半からはじまっているセツルメントにおいて,コミュニティにおいて住民とセツラー,レジデントなどと呼ばれる住み込みボランティアとが,一緒になって地域問題の解決に取り組んできたという経緯である.2つ目は,20世紀に入ってからのことであるが,精神科領域の病院などにおいて,地域精神医学をはじめとして地域医療の展開が試みられてきたことである.3つ目は,社会福祉施設をコミュニティに溶け込んだより家庭的なものにしていこうという動きである.近年では,これを施設の社会化,地域化と呼んでいるが,いわゆる地域福祉への潮流となって,利用者の生活保障をしていくための方法としてコミュニティケアが手段として用いられてきた.
 しかし,これらのコミュニティケアの淵源においては,コミュニティにおけるフォーマル部門とインフォーマル部門の参加やマネジメントの大切さは,それぞれ認識されていたものの,相互の連携やチームケアといったことについては,不十分であったと言わなければならない.わが国の今後の超高齢・人口減少社会における一人ひとりの患者や利用者にとっては,核家族や家族規模の縮小化によって,家族機能が弱体化しているために,疾病や生活課題がこれまで以上に地域課題となっていくであろう.しかも,それぞれの問題については,わが国ではいわゆる縦割り行政で対処されてきた.これは20世紀においては,有効な行政手法であったかもしれないが,21世紀の未来志向型の対応としては,地域基盤,地域交流,さらには地域統合の方向にもっていかなければならない.そのようなコミュニティケアマネジメントの理論を,より確実なものとするために,本書を発刊するものである.
 そのような視点からわが国の実状をみると,各地でコミュニティケアマネジメントを適切に取り入れて,実践している事例が数多く見受けられる.第II部の実践編で紹介しているごとく,地方都市,農山漁村などの過疎地域,大都市などのそれぞれ地域性が異なるコミュニティにおいて,実にユニークな実践が試行されており,相応の成果をあげているところも少なくない.そのようなコミュニティケアマネジメントから学ぶことは,実に多いと言わなければならない.
 海外に視野を広げると,これまたそれぞれの国の文化や保健医療制度,社会福祉制度などが異なっていても,いずれもコミュニティケア志向をもち,かつ保健・医療・福祉とその関連領域の多職種の専門職とボランティア,住民などのネットワーキングが大きな役割を果たしていることを学ばせられるのである.
 こういった意図と問題意識をもって,コミュニティケアマネジメントの未来志向に根ざした理論と枠組み,実践の手法と知恵を,本書において提示し,展開したいと考えているものである.
 2006年5月1日
 青木 佳之(医療法人青木内科小児科医院理事長)
 宮原 伸二(神戸親和女子大学教授,NPO法人総合ケアシーザル理事長)
 小田 兼三(東京福祉大学教授)
序文(青木佳之 宮原伸二 小田兼三)
第I部 理論編
 コミュニティケアマネジメントの考え方と基本的枠組み(小田兼三)
 超高齢・人口減少社会におけるコミュニティケアの展望(塩飽邦憲)
 保健・医療・福祉のネットワーキングの展望と課題(小田兼三)
 医療とコミュニティケア(瀬戸山元一)
 住民主体によるコミュニティケアと住民の自立支援(松浦尊麿)
 コミュニティケアマネジメントにおける多職種の連携と課題(松山 真)
 協働のまちづくり(野山 修)
 個人情報保護法とコミュニティケアの課題@コミュニティケアにおける自己情報コントロールの保障に向けた課題(小林 茂)
 ユニバーサルデザインとまちづくり(相良二朗)
 社会福祉協議会とコミュニティケア(山本茂樹)
 NPO,ボランティアによるコミュニティケア(宮原伸二)
 介護保険と地域包括支援センター(青木佳之)
第II部 実践編
 高知県西土佐村@過疎地におけるコミュニティケアと住民参加(宮原伸二)
 出雲市の保健・医療・福祉の協働によるまちづくり(金築真志)
 住民参加による包括的なコミュニティケアの展開@東京(佐谷けい子)
 開業医とコミュニティケア(青木佳之)
 病院とコミュニティケア@庄内医療生協による展開(伊藤眞知子)
 施設とコミュニティケア(福嶋裕美子)
 医療・福祉系NPO法人とコミュニティケア(宮原伸二)
 社会福祉協議会が取り組む住民主体の地域福祉活動(佐野裕二)
 組織力とマンパワーで共生の地域づくり@農協(JA)を基盤とした地域医療・福祉活動の実践から(福永哲也)
第III部 海外の動向
 イギリスのコミュニティケアマネジメント(小田兼三)
 アメリカのコミュニティケアマネジメント(得津慎子)
 スウェーデンのコミュニティケアマネジメント(牧田満知子)
 オーストラリアのコミュニティケアマネジメント(木村久美子)
 ドイツのコミュニティケアマネジメント(三原博光)