やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「日本人の食事摂取基準(2005年版)」(以下,本書では「食事摂取基準(2005)」と略す)の策定にあたっては,多くの研究者が,膨大な数の原著論文を系統的にレビューした.そして,その効率的なまとめ方は,世界のお手本になるものと思われる.「食事摂取基準(2005)」詳細版の学術的価値は,非常に高いようである.したがって,栄養学研究者や管理栄養士・栄養士養成課程教員にとっては,とても有用で,重宝されている.しかし,実践活動に従事している管理栄養士・栄養士,あるいは,管理栄養士・栄養士養成課程の学生は,簡潔にまとめられたものが欲しいという.このような要請に応えて企画されたのが本書である.
 本書では,食事摂取基準の概念,食事摂取基準の数値が決められた根拠,個人や集団での栄養評価・判定(アセスメント),栄養計画(プランニング)に焦点を絞り,わかりやすく「食事摂取基準(2005)」を解説した.また,特定給食施設等の給食施設の栄養計画において食事摂取基準を適用するには,「特定かつ多数の人びとに対して継続的に食事を提供する」という言葉に示されているように,「多数の人びと=集団」として取り扱わなけばならない.しかし,給食施設の栄養計画を「個人」の栄養計画としてしまっているものがある.食事摂取基準が理解されておらず,大きな誤りがおかされている.このため,給食施設における食事摂取基準の正しい適用の仕方について,別に1章を設けて詳述した.さらに,「上限量」の意味とその策定根拠は,厚生労働省の詳細版では簡単に触れられており,理解が困難であるので,「アメリカ/カナダの食事摂取基準」を参考にして1章を設けて記述した.
 この本を読んでおけば,管理栄養士・栄養士は,栄養管理実践活動を行うのに何の不自由も感じないであろうし,学生は,管理栄養士国家試験に合格できるレベルに到達できる.教科書として,座右の書として,有用なものであると自負している.
 2006年3月
 聖徳大学教授(大学院人間栄養学研究科長・人文学部生活文化学科)
 日本人の栄養所要量-食事摂取基準-策定検討会座長
 前(独)国立健康・栄養研究所理事長
 田中 平三
 はじめに

食事摂取基準の概念
 食事摂取基準とは
  根本的な考え方 食事摂取基準は“健康な人びと”のためのもの 習慣的な摂取量 年齢区分と基準体位
 栄養素の食事摂取基準5指標について
  推定平均必要量(EAR) 推奨量(RDA) 目安量(AI) 目標量(DG) 上限量(UL)
 エネルギーの指標
  推定エネルギー必要量
 自己評価テスト1
  食事摂取基準の基本が理解できたかチェックしてみよう
  解答
ライフステージ別食事摂取基準
 成人の食事摂取基準を理解するために
  数値決定の科学的根拠 成人の栄養と年齢区分 データの外挿法
 成人の食事摂取基準とその科学的根拠
  エネルギー
  主栄養素
   たんぱく質 脂質 脂肪エネルギー比率 飽和脂肪酸 n-6系脂肪酸 n-3系脂肪酸 食事性コレステロール 炭水化物 食物繊維
  水溶性ビタミン
   ビタミンB1 ビタミンB2 ナイアシン ビタミンB6 葉酸 ビタミンB12 ビオチン パントテン酸 ビタミンC
  脂溶性ビタミン
   ビタミンA ビタミンE ビタミンD ビタミンK
  ミネラル
   マグネシウム カルシウム リン
  微量元素
   クロム モリブデン マンガン 鉄 銅 亜鉛 セレン ヨウ素
  電解質
   ナトリウム カリウム
 乳児の食事摂取基準 新生児と栄養
  乳児と栄養
  0〜5か月母乳栄養児
  0〜5か月人工乳栄養児
  6〜11か月児
  乳児の目安量の適用
  乳児の食事摂取基準
 小児の食事摂取基準 小児期と栄養
   幼児期(1〜5歳) 小学生〜高校生(6〜17歳)
  外挿法による食事摂取基準の算定
  小児の食事摂取基準
 高齢者の食事摂取基準 高齢期と栄養
  高齢者の食事摂取基準
 妊婦・授乳婦の食事摂取基準
  妊婦・授乳婦への付加量
上限量
  上限量はどのようにして決められたのか
  過剰摂取による健康障害と上限量(アメリカ/カナダの上限量を含む)
   ナイアシン ビタミンB6 葉酸 ビタミンA ビタミンE ビタミンD マグネシウム カルシウム リン モリブデン マンガン 鉄 銅 亜鉛 セレン ヨウ素
食事摂取基準の適用:栄養評価・判定と栄養計画
 個人を対象とした栄養評価・判定と栄養計画(栄養素)
 集団を対象とした栄養評価・判定と栄養計画(栄養素)
 エネルギー摂取量の評価・判定と栄養計画
給食施設における食事摂取基準の適用
  重要事項を復習してみよう
  給食施設における栄養計画の決定樹
  均一集団における栄養素の栄養計画
   栄養計画の手順 栄養計画の仮想例
  目安量と集団の栄養計画
  均一集団におけるエネルギーの栄養計画
  均一集団における主栄養素エネルギー比率の栄養計画
   栄養計画の手順(仮想例)
  不均一集団における栄養計画(理論的接近)
   栄養素密度接近法I 栄養計画の手順 栄養計画の仮想例 栄養素密度接近法II 栄養計画の手順 栄養計画の仮想例
 自己評価テスト2
  食事摂取基準を習得できたかチェックしてみよう
  解答
資料編:ライフステージ別食事摂取基準とその科学的根拠
  成人の食事摂取基準(数値)
  0〜5か月児の目安量とその科学的根拠
  6〜11か月児の目安量とその科学的根拠
  幼児(1〜2歳,3〜5歳)の食事摂取基準とその科学的根拠
  小学生(6〜7歳,8〜9歳,10〜11歳)の食事摂取基準とその科学的根拠
  中学生(12〜14歳)・高校生(15〜17歳)の食事摂取基準とその科学的根拠
  高齢者(70歳以上)の食事摂取基準とその科学的根拠
  妊婦・授乳婦への付加量とその科学的根拠
  上限量(数値)
  付表1〜付表11

 おわりに
 文献
 索引

DRIS Box
 1. パーセンタイル(percentile)
 2. 閾値(threshold)
 3. 習慣的な栄養素摂取量と生活習慣病のリスク
 4. 不確実性因子(uncertainty factor:UF)
 5. 外挿(extrapolation)
 6. 窒素出納試験の標準法
 7. たんぱく質の“目標量”
 8. 炭水化物必要量への接近
 9. 食物繊維の目安量
 10. 飽和量
 11. ビタミンの機能と欠乏症
 12. ミネラル,脂肪酸の機能と欠乏症
 13. 人乳と牛乳の主要組成
 14. カルシウムの妊婦・授乳婦への付加量はどうして0(ゼロ)になったか
 15. 葉酸と神経管閉鎖障害
 16. アメリカ/カナダの食事摂取基準における推定エネルギー必要量
 17. ビタミン,ミネラルの過剰摂取による健康障害
 18. 個人の栄養評価・判定(アセスメント)の指標
 19. たんぱく質の推奨量は低すぎる?
 20. 習慣的な摂取量が必要量を充足している確率は?
 21. ひとつの数値ではなくその幅が知りたい…標準偏差と標準誤差
 22. 栄養素とShelfordの法則-図1(6頁)をどう解釈するか?-
 23. 食事摂取基準の概念が導入されたのは給食施設の栄養計画のためである
 24. 給食施設における食事提供量(標的分布の中央値)は推奨量よりも高い
 25. 給食施設において必要量を充足していない人びとの割合を見積もるには
 26. 主栄養素のエネルギー比率
 27. 給食施設においてもマネジメントサイクルを!
 28. 不均一集団のサブグループのまとめ方