やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

刊行にあたって
 このたび「地域医療研究会全国大会 2007」の内容が,医歯薬出版から単行本『医療の危機に抗して―新しい地域医療の戦略―』として刊行されることになりました.本書は,地域医療の実像と,そこで働く人たちの魅力を余すところなく読者に伝えるものとなっています.本大会に携わったものとして,この書の刊行をじつにうれしく思います.
 本大会は,2007年11月 24〜25 日に千葉県木更津市の「かづさアカデミアパーク」で開催されました.この会は,私のような経験未熟な者がデザインしたのですが,演者の方々に恵まれ,デザインの稚拙さを凌駕するじつに充実した内容となりました.演者の方々には深く感謝いたしております.
 第一日目には,日野原重明氏に記念講演をお願いし,「新老人」の活動とともに,未来を見据えた医療のあり方をご提言いただき,96 歳という年齢をまったく感じさせない迫力あるご講演をいただきました.その次に行われたシンポジウム「新たな医療制度はどうあるべきか」では,佐藤敏信氏(当時:厚生労働省医政局指導課長),医療経済の立場から権丈善一教授(慶應義塾大学商学部)に,病院の立場から石井暎禧氏(当会世話人・中医協委員),在宅ケアの立場からは増子忠道氏など,強力な論客の方々に,今後の高齢社会を乗りきる医療制度のあり方をシャープにご議論いただきました.同時に,脇紀美夫氏(羅臼町長)に北海道の厳しい医療の現実と公的医療のあり方について生々しい問題提起をいただきました.第二日目には,鎌田實氏と川島みどり氏の対談を企画しました.この企画は,医療のやさしさ,暖かさに焦点をあて,「本来あるべき医療の姿」を追究する大切さを聴衆に訴えかけました.
 このような日本医療を代表する識者の方々にご登壇いただき,思うところを十分な時間を使って語っていただきました.
 他の演者の方々についても,有名か否かを問わず,また若手であっても,「実力本位」で演者をご選定いただくよう座長の方々にお願いいたしました.その結果,国内最高水準の実践をされている方々ばかりにご登壇いただき,現場の立場からしっかりご発言いただいたという実感があります.
 改めて本書を通読しますと,どの部分でも本質的な討論が展開されており,しかも,わが国の地域医療の抱える諸問題がバランスよく議論されています.医療,看護,福祉という切り口での討論はもとより,その背景となる地域の人々の生活,医療経済や制度の問題などなど…読者の方は,地域医療の全体像とその課題を包括的に理解できると期待します.地域医療に携わる多くの方々に,本書を手に取っていただけるとうれしく思います.
 また,地域医療は,問題山積ですが,じつに豊富な内容をもち,また「そこにかかわる人たちが,いかに魅力的な活動をしているか」を本書は読者に伝えるものと信じます.演者の魅力あふれる講演内容にふれ,本書を読んだ若い人たちが,私たちの仲間として地域医療の現場に参加してくださることを期待します.
 地域医療研究会は,1980 年に,故今井澄氏(諏訪中央病院),黒岩卓夫氏(ゆきぐに大和総合病院・当時)らを中心に,地域医療の発展をめざして設立された団体です.
 「地域医療研究会全国大会 2007」は,和歌山県白浜市での大会に引き続く4年ぶりの大会でした.鎌田實代表世話人(当時)におすすめを受け,非力な私が会の主管をお受けしました.私は世話人になって日が浅く,開催にあたっては,経験豊富な亀井克典世話人をはじめとする,多くの世話人の援助をいただきました.また,千葉県松戸市で開業している苛原実氏に大会副会長になっていただき,そのご尽力で千葉県内の多くの方々にご参加いただきました.
 これらの方々はもとよりのこと,演者としてご登壇いただいた方々,座長として演者選定や会議のコーディネートを行っていただいた方々に,厚く御礼申し上げます.また,後援団体の方々をはじめとして,本会をご支援くださった方,ご参加いただきました全国の方々,現地千葉県の方々に深謝いたします.
 本大会議事の書籍化にあたっては,医歯薬出版株式会社の岸本舜晴氏には,無理な製作プロセスにもかかわらず,多大なるお力添えをいただきました.深く感謝いたします.氏の献身的努力なしには,本書は世に出ることはありませんでした.
 2009 年には,佐久総合病院(担当世話人北澤彰浩氏)の主管による長野県での「地域医療研究会 2009」が予定されています.ご存知のとおり,佐久総合病院は,故若月俊一氏が中心になって構築した,文字通りの「地域医療のメッカ」です.日本の地域医療は多かれ少なかれ,佐久総合病院をモデルとして実践されてきたと言っても過言ではありません.じつに魅力的な会合が期待されます.次期大会にも,多大なるご支援とご参加をお願い申し上げます.みなさまと佐久でお会いすることを楽しみにしています.
 医療法人財団千葉健愛会理事長
 地域医療研究会全国大会2007大会長
 和田忠志
 刊行にあたって(和田忠志)
 掲載者一覧
生きかた上手(日野原重明)
 I 法律と医学・看護・介護
  法治国家とインターン制度……/法治国家と保助看法……/その解決のためには何をしなければならないか……/訪問看護でできること
 II 生きかた上手とは
  人間の生きかた・老人の生きかたとは……/進む高齢社会のなかで……/激しい少子化のなかで……/人生を 3 分割して考える……/「新老人の会」をめぐって―第 3 の人生をどう生きるか……/人間の生きかたの内容を考える―世代を超えて……/生きかた上手になるための条件
医療がやさしさを取り戻すために
 医療とやさしさ(鎌田 實)
  医療を取り巻く状況……/緩和ケア病棟で「森のなかのフルコース」を召し上がれ……/緩和ケア病棟で『ラ・クンパルシータ』を踊る
 看護とやさしさ(川島みどり)
  看護という仕事とは……/詩とひらめき……/生活行動の援助を進めることとは……/人生の場と時を共有しながら……/看護音楽療法とやさしさ
 対談〔鎌田 實・川島みどり・司会:川越正平〕
  身内の死を通して本当のやさしさを考える……/やさしさのシステムづくり……/在宅医療のなかから……/やさしさを突き動かすもの
新たな医療はどうあるべきか
 わが国の医療提供体制と今後の課題(佐藤敏信)
  医療行政の人と箱と金……/医療と経営……/医療の財源確保をどうするか
 医療の政策転換を求めて 小さすぎる政府の医療政策(権丈善一)
  間接民主主義のもとでは……/財源の 1 つに社会保険料を……/小さな政府という幻想
 地域医療研究会と病院の果たしてきた役割(石井暎禧)
  初期の地域医療研究会……/地域医療研究会の軌跡……/医療の質が変わるなかで
 在宅ケアの立場から(増子忠道)
  在宅医療や在宅福祉の理念の明確化を……/介護保険と医療保険に危惧する……/社会保険制度の危機
 特別発言 北の町から(脇 紀美夫)
  北の町の医療事情……/病院を診療所化して転換を検討するなかで
 討論〔司会:和田忠志〕
  医療保険と介護保険との関わり
若月俊一と佐久総合病院の歴史に学ぶ
 若月俊一先生の軌跡と評価(黒岩卓夫)
  若月俊一先生との出合い……/マルクス少年―「農民とともに」への軌跡…… 年安保をめぐって―後衛論の終焉……/農村社会の変貌と解体,そして老人保健施設の誕生……/センチメンタル・ヒューマニズムと民主化,そして若月浄土について……/佐久総合病院の影響下のなかで
 東京の下町に佐久総合病院をつくろう(増子忠道)
  若月俊一先生は「実践」の指導者……/病院経営の指南……/「病院祭」などア・ラ・カルト
 若月俊一先生から学んだこと(天明佳臣・司会:春田明郎)
 メディコ・ポリス構想は夢であったのか(清水茂文)
  まずは傘下の医療施設を転戦する……/保健・医療・福祉の第一線性を大事にしながら……/農村医学からメディコ・ポリスへ向けて……/医療の民主化とは何か
 討論〔司会:北澤彰浩〕
介護保険制度改正 新予防給付と地域包括支援センター
 現場からの問題意識と提案(苛原 実)
  介護保険を実践する際の最近の状況……/介護保険制度の危機は人手不足にある
 だれのための何のための新予防給付なのだろうか(宮崎和加子)
  北海道の困難事例……/山梨県の小さな地域で
 武蔵野市の介護保険制度(笹井 肇)
  武蔵野市の現状……/「改正」介護保険の諸問題
 新予防給付と地域包括支援センター 事業推進に向けた課題(根本 崇)
  厳しい行政指導のなかにあって……/新しい健康づくりを考える
 介護予防は有効なのか(安藤親男)
  長野県茅野市の現況
 討論〔司会:宮武 剛・安藤親男〕
  特定高齢者認定は大いなるむだ遣い……/新予防給付について……/地域包括支援センターについて……/在宅介護支援センターの存亡
これからの地域看護・看護師のあり方
 今だからこそ,看護の本質をふまえたケアが求められる(川島みどり)
  危機にある看護……/すぐれた看護実践の展開が求められる……/「診療の補助」と「療養上の世話」……/看護職の行う「生活行動の援助」とは……/食と看護……/気持ちのよいケアを求めて
 地域看護・地域ケアの立場から(村嶋幸代)
  地域と地域看護……/地域で看護すること……/地域全体をみる看護……/地域へ向かってする看護とは……/地域のケアを守るために―地域ケアシステムの構築
 看護現場学への模索(陣田泰子)
  経験知へと導く「帰納的アプローチ」……/帰納法に基づく看護の概念化
 今後の地域看護はどうあるべきか 訪問看護の視点から(村松静子)
  在宅看護が私にもたらせたもの……/訪問看護ステーションの現状のなかで……/家族の思いと向き合う人がいない……/利用者とその家族は看護職に何を求めているのか
 討論〔司会:川島みどり〕
  看護へのアプローチの技術とシステム……/病院からの退院支援はどうあるべきか……/介護保険制度下における看護師の役割とは……/看護学生が学ぶべきヒューマンスキルとは……/看護師の報酬について……/まとめ
新臨床研修制度の現状と将来
 新臨床研修制度(宮嵜雅則)
  新しい臨床研修制度とは……/臨床研修制度の今後の課題
 離島僻地研修(前田清貴)
  徳洲会グループの離島僻地研修……/地域全体を丸ごと診る医療……/研修医のローテーションなど
 女性医師支援(清野佳紀)
 財政再建自治体のなかの地域医療(村上智彦)
  壊れた自治体……/けれども,夕張よいとこ
 討論〔司会:川越正平・宮本真理夫〕
このままでは医療崩壊? 瀬戸際に立つ地域病院医療を考える
 今,瀬戸際に立つ地域病院医療(松本文六)
  地域の中小病院が危ない
 都市型の民間一般病院の視点から(清水 聡)
  進む医療崩壊―魔の三角関係……/都市型地域医療の現状……/今求められるのは平成の上杉鷹山
 高知県における地域医療の現状(川内敦文)
  人口と医療資源の一極集中のなかで……/Uターンした医師として
 地域医療の再構築を北海道から考える(西澤寛俊)
  医療崩壊の要因とは何か……/医療崩壊は日本国崩壊の一現象
 公的一般病院の視点から(大和眞史)
  赤字病院が強いリーダーシップの新院長を迎えて……/日赤病院の危機感をどうやって克服するか……/長野県の産科医療
 討論〔司会:松本文六・亀井克典〕
  まとめ
在宅医療・在宅療養支援診療所は可能か
 緩和ケア病棟をもつ有床診療所(伊藤真美)
  診療所の概要……/診療所の歴史……/有床診療所の緩和ケア……/障害者の在宅支援……/緩和医療の変遷とこれからの在宅医療
 在宅療養支援診療所としての実績と未来(泰川恵吾)
  離島と都市部に診療所をもって……/往診・入院・死亡原因……/変わってきた診療体制
 在宅医療支援のための地域ネットワークづくり(坂本 仁)
 陸の孤島のなかでの在宅ケア(行木紘一)
 討論〔司会:北澤彰浩〕
ホスピスケアと緩和ケア
 わが国の在宅ホスピスと非がん疾患患者の緩和ケア推進のために(平原佐斗司)
  在宅死の一般的状況……/非がん疾患患者と緩和ケア……/在宅で終末期を看取る
 在宅の緩和ケア(岡部 健)
  在宅で看取る意義……/当院の在宅緩和ケアの実践……/今後の課題……/討論
 在宅がん患者の相談支援とデイサービス(中山康子)
  通所介護施設「虹」とは……/相談手法の極意……/相談支援センターへの提言……/デイサービス「虹」の事業……/在宅緩和ケア支援センターの意義……/討論
 笑顔の帰宅と在宅を支えるために 米国ホスピスケアからの学び(服部洋一)
  日本には日本のホスピスケアを……/アメリカのホスピスケア……/訪問ケアとは何か……/ターミナルケアはまちづくりから……/経済面から見るホスピス……/ホスピスケアの流れ……/日米のホスピスケアの比較……/地域医療とホスピス……/エンパワメント……/討論
 全体討論〔司会:平原佐斗司〕
地域で子どもを支える
 司会者のまえおき(前田浩利)
 呼吸器を着けた小児とともに地域に根ざした在宅生活を送る(福島玲子)
  長男星哉が交通事故で呼吸器装着に……/弟昴星もほうっておけない……/在宅でふつうの男の子として育てる
 地域で子どもを支える(池口紀夫)
  集団のなかでの療育……/在宅における療育……/子どもの成長と群れ遊び……/就労問題……/医療依存度が高い場合……/知的障害がある場合……/母子家庭の問題点,支援コーディネーターのこれから
 特別支援教育体制が始まって(柘殖雅義)
  特別支援教育とは……/特別支援教育のシステム……/「個別の指導計画」と「個別の教育支援計画」……/「交流及び共同学習」……/特別支援学校のセンター的機能
 障害のある子が地域で生活するために(高見沢 健)
  制度の整備……/肢体不自由特別支援学校の現状……/千葉県における取り組み……/本校における取り組み……/医療的ケアについて……/今後の課題
 討論〔司会:前田浩利〕