はじめに
本書は,「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」を,「人体の構造と生理機能」,「栄養成分の構造・機能・代謝」,「疾病の成因・病態・診断・治療」の3つの領域に分け,すなわち,解剖生理学や生化学によって健常状態にある「からだの構造と機能」の基礎知識を学んだうえで疾病について理解し,さらに臨床栄養学の実践に繋げていくことができるよう,それぞれの領域についてまとめたものです.
成人は,重さにして1日におよそ250gの炭水化物と,80gのたんぱく質,それに50gの脂肪,重さでは数グラムに満たないビタミンとミネラルを食事から得ています.エネルギーに換算して1,800kcalです.しかし,そのような栄養素やエネルギーを効率よく活用するには,およそ1,500mlの水が必要です.つまり,体重が60kgの成人であれば,毎日250+80+50+1,500=1,880g分の一時的な体重増加があり,翌日には再び60kgに戻っているのです.
その1,880gの摂り方は,朝・昼・夕の3回の食事にほぼ均等に分けられるはずです.病院や施設での食事を考えれば納得いくでしょう.しかし,今日のように複雑で多様な生活が個々に行われるようになってくると,一日三度の食事というリズミカルで均等な食事のかたちは次第に崩れてきつつあります.
リズミカルとは,決まった時間に寝て,決まった時間に起き,決まった時間に食事やトイレを済ませ,決まった時間に働く,こうしたことを指します.神経活動やホルモン活動の多くがリズミカルに,しかも相互に関与して働きます.ところが,深夜遅くまで起きていたり,食事を摂らない時間があったり,一度にたくさん食べたり,同じものばかり食べたりと,不揃いなかたちで不規則に生活されると,神経やホルモンはどう作用すればよいのかわからなくなり,思わぬ作動をしたり,まったく働こうとしなくなったりしてしまうのです.多くの場合,食事を摂らない時間が長い深夜から朝起きる時間までにリセットされるはずですが,日々まちまちな生活をしていると,きっと神経やホルモンは一体何を基準にリセットすればよいのかわからなくなってしまうのでしょう.
からだの機能と働きを学ぶということは,こうした実際の生活であり得ることをも考えて勉強してほしいのです.ただ単に,「胃はたんぱく質分解酵素のペプシンを出して…」とか,「肝臓は栄養素代謝の化学工場でグルコースを解糖系で酸化して…」と知識を詰め込むだけではなく,満腹のときの「胃は…」,空腹のときの「肝臓は…」とか,食べながら歩いているときの「腸は…」,また,真夜中に怖い夢を見て飛び起きたときの「心臓は…」など,いろいろなことを考えて勉強したほうが現実的で楽しくなると思います.
身体の営みに狂いが生じ,からだが持ちこたえられなくなる例のひとつが,いわゆる“メタボリックシンドローム”です.もちろん,先天的なことや事故,原因がわからないことなどたくさんあります.それだけに,からだの仕組みと栄養の関わりについての勉強が欠かせないのです.ときに難しく感じるかもしれませんが,生活の営みを支える学問であると考えると,勉強すればするほど身に付き,きっと自分自身や家族,そして多くの方々のお役に立てるものとなるでしょう.楽しみながら勉強してください.
2008年1月
著者代表 小野章史
本書は,「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」を,「人体の構造と生理機能」,「栄養成分の構造・機能・代謝」,「疾病の成因・病態・診断・治療」の3つの領域に分け,すなわち,解剖生理学や生化学によって健常状態にある「からだの構造と機能」の基礎知識を学んだうえで疾病について理解し,さらに臨床栄養学の実践に繋げていくことができるよう,それぞれの領域についてまとめたものです.
成人は,重さにして1日におよそ250gの炭水化物と,80gのたんぱく質,それに50gの脂肪,重さでは数グラムに満たないビタミンとミネラルを食事から得ています.エネルギーに換算して1,800kcalです.しかし,そのような栄養素やエネルギーを効率よく活用するには,およそ1,500mlの水が必要です.つまり,体重が60kgの成人であれば,毎日250+80+50+1,500=1,880g分の一時的な体重増加があり,翌日には再び60kgに戻っているのです.
その1,880gの摂り方は,朝・昼・夕の3回の食事にほぼ均等に分けられるはずです.病院や施設での食事を考えれば納得いくでしょう.しかし,今日のように複雑で多様な生活が個々に行われるようになってくると,一日三度の食事というリズミカルで均等な食事のかたちは次第に崩れてきつつあります.
リズミカルとは,決まった時間に寝て,決まった時間に起き,決まった時間に食事やトイレを済ませ,決まった時間に働く,こうしたことを指します.神経活動やホルモン活動の多くがリズミカルに,しかも相互に関与して働きます.ところが,深夜遅くまで起きていたり,食事を摂らない時間があったり,一度にたくさん食べたり,同じものばかり食べたりと,不揃いなかたちで不規則に生活されると,神経やホルモンはどう作用すればよいのかわからなくなり,思わぬ作動をしたり,まったく働こうとしなくなったりしてしまうのです.多くの場合,食事を摂らない時間が長い深夜から朝起きる時間までにリセットされるはずですが,日々まちまちな生活をしていると,きっと神経やホルモンは一体何を基準にリセットすればよいのかわからなくなってしまうのでしょう.
からだの機能と働きを学ぶということは,こうした実際の生活であり得ることをも考えて勉強してほしいのです.ただ単に,「胃はたんぱく質分解酵素のペプシンを出して…」とか,「肝臓は栄養素代謝の化学工場でグルコースを解糖系で酸化して…」と知識を詰め込むだけではなく,満腹のときの「胃は…」,空腹のときの「肝臓は…」とか,食べながら歩いているときの「腸は…」,また,真夜中に怖い夢を見て飛び起きたときの「心臓は…」など,いろいろなことを考えて勉強したほうが現実的で楽しくなると思います.
身体の営みに狂いが生じ,からだが持ちこたえられなくなる例のひとつが,いわゆる“メタボリックシンドローム”です.もちろん,先天的なことや事故,原因がわからないことなどたくさんあります.それだけに,からだの仕組みと栄養の関わりについての勉強が欠かせないのです.ときに難しく感じるかもしれませんが,生活の営みを支える学問であると考えると,勉強すればするほど身に付き,きっと自分自身や家族,そして多くの方々のお役に立てるものとなるでしょう.楽しみながら勉強してください.
2008年1月
著者代表 小野章史
はじめに
1―総論―「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」を学ぶために(小野章史)
A ヒトの生育・成長と栄養
B 成長期における消化・吸収と栄養摂取
1.成長初期における消化と吸収の変化
2.成長中期における栄養摂取
3.成長後期における栄養摂取
C 成長期以後の栄養摂取と栄養管理
2―栄養成分の構造と機能
A たんぱく質(浅田憲彦)
1.アミノ酸
2.ペプチド
3.たんぱく質の分類
4.たんぱく質の高次構造
B 酵素(古木美香)
1.酵素の一般的性質
2.酵素の特異的性質
3.酵素活性の調節
C 糖質(井町和香)
1.単糖類
2.二糖類
3.多糖類
4.複合糖質
D 脂質(松本義信)
1.単純脂質
2.複合脂質
3.誘導脂質
E ビタミン,ミネラル(久保田恵)
1.ビタミンの構造と機能
2.無機質(ミネラル)の構造と機能
3―生体エネルギー学(小野章史)
A ATPの役割
1.自由エネルギーとエルゴン反応
2.異化と同化
3.高エネルギーリン酸化合物
B 生体酸化
1.酸化還元酵素
2.活性酸素
C 呼吸鎖と酸化的リン酸化
1.呼吸鎖
2.ATP合成酵素
3.化学浸透圧説と脱共役たんぱく質
4―栄養と代謝
A 中間代謝の概要(片井加奈子)
1.代謝経路
2.代謝経路の調節
B 糖質の代謝(小野尚美)
1.クエン酸回路
2.解糖
3.糖新生と糖質合成
C 脂質の代謝(松本義信)
1.脂質の体内運搬
2.脂質の代謝
3.脂質の合成
4.コレステロールの代謝と生合成
D たんぱく質・アミノ酸の代謝(桑波田雅士)
1.可欠アミノ酸(非必須アミノ酸)の生合成
2.たんぱく質・アミノ酸の異化
3.アミノ酸の特殊生成物への変換
E 消化・吸収,エネルギー代謝(久保田恵)
1.消化・吸収
2.エネルギー代謝
5―情報高分子の構造と機能(白神俊幸)
A ヌクレオシドとヌクレオチド
1.構成成分と構造
2.機能
B プリン・ピリミジンヌクレオチドの代謝
1.生合成
2.分解とサルベージ経路
C 核酸と遺伝子
1.DNA
2.染色体と遺伝子
3.RNA
D たんぱく質の生合成
1.転写
2.転写後のRNAの修飾・加工
3.翻訳
E 遺伝子発現の調節
1.転写の機構と転写レベルにおける調節
2.転写後の調節
3.翻訳レベルにおける調節
F 遺伝子操作
1.組換えDNA技術
2.ポリメラーゼ連鎖反応
3.DNAマイクロアレイ解析
4.組換えDNA技術の応用
G 遺伝子多型と栄養学
参考および引用図書
索引
1―総論―「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」を学ぶために(小野章史)
A ヒトの生育・成長と栄養
B 成長期における消化・吸収と栄養摂取
1.成長初期における消化と吸収の変化
2.成長中期における栄養摂取
3.成長後期における栄養摂取
C 成長期以後の栄養摂取と栄養管理
2―栄養成分の構造と機能
A たんぱく質(浅田憲彦)
1.アミノ酸
2.ペプチド
3.たんぱく質の分類
4.たんぱく質の高次構造
B 酵素(古木美香)
1.酵素の一般的性質
2.酵素の特異的性質
3.酵素活性の調節
C 糖質(井町和香)
1.単糖類
2.二糖類
3.多糖類
4.複合糖質
D 脂質(松本義信)
1.単純脂質
2.複合脂質
3.誘導脂質
E ビタミン,ミネラル(久保田恵)
1.ビタミンの構造と機能
2.無機質(ミネラル)の構造と機能
3―生体エネルギー学(小野章史)
A ATPの役割
1.自由エネルギーとエルゴン反応
2.異化と同化
3.高エネルギーリン酸化合物
B 生体酸化
1.酸化還元酵素
2.活性酸素
C 呼吸鎖と酸化的リン酸化
1.呼吸鎖
2.ATP合成酵素
3.化学浸透圧説と脱共役たんぱく質
4―栄養と代謝
A 中間代謝の概要(片井加奈子)
1.代謝経路
2.代謝経路の調節
B 糖質の代謝(小野尚美)
1.クエン酸回路
2.解糖
3.糖新生と糖質合成
C 脂質の代謝(松本義信)
1.脂質の体内運搬
2.脂質の代謝
3.脂質の合成
4.コレステロールの代謝と生合成
D たんぱく質・アミノ酸の代謝(桑波田雅士)
1.可欠アミノ酸(非必須アミノ酸)の生合成
2.たんぱく質・アミノ酸の異化
3.アミノ酸の特殊生成物への変換
E 消化・吸収,エネルギー代謝(久保田恵)
1.消化・吸収
2.エネルギー代謝
5―情報高分子の構造と機能(白神俊幸)
A ヌクレオシドとヌクレオチド
1.構成成分と構造
2.機能
B プリン・ピリミジンヌクレオチドの代謝
1.生合成
2.分解とサルベージ経路
C 核酸と遺伝子
1.DNA
2.染色体と遺伝子
3.RNA
D たんぱく質の生合成
1.転写
2.転写後のRNAの修飾・加工
3.翻訳
E 遺伝子発現の調節
1.転写の機構と転写レベルにおける調節
2.転写後の調節
3.翻訳レベルにおける調節
F 遺伝子操作
1.組換えDNA技術
2.ポリメラーゼ連鎖反応
3.DNAマイクロアレイ解析
4.組換えDNA技術の応用
G 遺伝子多型と栄養学
参考および引用図書
索引